読者の期待値を操る|感情曲線で設計する「裏切り」と「満足」

2020年12月30日

Web小説の第1話はPVを集められたのに、3話目あたりで読者がごっそり消えていく——。

この現象の原因は、たいてい期待値の管理ミスです。読者は無意識に「この物語はこういう展開になるだろう」と予測しています。その予測に対して作者がどう応え、どう外すかが、連載の継続率を左右します。

この記事では、感情曲線6パターンをベースに、期待値の4つの操作方法を解説します。

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期待値管理の4象限

読者の期待に対して、作者が取れるアクションは4つに整理できます。

操作効果使いどころ
期待に応えるプラス(安心・満足)連載中盤〜終盤、ジャンルの約束を守る場面
期待の裏切りマイナス(失望・離脱リスク)使い方を誤ると致命傷。慎重に
失望の維持マイナス(テンション低下)できるだけ短く。2話続くと離脱する
失望の裏切りプラス(カタルシス・熱狂)クライマックス直前に最も効果的

ポイントは、「期待の裏切り」と「失望の裏切り」は表裏一体だということ。読者を一度落とすから、上げたときの感動が大きくなる。ただし落とす時間が長すぎると読者はページを閉じます。

この4つの操作のうち、「期待に応える」と「失望の裏切り」がプラス効果、「期待の裏切り」と「失望の維持」がマイナス効果です。連載全体を通して、プラスとマイナスの波を意図的に設計するのが「期待値管理」の本質です。RPGでたとえるなら、「テンションゲージ」の上げ下げを作者がコントロールしていると考えてください。

感情曲線パターン別の期待値操作

感情曲線6パターンのそれぞれについて、読者が何を期待し、どう操作すべきかを整理します。

成功型(📈 一貫して上昇)

読者の期待: 主人公が勝ち続けること。

期待に応える → 主人公が勝つ。当然これが基本

期待の裏切り → 主人公が負ける。成功型では主人公本人は負けないのが鉄則。負け展開は仲間に任せる

失望の裏切り → 「もう負けた」と思わせてからの圧勝。なろう系はこのパターンの連打で読者を掴む

なろう系の「無双もの」が成功型の典型。読者は主人公の勝利を買いに来ています。ここで「リアリティのため」と負けさせると、期待の裏切りになって離脱を招きます。

悲劇型(📉 一貫して下降)

読者の期待: 主人公が負けること(落ちていくことを見届けたい)。

期待に応える → 主人公が負ける、状況が悪化する

期待の裏切り → 主人公が唐突に勝つ。ただし悲劇型でも「まれに勝つ」のは有効——小さな希望が差し込むからこそ、次の転落が際立つ

失望の裏切り → ほぼ勝ちムードからの圧倒的敗北。まさに悲劇

悲劇型で大事なのは、読者に「この物語は悲劇だ」と序盤で伝えること。告知なしのバッドエンドは炎上します。

逆転型(⬇️➡️⬆️ 下降→上昇)

読者の期待: 最後には勝つこと。追い込まれるほど、最終的な勝利への期待が高まる。

期待に応える → 追い込まれた末の勝利

期待の裏切り → 勝ってほしい場面で勝たせない。ただし長引かせすぎると読者が疲れる

失望の裏切り → 「もう勝てない」と完全に思わせてからの逆転。少年漫画の王道。いかに「もう無理だ」と読者に信じさせるかが腕の見せどころ

絶望型(⬆️➡️⬇️ 上昇→下降)

読者の期待: 主人公が落ちること(既に上昇中だから、読者は転落を予感している)。

期待に応える → 好調な主人公が転落する

期待の裏切り → 調子に乗っている場面で負けない。「もう落ちるだろう」と思っているのに落ちないとフラストレーションが溜まる

失望の裏切り → 「もう負けないんだな」と思わせてからの転落。ただし最終回で初めて負けるのは避ける——読者は成功型だと勘違いして読んでいる可能性がある

感動型(⬆️⬇️⬆️ 上昇→下降→上昇)

読者の期待: 最終的には幸せになること。苦難の途中でも「きっと大丈夫」と信じている。

期待に応える → 苦難を経ての勝利・幸福

期待の裏切り → 勝ってほしい場面で勝たない。主人公が可哀想になりすぎると読者もつらくなる

失望の裏切り → 主人公が勝たなさすぎて「もうダメだ」と読者が諦めたころに勝つ。読者の涙腺を壊す最強パターン

お笑い型(⬇️⬆️⬇️ 下降→上昇→下降)

読者の期待: 最後はオチがつくこと。

期待に応える → 成功ムードからの最後のオチ

期待の裏切り → 成功したまま終わる。ツッコミもオチもない物語はお笑いとして成立しない

失望の裏切り → もう終わるのかと思わせておいて、最後の最後にオチが炸裂する

連載における期待値設計の実践

序盤:「この物語はこういう味です」宣言

連載の1〜3話で、感情曲線のパターンを暗に示します。

• あらすじやタグで「最強主人公」と明示すれば、読者は成功型を期待する

• 冒頭にバッドエンドを匂わせれば、悲劇型・絶望型の覚悟ができる

• なろう系なら、1話で主人公が圧勝するシーンを見せるのがジャンルの約束

この「暗黙の契約」を破ると、どんなに上手い展開でも炎上します。

中盤:「失望」と「裏切り」のリズム

Web小説は1話ごとに「続きを読むか」の判定がかかります。毎話の末尾で、期待値のベクトルを次話に向ける必要があります。

1話の中にミニ感情曲線を仕込む — 例えば1話の中で「成功→小さな問題→解決」の波を作る

2話連続で「失望の維持」をしない — 「負け→負け→負け」が3話続くと読者は消える

章の末尾に「失望の裏切り」を配置 — 章と章のつなぎ目が最も離脱されやすいポイント

終盤:可能性の枝を切り落とす

物語の終盤に向けて、選択肢を絞っていくのが鉄則です。

1話目の段階では無限の可能性がある物語が、最終話の手前では「主人公が生きるか死ぬか」「ヒロインと結ばれるか否か」の2択にまで収束する。この収束が「予測させる」行為そのものです。

そして最終話で、「期待通りだけど、期待を上回ってきた」 または 「予想できたはずなのに、予想できなかった」 を狙う。これが読者満足度を最大化する黄金パターンです。

→ 満足度の4象限について詳しくは → 読者の満足度を高める方法

ジャンルと期待値の関係

ジャンルとは「読者との暗黙の契約」です。ジャンルによって、読者が期待する感情曲線パターンは事実上決まっています。

ジャンル期待される感情曲線暗黙の契約
なろう系(無双・俺TUEEE)成功型主人公は負けない
少年漫画逆転型最後は勝つ
恋愛小説感動型ハッピーエンド
ミステリー逆転型+成功型謎は解かれる
ホラー悲劇型〜絶望型安全は保証されない
コメディお笑い型オチがある

この表を踏まえて、あなたの物語がどのジャンルの約束を使っているかを意識してください。約束を守った上で、「期待を上回る」のが最高の結果です。

AIで期待値設計を検証する

ChatGPTやClaudeに、あなたの物語のプロットを渡して「読者がどこで何を期待するか」を分析させる方法が有効です。

プロンプト例:

> 以下のプロットを読んで、読者が各話でどんな展開を期待するかを列挙してください。また、期待に応えている箇所と裏切っている箇所を指摘してください。

AIは読者の"平均的な反応"をシミュレートするのが得意です。「ここで読者は離脱するかもしれない」というフラグを事前に検知できます。

具体的には、「3話連続で主人公が負けていますが、読者はこの時点でどう感じますか?」と聞くと、「失望の維持が長すぎて離脱リスクが高い」といった指摘が得られます。また「このプロットで最も『失望の裏切り』が効果的なポイントはどこですか?」と聞けば、クライマックスの配置のヒントが得られます。AIは「完璧なプロットを作る」ためではなく、「自分の盲点を見つける」ために使うのが効果的です。

まとめ:期待値管理チェックリスト

• [ ] 自分の物語の感情曲線パターンを決めたか?

• [ ] 序盤で読者に「暗黙の契約」を提示したか?

• [ ] 「失望の維持」が2話以上連続していないか?

• [ ] クライマックス前に「失望の裏切り」を仕込んだか?

• [ ] 終盤に向けて物語の可能性を絞っているか?

• [ ] 最終話で「期待を上回る」か「予想外のポジティブ」を狙っているか?

さらに深く学ぶなら

• 感情曲線と物語の型のカタログ → 感情曲線6パターン×物語の類型12パターン

• 読者満足度を4象限で分析する → 読者の満足度を高める方法

• 1話の終わり方で離脱を防ぐ → 「続きが読みたい!」を生む11の区切り方

• 予想の外し方を体系的に学ぶ → 予想の外し方

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