ポモドーロ・テクニックは小説執筆に使えるのか|作家が考案した集中術の真価

2021年8月29日

集中力が続かない。

小説を書き始めて30分もしないうちに、スマホを触っている。SNSを開く。通知を確認する。気づけば1時間経っていて、原稿は2行しか進んでいない。

この現象に心当たりがある人に、ひとつの時間管理術を紹介します。ポモドーロ・テクニック。名前だけなら聞いたことがある人も多いでしょう。しかしこの技法、「知っている」と「使いこなしている」の間には深い溝があります。


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ポモドーロ・テクニックの成り立ち

ポモドーロ・テクニック(Pomodoro Technique)は、1980年代にイタリア人のフランチェスコ・シリロによって考案されました。当時、大学生だったシリロは自分の作業効率を客観的に知りたくて、トマト型のキッチンタイマーで時間を測り始めました。「ポモドーロ」はイタリア語でトマトの意味。シリロが使っていたタイマーの形がそのまま名前になったわけです。

ここで注目すべき事実があります。シリロは作家であり、ソフトウェア開発者でもありました。つまり、この技法は「文章を書く人間」が「自分のために」考案したものです。ビジネスコンサルタントが会議室で思いついた理論ではなく、実際にキーボードに向かって文章を書く人間が、自分の集中力の限界と向き合った結果生まれた。ここに、この技法が創作に効く最大の理由があります。


25分+5分の設計思想

ポモドーロ・テクニックのルールは単純です。

• 25分間、集中して作業する

• 5分間、完全に休む

• この30分を1セット(=1ポモドーロ)と数える

• 4ポモドーロ(2時間)ごとに、15〜20分の長い休憩を取る

なぜ25分なのか。なぜ15分でも30分でもなく、25分なのか。

人間の集中力には「15分周期」のリズムがあることがわかっています。小学校の授業が15分単位で区切られているのは、低学年の集中力がそのあたりで切れるからです。中学・高校で45分(15分×3)、大学で90分(15分×6)と延びていくのは、成長とともに集中の波をコントロールできるようになるからです。

ただし、ここが重要なのですが──45分間や90分間、ずっと集中できていた記憶はありますか? おそらくないはずです。どんな人でも集中には波がある。深く集中している時間と、意識が浮上している時間が交互に訪れます。

ポモドーロの25分は、この現実を踏まえた設計です。25分の中で、少なくとも1回は深い集中の波が来る。来なかったとしても、5分休んでリセットすれば次の25分で来るかもしれない。シリロが25分に設定したのは、「人は機械のように毎回同じパフォーマンスを出せるわけではない」という、人間観察に優れた作家ならではの洞察でしょう。


小説執筆にポモドーロが効く理由

ポモドーロ・テクニックが一般的な事務作業だけでなく、特に創作に効く理由があります。

理由1:「始める」ハードルを下げる

「25分だけ書く」と決めると、「今日は3時間書くぞ」と意気込むより遥かに気楽に取りかかれます。脳研究者の池谷裕二先生(東京大学)によれば、「やる気は、やり始めることによって起こる」。つまりやる気は待っていても来ない。手を動かし始めることで、脳の側坐核が刺激されてやる気が後からついてくる。ポモドーロは、この「とにかく始める」を仕組み化した技法です。

理由2:「止める」タイミングを与える

小説を書いていると、集中が切れているのに惰性で書き続けてしまうことがあります。結果として、翌日読み返すと使い物にならない文章が量産されている。ポモドーロの5分休憩は、「一度手を止めて俯瞰する」タイミングを強制的に作ります。

理由3:進捗が可視化される

「今日は4ポモドーロ書いた」と数えられると、感覚ではなく数字で進捗を管理できます。「なんとなく書いた」ではなく「100分間、集中して執筆した」──この差は、モチベーションの維持に効きます。


ポモドーロを機能させる4つの条件

ただし、ポモドーロ・テクニックは正しく運用しないと効果が出ません。以下の4つの条件が揃って初めて機能します。

条件1:まとまった作業時間を確保する

30分1セットとはいえ、1ポモドーロだけでは物語の世界に入りきれないこともあります。最低でも2ポモドーロ(1時間)、理想は4ポモドーロ(2時間)の作業時間を確保してください。

条件2:作業内容を事前に決めておく

「25分間で何を書くか」をポモドーロ開始前に決めます。「第3章の告白シーンを書く」「プロットの穴を埋める」「昨日の原稿を推敲する」──具体的であればあるほど良い。25分の中で「何をしようかな」と考える時間は、集中を妨げます。

条件3:タイマーを使う

頭の中の感覚で「そろそろ25分かな」と判断するのは不正確です。物理的なタイマーか、YouTubeのポモドーロ動画を使ってください。焚き火の映像と一緒に25分カウントしてくれる動画が個人的にはおすすめです。波の音やカフェの環境音付きのものもあります。

条件4:休憩を本当に休む

5分の休憩中にSNSを開くのは休憩ではありません。脳に新しい情報を入れると、休息にならない。窓の外を見る。ストレッチをする。水を飲む。目を閉じる。何もしない5分間が、次の25分の集中力を回復させます。


創作に特化したポモドーロの応用

一般的なポモドーロ解説はここまでですが、小説執筆に使う場合はもう一段踏み込んだ工夫があります。

応用1:「調子が良い時」こそ止める

25分経って、ちょうど筆が乗ってきたところ。止めたくない気持ちはわかります。でも、あえてここで止めてください。理由は、中途半端なところで止めた方が、次の25分で再開しやすいからです。心理学でいう「ツァイガルニク効果」──未完了のタスクの方が記憶に残りやすい──を利用します。

キリが良いところまで書いてしまうと、次に書き始める時に「次は何を書こう」から考えなければならない。でも文の途中で止めておけば、次のポモドーロの開始は「続きを書く」だけで済む。

応用2:25分のうち最初の3分は前回の末尾を読み返す

いきなり新しい文章を書き始めるのではなく、前回書いた最後の数段落を読み返すことで、物語の文脈とトーンを取り戻します。助走のようなものです。

応用3:ポモドーロの種類を分ける

すべてのポモドーロを「執筆」に使う必要はありません。

• 1ポモドーロ目:プロット確認と今日のゴール設定

• 2〜3ポモドーロ目:本文執筆

• 4ポモドーロ目:今日書いた部分の軽い推敲

このようにポモドーロごとに作業の種類を変えると、「書く」以外の作業も進み、全体の生産性が上がります。


25分という枠を信じる

ポモドーロ・テクニックは魔法ではありません。使ったからといって、突然筆が速くなるわけでも、傑作が書けるわけでもない。

でも、「とにかく25分だけ向き合う」という仕組みは、創作者がもっとも苦手とする「始める」と「続ける」の2つのハードルを確実に下げてくれます。

作家が作家のために考案した集中術。騙されたと思って1週間、毎日2時間のポモドーロを試してみてください。もし効果がなかったら、それはポモドーロが合わなかったのではなく、4つの条件のどこかが欠けている可能性があります。条件を見直して、もう1週間。

集中力は才能ではなく、仕組みで補えます。

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