小説のスケールを大きく見せる|物語の3つの切り取り方
「スケールの大きな物語を書きたい」——でも公募は1冊10万字。Web小説だって1章は数万字。限られた文字数でどうやって壮大な物語を表現するのか?
答えは「切り取り方」にあります。
歴史が130年あるなら、130年全部を書く必要はない。1人の人生を描けば30年で済む。事件の最終局面だけを描けば1年で済む。スケールの大きさは描く範囲の広さではなく、背景に見える世界の広さで決まります。
スケールの定義
まず「スケールが大きい」とはどういう状態かを定義します。
人の一生 < 歴史の長さ → スケールが大きい物語
つまり、1人のキャラクターの寿命では収まりきらないほどの時間的・空間的広がりが「背景」に存在している。それが読者に「壮大だ」と感じさせる要因です。
歴史ファンタジーの傑作はこの条件を満たしています。『十二国記』は500年以上の歴史を持つ世界ですが、小野不由美が1冊で描くのはその中のごく一部。『獣の奏者』も広大な世界の「ある時期」を切り取っている。読者はその「切り取られていない部分」の存在を感じ取り、そこに壮大さを覚えるのです。
重要なのは、その壮大な背景を全部書く必要はないということ。むしろ全部書こうとすると、ダイジェスト的になってしまい、かえってスケール感が失われます。「見えている部分」の背後に「見えていない世界」を感じさせることが、スケール感の本質です。
切り取り方①:歴史的事件の発生から解決まで
時間軸のスケール:数十年〜数百年
戦国時代の始まり(応仁の乱 1467年)から終わり(大坂の陣 1615年)まで約130年。これを1冊で書くのは物理的にほぼ不可能です。
ただし、「事件全体を俯瞰する」構成は超大作シリーズなら成立します。司馬遼太郎の戦国作品群は、個々の作品を合わせると戦国時代のかなりの範囲をカバーしています。ファンタジーの世界でも、田中芳樹の『アルスラーン戦記』は一国の興亡を16巻かけて描き切ることで、歴史的事件全体をカバーする構成を実現しました。
このアプローチの最大の利点は、「歴史そのものが主人公」になれること。個人の寿命を超えた時間軸で物語が進むため、世代交代や文明の変遷といったダイナミックな変化を描けます。反面、読者に「この物語はいつ終わるのか」という不安を与えやすいため、各巻・各章に小さな区切りを設けることが肝要です。
この切り取り方が向いているケース:
• シリーズものの超長編
• 群像劇(複数の主人公で時代をリレーする)
• サーガ(一族の物語)
1冊完結で使うなら: 事件の全体ではなく、「始まりの瞬間」か「終わりの瞬間」のどちらかに焦点を絞ります。
切り取り方②:ひとりの主人公の人生
時間軸のスケール:数年〜数十年
歴史の大きな流れの中から、1人の人物を選び、その人生を追う。これが最もバランスの良い切り取り方です。
具体例:
• 司馬遼太郎『国盗り物語』→ 斎藤道三と織田信長、2人の人生を通じて戦国時代の「時代の転換点」を描く
• 宮部みゆき『火車』→ 1人の女性の人生を辿ることで、バブル崩壊後の社会問題を浮かび上がらせる
1冊で30年を描くのは難しくありません。1年を3,000字で描けば10万字で30年です。ただし、全期間を均等に描くのではなく、ドラマが集中する期間を詳しく描き、それ以外を省略するのがコツです。
たとえば主人公の人生が30年あるとして、10代の青春時代に物語の核心が集中するなら、0歳〜10歳は「第1章の冒頭2ページ」で済ませ、10代の5年間に全体の6割を費やし、残りの15年は終章でさらっと流す。この「密度の偏り」こそが、限られた文字数で人生のスケールを描く技術です。均等に書くと、すべてが薄くなる。大胆にメリハリをつけることが大切です。
鉄則:人生は綺麗に終わらせよ
「ひとりの人生」を描くなら、その人物の物語をきちんと完結させることが大事です。歴史的事件が解決していなくても構いません。読者はキャラクターの人生に感情移入しているのであり、歴史の結末に興味があるわけではない(そこが知りたい読者は歴史書を読む)。
切り取り方③:短期間の劇的変化
時間軸のスケール:数日〜1年
物語の時間軸を極端に短く取り、その期間に凝縮されたドラマを描く。最もコンパクトで、1冊完結に最適な切り取り方です。
具体例:
• 機動戦士ガンダム → 1年戦争の末期を描く。戦争全体ではなく、アムロという1人の少年兵の数ヶ月
• 新世紀エヴァンゲリオン → サードインパクトという事件の始まりの瞬間。碇シンジのエヴァ搭乗から数ヶ月
• 鬼滅の刃 → 炭治郎の修行開始から無惨討伐まで約2年(意外と短い)
鉄則:歴史的事件の「始まり」か「終わり」の近くを切り取れ
短期間の切り取りで壮大さを出すコツは、歴史的大事件のクライマックス付近を選ぶことです。
• 戦争の「最後の戦い」の前後
• 革命の「決起」の瞬間
• 王国の「崩壊」の直前
事件のクライマックス付近なら、短い時間軸でも「この戦いの結果で世界が変わる」という壮大さが演出できます。
この切り取り方のもうひとつの利点は、読者を物語に一気に引き込めること。「事件はもう始まっている」状態から物語がスタートするため、導入で退屈させるリスクが低い。新人賞の応募作品では、この切り取り方が最も選考を通過しやすい傾向があります。審査員は冒頭30ページで判断するため、「いきなりドラマが動いている」作品が有利なのです。
3つの切り取り方の比較
| 切り取り方 | 時間軸 | 1冊完結 | スケール感 | 難易度 |
|---|---|---|---|---|
| ①事件全体 | 数十年〜数百年 | ✗(シリーズ向き) | ◎ | 高 |
| ②1人の人生 | 数年〜数十年 | ○ | ○ | 中 |
| ③短期間の変化 | 数日〜1年 | ◎ | △〜○ | 低 |
公募に応募する場合は②か③が現実的。Web小説の長期連載なら①もアリ。③でスケール感を出したいなら、「事件のクライマックス付近」を選ぶのが必須です。
どれを選ぶかは、あなたの作品の「見せたいもの」によって決まります。世界の壮大さそのものを見せたいなら①。キャラクターの人生を通じて時代を描きたいなら②。テンポよく読者を引き込みたいなら③。迷ったらまず③で1本書いてみて、その作品の世界が魅力的だとわかったら、前日譚として②や①に広げていく——これが最もリスクの低い戦略です。
Web連載→書籍化における再構成
Web小説で連載中は①や②で長大に描いていても、書籍化の際に③の切り取り方で再構成されることがあります。
たとえば、Web版では主人公の人生を10年分描いていた物語が、書籍版では「1年目の事件」だけを1巻にまとめる。残りは2巻以降に送る。
この再構成を見越して、各アーク(章)が単独で③として成立する構成にしておくと、書籍化しやすくなります。
まとめ
• スケールの大きさ = 背景に見える世界の広さ。全部書く必要はない
• ①事件全体 → シリーズもの向き。1冊では難しい
• ②1人の人生 → 最もバランスが良い。人生は綺麗に終わらせる
• ③短期間の変化 → 1冊完結に最適。事件のクライマックス付近を選ぶ
次に読むべき記事
• エピソードの積み上げ方を学ぶ → 小説を「部分と全体」で考える
• プロットで時間軸を設計する → 「ネタだし40」と「年表」
• 物語の変化を3パターンで考える → 物語の雛形3パターン