心理描写の書き方|読者に「悟らせる」感情表現テクニックを例文付きで解説

2021年11月16日

辛い、痛い、嬉しい、楽しい——キャラクターの感情を読者の心にそっと届ける技術、それが「心理描写」です。

目に見えないものを言葉で伝えるわけですから、風景描写や人物描写より難しいと感じるのは当然です。「心理描写が苦手」という声はよく聞きます。でも実は、心理描写にはちゃんとセオリーがあります。

この記事では「心理描写とは何か」「読者の心を動かす仕込み」「描き方の2つのルール」を解説します。

心理描写は「描写を創る」こと

心理描写とは、キャラクターの表情や行動から読者に「」を想像させることです。

ここで多くの初心者が陥る罠があります。「悲しい」「嬉しい」「怒っている」と感情をそのまま書いてしまうことです。これは心理を説明しているのであって、描写ではありません。

たとえば「愛の心中」という言葉があったとしましょう。読者はこの4文字から「一緒に死ねば誰にも相手を取られずに済むという、究極の愛の形」を想像できます。けれど、もしこれが「愛を独り占めするための心中」と書かれていたらどうでしょう。読者は「そこは自分で感じたかったのに」とがっかりします。

心理描写とは、答えを書くことではなく、読者が自由に感じるための「描写」を創ること。

キャラクターの心情をベタッと貼り付ける作業ではありません。表情、仕草、行動——それらを手がかりにして読者に心を想像させる「お手伝い」なのです。

読者に感じさせるカギは「共感の事前準備」

では、どうすれば読者がキャラクターの心情を深く感じ取ってくれるのか。その唯一にして最大のカギは「キャラクターへの共感」です。

「泣けるシーンを書きたい」と思ったら、泣ける場面そのものよりも、その手前にどれだけ共感の布石を打てるかが勝負です。

たとえば恋愛小説。主人公がある人を好きになった理由——その根拠となるエピソードを「これでもか」というほど積み上げますよね。心理描写も同じです。キャラクターが「なぜ悲しいのか」「なぜ怒るのか」、その理由を読者が理解できるだけの描写を事前にたくさん仕込んでおく。

そうすることでキャラクターと読者の距離が縮まり、たとえ「愛の心中」という一言が出てきても、「あのキャラクターならこう考えるだろう」と自然に想像が広がるわけです。

鬼滅の刃の炭治郎が泣くシーンがなぜ刺さるのか。それは彼がそこに至るまでにどれだけの苦労を重ね、どれだけ家族を想う描写が積まれてきたか、読者がそれを知っているからです。泣くシーンの前に、100ページ分の共感がある。だから一滴の涙に読者も泣ける。

心理描写のルール1:直接的な感情語は封印する

キャラクターの心情を「辛い」「嬉しい」「悲しい」とストレートに書くと、感情の幅や奥行きが一気に狭くなります。

「彼女は悲しくなった」と書けば、それは確かに悲しいのでしょう。でも「どのくらい」「どんな種類の」悲しさなのかが伝わりません。

ビフォーアフター

❌ 私は彼のことを考えると悲しくなった。

⭕ 私は彼のことを考えると、息苦しくなった。

「息苦しい」に変換するだけで、想像の余地が広がります。好きで胸が苦しいのか、嫌いで吐き気がするのか、それとも彼の悲しみに引きずられて辛いのか——あるいはそのすべてが混ざった複雑な感情なのか。読者はそれぞれの解釈で物語を受け取れます。

感情語を封印して間接的に表現するためのヒントは、動作に変換することです。

• 「嬉しい」→ テーブルの上のコップをくるくると回した

• 「怒り」→ 握った拳の爪が掌に食い込んだ

• 「不安」→ 何度も携帯の画面を確認した

こうした「身体言語」に翻訳する習慣をつけると、心理描写は格段に上達します。

心理描写のルール2:一人称では断言しない

一人称視点で他者の心理を描くとき、「彼は悲しんでいた」と断言するのは危険です。なぜなら、それを「私」が断言できるはずがないからです。

本当のところは誰にもわからない——この当たり前の事実を無視して断言すると、文章が嘘っぽくなります。

ビフォーアフター

❌ 「またくるから」と、彼はしぶしぶ私の手を振りほどき、背を向けた。

⭕ 「またくるから」と、彼はかったるそうに私の手を振りほどき、背を向けた。

「しぶしぶ」は語り手の断言です。でも「かったるそうに」は「主人公から見てそう見えた」という観察です。実際にはかったるいのではなく、照れ隠しかもしれない。別の感情が入り混じっているかもしれない。そこに読者の想像が入り込む余地が生まれます。

三人称の場合でも、全知視点でない限り「〜のように見えた」「〜と思われた」と推測の形を使うほうが立体的な描写になります。

実践チェックリスト

心理描写を書いたら、以下の3つを自分に問いかけてみてください。

1. 感情語を直接書いていないか?——「悲しい」「嬉しい」を動作や身体反応に置き換えられないか確認
2. 共感の布石は十分か?——このシーンの前に、読者がキャラクターの気持ちを理解できるだけのエピソードがあるか
3. 断言していないか?——特に一人称で、知り得ないはずの他者の心情を決めつけていないか

まとめ——心理描写は「余白」を設計する技術

心理描写の本質は、読者に想像の余白を渡すことです。

感情を説明するのは簡単です。でも読者が自分の経験と重ね合わせて「わかる」と感じるためには、答えを書かないという勇気が必要です。

• 心理描写は「感情の説明」ではなく「描写を創る」こと

• 泣かせたいなら、その前に100ページ分の共感を仕込む

• 感情語は封印し、動作・身体反応に翻訳する

• 一人称では他者の心情を断言しない

この4つを意識すれば、あなたの小説はきっと読者の心に深く届きます。


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