比喩表現の種類と正しい使い方|直喩・隠喩・換喩を例文で解説【安易な比喩は逆効果】
「月のように美しい」「水を打ったように静まり返った」——比喩表現を使うと、なんとなく文章のレベルが上がった気がしませんか。
じつは、それが危険なのです。
比喩は使い方を間違えると、小説全体の評価を下げる原因になります。特に「どこかで聞いたような比喩」を無自覚に使い回すのは、創造性を求められる小説では致命的です。
この記事では、比喩表現の5つの種類と避けるべき使い方、そしてオリジナル比喩の作り方を解説します。
比喩の5種類——まず全体像を押さえる
比喩とは、何かを何かに例えること。広い意味では「暗に何かをほのめかす表現」も含みます。以下の5種類を知っておけば、ほぼすべての比喩表現を分類できます。
1. 直喩(ちょくゆ)=シミル
「〜のような」「〜みたいな」を伴う、最もシンプルな比喩です。明喩(めいゆ)とも呼ばれます。
> 彼女の声は鈴のように澄んでいた。
読者に「これは例え話ですよ」と明示するため、誤解が起きにくい安全な比喩です。
2. 隠喩(いんゆ)=メタファー
「〜のような」を使わず言い切る比喩。直喩より強い印象を与えます。暗喩(あんゆ)とも。
> こどもは、私の生きる力だ。
「こどもは生きる力のようだ」よりも断定的で、キャラクターの覚悟が伝わります。
3. 寄想(きそう)
常識では結びつかない二つのものを結びつける比喩です。
> 地下アイドル、地下芸人
「売れていない」「知られていない」ことを“地下"の一語で表現しています。日常に溶け込みすぎて比喩と意識されないこともありますが、れっきとした比喩手法です。
4. 転喩(てんゆ)
出来事の前後だけを書いて、本当に言いたいことを省略するテクニックです。小説で最も高度かつ効果的な比喩と言えます。
> 私は書類にサインをし、指輪を外した。
「離婚を決意した」とは一切書いていません。でも読者はそう悟ります。ここに作り手と読み手の共犯関係が生まれるのです。
5. 換喩(かんゆ)
呼び名を「言い換える」技法です。
> 平成の怪物(=松坂大輔選手)
> 永田町(=政界)
ラノベでは二つ名やキャラクターの異名として頻繁に使われます。「炎帝」「氷の女王」——こうした呼称も換喩の一種です。
誰かが作った比喩は安易に使わない
ここからが本題です。比喩の5種類を理解したうえで、最も気をつけるべきことを言います。
「どこかで聞いたことのある比喩」を無意識に使うのは、小説にとって逆効果です。
たとえば——
• 「月とスッポン」(二つのものがまったく違うさま)
• 「水を打ったように静まり返る」(大勢が一斉に黙るさま)
• 「猫をかぶる」(本性を隠すこと)
どれも秀逸な比喩ですが、それは最初に作った人が秀逸だったのであって、流用した人は秀逸ではありません。
慣用句の多用は「この作者は自分の言葉を持っていない」という印象を与えます。小説は創造性を求められる芸術です。比喩は「ここぞ」という場面で自分の言葉として放ってこそ輝きます。
ビフォーアフター
❌ 彼女は猫をかぶっているようだった。
⭕ 彼女は外出するたびに、別の顔をポケットから取り出してかぶっているように見えた。
前者は誰もが知っている慣用句。後者は「猫をかぶる」という概念を自分の言葉で再構築しています。インパクトが全く違うはずです。
オリジナル比喩は「パターン分析 → 日常観察 → 推敲」で作る
「自分で比喩を作れと言われても……」と思うかもしれません。でも手順は意外とシンプルです。
ステップ1:既存の名比喩を集めて、仕組みを分析する
たとえば村上春樹の「やれやれ」的表現や、太宰治の「走れメロスの怒り」の比喩など、好きな作家の比喩を集めてノートに書き出します。そして「なぜこの比喩が効くのか」——共通する構造を見つけます。
ステップ2:日常の観察を「比喩の素材」にする
通勤電車で見た光景、コーヒーの湯気、雨上がりのアスファルトの匂い。日常の何気ないものを「何かに例えるとしたら?」と考える癖をつけます。
ステップ3:書いたら推敲、推敲、推敲
作った比喩が本当に意味が伝わるか、読者を混乱させないか、何度もチェックします。比喩は「わかりにくい」と感じた瞬間に逆効果になるため、推敲が命です。
伝わらない比喩の例:
❌ 彼の笑顔は、三月のグローブのようだった。
何を言いたいのかわかりません。「使い込んで馴染んでいる」と言いたいのかもしれませんが、多くの読者はピンときません。比喩の命は「伝わること」です。
まとめ——比喩は「決めゼリフ」のように使う
比喩表現は、決してたくさん使えばいいものではありません。「ここぞ」という場面で一発だけ放つから効果的なのです。
• 比喩には直喩・隠喩・寄想・転喩・換喩の5種類がある
• 慣用句の安易な流用は創造性を損なう
• オリジナル比喩は「分析→観察→推敲」で作る
• 伝わらない比喩は逆効果。推敲が命
比喩は小説家の武器です。ただし、切れ味のいい刀は一振りで十分。何度も振り回せば、ただ散らかるだけです。
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