【物語論をわかりやすく解説シリーズ3-1】物語の構造分析(前編)|プロップの「31の機能」
前回のエントリーでは物語論の概要やルーツをご紹介しました。
いよいよこのエントリーでは物語の構造分析を行った人物と、その分析手法についてご紹介します。
物語を内容として捉えるのではなく、構造として捉え、面白い物語をつくるための方程式を導こうとした人たちの話です。
物語の構造を分析し、解き明かそうとした人物
~ウラジミール・プロップ~
ロシアの文学者であるウラジミール・プロップは、世界初の物語の構造分析を行った、「物語の形態学」という書物を出版しています。
「物語の形態学」は1928年に出版されており、ロシア・フォルマリズムの考えを基に執筆された書物です。
プロップは「魔法の馬」や「イワンのばか」と言ったロシアの魔法物語(おとぎ話に近い)を分析していきます。
その結果プロップは、物語の構造が似通っていることに気づくのです。
そして「ロシアのあらゆる魔法物語は、その構造の点では、単一の類型に属する」と結論付けるまでに至ります。
物語の31の機能
プロップは、その「単一の類型」を31の機能に分けています。
1. 「留守もしくは閉じ込め」
2. 「禁止」
3. 「違反」
4. 「捜索」
5. 「密告」
6. 「謀略」
7. 「黙認」
8. 「加害または欠如」
9. 「調停」
10. 「主人公の同意」
11. 「主人公の出発」
12. 「魔法の授与者に試される主人公」
13. 「主人公の反応」
14. 「魔法の手段の提供・獲得」
15. 「主人公の移動」
16. 「主人公と敵対者の闘争もしくは難題」
17. 「狙われる主人公」
18. 「敵対者に対する勝利」
19. 「発端の不幸または欠如の解消」
20. 「主人公の帰還」
21. 「追跡される主人公」
22. 「主人公の救出」
23. 「主人公が身分を隠して家に戻る」
24. 「偽主人公の主張」
25. 「主人公に難題が出される」
26. 「難題の実行」
27. 「主人公が再確認される」
28. 「偽主人公または敵対者の仮面がはがれる」
29. 「主人公の新たな変身」
30. 「敵対者の処罰」
31. 「結婚」
長いのですべてを覚える必要はありませんが、ざっくりとした構造だけは理解しておきましょう。
かなり抽象的に言うとすれば、「目的があり、それを達成するために行動を起こし、成功させる」というのが基本的な類型となります。
しかしロシアの魔法物語を読んだことがある人がいるなら、「全然違う物語なんだけど・・・」と思ったのではないでしょうか?
ただ、あくまでプロップが言っているのは「構造」に関してです。
構造主義とは、内容を無視して分析します。
つまり構造は同じだが、内容、つまり設定や登場人物は違うことで、物語のバリエーションとなり、結果として別の物語が生まれる(別の物語に見える)、ということなのです。
例えば、機能の14番に「魔法の手段の提供・獲得」とありますが、どのような魔法を獲得するかは内容次第で変化するでしょう。
ラノベの「異世界転生シリーズ」では、異世界に転生した主人公が魔法を使えるようになり(あるいは何らかの特殊技能)、異世界での困難に立ち向かってく、というパターン化した流れがあります(例外はあるにしても)。
これも異世界転生シリーズの類型と呼ぶことが出来るでしょう。
しかしどんな形で異世界に転生するのか、どのような魔法をどのような形で手に入れるのか、などは作品ごとで異なっています。
そのため「異世界で魔法が使えるようになる」という同じ類型だったとしても、結果として、まるで違った物語が生まれる(物語に見える)のです。
またすべての魔法物語が、31の機能すべてを使うわけではありません。
順番こそ変わりませんが、どれかが省略されることがあり、それがまたバリエーションを生み出します。
こうしたプロップの構造分析において、もっとも重要な功績は、31にもなる「機能」を発見したことです。
では機能について詳しく見ていきましょう。
まず機能について重要なポイントは「物語の展開を直接進める人物の行為」です。
言い換えるなら、「カットしてしまうと物語が成立しなくなるシーンのこと」になります。
『このすば』に見る「機能」の重要性
「この素晴らしき世界に祝福を!」を例に見てみましょう。
第1話で主人公の佐藤 和真(さとう かずま)は、高校生だが引きこもりのニートで、車に轢かれそうになる女子高生を助けようとして死んでしまいますが、女神のアクアによって異世界転生を条件に再び命を与えられるのです。
アクアと共に異世界生活をすることになった和真は、アクアから「ヒキニート!(引きこもりのニート)」と事あるごとに言われてしまします。
さらには生前の彼が身に着けていた「緑ジャージ」を和真は愛用しており、これについても幾度も話のネタに使われているのですが、仮に第1話をカットしてしまうと、こうした「ヒキニート」や「緑ジャージ」を使った数ある鉄板ギャグが、ミステリアスなものになるでしょう。
つまり「ヒキニート」で「緑ジャージ」を着た和真が、アクアの力で異世界転生を果たしたという描写は、物語を成立させるために必要な行為、つまりは「機能」となるのです。
「機能」の中でも、重要なものだけをピックアップして並べたものが「あらすじ」となります。
なぜあらすじを追えば本編の内容がある程度把握できるかと言えば、重要な「機能」が、あらすじと本編で同一だからです。
つまりは構造が同じということになりますから、結果として同じものに見える・・・これは構造主義の考え方でしたよね。
ただ「この素晴らしき世界に祝福を!」に関していえば、その多彩なギャグ要素から、当初の設定なんて知らなくても楽しめるレベルにまで昇華していくんですけどね(笑)
また31の機能の2番によって「禁止」され、3番で「違反」することにより、4番で敵による「捜索」が始まります。
しかしもし「禁止」されたときに、「違反」しなかったならば、当然「捜索」は始まりませんので、話は進まず、物語は成り立ちません。
このように機能に密接に関わってくる、「物語の展開を直接進める人物の行為」がなければ、物語は成立しないのです。
つまりプロップの提唱した物語論とは、「『機能』を構造主義における『要素』とみなし、物語の構造を分析すること」になります。
七つの行動領域
さらにプロップは登場人物に関して、「七つの行動領域」とまとめています。
物語は、「主人公が目的を達成する」という原則を基にデザインされているのです。
つまりプロップにとって登場人物とは、何をするのかという「役割のために存在している」ことになります。
20世紀の初めごろには、現代のように登場人物のキャラクター性を楽しむという文化は存在しませんでした。
物語としてはあったとしても、主流ではなかったのです。
物語とは話の筋を追っていくものであり、極端な言い方をすれば、登場人物とは、機能を遂行し、物語を進めるだけの、「舞台装置」に過ぎなかったのです。
前述した「行動領域」とは、登場人物の役割ごとの行動(機能)範囲のことを指します。
例を挙げると、主人公は機能の4番である「捜索」を行えません。
その理由は、「捜索」とは敵対者が行う行動だからです。
このように、各々の役割に準じた七つの行動パターンによって登場人物を振り分けたのが、「七つの行動領域」でとなります。
• 〔主人公(探究する者)〕:目的を達成するために、探求し、行動する役割。
• 〔敵対者(加害者)〕:「主人公」の目的の遂行を妨害する役割。
• 〔贈与者(提供者)〕:「主人公」に魔法等の力を与える役割(師匠ポジション)。
• 〔助力者〕:「主人公」を助ける役割(相棒ポジション)。
• 〔王女(探求される者)とその父親〕:「主人公」が手に入れる「目的」を具現化したもの。
• 〔派遣者(送り出す者)〕:「主人公」の背中を押す役割。
• 〔ニセ主人公〕:手柄を横取りしようとする役割。
また、ロシアの魔法物語では少ないですが、一人の登場人物が、二つの行動領域を持っている場合があります。
例えば、「主人公」がある女性と結婚をしたい場合、ある女性の役割は「王女」ですが、その女性が「主人公」を嫌いだとすると、女性は「主人公」の目的達成を妨害する、「敵対者」でもあるわけです。
このように、「物語の形態学」という書物は、物語論の核心をついています。
ですが、当時この書物は全くと言っていいほど売れませんでした。
その理由は、大きく分けて2つあります。
1つ目の理由は、分析の範囲があまりにも狭すぎたからです。対象が「魔法物語」のみに限定されているため、それ以外の分析に使用できないのです。例えば、日本昔話に31の機能を当て嵌めて見ればすぐにわかります。特に「浦島太郎」はわかりやすいです。なぜなら31の機能の2番目にあたる「禁止」が、ラストシーンに当て嵌まります。
2つ目の理由は、時代にそぐわない前衛的なものだったからです。
「物語の形態学」は1928年に発売されています。物語論が流行し始めたのは1960年代ごろであり、プロップは30年も時代を先行していました。
アラン・ダンダスのモチーフ
ここで、プロップの理論を応用し民話の研究をした、アメリカのアラン・ダンダスという人物にも触れておきましょう。
アラン・ダンダスは、1964年に、プロップの形態学をさらにシンプルな形に整理し、北アメリカ先住民民話にも適用可能な構造を見出します。
ダンダスは、プロップの「機能」という術語には多少の曖昧さがあるとして、語りの任意の命題を表す語句である、「モチーフ」という言葉を使い、「モチーフ素」と「異モチーフ」、というダンダス独自の言葉にまとめ上げたのです。
例えば、主人公が父親から船を貰い海外へ向かい出航する行為(具体的モチーフ)は、「外出」という「モチーフ素」になります。
仮にこのモチーフ素の「外出」という観点から、主人公が小舟を漕いで海を進む、という具体的な行為をすると、これは「異モチーフ」となるのです。「外出」に対して、具体的な行為「主人公が小舟を漕いで海を進む」が対応しています。
つまり「モチーフ素」は一つしかなく、その「モチーフ素」を実現する方法である「異モチーフ」は無数にあり得るということが分かります。
ダンダスは、北アメリカ先住民民話で以下の基本的な対を発見しました。
• 「欠落とその回復」
• 「加害行為とその回復」
これらを軸に、物語は「不均衡の状態から均衡の状態への移行」を描いていると分析したのです。
今回はここまで。
次回はプロップの理論をさらに発展させた、ブレモンとバルトの理論について解説します。
「物語は一本道ではなく、無数の選択肢でできている」という考え方は、RPGや現代の複雑なプロット作成に役立ちます。
次回記事:【物語論シリーズ3-2】物語の構造分析(後編)|ブレモンとバルトの「分岐」と「伏線」