【物語論をわかりやすく解説シリーズ4-1】物語論の完成(前編)|ジュネットの「時間」操作術

2022年10月25日

前回のエントリーでは、プロップやブレモン、バルトによる物語の構造分析について紹介しました。
今回は、現代の物語論(ナラトロジー)に最も大きな影響を与えた、ジェラール・ジュネットの理論をご紹介します。

ジュネットの理論は、これまで解説してきた3人とはアプローチが全く異なります。
彼は物語を「機能(何が起こったか)」ではなく、「叙述(どう語られたか)」から分析しようとしました。

小説やラノベはもちろん、アニメや映画、漫画の分析にも強力な武器となる「物語の伝え方」の技術。
これをマスターすれば、同じストーリーでも全く違う印象を読者に与えることができるようになります。

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ジェラール・ジュネットの物語言説論

ジュネットは物語を以下の3つのレベルに区別しました。

1. 物語内容(イストワール):実際に起こった出来事そのもの。(時系列順の事実)
2. 物語言説(レシ):出来事を表現したテキストや映像。(私たちが読むもの)
3. 物語行為(ナラシオン):語り手が語るという行為そのもの。

物語論で重要なのは、2番目の「物語言説(レシ)」、つまり「形式」です。
「同じ内容の出来事でも、形式(語り方)が違えば読者が受ける印象は変わる」。
これこそがジュネットの理論の核心です。

この「物語言説(レシ)」は、さらに「時間」「叙法(モード)」「態(ヴォイス)」の3つの要素に分解されます。
今回はその中から、物語のスピードや順番をコントロールする「時間」について詳しく見ていきましょう。


1. 時間(Temps):時間を自在に操る

物語における時間は、単純に流れるわけではありません。
ジュネットは時間を「順序」「持続」「頻度」の3つに分類しました。

① 順序(Order)

「どのような順番で物語を展開していくか」です。

例えば『ドラゴンボール』のような王道バトル漫画の多くは、
「強敵出現」→「敗北」→「修行」→「リベンジ(勝利)」
という時系列通りの順序(クロノロジカル)で進みます。

しかし、ミステリー小説などでは、「死体が発見される(現在)」から始まり、「実は過去に事件があった(回想)」というように、順序を入れ替える(錯時法)ことで謎やサスペンスを生み出します。

② 持続(Duration)

「物語が進むスピード」のことです。
ジュネットはこれを4つの速度に分類しました。

1. 休止法(Pause)
物語の進行スピードがゼロの状態。風景描写や心理描写、設定の説明などがこれに当たります。時間は進みませんが、読者への情報提供が行われます。

2. 情景法(Scene)
物語内の時間と、それを読む時間(言説の時間)がほぼイコールになる状態。会話シーンなどが代表的です。リアルタイムの臨場感が生まれます。

3. 要約法(Summary)
長い時間を短くまとめて語る手法。
「それから3年の月日が流れた」や「彼は数々の冒険を経て強くなった」など。テンポよく時間を進めたいときに使います。

4. 省略法(Ellipsis)
ある期間を完全に飛ばすこと。「数年後……」といって次の章に行くような場合です。

『ガンダムW』のシュールな要約法

余談ですが、アニメ『新機動戦記ガンダムW』のノベライズ版には、主人公ヒイロ・ユイが救急車を奪うシーンで、非常に印象的な「要約法」が使われています。

「そうしているうちにヒイロは救急隊員を殴り倒して救急車を奪っていった」

ものすごいスピード感ですよね(笑)。
暴力的なアクションシーンをあえて極端に要約することで、ヒイロの淡々とした、ある種シュールなキャラクター性が強調されています。これも意図的なスピード操作の効果です。

③ 頻度(Frequency)

「出来事が起きた回数」と「それが語られる回数」の関係です。

1. 単起法:1回起きたことを1回語る。「昨日、私はパンを食べた」。最も一般的です。
2. 括復法:複数回起きたことを1回にまとめて語る。「私は毎朝パンを食べていた」。習慣や反復行動を表すのに便利です。
* アニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』の伝説のエピソード「エンドレスエイト」は、登場人物たちが夏休みを15,532回繰り返しますが、物語として語られるのは8回だけです。これもある種の括復(かなり長いですが)と言えるかもしれません。
3. 反復法:1回しか起きていないことを、何度も語る。
* ある事件を「人間視点」で語り、次に「喰種視点」で語り直す場合などがこれに当たります。視点を変えて反復することで、物語の深層を浮き彫りにします。


今回は「時間」について解説しました。
次回は、ジュネットの理論の残り2つ、「叙法(視点)」と「態(語り手)」について解説します。
『東京喰種』や『SPEC』を例に、視点の切り替えが物語にもたらす劇的な効果を見ていきましょう。

次回記事:【物語論シリーズ4-2】物語論の完成(後編)|ジュネットの「視点」と「語り」

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【物語論シリーズ1】物語論の概要

【物語論シリーズ3-2】物語の構造分析(後編)

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