「アイデアとは複数の問題を一気に解決するものだ」|宮本茂の名言と創作術

2022年12月8日

「アイデアとは複数の問題を一気に解決するものだ」

これは任天堂の宮本茂さんの名言です。『ドンキーコング』『スーパーマリオ』の生みの親。この言葉を初めて知った時、私は自分のアイデアの出し方が根本的に間違っていたことに気づきました。

私はそれまで、1つのアイデアで1つの問題を解決しようとしていました。「この展開をどう面白くするか?」に1つの答えを出す。「このキャラをどう際立たせるか?」にまた1つの答えを出す。問題の数だけアイデアが必要で、だから常にアイデアが足りなかった。

宮本茂さんの言葉は、この発想を根底からひっくり返します。


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岩田聡さんが語った「宮本茂のアイデア論」

この名言を世に広めたのは、当時任天堂の社長だった岩田聡さんです。2007年の「ほぼ日刊イトイ新聞」で、糸井重里さんに宮本茂さんのアイデアについてこう語っています。

「問題となっている事象の根源を辿っていくと、いくつもの別の症状に見える問題が、実は根っこでつながっていることがある。ひとつを変えると、一見つながりが見えなかった別のところにも影響があって、いろんな問題がいっしょになくなったりする」

つまり、個別に見えている複数の問題は、実は根っこでつながっている。その根っこを解決する1つのアイデアを見つけることが、本当の意味で「良いアイデア」だということです。


ウマ娘──「競走馬の擬人化」が解決した5つの問題

これを創作の世界で最も鮮やかに実践した例が『ウマ娘』です。

「競走馬を美少女に擬人化する」──このワンアイデアが、同時に5つの問題を解決しました。

問題「擬人化」による解決
魅力的なキャラクターを大量に必要としている実在の競走馬の歴史がそのままキャラクターのバックストーリーになる
レースの面白さをドラマチックに伝えたい人間の身体で走ることで感情表現が豊かになる
人間離れしたスピード表現が必要超長距離を全力で走る設定が自然に成立する
画一的なユニフォーム問題「現実の競馬ではこうでしょ?」というメンタルブロックが外れ、多彩なコスチュームが描ける
ターゲット層の拡大競馬ファンだけでなく、スポ根好き・キャラクター好きにも訴求できる

結果として、スピンオフコミック『ウマ娘 シンデレラグレイ』は、競馬を知らない読者にもスポ根漫画として高い評価を受けました。1つのアイデアが5つの問題を同時に解決した、教科書的な事例です。


リコリス・リコイル──「JKの制服は都会の迷彩服」

もうひとつ、元の記事で挙げた例を掘り下げます。

『リコリス・リコイル』の設定──「JKの制服は都会の迷彩服」。このアイデアが解決した問題は少なくとも4つあります。

1. 学校を使わなくてもJK制服をキャラに着せられる(キャラデザインの自由度)
2. 主人公2人が別カラーの制服でも違和感がない(ビジュアルの差別化)
3. 日本で暗躍するリコリスが一般人にバレない説得力(世界観の整合性)
4. 制服を着ていないときは銃を撃てないというルールが、銃を使える条件の設定と同時に成立する(物語のルール設計)

たった一言の設定──「制服は迷彩」──が、キャラデザイン、世界観、ルール設計という別々の問題を一気に貫通している。これが「良いアイデア」の実物です。


良いアイデアを意図的に生み出す方法

では、こうしたアイデアを意図的に出すにはどうすればいいのか。

岩田聡さんの言葉にヒントがあります。「いくつもの別の症状に見える問題が、実は根っこでつながっている」。

つまり、答えは「複数の問題を同時に考えること」です。

ステップ1:問題を全部書き出す

今書いている作品で抱えている問題を、ジャンルを問わず全部書き出してください。

例:

• 主人公の職業が決まらない

• 世界観の技術レベルが曖昧

• ヒロインの登場シーンにインパクトがない

• バトルシーンに特徴がない

• タイトルが思いつかない

ステップ2:「この5つを全部解決する1つの設定はないか?」と考える

これが決定的に重要なステップです。5つの問題に5つの答えを出すのではなく、5つの問題を1つの答えで貫く。

上の例なら──「主人公は鍛冶師」という設定はどうか。

• 職業:鍛冶師(解決)

• 技術レベル:鍛冶の技術レベルで世界の文明度を表現できる(解決)

• ヒロインの登場:主人公が鍛えた剣を使って窮地を脱する場面で登場(解決)

• バトル:武器の特性が戦闘スタイルに直結する(解決)

• タイトル:「最弱鍛冶師の〇〇」的な方向性が見える(解決の糸口)

こんなに上手くいくとは限りません。でも「複数の問題を同時に考える」という習慣を持つだけで、アイデアの質は確実に変わります。

ステップ3:問題は多ければ多いほどいい

直感に反しますが、問題が多いほうがアイデアは出やすくなります。制約が多いほうが、解の方向性が絞られるからです。

自由に何でも書いてよいと言われるより、「鍛冶師が主人公で、ヒロインは剣を使い、世界は中世レベルで、バトルは1対1で、タイトルは7文字以内」と制約を与えられたほうが、具体的なアイデアが浮かびやすい。


作家の「欲求」こそが最高の問題設定

元の記事で「物語作成における問題とは、作家の中にある『〇〇な作品を書きたい』『△△の展開を書きたい』という欲求です」と書きました。

これは非常に重要な指摘です。

「心温まるハートフルストーリーを書きたい」──でも「主要キャラクターが死ぬのが好き」。この一見対立する2つの欲求は、普通に考えれば両立しません。でも『葬送のフリーレン』は「長命種が短命種の死を受け入れていく過程」を描くことで、両方を同時に実現しました。

あなたの中にある矛盾した欲求を、恥じずに書き出してください。「王道が書きたい」けど「ひねった展開も入れたい」。「シリアスがやりたい」けど「コメディも好き」。

矛盾が多いほど、それを同時に解決するアイデアは尖ったものになります。宮本茂さんが「わかったよ」と人に電話をかけたくなる瞬間。その快感を、あなたも味わってほしい。


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