ヒット作の法則|次の流行を読んでパスファインダーになる方法
2020年、TBSドラマがやたら面白かった記憶はありませんか。
半沢直樹、私の家政夫ナギサさん、MIU404——コロナ禍で在宅時間が増えた影響もありますが、それだけでは説明がつかないほど刺さっていました。あのとき何が起きていたのか。後から振り返ると、面白いことがわかります。
不景気、政治問題、コロナ禍——ストレスが募る中で、人々は「頑張っているのに報われない」と感じていた。TBSドラマはその感情にがっちり応えていたのです。「報われたい」という想いに「報われる物語」をぶつけた。
統計データが根拠を得るまでには3〜5年かかります。しかし直感で作られた物語やドラマはそれを先取りする。ヒット作は流行の結果ではなく、流行の予兆——つまり道しるべなのです。
ヒット作とはパスファインダーである
パスファインダーとは「あるテーマについて調べるときに役立つ、"道しるべ"役の情報資料」を意味する言葉です。
これから来るテーマについて、論文や文献を調べるよりも遥かに手軽に、楽しく面白く触れられる作品——それが物語におけるパスファインダーです。
「逃げるは恥だが役に立つ」は「契約結婚」という概念を多くの人に届けました。お見合い結婚→恋愛結婚ときて、その次に来るもの。契約結婚から愛が育まれる様子は、恋愛における一つの道しるべだったのです。
ここから一つの法則が見えてきます。
ヒット作とはパスファインダー——まだ言語化されていない時代の感情に、最初に名前をつけた作品だということです。
次の流行を読む2つの考え方
パスファインダーになるための思考法は2つあります。
考え方①:人は常に、ないものを望む
Web小説で異世界転生が流行ったのは、現実で報われない人たちの「報われたい」想いが発現した結果です。ドラマよりずっと先を行っていた。
つまり次に何が流行るかは、小説を読むだけではわかりません。現実の人々の感情を想像する必要があります。
• これから社会はどうなるのか?
• 経済はどうなるのか?
• 何がなくなるのか?
• 何が足りなくなるのか?
現代世界で何が欠けているかを考えること。それが次のパスファインダーへの第一歩です。
考え方②:歴史は常に同意か反発の方向に進む
もう一つの視点は、テーゼ(主流)に対するアンチテーゼ(反主流)の交互パターンです。
| テーゼ(主流) | アンチテーゼ(反主流) |
|---|---|
| 無職転生「トラックに跳ねられて異世界転生」 | 異世界誕生2006「転生した主人公の家族を描く」 |
| 追放系「不当に追い出された主人公が活躍」 | 逆追放系「追い出した側に正当な理由があった」 |
| チート無双「最初から最強」 | スロースタート「地道に成長していく」 |
「飽きたからジャンルを離れる」のとは違います。同じジャンルの中でもテーゼとアンチテーゼが交互に楽しまれる。主流に乗るか、反主流を突くか——どちらもパスファインダーになれる道です。
「半歩先」の法則——風倉さんの鋭い洞察
こぴーらいたー風倉さんの分析に、膝を打つ言葉があります。
> 新しい流行は「直前の流行で満たされなかった不満を解決し、アップデートされている」というふうに捉えるべき
過去の流行をそのまま持ってきても勝てない。「なぜ流行が入れ替わったか?」「このブームの理由は何か?」を理解していなければ上滑りする。常に半歩先を意識すること——それが風倉さんの教えです。
なぜ配信者系が使いやすいのか
昨今流行りの「配信者でバズった」路線には構造的な理由があります。コメント欄や掲示板で名無しのモブに絶賛させやすい——つまり「承認」のキーワードを効率的に起動させる装置として機能するのです。
「【推しの子】」は芸能界の光と闇を描き、「バズ=幸福」ではないことを突きつけました。「Vtuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた」は配信者系のテーゼを正面から楽しませる。このテーゼが確立された今、「バズったことで人生が壊れる」アンチテーゼが次に来る可能性は高い。
SF→異世界→現代ダンジョンの構造的理由
SFから異世界へ舞台が移ったのも同じ構造です。SFは物理法則の縛りが強く、科学技術が発達しすぎると「暴力で成り上がる」「ワンマンアーミー」がやりづらい。だから中世文明レベルの異世界に移り、次は現代が舞台のダンジョンものになった。
「俺だけレベルアップな件」は現代世界にダンジョンが出現する設定で、2024年のアニメ化により日本でも大きな支持を得ました。「やりたい展開がやりやすい設定」にどんどん移動していく——この構造を見抜くことが、半歩先を読むコツです。
AI時代の物語需要
もう一つ見逃せないのがAIに関わる物語です。AIに仕事を奪われるかもしれない恐怖の中で、「人間にしかできないこと」を見つける物語への需要は確実に高まっています。
「Vivy -Fluorite Eye’s Song-(ライトノベル『Re:ゼロから始める異世界生活』を執筆した長月達平と、そのアニメ化作品で脚本を一部担当した梅原英司が、共同で原案・シリーズ構成を手掛けるオリジナルアニメ作品)」はAIが人間のために歌うことの意味を問い、「BEATLESS(社会のほとんどをhIEと呼ばれる人型ロボットに任せた世界の物語)」はAIとの共存を正面から描きました。
「AIと共存する」テーゼに対し「AIを拒否して生きる」アンチテーゼも考えられる——この分野はまだ誰もパスファインダーになっていません。書くなら今です。
ジャンルの中で「ないものを埋める」
新しいジャンルを生み出さなくても、一つのジャンルの中で「ないものを埋める」ことができます。
異世界転生ひとつとっても、黎明期と現在では望まれるものが大きく変わっています。
• 黎明期 → 異世界と現実の違いを丁寧に描くことが重視された
• 現在 → 現実世界の能力が異世界でどう報われるかに焦点がある
「本好きの下剋上」も今の時代に連載が始まっていたら、これほど支持されなかったかもしれません。
異世界転生というジャンルは、こうした変化に対応できる幅広さを持っています。丁寧な世界描写も即座の報酬もどちらも描ける。だから新しいジャンルを生み出す必要はなく、ジャンルの中で「次に欠けているもの」を見つければいいのです。
「最強総理の構造改革シリーズ」——筆者の実体験
ここで恥ずかしい話をひとつ。
かつて筆者は「次に来る流行」として「最強総理の構造改革シリーズ」を構想しました。総理が本当にやりたいことに都合のいい法律を1つだけ制定して辞任し、地方自治体で地方創生を行う物語です。
コロナの影響で都市から地方への流れが来ると予想し、故郷への愛着が再燃すると考えたのが理由でした。
するとまさかの事態——「もし徳川家康が総理大臣だったら」が実在しました。過去の偉人というキャラクターの強さを活かしつつ、出落ちにならない展開と完璧な幕下ろしを見せた作品でした。
「ないもの」を考えれば、同じ発想にたどり着く人は必ずいます。大事なのは思いついたら書くこと。パスファインダーは最初に道を示した者だけが名乗れるのですから。
実践——次の流行を予測してみる
ここまでの考え方を使って、あなた自身で次のパスファインダーを探してみてください。
ステップ1:「ないもの」を見つける
今の社会で、人々が最も「足りない」と感じているものは何か? 3つ書き出す。(例:安心感、居場所、時間、自由、正義……)
ステップ2:現在のテーゼを把握する
あなたが書きたいジャンルの「主流」は何か? 3作品をあげる。
ステップ3:アンチテーゼを考える
その主流に対する「逆」は何か? 主流の弱点や、満たされていないニーズは何か?
ステップ4:交差点を探す
「社会に足りないもの」と「ジャンルのアンチテーゼ」が重なるポイント——それがあなたの作品のコンセプトになる可能性があります。
まとめ
| 考え方 | 内容 |
|---|---|
| パスファインダー | ヒット作=これから来るテーマの道しるべ |
| ①ないものを望む | 現代世界で欠けているものを満たす作品 |
| ②テーゼ⇔アンチテーゼ | 主流と反主流が交互に楽しまれる |
| 半歩先の法則 | 直前の流行の不満を解決しアップデートする |
①を優先して考え、②を次に考える。なぜなら、現実世界の感情のほうが及ぼす影響は大きいからです。
テンプレートではない新しい作品を書きたいという意志がある方は、「今、何が足りないか」を考えるところから始めてみてください。あなたが次のパスファインダーになるかもしれません。
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