一人称小説が難しい本当の理由|初心者がハマる5つの落とし穴

2022年1月16日

この記事は「一人称で書き始めたけどうまくいかない」人のためのトラブルシューティングです。 人称の選び方を知りたい方は「人称と視点の選び方完全ガイド」、一人称の制約を武器に変える技術を知りたい方は「一人称視点の制約を強みに変える方法」をご参照ください。

一人称小説は、読むのは簡単です。でも書くのは簡単ではありません。

「俺」「私」「僕」で語り始めた瞬間、三人称では起きない問題が次々に発生します。しかもその問題は「書いている最中は気づきにくく、読み返してはじめて気持ち悪さに気づく」種類のものばかりです。

この記事では、一人称小説の初心者が必ずと言っていいほどハマる5つの落とし穴と、その具体的な直し方を解説します。


創作ノウハウ200超|小説の書き方ガイド

落とし穴1:主語反復地獄

症状

> 俺は剣を抜いた。俺は敵を見据えた。俺は一歩踏み出した。俺は叫んだ。

一人称で書くと、文の頭が「俺は」「私は」だらけになる現象です。三人称でも主語反復は起きますが、一人称では「同じ一文字」が延々と繰り返されるため、視覚的にも聴覚的にも気持ち悪さが倍増します。

なぜ起きるのか

日本語は主語を省略できる言語ですが、一人称で書き始めたばかりの人は「語り手が自分であることを忘れられたくない」という無意識の不安から主語を入れてしまいます。

直し方

主語を3文に1回以下にする。 日本語は主語がなくても文脈で伝わります。

> 剣を抜いた。敵を見据える。一歩、踏み出す。そして——叫んだ。

たったこれだけで、テンポが劇的に改善します。推敲時に「俺は」「私は」をテキストエディタで検索し、1段落に2回以上あったら削れないか検討してください。


落とし穴2:モノローグ肥大化

症状

> 俺はその言葉を聞いて、なんとも言えない気持ちになった。嬉しいのか悲しいのか。いや、どちらでもないのかもしれない。こういうとき、人はどんな顔をすればいいのだろう。笑えばいいのか。泣けばいいのか。そもそも感情に名前をつけること自体が間違っているのかもしれない……

内面描写が延々と続き、物語が停止する現象です。

なぜ起きるのか

一人称の最大のメリットは「語り手の内面を自然に書ける」ことです。しかしこのメリットが罠になります。三人称では「彼は複雑な顔をした」の一文で済む場面に、一人称では心理描写を延々と書けてしまうのです。書けてしまうから、書いてしまう。

直し方

「心理3行ルール」を設けましょう。ひとつの感情についてのモノローグは最大3行まで。それ以上書きたくなったら、行動で示す。

> 何とも言えない気持ちだった。笑えばいいのか、泣けばいいのか。——結局、俺は黙って歩き出した。

3行目を「行動」で閉じることで、読者は「語り手が感情を処理しきれず、歩くことでごまかした」と読み取ります。心理を直接書くより、むしろ深い描写になります。


落とし穴3:説明台詞化

症状

> 「つまりさ、この遺跡は3000年前に建てられたもので、当時の魔法技術は現代と違ってマナの結晶化が不完全だったから、壁の強度にムラがあるんだよ」と花子が言った。なるほど、そういうことか。俺にはさっぱりだったが、要するに壁が脆いということらしい。

語り手が知らない情報を他キャラの台詞で説明させ、語り手が「なるほど」「つまり」で受ける。この繰り返しが延々と続く現象です。

なぜ起きるのか

一人称では語り手の知識範囲外の情報を直接書けません。結果として「物知りキャラに説明させて、語り手がリアクションする」というパターンに頼りがちになります。1回や2回なら問題ありませんが、これが繰り返されると読者は飽きます。

直し方

情報の出し方を分散させましょう。

方法
語り手が自分で調べる図書館の本、看板の文字、地図
五感で気づく壁に触れたら崩れた→脆いと気づく
回想で処理する「昔、師匠がこう言っていた」
行動で示す花子が壁を避けて歩く→語り手もそれに倣う

「他キャラが説明→語り手がリアクション」は1章に1回まで。それ以外は上記の方法で情報を出す、と決めるだけで改善します。


落とし穴4:ご都合配置

症状

語り手が都合よくすべての重要な場面に居合わせる。敵のアジトに忍び込む場面にも、仲間が裏切る場面にも、ラスボスが計画を語る場面にも、なぜか語り手がいる。

なぜ起きるのか

一人称では語り手が不在のシーンを直接描けません。でも「読者に見せたいシーン」は存在する。この矛盾を解決するために、語り手をあらゆる場所に配置してしまいます。

直し方

「語り手がいなくてもいいシーン」を洗い出しましょう。

語り手が不在の情報は、以下の方法で処理できます。

事後報告: 「——そう仲間から聞いたのは、3日後のことだった」

手紙・メッセージ: 誰かが書き残した報告書を語り手が読む

断片的な証拠: 壊れた扉、血痕、散乱した書類から推測する

幕間パート: 章の間に短い三人称パートを挟む(上級テクニック)

特に3番目の「断片的な証拠から推測する」は、ミステリー的な緊張感を生むため、一人称の強みに変わります。「何が起きたのか」を読者と一緒に推理する過程が、そのまま物語の面白さになるのです。


落とし穴5:地の文が日記になる

症状

> 今日は朝から天気が良かった。朝食はパンとスクランブルエッグだった。それから学校に向かった。途中で田中に会った。田中はいつものように眠そうだった。

事実の羅列だけで構成された地の文。「何が起きたか」は書いてあるが、「語り手がそれをどう感じたか」が抜け落ちている状態です。

なぜ起きるのか

一人称の地の文は「語り手の言葉」です。しかし初心者は「出来事を正確に記録すること」に集中してしまい、語り手のフィルターを通すことを忘れます。結果として日記やレポートのような文章になります。

直し方

すべての描写に「語り手の感情か判断」を1つ加える。

> 朝から天気が良かった。こういう日に限って面倒なことが起きる——そんな予感がした。朝食のスクランブルエッグは焦げていたが、文句を言う相手もいない。学校への道で田中に会った。いつも通り眠そうな顔。こいつは人生の半分を寝て過ごすつもりなのだろうか。

同じ出来事でも、語り手の視線が加わるだけで「この人の話を聞いている」感覚に変わります。一人称の地の文は報告書ではなく、語り手の「実況中継」です。


5つの落とし穴 自己診断チェックリスト

自分の原稿を読み返すとき、以下をチェックしてみてください。

#チェック項目判定
11段落に「俺は/私は」が3回以上ある→ 主語反復
2行動がないまま内面描写が5行以上続く→ モノローグ肥大
3他キャラが説明→語り手「なるほど」が1章に2回以上→ 説明台詞化
4語り手が全ての重要イベントに居合わせている→ ご都合配置
5地の文から語り手の感情・判断を抜いても意味が変わらない→ 日記化

3つ以上該当したら、一人称の「書き方」を見直すタイミングです。


一人称が「合う人」と「合わない人」

落とし穴を知った上で、そもそも一人称が自分に合っているかを考えましょう。

傾向一人称向き三人称限定向き
書きたいもの1人のキャラの深い内面複数キャラの群像劇
得意な描写心理描写、モノローグ外見描写、風景描写
物語の構造主人公が全場面にいる複数の場所で同時に事件が進む
好きな小説『涼宮ハルヒ』『氷菓』『僕は友達が少ない』『進撃の巨人』『十二国記』『鬼滅の刃』

一人称に苦戦しているなら、三人称限定視点に切り替えるのも立派な選択です。人称の変更は「逃げ」ではなく「設計の見直し」です。


まとめ

落とし穴原因対策
主語反復地獄主語省略への不安3文に1回以下。検索で確認
モノローグ肥大内面が書ける=書きすぎる心理3行→行動で閉じる
説明台詞化情報制限の代償情報の出し方を4パターンに分散
ご都合配置不在シーンが書けない事後報告・断片的証拠で処理
日記化出来事の記録に集中全描写に語り手の感情を1つ加える

一人称が難しいのは、「簡単に見える」からです。読むのが簡単だから書くのも簡単だと思って飛び込み、構造的な罠にハマる。でも罠の場所さえ知っていれば、一人称は最も読者に近い、強力な武器になります。

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腰ボロ作家について
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