感情曲線6パターンと物語の類型12パターン。どう活用したらいいの?活用方法も伝えます。
世の中には、沢山の物語があります。
限られた人生のなかでそれらをすべて読み、学ぶことは難しいです。ですが物語を一定のルールで体系化……カテゴライズすることはできます。
そう、「どんな物語を書こう?」と悩んだとき、ゼロからアイデアをひねり出す必要はありません。
世の中のストーリーは、感情曲線で6パターン、物語の類型で12パターンに分類できます。そして、この2つは掛け算が可能です。つまり6×12=72通りのストーリー設計が、この記事を読むだけで手に入ります。
しかも、2016年にバーモント大学の研究チームが1,700以上の物語をビッグデータ解析した結果、「どのパターンが読者に最も好まれるか」まで数値で明らかになっています。感覚ではなくデータに基づいた物語設計——その全体像をお伝えします。
感情曲線6パターン——研究が解明した物語の「形」
感情曲線とは、物語を読んでいるときに読者の感情がどう動くかを線グラフで表したものです。新海誠監督が『天気の子』のプロット段階で感情曲線を設計していたことが話題になりましたが、プロの物語はほぼ例外なく、この曲線を意識して作られています。
Reagan et al. (2016) の研究 “The emotional arcs of stories are dominated by six basic shapes" によれば、あらゆる物語の感情曲線は6つの基本形に集約されます。まず一覧を見てください。
| 日本語名 | 英語名 | 形状 | 出現頻度 |
|---|---|---|---|
| 成功型 | Rags to Riches | 📈 一貫して上昇 | 約5%(最少) |
| 悲劇型 | Tragedy / Riches to Rags | 📉 一貫して下降 | 約5% |
| 逆転型 | Man in a Hole | ⬇️➡️⬆️ 下降→上昇 | 約15% |
| 絶望型 | Icarus | ⬆️➡️⬇️ 上昇→下降 | 約10% |
| 感動型 | Cinderella | ⬆️⬇️⬆️ 上昇→下降→上昇 | 約15% |
| お笑い型 | Oedipus | ⬇️⬆️⬇️ 下降→上昇→下降 | 約10% |
英語名を併記したのは、海外の創作論やAIツール(ChatGPTなど)にプロンプトを書くときにそのまま使えるからです。「Man in a Holeのアークで短編のプロットを考えて」と指示すれば、逆転型の骨格をAIに提案させることもできます。
では、各パターンを詳しく見ていきましょう。
1. 成功型(Rags to Riches)📈
「私、失敗しないので」
感情値が一貫して上昇するパターン。立身出世型とも呼ばれます。
代表作:『転生したらスライムだった件』、『薬屋のひとりごと』
猫猫(マオマオ)が毒の知識で宮中の難事件を次々と解決していく『薬屋のひとりごと』は、小さな成功が積み重なる典型的な成功型です。なろう系で「俺TUEEE」が人気なのも、このパターンが読者に「気持ちいい上昇体験」を提供するからでしょう。
書き方のコツ:右肩上がりが単調にならないよう、途中に小さな壁を配置してください。壁を越えるたびに上昇感が強まります。成功型は「壁の設計」がすべてです。
なろう系の人気作品は、この壁の配置が巧みです。『転スラ』ならリムルが新たな魔物と遭遇するたびに小さな壁が発生し、スキルで解決して上昇する。壁→解決→上昇のサイクルが短いほど、読者は「次も読みたい」と感じます。Web小説の「1話ごとに1つの壁」という構成は、成功型を最大限に活かすフォーマットと言えるでしょう。
2. 悲劇型(Tragedy)📉
「どうして……」
感情値が一貫して下降するパターン。転落型とも呼ばれます。
代表作:『火垂るの墓』、『推しの子』
『推しの子』はアイドルとエンタメ業界の華やかさを描きつつ、復讐の果てに待つ悲劇性が物語全体を貫いています。純粋な下降型は読者への精神的負荷が大きいため、「一時停止」を挟む構成が有効です。
書き方のコツ:悲劇型で読者を最後まで引っ張るには、主人公の魅力が不可欠。展開が悲惨でも「この人の結末を見届けたい」と思わせるキャラクター造形が鍵になります。
もう1つの有効なテクニックは、純粋な下降にせず「↓→→↓」のように一時停止区間を設けることです。転落の途中に束の間の平穏を挟むと、読者は「ここで持ち直すのでは?」と期待する。その期待が裏切られるからこそ、次の下降が突き刺さるのです。
3. 逆転型(Man in a Hole)⬇️➡️⬆️
「負けられねえんだよおお!」
感情値が下降してから上昇するパターン。最もカタルシスが強くなる形です。
代表作:『ロッキー』、『鬼滅の刃 無限列車編』
煉獄杏寿郎が絶望的な戦況のなかで「心を燃やせ」と叫ぶ無限列車編は、観客をどん底から一気に引き上げる逆転型の教科書です。
書き方のコツ:「底」が深いほど、這い上がったときの感動が大きくなります。ただし下降中に読者を離脱させないために、小さな希望の光を仄めかすのがポイント。「この先もどうせダメだ」と思われたら負けです。
具体的な「希望の光」の仕込み方を紹介します。主人公がどん底にいるとき、(1)まだ使っていない能力やアイテムをチラ見せする、(2)仲間がどこかで動いていることを読者だけに見せる、(3)敵の弱点が偶然ほのめかされる——この3つのどれかがあるだけで、読者は「まだ逆転の可能性がある」と感じて読み続けてくれます。
逆転型の設計を深掘りしたい方は逆転劇の設計術をご覧ください。
4. 絶望型(Icarus)⬆️➡️⬇️
「よっしゃー! ……うっそだろおい……」
感情値が上昇してから下降するパターン。逆転型のちょうど逆です。
代表作:『華麗なるギャツビー』、『進撃の巨人』最終章
『進撃の巨人』最終章は、自由を勝ち取ったはずの主人公が選んだ道が、読者の予想を裏切る形で暗転していく絶望型の構造を持っています。
書き方のコツ:「上がってから落ちる」構造は、読者に嫌な予感を感じさせながら読ませる技術が必要です。「そろそろやばいぞ」という不安を描きつつ、それでも「この先を見たい」と思わせる。その綱引きが絶望型の醍醐味です。
絶望型・バッドエンドの詳しい設計法はバッドエンドの設計術で解説しています。
5. 感動型(Cinderella)⬆️⬇️⬆️
「素敵! でも私なんて……、ううん、私だって!」
感情値が上昇→下降→上昇の3段構造。最も汎用性が高いパターンです。
代表作:『シンデレラ』、『葬送のフリーレン』
『葬送のフリーレン』は仲間との旅(上昇)→ヒンメルの死(下降)→過去を辿る新たな旅で再び仲間と出会い直す(上昇)という感動型の大きな弧を描いています。各エピソードも「再会と喪失の繰り返し」で小さな感動型を積み重ねる構成です。
書き方のコツ:最初の上昇で読者に「この状態が続いてほしい」と思わせ、下降でそれを奪い、2回目の上昇で取り戻す。奪って取り戻す——この構造がカタルシスを生みます。
設計上の注意点は、最初の上昇を具体的な幸せで描くこと。抽象的に「幸せだった」と書いても読者は何も感じません。「家族3人でテーブルを囲む日曜の朝食」のような、失ったときに痛みを感じる具体的なシーンを最初の上昇に配置してください。その具体性が、下降の痛みと再上昇の喜びの両方を倍増させます。
泣ける物語の具体的な設計法は読者を泣かせる小説の書き方で詳しく解説しています。
6. お笑い型(Oedipus)⬇️⬆️⬇️
「あかん、いける!、やっぱりあかーん」
感情値が下降→上昇→下降のパターン。
代表作:コメディ全般、『この素晴らしい世界に祝福を!』
カズマたちが何度も「今度こそうまくいく!」と挑んでは、結局ダメになる『このすば』は、お笑い型の繰り返しで笑いを生み出す構造です。
書き方のコツ:長編連載では、シリアスな展開が続いたあとの箸休め回にお笑い型を挟むと緩急が生まれます。「一見うまくいきそうで結局ダメだった」というオチが笑いのメカニズムです。
研究データが示す「人気の法則」
Reagan et al. (2016) の研究では、パターンごとの人気(Project Gutenbergでのダウンロード数)まで分析されています。その結果が興味深いので紹介します。
複雑な曲線ほどダウンロード数が多い
| 人気度 | パターン |
|---|---|
| 高い | 絶望型(Icarus)、お笑い型(Oedipus)、逆転型+感動型の複合 |
| 中程度 | 逆転型(Man in a Hole)、感動型(Cinderella) |
| 低い | 成功型(Rags to Riches)、悲劇型(Tragedy) |
単純な上昇・下降よりも、曲線が複雑なパターンのほうが読者に好まれる——これは直感に反する部分もあるのではないでしょうか。「俺TUEEE」の成功型は「読んでいて気持ちいい」のに、全体としては最も少数派(約5%)です。
なぜ複雑な曲線が好まれるのか
理由はシンプルです。感情の振れ幅が大きいほど、読書体験が濃くなるからです。
上がるだけ、下がるだけの物語は「予測可能」。読者は途中で先が読めてしまいます。しかし「上がって→落ちて→また上がる」感動型や「落ちて→上がって→また落ちる」お笑い型は、感情の方向が切り替わるたびに「次はどうなるんだ?」という期待が生まれます。
つまり、感情の「転換点」の数が多いほど、読者を引きつける力が強くなるということ。
ただし、ここで「じゃあ成功型はダメなのか?」と思う必要はありません。なろう系の成功型が膨大な読者を獲得していることは事実です。研究データはあくまで古典文学のダウンロード数に基づいた傾向であり、Web小説の市場ではまた異なる力学が働きます。
重要なのは「自分の物語の転換点は十分か?」と自問することです。もし途中で単調だと感じたら、曲線を一段階複雑にすることを検討してみてください。成功型の物語に逆転型の1話を挟むだけでも、読者体験の密度はぐっと上がります。
各話単位でも使える
この6パターンは物語全体だけでなく、1話単位、1章単位のミニ構成にも使えます。
たとえば『鬼滅の刃』は全体としては逆転型ですが、1話ごとに感動型を繰り返しています。なろう系は全体が成功型でも、各話に小さな逆転型を入れることで単調さを防いでいます。
長編を書くときは全体の曲線と各話の曲線の2層で設計してみてください。やり方はシンプルです。
1. まず物語全体の感情曲線を1つ選ぶ(例:逆転型)
2. 次に各話の曲線を決める。全体が逆転型なら、前半の各話は「小さな悲劇型」や「小さなお笑い型」で下降を積み重ね、後半の各話は「小さな成功型」で上昇を積み重ねる
3. この組み合わせをエクセルやメモに並べるだけで、長編のプロットの骨格が見えてきます
この2層設計ができると、「各話は面白いのに全体が単調」という問題を防げます。
■簡易メモ(これらを意識!)
成功型
「私、失敗しないので」
→勝ち続ける、立身出世物語に見られる
感情値の「一定して継続的な上昇」型
悲劇型
「どうして……」
→負け続ける、悲劇に見られる
感情値の「一定して継続的な下降」型
逆転型
「負けられねえんだよおお!」
→感情値の「下降から上昇」型
絶望型
「よっしゃー!うっそだろおい……」
→感情値の「上昇から下降」型
感動型
「素敵!でも私なんて……、ううん、私だって!」
→感情値の「上昇⇒下降⇒上昇」型
お笑い型
「あかん、いける!、やっぱりあかーん」
→感情値の「下降⇒上昇⇒下降」型
物語の類型12パターン
感情曲線が「読者の感情をどう動かすか」を決めるのに対し、物語の類型は「どんな器で動かすか」を決めます。ブレイク・スナイダーの10の類型に「タブー破り」と「革命」を加えた12パターンを紹介します。
各類型には要素と設計の起点を示しました。要素はその類型に不可欠な構成部品、設計の起点はこの類型で書くとき最初に何を決めるべきかの指針です。
1. スーパーヒーロー
要素: 特別な力 / 同等以上の宿敵 / ヒーローの克服すべき呪い
設計の起点: 「ヒーローの呪い(弱点)」を先に決める。力ではなく欠点が物語を動かす
代表作: 『ワンパンマン』『僕のヒーローアカデミア』『三匹のおっさん』(有川浩)
『僕のヒーローアカデミア』はこの類型の教科書です。デクの「無個性」という呪いが物語を駆動し、オールマイトの「きみが次のヒーローだ」という言葉が呪いを解く鍵になります。
2. タブー破り
要素: 夢・使命 / タブー / 背徳
設計の起点: 「何のタブーに触れるか」を先に決める。読者がギリギリ許容できる禁忌のライン設定が鍵
代表作: 『アルジャーノンに花束を』(ダニエル・キイス)『約束のネバーランド』
『約束のネバーランド』は「子どもが食用に育てられている」というタブーが物語を駆動します。タブーの衝撃が大きいほど、「この状況からどう脱出するのか」という読者の推進力が強くなります。絶望型との掛け算は特に相性が良い組み合わせです。
3. ミステリー
要素: 探偵 / 秘密 / 暗雲
設計の起点: 「隠された秘密」を先に決める。謎の質が物語の面白さを決定づける
代表作: 『そして誰もいなくなった』(アガサ・クリスティー)『薬屋のひとりごと』
『薬屋のひとりごと』が2020年代に大ヒットしたのは、「謎」が殺人事件ではなく「後宮の事件」だったからです。ミステリーの「秘密」は犯罪である必要はありません。「なぜあの人は毎月同じ日に消えるのか」といった日常の謎でも、読者を引きつける力は十分です。
4. モンスターパニック
要素: 死ぬより恐ろしい怪物 / 逃げ場のない家 / 怪物を呼び込んだ罪
設計の起点: 「怪物を呼び込んだ罪」を先に決める。恐怖の原因が人間側にあるほど深みが出る
代表作: 『進撃の巨人』『呪術廻戦』『赤い雨』(戸梶圭太)
この類型で見落とされがちなのが「罪」の要素です。怪物が突然現れるだけでは単なるパニック映画になります。『進撃の巨人』で巨人が現れた原因が人間の「罪」にあったと明かされるからこそ、物語は単なるホラーを超えて「人間とは何か」という問いにたどり着きます。
5. 特別な力
要素: 誰かの願い / 魔法に伴う規則 / 教訓
設計の起点: 「魔法の規則(制約)」を先に決める。制約が厳しいほど物語は面白くなる
代表作: 『十二大戦』(西尾維新)『葬送のフリーレン』
『葬送のフリーレン』の魔法は「制約が明確」な点が美しいです。フリーレンが強すぎるのではなく、「人間の寿命」という制約が物語の感動を生んでいます。「何でもできる魔法」は小説では弱い。「これはできない」という制限があるからこそ、その制限内での工夫が輝きます。
6. 相棒
要素: 不完全な主人公 / 穴を埋める相棒 / 二人の複雑さ
設計の起点: 「主人公に足りないもの」を先に決め、それを補う相棒を設計する
代表作: 『シャーロック・ホームズの冒険』(コナン・ドイル)『SPY×FAMILY』
『SPY×FAMILY』はこの類型の現代的僑作です。ロイドは任務に感情が足りない、ヨルは戦闘力はあるが日常の知恵が足りない、アーニャは服従しか知らない——3人が互いの不足を埋め合うことで「家族」になっていく構造です。相棒型は「不足」の設計が9割です。
7. 組織の中で
要素: 組織 / 選択 / 犠牲
設計の起点: 「組織のルールと主人公の信念の矛盾」を先に決める
代表作: 『八甲田山 死の彷徨』(新田次郎)『機動戦士ガンダム 水星の魔女』
『水星の魔女』はこの類型の現代的な好例です。スレッタが所属する学園の「決闘ですべてが決まる」というルールと、「戦いたくない」という信念の矛盾が物語を駆動します。組織の中での物語では、「ルールが明確」であるほど、そのルールと主人公の対立がくっきり浮かび上がります。
8. 難題解決
要素: 無垢な主人公 / 突然の出来事 / 生死の危機
設計の起点: 「無理難題の内容」を先に決める。解決策が意外であるほどカタルシスが大きい
代表作: 『発注いただきました』(朝井リョウ)『Dr.STONE』
『Dr.STONE』は難題解決型の理想的な構造を持っています。「石化した人類を科学で復活させる」という巨大な難題を、小さな難題の連鎖に分解して一つずつ解いていく。難題解決型で重要なのは「解決策の意外性」です。読者が「そんな方法があったのか」と驚く解決策は、事前に伏線として材料を読者に見せておくことで生まれます。答えは意外でも、材料はフェアに提示する——これがカタルシスの条件です。
9. 革命
要素: 強固な意志 / 二つの主張 / 葛藤
設計の起点: 「対立する2つの正義」を先に決める。どちらにも理がある状態が最も熱い
代表作: 『二都物語』(ディケンズ)『コードギアス 反逆のルルーシュ』
配役設計ガイドで解説した「テーゼ vs アンチテーゼ」の構造と相性が良い類型です。2つの正義がぶつかる物語は、この類型×逆転型の掛け算で設計すると骨格が明確になります。
10. 変わり者
要素: 変わり者 / 権威・内通者 / 変容
設計の起点: 「変わり者の行動原理」を先に決める。突飛さの裏にある一貫したロジックが読者を惹きつける
代表作: 『涼宮ハルヒの憂鬱』(谷川流)『チェンソーマン』
『チェンソーマン』のデンジは「突飛だが一貫している」変わり者の好例です。「普通に暮らしたい」という一見平凡な行動原理が、悪魔を食べるという突飛な行動と組み合わされることで、強烈なキャラクター性が生まれています。
11. 成長の旅
要素: 道・路傍の林檎 / チーム / 報酬
設計の起点: 「旅の終わりに主人公が何を得るか(報酬)」を先に決める。報酬がテーマと直結する
代表作: 『キノの旅』(時雨沢恵一)『フリーレン』(旅の構造として)
『キノの旅』が傑出しているのは、「路傍の林檎」の設計です。旅先で出会う人々や文化が「寿の国」「多数決の国」のように一つの合理的なルールで運営されている。そのルールが読者の常識を揺さぶるからこそ、「読んだあとに考えさせられる」体験になるのです。成長の旅では、旅先の「構造」の設計が勝負を分けます。
12. 人生の岐路
要素: 人生の問題 / 誤った方法 / 主人公の変化
設計の起点: 「岐路で選べる2つの道」を先に決める。どちらを選んでも何かを失う状況が物語を動かす
代表作: 『いちご同盟』(三田誠広)『四月は君の嘘』
この類型の核心は「誤った方法」の要素です。主人公が最初に選ぶ誤った道を具体的に描くことで、読者は「そうじゃないのに」とハラハラしながら読み進めます。その「ハラハラ」が主人公が変化したときのカタルシスに変わります。
12類型を一気に覚える必要はありません。まずは自分の書きたい物語に近い類型を1つ見つけて、その類型の3要素を自作に当てはめてみてください。それだけで、「この物語に足りないもの」が見えてきます。
6×12=72のストーリー設計マップ
ここまでで、感情曲線6パターンと物語の類型12パターンを紹介しました。
重要なのは、これらは掛け算できるということです。
「逆転型×ミステリー」を選んだら、「究極のピンチに追い込まれた探偵が、最後の一手で真犯人を暴く」という感情の形が見えてきます。「感動型×相棒」なら、「不完全な二人が出会い、一度壊れかけた関係が復活する」という骨格が生まれます。
いくつか具体例を並べてみましょう。
| 感情曲線 × 類型 | イメージ | 実在する近い作品 |
|---|---|---|
| お笑い型 × スーパーヒーロー | ヒーローなのにポンコツ。活躍して調子に乗ったらオチがつく | ワンパンマン、ラッキーマン |
| 逆転型 × 成長の旅 | どん底で旅を始め、旅の終わりに成長を証明する | ワンピース(各島編) |
| 感動型 × 相棒 | かけがえのないバディを失いかけ、再び手を取り合う | タイガー&バニー |
| 悲劇型 × タブー破り | 禁忌に触れた代償として転落していく | アルジャーノンに花束を |
| 絶望型 × 組織の中で | 組織で成功を掴んだが、その組織に裏切られる | 進撃の巨人(マーレ編) |
| 成功型 × 難題解決 | 難題を次々と鮮やかに解決し続ける爽快感 | Dr.STONE |
| 感動型 × 人生の岐路 | 人生の選択で幸せを失い、別の道で取り戻す | 四月は君の嘘 |
| お笑い型 × 特別な力 | 魔法を手に入れて調子に乗るが、規則に引っかかる | このすば |
| 逆転型 × 革命 | 圧政に苦しむ主人公が世界を変える | コードギアス |
組み合わせを選ぶだけで、「どんな感情体験を、どんな物語の器で届けるか」が明確になります。72通りすべてを試す必要はありません。あなたが直感で「面白そう」と思えた組み合わせが、あなたが書くべき物語の形です。
72パターンを自作に落とし込む3ステップ
「面白そうな組み合わせは見つかったけど、ここからどうすれば?」という方のために、実際に自作へ落とし込む手順を紹介します。
ステップ1:感情曲線を選ぶ——読者にどんな体験をさせたいか?
まず「読者にどんな感情体験をさせたいか」を決めます。
• 爽快感を与えたい → 成功型
• カタルシスを味わわせたい → 逆転型
• 感動で涙を誘いたい → 感動型
• 衝撃を与えたい → 絶望型
• 笑いを取りたい → お笑い型
• 考えさせたい → 悲劇型
迷ったら逆転型か感動型を選んでください。研究データが示す通り、この2つは読者を最も惹きつけるパターンです。そして、逆転型と感動型はそれぞれ「読者を勇気づける」「読者を泣かせる」という明確な共感体験を提供します。自分の物語で読者に何を感じてほしいのか——それが決まれば、感情曲線は自然に定まります。
ステップ2:物語の類型を選ぶ——どんな「器」を使うか?
次に12類型から「器」を選びます。選ぶ基準は「自分が書きたいジャンルに近い類型」です。
ファンタジー戦記なら「スーパーヒーロー」か「革命」。日常系なら「人生の岐路」か「変わり者」。バディものなら「相棒」。ミステリーならそのまま「ミステリー」。
ステップ3:組み合わせを1文で言語化する
選んだ2つを掛け合わせて、ストーリーの骨格を1文で書いてください。
「逆転型 × 成長の旅 = 追放された魔法使いが辺境を旅するうちに、自分だけの魔法を見つけて師匠を超える」
この1文が書ければ、あとはプロットに展開するだけです。逆に、この1文がうまく書けないなら、組み合わせを変えてみてください。ピンとくる組み合わせが見つかるまで、気軽に取り替えてかまいません。
もう1つ実践例を出しましょう。
「感動型 × モンスターパニック = 平和な村がモンスターに蹂躙され、生き残った少女が仲間を得て村を取り戻す」
この1文から見えてくるのは、(1)平和な日常の描写が必要、(2)モンスターの出現で一気に下降、(3)仲間との出会いからの上昇——という3段構造です。感情曲線が物語に必要なイベントを教えてくれるわけです。
もしAIを使える環境であれば、「感動型×モンスターパニックでライトノベルのプロットを3パターン提案して」とChatGPTやClaudeに依頼するのも効果的です。72通りの掛け算をAIに展開させれば、アイデア出しが一気に加速します。
類型に囚われない(活用の注意点)
では、これらのパターンに沿って作品を作ればいいのでしょうか。
答えは否です。
正確には、パターンを参考にしてもいいし、しなくてもいいのです。
冒頭で天気の子の感情曲線の話をしましたが、いくつも波がありましたね。
実際の物語は、1話の中に複数の感情曲線が現れます。あるエピソードでは成功型、次のエピソードでは逆転型——それが自然です。新海誠監督の『天気の子』の感情曲線を見ても、大きな弧の中にいくつもの小さな波が重なり合っています。当然です、キャラクターの人生を描くわけですから。そしてキャラクターがあるときは成功し、あるときは逆転し、あるときはお笑いぐさになるのも、また人生です。
ですので本エントリーで紹介した6×12の72パターンは、あなたの小説の『1話1話でつかえるストーリーのネタ』くらいに考えておくのが良いでしょう。時にはスーパーヒーロー、時にはミステリー。そんな物語があっていいはずです(涼宮ハルヒの短編集なんて、そういう作られ方でした)。
類型に囚われるのではなく、あくまで自由に。あなたの意志で取捨選択しながら使ってください。
むしろ、パターンを知った上で意図的にパターンを壊すのが面白い物語を生む近道かもしれません。「ここは逆転型のセオリーなら上昇するはず……でも上昇させない」という判断ができるのは、パターンを知っている書き手だけです。72パターンは「守」の型であり、「破」と「離」はあなた自身が見つけるものです。
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