読者を惹きつける10のキーワード|人が興味を持たずにいられない物語の要素

2020年4月1日

「JKハルは異世界で娼婦になった」——このタイトルを初めて見たとき、クリックせずにはいられませんでした。

不謹慎だとわかっている。でも気になる。読んだら最後、途中で止められなかった。

同じ経験、ありませんか。タイトルを見た瞬間に「気になって仕方がない」作品。内容を知る前から「読みたい」と感じてしまう物語。あの衝動の正体は何なのか。

玉樹真一郎『「ついやってしまう」体験のつくりかた』は、人間が本能的に反応する要素を10のキーワードに分類しています。この分類を知ったとき、腑に落ちました。「JKハル」が気になったのは偶然ではなく、人間の本能を突いていたからだと。

この記事では10のキーワードを紹介しつつ、なぜそれが読者を惹きつけるのか、どう物語に活かせるのかを一緒に考えていきます。


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人が本能的に反応する10のキーワード

10のキーワードは3つのグループに分かれます。

分類キーワード
ポジティブ性のモチーフ、食、損得、承認
ネガティブけがれ、暴力、混乱、死
ニュートラル射幸心と偶然、プライベート

どれも「人が大きな声で話しにくいもの」ばかりです。これは偶然ではありません。社会的に抑圧されているからこそ、フィクションで解放されたとき強烈な引力を生むのです。


ポジティブキーワード——欲望に火をつける4つ

性のモチーフ

肉体・健康美、恋愛沙汰、婚姻、出産——ときめきやエロティックな感覚を喚起するものです。

冒頭で触れた「JKハルは異世界で娼婦になった」はまさにこれ。「異世界レビュアーズ」も異世界の風俗という題材で性のモチーフを全面に押し出しています。スクールカースト上位の女の子が異世界で娼婦になる——「JKハル」は、もう芸術です。

ここで面白いのは、「性のモチーフ」が従来の男性向けエロから大きくシフトしていること。「わたしの幸せな結婚」は女性向け恋愛×和風ファンタジーで大ヒットしましたし、「【推しの子】」に見られる「推し=疑似恋愛」の構造は、性のモチーフの進化形と言えます。ジェンダーレスな恋愛描写、「推しの概念」としての疑似恋愛——性のモチーフは確実に進化し続けています。

食べ物・飲み物、料理、シズル感、収穫や狩り——おいしそうと感じたり、お腹が減る感覚が出るものです。

「ダンジョン飯」はファンタジー飯テロの金字塔。2024年のアニメ化で大ヒットしました。「異世界居酒屋のぶ」は日本の居酒屋文化をファンタジーに持ち込んだ。

注目すべきは、「食」が単なるグルメ描写を超えたことです。「食を通じた文化理解」「料理を通じたキャラクターの成長」——ダンジョン飯がモンスターを料理する行為を通じてダンジョンの生態系を描いたように、食は世界観構築の装置にもなる。この使い方を知っているかどうかで、食の描写の深みはまったく変わります。

損得

お金・財、競争・勝負、贈与・交換、羨望・嫉妬——お金がほしい、損したくない、という感覚が出るものです。

「弱キャラ友崎くん」は「弱キャラ」という言葉自体が競争を喚起する。「魔法科高校の劣等生」はタイトルだけで格差と逆転を想起させます。

興味深いことに、「お金そのもの」を全面に出してヒットしたラノベは意外と少ない。ラノベの損得キーワードは「お金」よりも「勝負」「格差」「逆転」として機能するようです。「Vtuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた」のような配信者系作品は、まさに「勝負」の側面を強化しています。

承認

仲間・友情、家族、懐古・あるある、役割・肩書、自己承認感・全能感——認められた感覚や、所属している感覚が出るものです。

「スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました」は自己承認感・全能感の極致。「異世界誕生2006」はWeb小説家にとっての懐古作品です。

承認は、10のキーワードの中でも最強クラスではないでしょうか。「追放系」が「不当に低い承認→正当な承認の回復」という構造で読者の感情を動かすのは、このキーワードの力にほかなりません。現実で認められない人ほど、物語の中の承認に強く反応する——だから追放系は衰退しないのです。


ネガティブキーワード——恐怖と背徳の4つ

ここからは負の感情を刺激するキーワードです。「なぜこんなものに惹かれるのか」と不思議に思うかもしれませんが、人間は危険を察知する本能を持っています。危険な情報にこそ注意が向く——だからネガティブなキーワードも強烈な引力を持つのです。

けがれ

汚物、腐敗、醜さ、犯罪、呪い——汚い感覚や罪悪感を刺激するものです。

「教え子に脅迫されるのは犯罪ですか?」は弱者からの犯罪という構造。「俺が好きなのは妹だけど妹じゃない」はタブーに触れる設定です。

ただし重要な注意点があります。犯罪や醜さをただ表現するだけでは読者離れを起こします。描くなら「普通はありえない状況」「弱者からの犯罪」であることが前提です。倫理的なラインを意識しながらタブーの力を借りる——このバランスが問われます。単純に不快なものを書けばいいという話ではないのです。

暴力

喧嘩、殺傷武器、略奪、蔑み、自由の剥奪——痛みや一方的な感覚が出るものです。

「ゴブリンスレイヤー」は世界を救うのではなく、小さな鬼を殺す。暴力的だが、手の届く身近な人のために戦う作品です。一方、「涼宮ハルヒシリーズ」は暴力ヒロインの代表格でしたが、2010年代以降、暴力ヒロインは急速に衰退しました。

暴力の表現は時代によって大きく変わります。鬼滅の刃の炭治郎が鬼を斬るのは「妹を守るため」であり、純粋な暴力衝動ではないからこそ受け入れられた。「優しさの結果としての暴力」でなければ現代の読者には通用しません。

涼宮ハルヒシリーズが止まったのは、谷川流が時代の変化を敏感に感じ取ったからかもしれない——と私は思っています。東日本大震災の前後で、暴力に対する社会の許容度は大きく変わりました。

混乱

矛盾・不条理、記憶喪失・異世界、天変地異・物理法則の崩壊——まちがっている感覚や、くらくらする感覚が出るものです。

「オーバーロード」は骸骨の見た目を持つ最強の大魔法使いに転生する混乱。「青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない」は思春期症候群でヒロインを認識できなくなる。

そもそも異世界転生というジャンル自体が「混乱」を内包しています。見知らぬ世界に放り込まれる感覚は混乱そのもの——だから異世界転生が強いのは必然なのです。混乱のキーワードがジャンル構造にビルトインされている。これに気づくと、異世界転生のポテンシャルの高さが理論的に理解できます。

血・怪我、絶体絶命、死体・ゾンビ、幽霊——死に近づく感覚やオカルトな感覚が出るものです。

「乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった……」は「破滅フラグ」が絶体絶命を想起させる。「Re:ゼロから始める異世界生活」は「死に戻り」が物語の中核を担います。

死のキーワードは「死そのもの」よりも「死の予感」「死の回避」として使ったほうが効果的です。Re:ゼロが読者を惹きつけるのは死ではなく「死を避けようとする必死のあがき」が描かれるからです。


ニュートラルキーワード——ポジでもネガでもない2つ

射幸心と偶然

賭け事、くじ、幸運を祈る、偶然の出会い——賭けている感覚や祈っている感覚が出るものです。

「賭博師は祈らない」は奴隷少女を護るためイカサマの技術でギャンブルに挑む。「ひげを剃る。そして女子高生を拾う。」は「拾う」という偶然が物語の起点になっています。

ガチャ文化、ランダムドロップ——現代のエンタメは射幸心であふれています。物語においても「偶然の出会い」「賭けに出る展開」は読者の心拍数を上げる強力な装置です。

プライベート

読者自身の秘密、過去、性格・センス——はずかしい感覚や、秘密な感覚が出るものです。

「義妹生活」「お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件」——読者の生活圏や願望に直接語りかけるタイトルが典型です。長いタイトルでどんな話かがわかること自体が、読者に「これは自分向きか?」という判断材料を与え、プライベートのキーワードを刺激します。


悪役令嬢はなぜ最強なのか——複数キーワードの同時起動

ここまで10のキーワードを見てきましたが、キーワード単体の力だけでは爆発的なヒットは生まれません。重要なのは掛け合わせです。

悪役令嬢ジャンルが長期にわたって人気を維持している理由を見てください。

キーワード悪役令嬢での発現
破滅フラグ=死の予感
損得社会的地位の喪失と回復
承認見下された存在が認められる
けがれ「悪役」というレッテル
混乱前世の記憶+転生
プライベート乙女ゲームのプレイ経験

6つものキーワードを同時に起動させている。これだけのキーワード密度を持つジャンルが強くないわけがありません。

TikTok小説の高密度戦略

TikTokで話題になる小説には「性」「けがれ」「プライベート」が高濃度で含まれます。短時間でスクロールを止めさせるには、本能に直結するキーワードが必要だからです。TikTokは尺が短いぶん、キーワードの濃度を極限まで上げないと勝負にならない。

配信者系作品のキーワード構造

配信者系作品は「損得」(ランキング競争)+「承認」(視聴者からの認知)+「射幸心」(バズるかどうかの不確実性)を組み合わせています。人気の理由はキーワードの掛け合わせで説明できるのです。


つい読んでしまう作品の究極法則

10のキーワードを改めて見てください。言ってしまえば、どれも大っぴらに語れないものばかりです。性、死、射幸心……常識の世界で懸命に生きている読者ほど、タブーのような弾けた作品に夢中になります。

つまり、つい読んでしまう作品を書く方法とは——タブーに手を出すことです。


自作の「キーワードバランス」を診断する

ここであなたの作品を診断してみましょう。

自作が各キーワードを含んでいるかどうかを、0(なし)〜3(強い)で採点してください。

キーワード点数(0-3)
性のモチーフ
損得
承認
けがれ
暴力
混乱
射幸心と偶然
プライベート

• 合計15点以上 → キーワード密度が高い。「つい読んでしまう」力が強い

• 合計8-14点 → 標準的。苦手なキーワードを意識的に足す余地あり

• 合計7点以下 → キーワード不足。意識的に2〜3個追加を検討

ちなみに筆者(腰ボロ作家)の場合は「射幸心と偶然 > 性のモチーフ > 損得 > 死 > 混乱」の順番です。つまり食やけがれは無意識のうちに作品に取り入れてこなかった可能性がある。

苦手なキーワードを意識的に盛り込むことで、より多くの読者に興味を持ってもらえます。あるいは得意なキーワードに絞って尖った作品を書く——どちらも戦略です。大事なのは、自覚して選ぶこと。


まとめ

10のキーワードは人間の本能に直結しています。これらを意識的に物語に組み込むことで、「つい読んでしまう」力は確実に高まります。

そして単体ではなく、複数のキーワードを掛け合わせること。悪役令嬢ジャンルが6つのキーワードを同時に起動させているように、キーワードの組み合わせが物語の吸引力を決めるのです。

あなたの物語に、まだ使っていないキーワードはありませんか?

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