演繹法で「読ませる文章」を書く|物語に牽引力を生む論理展開テクニック
「ちゃんと書いているのに、読者が途中で離れてしまう」——そんな経験はありませんか? ストーリーは悪くない、文法も間違っていない。なのにページをめくる手が止まらない牽引力がどうしても出ない。
その原因、もしかすると「情報の並べ方」にあるかもしれません。この記事では演繹法という論理展開の技法を使って、読者を前へ前へと引き込む文章の書き方を解説します。
演繹法とは——「前提→結論」で読者を導く推論
演繹法(えんえきほう)は、大前提と小前提から結論を導き出す推論方法です。もっとも有名な例がアリストテレスの三段論法でしょう。
• 大前提:すべての人間は死ぬ
• 小前提:ソクラテスは人間である
• 結論:ゆえにソクラテスは死ぬ
大前提が正しく、小前提も正しければ、結論は論理的に確定します。哲学やビジネスの世界だけの話に聞こえるかもしれませんが、実はこの「前提→結論」の流れこそが物語の牽引力を生むエンジンなのです。
演繹法と帰納法——文章への効果の違い
対になる推論法として帰納法があります。帰納法は「複数の事例から共通点を見つけて法則化する」方法です。
| 演繹法 | 帰納法 | |
|---|---|---|
| 流れ | 大前提→小前提→結論 | 事例→事例→法則化 |
| 読者の反応 | 「だとしたらこうなるはず」 | 「なるほど、そういうことか」 |
| 文章の効果 | 前へ引っ張る牽引力 | 後から腑に落ちる納得感 |
| 得意な場面 | 冒頭、戦闘、推理、交渉 | 回想、解説、まとめ |
小説ではどちらも使いますが、「読者を引き込む力」に直結するのは演繹法です。帰納法は振り返りの納得感に優れている一方、物語を前に進める推進力は演繹法のほうが圧倒的に強い。両者を使い分けることが、読ませる文章の基本設計になります。
演繹法が牽引力を生む3つの理由
なぜ演繹法で書くと文章に引き込まれるのでしょうか。
理由①:読者に「予測」させる
大前提が提示されると、読者は無意識に「だったら次はこうなるんじゃないか」と予測を始めます。人間の脳は未完了のパターンを完成させたがる性質を持っています。心理学でいうツァイガルニク効果に近い現象です。
予測が当たれば快感、外れれば驚き——どちらにしても読者は「確かめたい」という衝動を抱き続けます。この衝動こそが牽引力の正体です。『デスノート』で「名前を書かれた人間は死ぬ」というルールが提示された瞬間、読者は「月はこのノートをどう使うのか?」と前のめりになりますよね。あれがまさに演繹法の力です。
理由②:情報の順序が自然に整理される
演繹法に沿って書くと、情報の並び順が「世界の法則→キャラの属性→起こる出来事」の順に整理されます。読者は常に「なぜ?」が解消された状態で次の情報を受け取れるため、読みやすさと牽引力が同時に向上します。
逆にこの順序が崩れていると、読者は1文読むたびに「えっ、なぜ?」と前の文に戻らなければなりません。これが読みにくさの正体のひとつです。
理由③:キャラクターの行動に必然性が生まれる
「この村では外部の人間を排斥する」(大前提)→「主人公は外から来た少年だ」(小前提)→「だから主人公は村人に疎まれる」(結論)。演繹法で展開すると、キャラの行動と周囲の反応に整合性が生まれ、ご都合主義だと感じさせにくくなります。
改稿例——帰納法的な文章を演繹法に書き換える
実際に文章がどう変わるか、改稿前と改稿後を比べてみましょう。
改稿前(帰納法的な並べ方)
> この村には至るところに関所がある。看守が出入りを記録している。毎晩、点呼会が開かれて全員の存在が確認される。応じなかった者は排斥される。山ノ神の祟りを恐れる風習も根強い。……つまり、この村は人間を土地に縛りつける場所だ。
情報がバラバラに並び、最後にようやく「つまり」で結論が来ます。読者は途中で「結局何が言いたいの?」と感じてしまいます。
改稿後(演繹法的な並べ方)
> この村の目的は唯一つ——住む人間を土地へ縛りつけることだ。だから至るところに関所が置かれ、看守が出入りを記録している。逢魔時になると「点呼会」が催される。応じなかった者は村民全員で排斥するルールだ。山ノ神の祟りを恐れるこの村では、逃げることすら許されない。
改稿後は冒頭に結論(大前提)が来ています。読者は「なるほど、縛りつけるのが目的か。具体的にどうやって?」と前のめりになり、後続の情報を受け取る準備ができた状態で読み進められます。
冒頭に演繹法を使う3つのパターン
冒頭は演繹法の効果がもっとも発揮される場所です。
パターン①:世界の法則を提示する
> この世界では、名前を知られた者は支配される。
たった1行で読者は「主人公は名前を隠しているのか?」と想像を始めます。『デスノート』のノートのルール、『進撃の巨人』の壁の内と外——名作の冒頭には必ず「世界の大前提」が提示されています。
パターン②:キャラクターの信念を提示する
> 父が亡くなった日、姉は言った。「泣くのは弱い人間がすること」。
姉の信念が大前提として機能し、読者は「ならば姉はどんな困難にも泣かないのか? それとも泣く瞬間が来るのか?」と期待します。信念はいつ崩れるかに注目を集めるため、非常に強い牽引力を持ちます。
パターン③:状況の制約を提示する
> 制限時間は72時間。封鎖された街から脱出できなければ、全員死ぬ。
タイムリミットが大前提です。映画『ダイ・ハード』やアニメ『カイジ』が強烈な緊張感を持つのは、この制約を序盤で明確にしているからです。あとは「今何時間目か」「手段は何か」を演繹的に展開するだけで、物語は自然と加速していきます。
演繹法が機能しない——よくある3つの失敗
失敗①:大前提が読者に伝わっていない
世界観の設定が作者の頭の中だけにあり、文章として提示されていないケースです。あなたがどれほど緻密な設定を持っていても、書かなければ読者には伝わりません。
失敗②:小前提が大前提と噛み合っていない
「すべての人間は死ぬ」→「あの花は美しい」→ 結論は導けません。キャラクターの属性や行動が世界のルールときちんと接続しているか、ここを確認してみてください。
失敗③:結論を先に全部言ってしまう
推理小説の冒頭で犯人を明かすようなものです。演繹法の牽引力は「前提を示して、結論は読者に予測させる」ところに発生します。結論まで全部書いてしまうと、読む理由がなくなってしまうのです。
あなたの作品で使うための3ステップ
ステップ①:作品の「大前提」を1行で書き出す
あなたの物語世界で絶対的に成り立つルールを1行で書き出してみてください。「この世界では〇〇である」という形が理想です。
ステップ②:主人公の属性を「小前提」として設定する
大前提に対して主人公がどう噛み合うかを決めます。大前提と矛盾する属性を持たせると、それだけでドラマが生まれます。
| 大前提 | 主人公の属性(小前提) | 予想される展開 |
|---|---|---|
| 魔法が使えないと人権がない世界 | 魔法が使えない少年 | 社会の底辺から這い上がる物語 |
| 名前を知られたら支配される世界 | 本名を捨てた女剣士 | 正体バレの緊張感 |
| 嘘をつくと体が腐る呪い | 嘘つきの詐欺師 | 真実だけで騙す頭脳戦 |
ステップ③:冒頭3行で大前提を読者に伝える
物語の最初の3行以内に「法則」「信念」「制約」のいずれかを置きましょう。後からの補足でも機能しますが、冒頭に置くほど牽引力は強くなります。
まとめ
演繹法は「大前提→小前提→結論」の流れで読者の脳を前に走らせる技術です。情報の並べ方を変えるだけで、同じ内容でも牽引力がまるで違ってきます。冒頭に「世界の法則」「キャラの信念」「状況の制約」のいずれかを提示し、読者に「この先どうなるんだろう」と予測させること——これが読ませる文章の根幹です。
どうですか、書ける気がしてきましたか?
もし悩むことがあったら、このブログに戻ってきてください。同じように初心者だった私が、基礎から応用まで気づいたことを書き綴っています。
さあ、今日も物語を書きましょう。あなたの傑作を待っています。
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