演繹法で「読ませる文章」を書く|物語に牽引力を生む論理展開テクニック

2019年10月19日

「ちゃんと書いているのに、読者が途中で離れてしまう」——そんな経験はありませんか? ストーリーは悪くない、文法も間違っていない。なのにページをめくる手が止まらない牽引力がどうしても出ない。

その原因、もしかすると「情報の並べ方」にあるかもしれません。この記事では演繹法という論理展開の技法を使って、読者を前へ前へと引き込む文章の書き方を解説します。

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演繹法とは——「前提→結論」で読者を導く推論

演繹法(えんえきほう)は、大前提と小前提から結論を導き出す推論方法です。もっとも有名な例がアリストテレスの三段論法でしょう。

大前提:すべての人間は死ぬ

小前提:ソクラテスは人間である

結論:ゆえにソクラテスは死ぬ

大前提が正しく、小前提も正しければ、結論は論理的に確定します。哲学やビジネスの世界だけの話に聞こえるかもしれませんが、実はこの「前提→結論」の流れこそが物語の牽引力を生むエンジンなのです。

演繹法と帰納法——文章への効果の違い

対になる推論法として帰納法があります。帰納法は「複数の事例から共通点を見つけて法則化する」方法です。

演繹法帰納法
流れ大前提→小前提→結論事例→事例→法則化
読者の反応「だとしたらこうなるはず」「なるほど、そういうことか」
文章の効果前へ引っ張る牽引力後から腑に落ちる納得感
得意な場面冒頭、戦闘、推理、交渉回想、解説、まとめ

小説ではどちらも使いますが、「読者を引き込む力」に直結するのは演繹法です。帰納法は振り返りの納得感に優れている一方、物語を前に進める推進力は演繹法のほうが圧倒的に強い。両者を使い分けることが、読ませる文章の基本設計になります。

演繹法が牽引力を生む3つの理由

なぜ演繹法で書くと文章に引き込まれるのでしょうか。

理由①:読者に「予測」させる

大前提が提示されると、読者は無意識に「だったら次はこうなるんじゃないか」と予測を始めます。人間の脳は未完了のパターンを完成させたがる性質を持っています。心理学でいうツァイガルニク効果に近い現象です。

予測が当たれば快感、外れれば驚き——どちらにしても読者は「確かめたい」という衝動を抱き続けます。この衝動こそが牽引力の正体です。『デスノート』で「名前を書かれた人間は死ぬ」というルールが提示された瞬間、読者は「月はこのノートをどう使うのか?」と前のめりになりますよね。あれがまさに演繹法の力です。

理由②:情報の順序が自然に整理される

演繹法に沿って書くと、情報の並び順が「世界の法則→キャラの属性→起こる出来事」の順に整理されます。読者は常に「なぜ?」が解消された状態で次の情報を受け取れるため、読みやすさと牽引力が同時に向上します。

逆にこの順序が崩れていると、読者は1文読むたびに「えっ、なぜ?」と前の文に戻らなければなりません。これが読みにくさの正体のひとつです。

理由③:キャラクターの行動に必然性が生まれる

「この村では外部の人間を排斥する」(大前提)→「主人公は外から来た少年だ」(小前提)→「だから主人公は村人に疎まれる」(結論)。演繹法で展開すると、キャラの行動と周囲の反応に整合性が生まれ、ご都合主義だと感じさせにくくなります

改稿例——帰納法的な文章を演繹法に書き換える

実際に文章がどう変わるか、改稿前と改稿後を比べてみましょう。

改稿前(帰納法的な並べ方)

> この村には至るところに関所がある。看守が出入りを記録している。毎晩、点呼会が開かれて全員の存在が確認される。応じなかった者は排斥される。山ノ神の祟りを恐れる風習も根強い。……つまり、この村は人間を土地に縛りつける場所だ。

情報がバラバラに並び、最後にようやく「つまり」で結論が来ます。読者は途中で「結局何が言いたいの?」と感じてしまいます。

改稿後(演繹法的な並べ方)

> この村の目的は唯一つ——住む人間を土地へ縛りつけることだ。だから至るところに関所が置かれ、看守が出入りを記録している。逢魔時になると「点呼会」が催される。応じなかった者は村民全員で排斥するルールだ。山ノ神の祟りを恐れるこの村では、逃げることすら許されない。

改稿後は冒頭に結論(大前提)が来ています。読者は「なるほど、縛りつけるのが目的か。具体的にどうやって?」と前のめりになり、後続の情報を受け取る準備ができた状態で読み進められます。

冒頭に演繹法を使う3つのパターン

冒頭は演繹法の効果がもっとも発揮される場所です。

パターン①:世界の法則を提示する

> この世界では、名前を知られた者は支配される。

たった1行で読者は「主人公は名前を隠しているのか?」と想像を始めます。『デスノート』のノートのルール、『進撃の巨人』の壁の内と外——名作の冒頭には必ず「世界の大前提」が提示されています。

パターン②:キャラクターの信念を提示する

> 父が亡くなった日、姉は言った。「泣くのは弱い人間がすること」。

姉の信念が大前提として機能し、読者は「ならば姉はどんな困難にも泣かないのか? それとも泣く瞬間が来るのか?」と期待します。信念はいつ崩れるかに注目を集めるため、非常に強い牽引力を持ちます。

パターン③:状況の制約を提示する

> 制限時間は72時間。封鎖された街から脱出できなければ、全員死ぬ。

タイムリミットが大前提です。映画『ダイ・ハード』やアニメ『カイジ』が強烈な緊張感を持つのは、この制約を序盤で明確にしているからです。あとは「今何時間目か」「手段は何か」を演繹的に展開するだけで、物語は自然と加速していきます。

演繹法が機能しない——よくある3つの失敗

失敗①:大前提が読者に伝わっていない

世界観の設定が作者の頭の中だけにあり、文章として提示されていないケースです。あなたがどれほど緻密な設定を持っていても、書かなければ読者には伝わりません。

失敗②:小前提が大前提と噛み合っていない

「すべての人間は死ぬ」→「あの花は美しい」→ 結論は導けません。キャラクターの属性や行動が世界のルールときちんと接続しているか、ここを確認してみてください。

失敗③:結論を先に全部言ってしまう

推理小説の冒頭で犯人を明かすようなものです。演繹法の牽引力は「前提を示して、結論は読者に予測させる」ところに発生します。結論まで全部書いてしまうと、読む理由がなくなってしまうのです。

あなたの作品で使うための3ステップ

ステップ①:作品の「大前提」を1行で書き出す

あなたの物語世界で絶対的に成り立つルールを1行で書き出してみてください。「この世界では〇〇である」という形が理想です。

ステップ②:主人公の属性を「小前提」として設定する

大前提に対して主人公がどう噛み合うかを決めます。大前提と矛盾する属性を持たせると、それだけでドラマが生まれます。

大前提主人公の属性(小前提)予想される展開
魔法が使えないと人権がない世界魔法が使えない少年社会の底辺から這い上がる物語
名前を知られたら支配される世界本名を捨てた女剣士正体バレの緊張感
嘘をつくと体が腐る呪い嘘つきの詐欺師真実だけで騙す頭脳戦

ステップ③:冒頭3行で大前提を読者に伝える

物語の最初の3行以内に「法則」「信念」「制約」のいずれかを置きましょう。後からの補足でも機能しますが、冒頭に置くほど牽引力は強くなります

まとめ

演繹法は「大前提→小前提→結論」の流れで読者の脳を前に走らせる技術です。情報の並べ方を変えるだけで、同じ内容でも牽引力がまるで違ってきます。冒頭に「世界の法則」「キャラの信念」「状況の制約」のいずれかを提示し、読者に「この先どうなるんだろう」と予測させること——これが読ませる文章の根幹です。

どうですか、書ける気がしてきましたか?
もし悩むことがあったら、このブログに戻ってきてください。同じように初心者だった私が、基礎から応用まで気づいたことを書き綴っています。
さあ、今日も物語を書きましょう。あなたの傑作を待っています。


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