ファンタジー小説の「国の大きさと移動手段」完全ガイド|距離感のリアリティを作る方法
小説を書くとき、あなたは国の大きさまで意識していますか? 目に見えないところだけに忘れがちですが、いくら世界観を作り込んだとしても、「この距離を1日で移動できるのはおかしいだろう」と読者に思われた瞬間、その世界の雰囲気は台無しになってしまいます。
逆に言えば、国の大きさと移動手段に整合性があるだけで、物語のリアリティは格段に上がります。ここでは、ファンタジー小説の距離設定に役立つ基準をまとめました。
「国が大きすぎる」問題と「国が小さすぎる」問題
ファンタジー小説の世界観でよく指摘されるのが、国のスケール感の不自然さです。創作者のあいだでも、こんな意見が見られます。
• 「〇〇帝国」のような名前なのに、首都から辺境まで1日で行けてしまう。帝国のスケール感がない
• 一国の大きさが大きすぎる作品が多い。中世ヨーロッパの世界は実際には中国くらいの大きさでしかなく、日本と同等サイズもしくはそれ以下の小国同士が戦っていた
• 実際に自分の足で旅行しないと国の大きさはわかりにくいので、ある程度は仕方がない
確かに基準は必要ですが、あまりこだわりすぎて前に進めないようでは本末転倒です。大事なのは「読者が違和感を覚えない程度のリアリティ」を確保すること。そのための基準を知っておけば、設定作業がぐっと楽になります。
中世ヨーロッパの国の大きさ:現実のスケール感
ファンタジーの定番である「中世ヨーロッパ風」世界を想定する場合、現実の中世ヨーロッパのスケールを知っておくと便利です。
| 国・地域 | おおよその面積 | 現代の比較対象 |
|---|---|---|
| イングランド王国(中世) | 約13万km² | 北海道+四国 程度 |
| フランス王国(中世、直轄領) | 約5〜10万km² | 北海道 程度 |
| 神聖ローマ帝国(全体) | 約100万km² | 日本の約2.5倍 |
| ルクセンブルク大公国 | 約2,586km² | 神奈川県 程度 |
| 小規模な伯爵領 | 数百〜数千km² | 一つの市〜県 程度 |
意外と小さい、と感じるかもしれません。中世のフランス王が直接支配している領域は、フランス全土ではなくパリ周辺のごく限られた範囲でした。残りは大貴族たちがそれぞれ統治しており、「フランス王国」はその連合体のようなものだったのです。
ファンタジー小説の「王国」を設定するなら、北海道くらいのスケール感を基準にすると、物語の中で移動にかかる日数や軍事行動の規模に無理が出にくくなります。
移動手段ごとの1日の移動距離
国の大きさが定まっても、「移動にどれくらいかかるか」が分からないと物語が書けません。以下は中世の技術水準を前提とした移動速度の目安です。
徒歩
| 条件 | 1日の移動距離 | 備考 |
|---|---|---|
| 健康な成人(軽装) | 約30km | 1日8時間、時速3〜4km |
| 重装備の兵士 | 約20km | 鎧・武器・食料を携行 |
| 子ども・老人・荷物持ち | 約15km | 休憩多め |
| ローマ軍団(行軍) | 約30km | 街道が整備されていた場合 |
ローマ帝国が衰退した後の中世では、街道の整備状況が著しく悪化しています。泥道、森、山道が基本であり、実際の移動距離はさらに短くなることも珍しくありません。
馬・馬車
| 条件 | 1日の移動距離 | 備考 |
|---|---|---|
| 騎馬(普通のペース) | 約50〜60km | 馬の体力を温存する場合 |
| 騎馬(急行) | 約80〜100km | 馬を酷使。連日は不可能 |
| 駅馬車(馬を交換) | 約150〜200km | 18〜19世紀の制度。中世にはまだない |
| 荷馬車 | 約20〜30km | 荷物が重く遅い |
ポイントは、馬は「車」ではないということです。馬は生き物なので、全力疾走を何時間も続けることはできません。ぶっ通しで走らせれば疲労で倒れてしまいます。「急いで馬を走らせた」としても、1日100kmが限界だと考えておくのが安全です。
中世には「駅馬車」のような馬の交換制度は一般的ではありませんでした(これは近世以降のシステムです)。ですので、中世ファンタジーで馬に乗って移動するなら、1日50〜60km程度を基準にするのが自然でしょう。
船舶
| 条件 | 1日の移動距離 | 備考 |
|---|---|---|
| 帆船(順風) | 約120〜200km | 時速5〜8km。風次第で大きく変動 |
| ガレー船(櫂+帆) | 約240〜400km | 時速10km前後。漕ぎ手が必要 |
| 河川の小型船 | 約40〜80km | 流れに沿えば速い。逆流は遅い |
中世において船は最速の移動手段でした。とはいえ、天候に大きく左右されるため「何日で着く」という計算は非常に難しかったのが実情です。嵐で何日も足止めされる展開は、ファンタジーでもよく見かけますよね。
距離設定のコツ:「中心地から辺境まで10〜20日」
これらの数値を踏まえた上で、実用的な設定の目安を提案します。
中心地(王都)から辺境まで、徒歩で10〜20日、馬で5〜10日。 これが「国」として物語が破綻しにくいスケール感です。
徒歩で20日=約600km。これはだいたい東京から広島くらいの距離で、北海道の端から端(稚内〜函館)とほぼ同じです。「一つの王国」の規模としては十分な広さですし、冒険の途中で立ち寄る町を5〜6箇所配置するにもちょうどいい間隔になります。
逆に、帝国のような大国であれば端から端まで徒歩で1〜2ヶ月、馬で3〜4週間。小さな都市国家なら徒歩で1〜2日で横断できる——といった具合に、国の格と移動距離を対応させておくと整合性が取れます。
ファンタジーならではの移動手段
もちろん、ファンタジーの世界にはドラゴンや転移魔法といった超自然的な移動手段が存在することもあります。そうした特殊な移動手段がある世界では、「距離のリアリティ」の基準が変わります。
考えるべきは、「その移動手段を一般人が使えるかどうか」です。
• ドラゴンに乗れるのが王族だけなら、一般人にとっての国の広さは中世と変わらない
• 転移魔法が普及しているなら、距離はあまり意味を持たず、「転移門がある都市」と「ない辺境」の格差が生まれる
• 飛空艇が交通手段として定着しているなら、世界のスケールを10倍にしても物語は成立する
つまり、移動手段のレベルに合わせて国のスケールを調整するのがコツです。中世レベルの技術なら北海道規模、魔法文明が発達しているならオーストラリア規模——そんなふうに考えると、破綻のない世界観が作れるのではないでしょうか。
まとめ
国の大きさを確実に設定できていればベストですが、設定するためには「移動手段は何?」から始まり、その時代背景や世界観、文化などすべての設定が関わってきます。
完璧を目指す必要はありません。ただ、以下の3点を押さえておくだけで、距離感の破綻は防げます。
1. 現実の中世ヨーロッパの国は意外と小さい(北海道くらいが目安)
2. 徒歩30km/日、騎馬50〜60km/日 を基準にする
3. ファンタジー独自の移動手段がある場合は、その普及度に合わせてスケールを調整する
「国の大きさ」は地味な設定ですが、ここがしっかりしていると、物語全体に不思議な説得力が生まれます。旅のシーンに緊張感が生まれ、戦争の展開にリアリティが出て、都市と辺境の格差が自然に描ける。ぜひ参考にしてみてくださいね。
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