チェンソーマンの爆笑シーンを振り返る | 笑いの三大理論
チェンソーマンは、血みどろのバトルとグロテスクな展開が続くのに、読後感がさっぱりしている——不思議な作品です。
アニメを見て興味を持ち、原作漫画を一気読みしたとき、藤本タツキ先生が称賛される意味がわかりました。「人が恐怖を感じる事象が悪魔として登場し、恐怖されなくなると弱くなる」という設定の見事さ。主要キャラクターが容赦なく死んでいく意外性の連続。そして凄惨な展開にもかかわらず読める理由は、笑いの力 にあると確信しています。
前回の記事で笑いの三大理論(優越・ズレ・放出)を解説しました。この記事では、チェンソーマンの具体的なシーンを使って 三大理論がどう実践されているか を分析し、自作への応用法を示します。
→ 理論の詳細は 笑いの三大理論 をご覧ください。
分析1:49話「ビーム騎馬兵事件」——ズレの理論の実践
シーンの概要
レゼと台風の悪魔を倒すため、デンジ・ビーム・天使の悪魔が作戦を立てます。ビームが語るかつてのチェンソーの悪魔の戦い方——「チェーンを飛ばして引っ掛けて、建物から建物へ移動する」。
このヒントから、読者の誰もが スパイダーマンのような戦い方 を想像するでしょう。
しかしデンジが導き出した答えは——「デンジがビームに乗りビームが必死で走る」でした。
さすがのビームも涙目で「チギャウ…チギャウ…」と抗議します。
予測を完全に覆されて、このシーン爆笑しました。そりゃさすがのビームも「チギャウ…チギャウ…」と涙目で抗議しますね。笑
三大理論での分析
これは ズレの理論 の教科書的な実践です。
| ステップ | 具体的内容 |
|---|---|
| セットアップ(予測の構築) | 「チェーンを飛ばして移動する」→スパイダーマン的戦法を想像させる |
| パンチライン(予測の裏切り) | ビームの背中にまたがって突撃する騎馬兵スタイル |
| 笑いの成立 | 「そうじゃないだろ!」というツッコミが読者の頭の中で発生 |
ポイント:裏切りに筋が通っている
このシーンが成功しているのは、裏切りの方向が 荒唐無稽ではない からです。
ビームを馬のようにして駆ける——これは由緒正しい「騎馬兵」の戦い方であり、一応筋が通っています。「なるほど、そういう解釈もあるのか」と思わせることで、笑いが困惑に堕ちることを防いでいます。
自作への応用
ズレの理論で笑いを作るとき、3つのチェックポイントがあります。
1. 読者の予測は十分に構築されているか——予測がなければズレも成立しない
2. 裏切りに最低限の合理性があるか——「ありえない」ではなく「そっちか!」と思わせる
3. ツッコミ的なリアクションがあるか——ズレをズレとして認識させる装置
分析2:85話「コベニのハンバーガー」——優越×放出の合わせ技
シーンの概要
物語のクライマックス。地獄のヒーローと化したチェンソーマンが、なぜかファミリーバーガーに入店し、無関係な人間を次々に殺害していきます。
チェンソーマンが「ヴァンヴァーヴァ」と叫ぶのを見て、コベニは「ハンバーガーを注文している」と察知。ハンバーガーセットを運ぶがコケる——その衝撃で店員の一人が殺される。
作品的にも読者的にも緊張感が高まり、次は絶対に失敗できないと感じる中、再びコベニがハンバーガーを運ぶことに。店員たちが「コケないで」「次は絶対コケないで」と懇願する。
そしてコベニは もう一度コケる。
もう耐えられませんでした。笑
チェンソーマンで一番笑いました。緊張と緩和のギャップをうまく使いこなしていて、藤本タツキ先生天才だと感じた瞬間でした。
三大理論での分析
このシーンは 三大理論の合わせ技 です。
優越の理論
コベニが何もないところでコケるのを見て、読者は「私はそんなことはしない」と感じ笑います。コベニの不器用さへの優越感。
放出の理論
「殺されるかもしれない」という極度の緊張のなかで、コベニがコケるという脱力の瞬間。溜まりに溜まった緊張エネルギーが、笑いとして一気に放出されます。
ポイントは緊張の強度です。 チェンソーマンが本当に人を殺しているという状況(これ以上ない緊張)があるからこそ、コベニのドジが通常の何倍もの笑いを生んでいます。
ズレの理論
さらに、「次は絶対コケない」と読者も祈っている状況で、もう一度コケるという予測の裏切り。2回目のコケは1回目よりもはるかに面白い——なぜなら、今度は「コケない」という予測が強力に構築されているからです。
構造を図示する
緊張構築:チェンソーマンが人を殺している
↓
コベニがハンバーガーを運ぶ(さらに緊張↑)
↓
1回目:コケる → 笑い(優越+放出)
↓
「次は絶対コケないで」(予測の再構築)
↓
2回目:またコケる → 爆笑(ズレ+優越+放出の三位一体)
1回目で「優越+放出」、2回目で「ズレ」が加わり 三大理論のすべてが同時に機能する。これが藤本タツキ先生の天才性です。
自作への応用
三大理論の合わせ技を設計するステップは以下の通りです。
1. 極度の緊張を先に作る(命の危険、時間制限、取り返しのつかない状況)
2. 脱力する瞬間を挿入する(ドジ、ミス、予想外の反応)
3. 同じパターンを繰り返す(1回目で構造を理解させ、2回目で予測を裏切る)
分析3:チェンソーマン第2部のギャグ設計
第2部でも藤本タツキ先生の笑いの設計は健在です。
アサのコミュ障描写
第2部の主人公・三鷹アサは極度のコミュ障として描かれています。彼女が真面目に考えれば考えるほど空回りする姿は 優越の理論 そのものですが、読者はアサを嘲笑しているのではなく、「共感的な優越」——「自分にもそういうところがある」と思いながら笑っています。
これは優越の理論の上級テクニックで、読者自身の経験と重なる失敗を描くことで、優越感と共感が同居する笑い を生み出しています。
チェンソーマンの正体がわからない中、チェンソーマンに何度も助けられたアサが、チェンソーマンを想像して作ったポエムなんかはうわぁぁぁぁぁぁぁってなりましたよね。笑
デンジのバカ正直さ
デンジは第2部でも変わらず食欲と性欲に正直で、シリアスな場面でも空気を読まない発言を連発します。これは ズレの理論 ——「こんな状況で普通そんなこと言うか?」という予測の裏切り——ですが、デンジの場合は性格として一貫しているため、「キャラクターが生きている」感覚にもなっています。
マキマの絶望設計と笑いの関係
チェンソーマンの笑いを語るうえで、マキマという存在は無視できません。
マキマがデンジに対してしたことの本質は、心理学的にこう説明できます。
> 人間は、最初から持っていないことではなく、いちど得ていたもの(あるいは、もうじき得られるはずだったもの)が手元から奪われることにこそ、激しい痛みを感じる。
こうした 相対的剥奪の絶望 があるからこそ、デンジの食欲・性欲に忠実な笑いが救済として機能します。絶望が深いほど、些細な日常の喜びが光る——笑いとシリアスが表裏一体であることを、チェンソーマンは作品全体で証明しています。
しかし、最強の存在であるがゆえに「チェンソーマンはね」とチェンソーマンに対する一方的な解釈を、チェンソーマンの前で語るシーンが滑稽で面白かったですね。
自作に笑いを取り入れるワークシート
| 設計項目 | あなたの作品では |
|---|---|
| コメディリリーフキャラはいるか | |
| 読者はそのキャラの「ドジ」を許容できるか | |
| 予測の構築→裏切りの構造が入っているか | |
| 裏切りに最低限の合理性があるか | |
| 直前にシリアスな緊張が蓄積されているか | |
| 同じパターンの繰り返し(2回目以降の強化)はあるか |
このワークシートに沿って自分の作品をチェックしてみてください。1つでも「ない」がある場合は、そこが笑いを追加するチャンスです。
まとめ
チェンソーマンの笑いは三大理論に忠実です。
• 49話:ズレの理論——スパイダーマン→騎馬兵の予測裏切り
• 85話:優越×放出×ズレの三位一体——コベニのハンバーガー
• 第2部:共感的な優越とキャラクター一貫性のズレ
笑いの理論を知れば、「なぜこのシーンが面白いのか」が分解できます。分解できれば、自分の物語に応用できます。
チェンソーマンが凄惨なのに読めるのは、笑いが読者の心を守っているからです。あなたの物語にも、そんな笑いの盾を加えてみてはいかがでしょうか。
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