天使の階級と種類|九位階・七大天使・堕天使まで徹底解説
神や悪魔がテーマになることの多いファンタジー小説において、天使の存在は欠かすことのできない重要な要素の一つです。その元ネタであるキリスト教の天使は「翼の生えた美しい人」というイメージとはかなり異なります。例えば最上位の熾天使(セラフィム)は六枚の翼で全身を覆い、智天使(ケルビム)は四つの顔と四枚の翼を持つ——聖書に描かれた天使はむしろ異形の存在です。
この記事では、5世紀に成立した「天上位階論」を軸に、天使の九位階、七大天使、堕天使、そしてイスラムの天使までを整理します。
天上位階論(九位階)
天使の階級体系は5世紀の神学者、偽ディオニュシオス・アレオパギタの著作『天上位階論(De Coelesti Hierarchia)』で体系化されました。三つの組(上級・中級・下級)に三位ずつ、計九位階で構成されます。
上級三隊(神に最も近い)
| 位階 | 英名 | 外見と特徴 | 役割 |
|---|---|---|---|
| 熾天使(してんし) | Seraphim | 六枚の翼。二枚で顔を覆い、二枚で足を覆い、二枚で飛ぶ。燃えるように赤い | 神への愛の炎で燃え続ける。「聖なるかな」の賛歌を歌う |
| 智天使(ちてんし) | Cherubim | 四つの顔(人・獅子・牛・鷲)と四枚の翼 | エデンの園の門を守る番人。神の知恵を体現する |
| 座天使(ざてんし) | Thrones | 火の車輪(オファニム)の姿。多数の目がついている | 神の玉座を支える。神の裁きを伝える |
ルネサンス絵画でよく見る「ぽっちゃりした赤ちゃんの天使」はケルビム(智天使)を可愛らしくデフォルメしたもので、原典の四面四翼の姿とはまったく別物です。正確には「プットー(putto)」と呼ばれるローマ神話のキューピッド(エロス)が混同されたものとされています。
中級三隊(宇宙秩序の管理者)
| 位階 | 英名 | 役割 |
|---|---|---|
| 主天使(しゅてんし) | Dominions | 下位の天使に命令を下す管理職。光り輝く杖と宝珠を持つ |
| 力天使(りきてんし) | Virtues | 奇跡を地上に執行する。キリストの昇天に付き添った |
| 能天使(のうてんし) | Powers | 悪魔と直接戦う戦闘部隊。最も多くの堕天使を出した位階とされる |
能天使が「堕天使を最も多く出した」という設定は注目に値します。悪魔と最前線で戦う者こそ闇に堕ちやすい——この構造はフィクションでも繰り返し使われるモチーフです。正義の味方がヴィランに転落する展開は、この能天使の逸話に類似する構造を持っています。
下級三隊(人間界との接点)
| 位階 | 英名 | 役割 |
|---|---|---|
| 権天使(けんてんし) | Principalities | 国家や都市を守護する。地上の指導者を導く |
| 大天使(だいてんし) | Archangels | 神の重要なメッセージを人間に伝える。名前を持つ天使の多くがここ |
| 天使(てんし) | Angels | 個々の人間を守護する。最も人間に身近な存在 |
大天使は「大」とついているものの、九位階では下から二番目です。これは中世以前の分類(大天使が最高位)が天上位階論に組み込まれた際に格下げされたためで、名前のインパクトと実際の位階にズレがあります。
なお、守護天使(Guardian Angel)の概念はカトリック教会が正式に教義として認めているもので、すべての人間に一人ずつ天使が割り当てられているとされます。10月2日は「守護天使の記念日」として教会暦に定められています。
七大天使
名前を持ち、個別のエピソードが残る著名な天使たちです。
| 天使名 | 役割 | 主なエピソード | 対応する曜日 |
|---|---|---|---|
| ミカエル | 天軍の総司令官。悪魔との最終決戦を率いる | ルシファーを天から追い落とした(黙示録12章) | 日曜日 |
| ガブリエル | 神の言葉を伝える使者 | マリアに受胎告知。イスラムではムハンマドにクルアーンを伝えた | 月曜日 |
| ラファエル | 癒しの天使 | トビト記で旅人の護衛。盲目の父の目を治した | 火曜日 |
| ウリエル | 知恵と光の天使 | エデンの園の門を炎の剣で守る。ノアに大洪水を警告 | 水曜日 |
| サリエル | 死と裁きの天使 | 死海文書に登場。罪を犯した天使を裁く | 木曜日 |
| ラグエル | 正義と調和の天使 | 天使たちの監視役。天使同士の争いを仲裁 | 金曜日 |
| レミエル | 希望の天使 | エノク書に登場。死者の魂を導く | 土曜日 |
ミカエルとガブリエルはカトリック・プロテスタント・正教会・イスラム教のすべてで認められている数少ない天使です。ラファエルはカトリックと正教会のみ、ウリエル以下はエノク書などの外典にのみ記載があり、正統な聖書の正典には含まれていません。
天使名の語尾「-エル」はヘブライ語で「神」を意味します。ミカエルは「神に似た者は誰か」、ガブリエルは「神の力」、ラファエルは「神は癒す」、ウリエルは「神の光」——天使の名前そのものが神への賛美の言葉になっています。
特殊な天使
| 天使名 | 特徴 |
|---|---|
| メタトロン | 「神の書記」「小YHWH」とも。人間エノクが天に上げられ変容したとされる。身長は世界の端から端まで |
| サンダルフォン | メタトロンの双子の兄弟。人間の祈りを花の冠にして神に届ける。元は預言者エリヤ |
| アザゼル | 堕天使。人間に武器の製造と化粧術を教えた罪で罰された。贖罪の日のスケープゴートの名前でもある |
メタトロンとサンダルフォンはどちらも「人間が天使に変容した存在」であり、聖書正典には現れません。タルムードやヘブライ語エノク書(第三エノク書)に記述があります。メタトロンの「36対の翼」「36万5千の目」という描写は、熾天使をさらに超えるスケールで異形さが際立っています。
堕天使とルシファー
堕天使(fallen angel)は神に反逆して天から追放された天使です。最も有名な堕天使がルシファー(Lucifer)ですが、その解釈は時代と教派で異なります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名前の意味 | ラテン語で「光を運ぶ者」。元は金星(明けの明星)を指す |
| 堕落の理由 | 神と同等になろうとした傲慢(イザヤ書14:12-15の解釈) |
| 別名 | サタン(ヘブライ語で「敵対者」)、悪魔(ディアボロス)、ベルゼブブ |
| 堕落した天使の数 | 天使の三分の一が従ったとされる(黙示録12:4) |
ルシファー=サタン=悪魔という等式は実は後世の解釈です。旧約聖書の「サタン」は固有名詞ではなく、「告発者」「試す者」という役職名でした。ヨブ記のサタンは神の命令で仕事をしている「天使の一人」であり、神に反逆した存在ではありません。
ルシファーという名前がイザヤ書14:12に由来するのも意外な事実です。原文はバビロニアの王を風刺した詩であり、天使の話ではありませんでした。初期キリスト教の教父たちがこの一節を天使の堕落と結びつけ、ルシファー=サタンという解釈が4世紀頃に定着しました。ミルトンの叙事詩『失楽園』(1667年)がこの解釈を文学的に完成させ、「かつて最も美しい天使だったが傲慢ゆえに堕落した」というルシファー像を決定づけています。
イスラムの天使
イスラム教にも独自の天使体系があり、四大天使を核としています。
| 天使名(アラビア語) | 役割 | キリスト教の対応 |
|---|---|---|
| ジブリール | 預言者に啓示を伝える。ムハンマドにクルアーンを伝えた | ガブリエル |
| ミーカーイール | 自然現象と食糧供給を司る | ミカエル |
| イスラーフィール | 最後の審判の日にラッパを吹く | ラファエル(諸説あり) |
| アズラーイール | 死の天使。人間の魂を回収する | サリエル(諸説あり) |
イスラム教には「堕天使」の概念がありません。天使は自由意志を持たず、神の命令に完全に従う存在とされるためです。悪魔(イブリース)は天使ではなくジン(精霊)であり、アダムに跪くことを拒否して追放されたと記されています。
キリスト教とイスラム教で天使の概念が異なる最大のポイントは「自由意志の有無」です。キリスト教では天使に自由意志があるからこそ堕天使が生まれうる。イスラム教では自由意志がないため堕天使は論理的に存在しない。この神学的前提の違いは、天使を創作に登場させるときの根本設計に関わってきます。
天使の外見に関する誤解
現代のポップカルチャーで一般的な「白い翼と後光を持つ美しい人間の姿」は、中世以降の西洋美術が作り上げたイメージです。聖書の天使が人間に現れるとき、まず最初に発する言葉は「恐れるな(Fear not)」——つまり、見た者が恐怖するほどの姿をしているということです。
| よくある誤解 | 聖書・神学での実態 |
|---|---|
| 天使は翼を2枚持つ | セラフィムは6枚、ケルビムは4枚。通常の天使には翼の記述がない場合も |
| 天使は女性的 | 聖書の天使が人間の姿を取る場合、すべて男性として描かれる |
| 天使は白い服を着ている | 白い衣の記述もあるが、エゼキエル書のケルビムは燃える石炭のように描写 |
| 天使は優しい | ソドムとゴモラを滅ぼしたのも天使。エジプトの初子を殺したのも天使 |
ポップカルチャーでの天使
| 作品 | 天使の扱い | 注目ポイント |
|---|---|---|
| 『エヴァンゲリオン』 | 使徒(Angel)が敵 | 名前はすべて天使名。サキエル、ラミエル、ゼルエルなど |
| 『ベヨネッタ』 | 天使が雑魚敵 | 天上位階論の名称をそのまま採用。ケルビムやセラフィムが敵として襲ってくる |
| 『女神転生』シリーズ | 天使が仲魔 | 天使の九位階をそのまま強さのランクに採用 |
| 『オーバーロード』 | NPCセバス=セラフィム型 | 熾天使の名を持ちながら「人情味ある執事」というギャップ |
| 『鋼の錬金術師』 | 「真理の門」の番人 | 天使的な存在を匿名・無個性にすることで恐怖感を演出 |
| 『デビルマン』(永井豪) | サタン=堕天使の悲しみ | ルシファーの「かつて最も美しい天使だった」設定を最大限に活用 |
「天使が敵」という構造は近年の日本のフィクションで特に好まれます。エヴァンゲリオンの使徒のように、「神の側の存在が人類にとっての脅威」という構図は、善悪の二元論を揺さぶる効果があります。聖書における天使もソドムの壊滅やエジプトの十の災いを執行しており、「味方とは限らない」のがむしろ原典に忠実とも言えます。
あなたの物語への活かし方
天使を創作に登場させるときは、以下の問いが設計の出発点になります。
• 天使は味方か、敵か、中立か?
• 人間の姿かそれとも聖書的な異形か?
• 自由意志はあるか?(あれば堕天使が生まれうる)
• 九位階をそのまま使うか、独自の階級を作るか?
• 神の命令と天使個人の感情が衝突する場面はあるか?
一つ提案したいのは、「天使の外見を原典寄りにする」だけで作品の差別化ができるということです。六枚の翼で全身を覆い、燃えるように赤い熾天使——これをそのまま描くだけで、「白い翼の美しい存在」というステレオタイプを覆せます。エゼキエル書に登場するケルビムは四つの顔(人・獅子・牛・鷲)を持ち、車輪の中に車輪がある座天使(オファニム)は全身に目がついている。聖書の記述を読むだけで、天使のデザインに独自性が生まれます。
まとめ
天使の階級は偽ディオニュシオスの天上位階論で九位階に体系化されました。上位ほど異形の姿を持ち、下位ほど人間に近い。七大天使のうちミカエルとガブリエルだけが全アブラハム宗教で共通して認められています。堕天使の筆頭ルシファーは「光を運ぶ者」という皮肉な名を持ち、その転落の物語は今も創作の定番モチーフとして生き続けています。
どうですか、書ける気がしてきましたか?
もし悩むことがあったら、このブログに戻ってきてください。同じように初心者だった私が、基礎から応用まで気づいたことを書き綴っています。
さあ、今日も物語を書きましょう。あなたの傑作を待っています。