プラトー(成長停滞期)の正体|上達しない時期をどう生き延びるか
「最近、上手くなっている気がしない」
1年前と比べて明らかに文章力は上がっているはずなのに、成長を実感できない。読み返しても良いと思えない。新人賞に応募しても反応がない。このまま書き続けて意味があるのか──。
もしこの状態にいるなら、それは「プラトー」と呼ばれる成長の停滞期間です。そして最初に断言しておきます。プラトーは「才能がない」証拠ではなく、「才能が次の段階に移行しようとしている」証拠です。
プラトーとは何か
プラトー(plateau)は心理学の用語で、「作業や学習の進歩が一時的に停滞し、練習曲線が横ばいになる状態」を指します。直訳は「高原」。山を登っている途中で、平坦な台地に出たイメージです。登っている実感がない。でも標高は下がっていない。
人間の成長は、右肩上がりの直線ではありません。
急激に伸びる時期と、どれだけ努力しても成長を実感できない時期が交互にやってきます。この停滞期がプラトーです。そして厄介なことに、上達すればするほどプラトーの期間は長くなります。
初心者のうちは、1週間練習しただけで目に見えて上手くなります。昨日書けなかった描写が書ける。先月より明らかにマシな文章が出てくる。成長の実感が強いので、モチベーションも維持しやすい。
しかし中級者以降は、数ヶ月努力しても目に見える変化がない時期が訪れます。書いた量は増えているのに、クオリティが上がっている手応えがない。「あれ、自分って実はもう限界なんじゃないか」──この疑念がプラトーの正体です。
モンスターハンターで理解するプラトー
わかりやすい例を出します。
モンスターハンターを始めたばかりの頃、腕前はあっという間に上がります。昨日倒せなかったモンスターを今日倒せる。初見で5回カートしたクエストが、3回目にはクリアできる。この成長の速さが気持ち良くて、夢中でプレイします。
ところが一定のレベルに達すると、急に上手くならなくなります。タイムは縮まらない。クリアできないクエストが減らない。むしろ下手になった気すらする。
ここで投げ出す人と、続ける人で道が分かれます。
投げ出す人は、「自分にはセンスがなかった」と結論づけて去っていく。続ける人は、上手くならない時期にも装備の最適化を考えたり、他のプレイヤーの動画を研究したりする。そして数週間後、あるいは数ヶ月後に──突然、壁を突き抜けた瞬間が来る。
プラトーは「成長の終わり」ではなく、「次の成長のための準備期間」です。脳が新しい回路を構築している最中だから、表面的なパフォーマンスに変化が出ない。水面下では確実に何かが変わっている。でもそれが目に見えるようになるまでには、時間がかかる。
小説におけるプラトーの特徴
ゲームと違って、小説の上達はさらに可視化しにくいという問題があります。
ゲームにはクリアタイムやランキングという客観的な指標があります。しかし小説には「上手さ」を数値化する仕組みがありません。PVは読者の好みやSEOに左右される。新人賞の結果は審査員との相性もある。「上手くなったかどうか」を判断する基準が主観に依存しているから、プラトーの苦しさが増幅されます。
小説におけるプラトーには、いくつかの典型的な症状があります。
症状1:自分の文章の粗が目につくようになった
これは実は成長の証拠です。「粗に気づける目」が育ったということ。審美眼が技術を追い越している状態で、苦しいですが良い兆候です。
症状2:他人の作品がやたら上手く見える
比較対象のレベルが上がっている証拠です。初心者の頃は気づかなかった技術に目が行くようになった。嫉妬は苦しいですが、それは自分の鑑識眼が成長した結果です。
症状3:書いていて楽しくない
成長が実感できないから楽しさも薄れる。ここが最も危険なポイントで、多くの人がこの段階でエタります。
プラトーを乗り越える3つの戦略
プラトーは自然現象であり、避けることはできません。しかし「過ごし方」を工夫することで、停滞期間を短縮し、心を折らずに乗り越えることは可能です。
戦略1:短期的な結果を目標にしない
「3ヶ月以内に新人賞を受賞する」「半年でPVを1万にする」──こうした短期的かつ外部評価に依存する目標は、プラトー期には毒になります。結果が出ないのがプラトーの定義なのだから、結果を目標にしたら達成不可能で自己嫌悪に陥ります。
代わりに、自分でコントロールできる行動目標を設定してください。
• 「毎日500字は書く」
• 「月に2冊、自分のジャンル外の本を読む」
• 「書いた作品を1つは投稿する」
結果ではなく行動。行動を積み重ねた先に、結果は後からついてきます。
戦略2:新しい技術的挑戦を入れる
プラトーの原因のひとつは、同じ方法で同じことを繰り返していることです。
いつも三人称で書いているなら一人称に挑戦する。ファンタジーしか書いていないなら現代ドラマを書いてみる。いつもプロットを作ってから書くなら、一度プロットなしで書いてみる。
これらの「実験」は短期的にはクオリティを下げます。でも、その過程で得た新しい視点が、元のスタイルに戻った時にプラトーを突破する鍵になることがあります。
モンスターハンターの例えに戻れば、同じ武器ばかり使っていて壁にぶつかったら、別の武器を試してみる。別の武器で得た立ち回りの感覚が、元の武器に戻った時に新しい動きを可能にする──そういう構造です。
戦略3:努力を習慣化して感情から切り離す
「今日は調子がいいから書く」「今日はやる気がないから書かない」──この判断基準は、プラトー期には致命的です。やる気がない日が何ヶ月も続くのがプラトーなのだから。
代わりに、執筆を歯磨きと同じレベルまで習慣化してください。歯磨きに「今日はやる気があるから磨こう」とは思わないはずです。毎日やるものだから、感情に関係なくやる。
1日500字でもいい。ルーティンの中に「ほんの少しの新しい挑戦」を混ぜる。昨日使わなかった比喩を使ってみる。普段書かないタイプの台詞を書いてみる。500字の中で1つだけ新しいことを試す。それだけで、停滞期間にも「積み上げている」感覚を維持できます。
「好きだから続けられる」の本当の意味
プラトーを乗り越えた人に共通しているのは、「好きだった」ということです。
上達が止まり、楽しさが薄れ、周囲の評価も変わらない。そんな状況で書き続けられるのは、根底に「書くこと自体が好きだ」という感覚があるからです。
これが「好きこそものの上手なれ」の本当の意味だと考えています。「好きだから上手い」ではない。「好きだからプラトーを乗り越えられた結果、上手くなった」──順序はこうです。
逆に言えば、プラトーに入った今、まだ書き続けているあなたは、すでに「好き」の証明を行動で示しています。投げ出すなら、とっくに投げ出しているはずです。そうしていないのは、下手でも書いていたいから。
その気持ちがある限り、プラトーはいつか終わります。次のブレイクスルーの前触れだと思って、今日も500字書いてください。
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