普通のことを普通に書く技術|抽象化を手放して読者に届く文章にする方法

2020年3月30日

「もっとすごい話を書かなきゃ」「もっと劇的な展開にしなきゃ」——そう思い詰めたことはないでしょうか。

しかし読者の心に残る文章は、意外と 普通のこと を書いた文章だったりします。日常の一場面、何気ない会話、ふと見た空の色。 特別な出来事を特別に書くことよりも、普通のことを普通に——けれど正確に書く方が、ずっと難しい のです。

今回は「普通のことを普通に書く」ための技術を3つに絞って整理していきましょう。派手さはありませんが、これを身につけると文章の質が地味に、しかし確実に変わります。

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ヒント1:抽象化せず、具体で書く

初心者がやりがちなミスの筆頭が 「抽象的な言葉で済ませてしまう」 ことです。

「美しい風景が広がっていた」——これを読んで、あなたの頭にはどんな風景が浮かびましたか。おそらく人によってまったく違う景色を想像したはずです。それは表現として不正確です。

抽象的な表現具体的に書き換えた例
美しい風景が広がっていた田んぼの水面に夕日が反射して、一面がオレンジ色に染まっていた
彼女は悲しそうだった彼女は唇の端を噛んで、窓の外に目を逸らした
おいしい料理が並んでいた湯気を立てる味噌汁と、焦げ目のついた鮭の塩焼きが食卓に置かれていた
怖い雰囲気の場所だった街灯が2本に1本消えていて、コンビニすら見当たらない路地だった

「美しい」「悲しい」「おいしい」「怖い」——これらは 読者が判断すべき感情 です。書き手がやるべきことは、読者がその感情にたどり着くための 具体的な情報を並べる ことなのです。

これは 「ショウ・ドント・テル(Show, don’t tell)」 の基本でもあります。感情を「言う」のではなく「見せる」。そのためには抽象語を削って具体物に置き換える訓練が必要です。

実践:「嬉しかった」を削る練習

「嬉しかった」という文を書きたくなったら、一度止まって考えてみてください。 「嬉しい」を使わずにその嬉しさを読者に伝えるには何を書けばいいか

たとえば「合格通知を受け取って嬉しかった」なら——

• 「封筒を開けた指が震えていた。二度、三度読み返して、やっと息を吐いた」

• 「母に電話しようとして、声が出なかった。代わりに携帯の画面を写真に撮った」

嬉しいという言葉を使わなくても、読者は「嬉しいんだな」とわかります。 具体的な行動を書くことで、感情は勝手に伝わる のです。

ヒント2:接続詞で前後をつなぐ

2つ目のヒントは 接続詞の使い方 です。

文章が読みにくくなる原因の多くは、文と文のあいだに 論理的なつながりが見えない ことにあります。接続詞はそのつながりを明示する道具です。

接続詞機能
しかし逆接(前の文を否定・制限)天気は良かった。しかし彼の気分は晴れなかった
そのため因果(前の文が原因)雨が降り続いた。そのため川は氾濫した
つまり言い換え(前の文を別の角度で)売上が3倍になった。つまり広告が当たったのだ
たとえば具体例の導入彼は几帳面だった。たとえばタオルは常に三つ折りだ
ちなみに補足(話題を少し脱線)この城は1603年に建てられた。ちなみに建設費は当時の国家予算に匹敵する
一方対比(異なる視点の提示)兄は文系に進んだ。一方、弟は理系を選んだ

ただし 接続詞の使いすぎも問題 です。すべての文頭に接続詞がついていると、かえって読みにくくなるのです。

コツは 「読者が迷いそうなところだけに置く」 こと。論理の流れが自然な場合は接続詞を省略し、方向が変わる場所(逆接・対比)や、飛躍がある場所(因果・具体例)にだけ配置する。これだけで文章のテンポが格段に良くなります。

接続詞チェックの手順

1. 推敲時に接続詞をすべてハイライトする
2. なくても意味が通じる接続詞 を削除する
3. 逆に 「なぜ?」「たとえば?」と読者が思いそうな箇所 に接続詞を追加する

この作業を1回やるだけで、文章のリズムが整います。プロの編集者が原稿に手を入れるとき、最初にやるのがこの接続詞の調整だと聞いたことがあります。地味ですが効果は絶大です。

ヒント3:冒頭と末尾に大事なことを置く

3つ目は 文章の配置 に関するヒントです。

人間の記憶には 初頭効果と親近性効果 と呼ばれる特性があります。最初に読んだ情報と、最後に読んだ情報が記憶に残りやすい、という心理学の法則です。

効果説明文章での活用
初頭効果最初に触れた情報が記憶に残る段落の1文目に結論を置く
親近性効果最後に触れた情報が記憶に残る段落の最後に印象的なフレーズを置く

これは文章全体にも、段落単位にも、一文単位にも適用できます。

文章全体のレベル: 記事の冒頭で「この記事で得られること」を明示し、末尾で「最も伝えたいこと」を繰り返す。これだけで読者の理解度と満足度が上がります。

段落のレベル: 段落の1文目で「何の話か」を宣言し、最後の文で「だから何なのか」を述べる。 中間に補足情報や具体例を挟む「サンドイッチ構造」 が最も読みやすいパターンです。

一文のレベル: 「大事な要素」を文末に置く。日本語は文末に重要な情報が来る構造なので、これは自然と実践できている人も多いかもしれません。しかし意識するだけで精度が変わります。

たとえば「彼女が明日来ることを、私は知らなかった」と「私は知らなかった、彼女が明日来ることを」では印象が異なります。前者は 「知らなかった」が末尾で強調 されますが、後者は 「明日来ること」が末尾 に残ります。何を強調したいかによって語順を選ぶのです。

実践:冒頭1文の書き直し練習

記事やシーンの冒頭1文は 最も記憶に残る場所 です。ここに「普通のこと」を具体的に書く練習をすると、3つのヒントすべてが自然に身につきます。

たとえばファンタジー小説の冒頭で「平和な村だった」と書く代わりに——

• 「朝五時に鶏が鳴き、六時に井戸端に列ができ、七時には全員が畑に出る。その繰り返しが百年続いた村だった」

この書き方なら「平和」という抽象語を使わなくても、読者は村の平穏さを感じ取れます。そして 冒頭に具体的な時間の流れを置くことで、初頭効果により村の情景が記憶に刻まれる のです。

プロの作家の冒頭を分析してみると、この法則が驚くほど一貫していることに気づきます。川端康成の「雪国」の冒頭「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」は、 「美しい風景」「感動的な光景」 といった抽象語を一切使わず、トンネルと雪国という具体物だけで読者の脳内に映像を作っています。

まとめ:普通は、技術の積み重ねである

ヒント要約やること
抽象化せず具体で書く感情語を削って具体的な行動・情景にする「嬉しかった」を使わず嬉しさを書く練習
接続詞で前後をつなぐ読者が迷う箇所にだけ接続詞を配置する推敲時に接続詞の過不足をチェック
冒頭と末尾に大事なことを置く初頭効果と親近性効果を利用する段落の1文目に結論、最後に要点
冒頭1文を書き直す抽象語を具体物に置き換えるプロの冒頭を参考に具体描写だけで書く

この3つのヒントに共通しているのは、 すべて「推敲時にチェックできる」 という点です。書いている最中にすべてを意識する必要はありません。まず自由に書いて、その後に推敲のチェックリストとして使えるのが、この3つの強みです。

推敲のチェック順序を提案します。まず ヒント1で抽象語を洗い出して具体に変換 し、次に ヒント2で接続詞の過不足を調整 し、最後に ヒント3で冒頭と末尾に大事な情報が来ているか確認 する。この3ステップを毎回の推敲に組み込むだけで、文章の質は着実に上がっていきます。

「普通のことを普通に書く」は、一見すると何の技術もいらないように見えます。しかし実際は 「特別」を書くよりも高い精度が求められる 作業です。なぜなら派手な展開やギミックに頼れない分、 文章そのものの力で読者を引きつけなければならない からです。

日常を丁寧に書ける人は、非日常も丁寧に書けます。特別な出来事を描く技術は、 普通を正確に描ける土台の上にしか成り立ちません 。今日から、目の前にある「普通」をひとつだけ、できるだけ具体的に書いてみてください。それが、あなたの文章を一段階上に引き上げる最短ルートです。

どうですか、書ける気がしてきましたか?
もし悩むことがあったら、このブログに戻ってきてください。同じように初心者だった私が、基礎から応用まで気づいたことを書き綴っています。
さあ、今日も物語を書きましょう。あなたの傑作を待っています。

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