「面白くならない」を分解する|あなたの小説がつまらない本当の理由
「なんか違う」「思ってたのと違う」「どこが面白いのか自分でも分からない」
書き終えた原稿を読み返して、この感覚に襲われた経験がない作家はいません。私も何度味わったか数えきれません。10万字書いて、読み返して、「面白くない」と気づいた時の絶望感は筆舌に尽くしがたい。
でも「面白くない」は、実は良いことです。少なくとも「面白くない」と判断できる目はある。問題はその先──何が面白くなくて、どうすれば面白くなるのか、を特定できるかどうか。
この記事では「面白くならない」の正体を分解し、具体的にどこを直せばいいのかを見つける方法を書きます。
「面白い」の正体は、書き手が汗をかいた場所
元の記事でこう書きました。
「読者が面白いと感じるのは、書き手が汗をかいた場所。つまり、考えたり調べたりと精魂込めて手を尽くした部分」
これは2026年の今でも、創作における最も重要な真実のひとつだと確信しています。
たとえば『葬送のフリーレン』で、フリーレンがヒンメルの死後に涙を流すシーン。あの短い場面の裏側には、「1000年以上生きるエルフにとって、10年の旅はどれくらいの重さか」「感情を理解できない存在が感情を理解する瞬間とは何か」という問いに対する作者の膨大な思考が詰まっています。
読者が泣くのは、作者が泣くほど考えたからです。
逆に、書き手が「まあこのくらいでいいか」と楽をした場所は、読者にも見抜かれます。不思議なくらい正確に。
「逃げた瞬間」に面白さは消える
元の記事で、「面白くない」の正体を「書き手が逃げた瞬間」だと書きました。これをもう少し具体的に言語化します。
逃げパターン1:都合のいい人物に解決させる
「犯人にしたてあげられた主人公の前に、都合のいい人物が現れて真犯人を指摘する」──元の記事で挙げたこの例は、典型的な「デウス・エクス・マキナ(機械仕掛けの神)」です。
主人公が自分の力で困難を突破しない物語に、読者は感動しません。なぜなら、それは主人公の物語ではなく、救助者の物語になってしまうから。
逃げパターン2:「なんとなく解決した」で流す
バトルの決着を「渾身の一撃で敵を倒した」とだけ書く。恋愛の告白シーンを「思い切って告白した」と一行で済ませる。クライマックスの場面で具体的な描写を省略する。
読者が最も読みたい場面で、書き手が一番手を抜いている──これは読者に対する裏切りです。
逃げパターン3:説明で解決する
「主人公は実は〇〇の血筋だったので、覚醒した」──設定の説明で展開を動かすパターンです。読者が見たいのは「覚醒の瞬間のドラマ」であって、血統書ではありません。
「面白くない」の自己診断チェックリスト
自分の原稿を読み返す時、以下の質問を1シーンずつ投げかけてみてください。
• このシーンで、主人公は自分の意志で行動しているか?(誰かに言われて動いているだけではないか?)
• このシーンで、主人公は何かを失う可能性があるか?(リスクゼロの行動は緊張感を生まない)
• このシーンの結末は、冒頭から予想できるものではないか?(予想通りの展開は「面白い」ではなく「予定通り」)
• このシーンで、自分は「書くのが大変だった」と感じたか?(楽に書けたシーンは、読者にとっても楽、つまり印象に残らない)
4つ目が重要です。元の記事の核心はここにあります。書き手が苦しんだ場所こそが、面白い場所になる。
「もっと面白いものが書けるはず」という自問
元の記事で「面白い小説を書きたいなら、自分にとことん自問自答すること」と書きました。
この自問自答は、実は才能の話ではありません。技術の話です。
「自分の過去最高の作品」を思い出してください。あの時、自分は何を考え、何を調べ、何に時間をかけたのか。その作品のどのシーンで一番苦しんだのか。
その「苦しんだプロセス」を、今書いている作品にも適用できているかどうか。できていないなら、「面白くない」原因はそこにあります。
気分転換やスランプ脱出とはレイヤーが違う話です。気分転換で「書く気力」は回復するかもしれませんが、「面白いものを書く力」は回復しません。面白さを取り戻すには、もう一度、その作品のために汗をかく覚悟を決めるしかない。
面白さの設計図を見直す
元の記事の中で「面白い小説に必要なのは、気分転換でぽっと出たワンアイデアではなく、根底にある設計図の見直し」だと書きました。
設計図とは何か。具体的に3つあります。
設計図1:主人公の「欲求」は明確か?
主人公が何を欲しているのかが曖昧な物語は、面白くなりようがありません。ルフィは海賊王になりたい。炭治郎は禰豆子を人間に戻したい。欲求が明確だから、それを阻む障害が「面白い壁」になる。
あなたの主人公は、何を欲しがっていますか。「平和に暮らしたい」では弱い。「昨日死んだ父親の遺した謎を解明したい」──このくらい具体的でないと、物語にエンジンがかかりません。
設計図2:「最悪の展開」を想定しているか?
面白い物語は、読者に「これ、もしかしてバッドエンドになるのでは?」と思わせる瞬間がある。作者が最悪の展開を本気で考えているからこそ、その回避がカタルシスになる。
最悪の展開を考えずに書く物語は、ご都合主義になります。なぜなら、主人公にとっての最大の危機が描けないから。
設計図3:読者に「隠している情報」があるか?
面白い物語には、必ず「読者がまだ知らない情報」が仕込まれています。推理小説の犯人、ファンタジーの世界の秘密、キャラクターの過去。
読者より先に全ての情報を開示してしまうと、「先を読みたい」というエンジンが消えます。何を隠し、いつ明かすか。この設計ができているかどうかで、面白さは決まります。
苦しみから逃げないこと
元の記事の最後にこう書きました。「苦しみから逃げないこと、それが面白い話を書く秘訣です」
きれいごとに聞こえるかもしれません。でも残念ながら、これ以上に正直な答えを私は持っていません。
「面白い」を生み出すプロセスは、基本的に苦しいものです。誰も思いつかなかった展開をひねり出す。伏線を矛盾なく回収する。キャラクターの感情を嘘なく描き切る。どれも「楽に書ける」作業ではありません。
ただし、苦しみの先にある「書けた」という瞬間は、他の何にも代えがたい快感です。山は険しいほうが、頂上からの景色は美しい。
面白い小説は、書き手が一番苦しんだ場所から生まれます。
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