時代性を持つ作品とは?|「今」だからこそ作れる物語の条件

2023年6月12日

私はいまでも、リコリス・リコイルの放送中に、元首相襲撃事件が起きたことを覚えています。

あの瞬間、作品世界のDA(犯罪を隠蔽する組織)と現実の政治が重なり、フィクションが異様なリアリティを獲得した。千束の「日常を守る」という選択も、真島の「欺瞞をぶち壊す」という思想も、突然、他人事ではなくなったのです。

これが「時代性」です。


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「時代性」とは何か

時代性とは「その時代の空気を反映していること」です。

ただし誤解しないでください。2026年を舞台にして2026年に書いた物語が自動的に時代性を持つわけではありません。SFでも時代劇でも、これから説明する要素を持っていれば時代性を持ちます。

では、時代性のある作品には何が必要なのか。ポイントは2つあります。口語表現バイオレンスです。


ポイント1:時代性をもつ「口語表現」

文学的な台詞が時代性を殺す

文学作品が好きで子供の頃から読んでいた作家がやりがちな失敗——台詞を硬く書きがちなところがあります。

「なぜならば」「であるからこそ」など普段の会話で使わない大袈裟な表現。騎士や侍のような話し方。「さもありなん」のような古語。意味の誤用が定着した言葉の本来の意味へのこだわり。

これらは異世界ファンタジーでは活きるので一概に悪いとは言いません。しかし、だからこそライトノベル発で時代性を持つ作品が少ないのだと感じています。

「いまここで話されている言葉」が源泉

時代性を持つために必要な語彙とは、いまここで話されている口語表現です。これは幅広い年齢層や背景を持つ人と話すことで磨かれます。そして口語表現を最も活かせるのは、現代を舞台にした作品です。

リコリス・リコイルの「ちょいちょいちょーい」

最も重要なポイントは、過去のスタンダードだった表現から「少し変える」ことです。

リコリス・リコイルの主人公・錦木千束の口癖「ちょいちょいちょーい」。このセリフが——

• 「ちょっち」(葛城ミサト風・1995年)だったら?

• 「ちょま」(2ちゃんねるVIP風・2000年)だったら?

——ここまで受けていなかったはずです。

リコリス・リコイルのストーリーの主軸は、徹底した二項対立と「尊い日常を生きる生活保守 vs 欺瞞に満ちた安寧をぶち壊して正義を通す」という昔ながらの対立構造です。ストーリーに目新しさはありません。

しかし口語表現がずば抜けてセンスよく、新しかった。ここから学べる法則は明快です。ストーリーは王道でいい。表現の新規性は、過去の表現と「ちょっとだけ」変えるところにある——これが時代性を持つための鉄則です。


ポイント2:時代性をもつ「バイオレンス」

バイオレンスの定義は時代によって変わる

これは超重要な認識です。

バイオレンスはもともと「暴力」=物理的な乱暴・強烈さを意味しました。しかし現在、ドメスティック・バイオレンスと言うとき、「身体的暴力」だけでなく「精神的暴力」「性的暴力」「経済的暴力」「社会的暴力」も含まれます。

パワハラ、セクハラといったハラスメントも広義のバイオレンスです。そして名前のついていないハラスメントも世の中にはたくさんあり、時代によって移ろいます。

例えば、恋人が道端で立ち小便している光景を想像してください。昭和の頃は当たり前でしたが、令和の今は絶対に不快です。軽犯罪である行為を「見逃すかどうか」は時代によって変わるのです。

時代性をもつ作品を書きたいのであれば、描こうとしているバイオレンスが多くの人に理解してもらえるものか? をチェックすることが不可欠です。


事例分析:バイオレンスの理解が時代とマッチした作品

リコリス・リコイル(2022年)

先述のとおり、放送中に元首相襲撃事件が発生しました。作中で日本の犯罪を隠蔽する組織DAと、統一教会との関係を隠していた自民党が重なる人もいたでしょう。

あの事件がなくてもリコリス・リコイルは大ヒットしたでしょう。しかし、あの事件を通じてDAの存在をよりリアルに感じ、その中で自由に生きようとする千束の生き方に共感できた。敵方である真島の思想にもリアリティが出た。思想的にも意味が生まれ、時代を代表する作品になったと感じます。

水星の魔女(2022-2023年)

水星の魔女で描かれたバイオレンスは、「母親からの洗脳で、無邪気な人殺しまでできる」というものです。

これは2022年に統一教会の問題が明るみに出なければ、多くの人が共感できなかったバイオレンス表現でしょう。しかし今の時代なら理解できる。母親の情も後半で描かれるようになりましたが、スレッタが受けた傷は——大きな傷なのです。バイオレンスの理解が時代とマッチした瞬間です。

まどか☆マギカ(2011年)

「ワルプルギスの夜」の厄災と3.11が被ったことで、厄災のリアリティが強烈な実体感をもって迫りました。鹿目まどかの「災害から悲しい人々を救う」という願いが時代性を持ち、大ヒットした。

この3作に共通するのは、バイオレンスの時代性は「狙える部分」と「偶然マッチする部分」があるということです。リコリコの二項対立構造は狙えた。元首相襲撃事件との重なりは偶然だった。偶然を待つのではなく、「今の社会で多くの人が理解できるバイオレンス」を狙って描くことが重要です。


2025-2026年の時代性——3つの新しい軸

軸1:AI共存のバイオレンス

2026年現在、最も大きな時代性のテーマは「AIとの共存」です。

AIが文章を書き、絵を描き、音楽を作る。その中で人間はどう生きるのか。これは現代のクリエイター全員が直面しているリアルな「精神的バイオレンス」——存在意義への脅威です。

『PLUTO』(浦沢直樹・2003-2009年)のロボットと人間の共存というテーマは、連載当時は「近未来SF」でした。しかし2023年のアニメ化時点では、AI時代を生きる私たちにとって「いまの話」になっていた。時代がテーマに追いついた瞬間です。

「AIに仕事を奪われるクリエイター」を描く物語は、2026年だからこそ強烈な時代性を持ちます。ただし、これをただの悲劇として描くのか、「AIにできないことを人間が見つける」物語にするのかで、作品のメッセージは大きく変わります。

軸2:ジェンダーの変化

「男は女を守るもの」と主人公が語る少年ジャンプ作品は、かつてたくさんありました。2026年、この価値観は正しくなくなってきています。

機動戦士ガンダム 水星の魔女が女性主人公・女性同士の関係性で成功したのは、ジェンダーの変化を的確に捉えたからです。さらに『薬屋のひとりごと』の猫猫(マオマオ)は、恋愛よりも知的好奇心を優先する女性主人公として爆発的な人気を得た。「守られる女性」ではなく「自分の知性で世界を切り拓く女性」——この変化は、2020年代のバイオレンス(=旧来的ジェンダー観の押し付け)に対する応答です。

GQuuuuuuX(ジークアクス)は、初代ガンダムの物語を「別の歴史」として再構築する中で、旧来のガンダム的価値観そのものを問い直す試みを見せています。半世紀続いた「常識」を裏切ることで新しい時代性を獲得する——これは高度で危険な賭けですが、時代性とはまさに「過去の当たり前が変わる瞬間」を捉えることなのです。

軸3:分断と対話

2020年代は「分断の時代」です。SNSのエコーチェンバー、政治的分極化、世代間の断絶——これらは現代特有のバイオレンスです。

『葬送のフリーレン』が世代を超えて支持される理由のひとつは、「わかり合えなかった者同士が、時間をかけて少しずつ理解していく」という構造にあります。フリーレンとヒンメルは結局生前に十分にわかり合えなかった。しかしフリーレンは死後にようやく「知ろうとすること」を始める。この「遅すぎる対話」が、分断の時代を生きる私たちの胸に刺さる。リコリコの千束と真島、水星のスレッタとミオリネ——対立する立場が向き合う構造は、まさにこの軸です。


時代性の弱点——時代を超えられない可能性

時代性を持つ作品には弱点もあります。

時代性を持つと、時代を超えられない可能性があるということです。「時代性をもつ作品」は一発芸人のネタと同じで、流行ったことが時代とリンクしてしまい、後から振り返ると懐かしさを感じてしまう。

さらにバイオレンスの定義は移ろいやすいものですから、当時はバイオレンスだったけど今はそうではない、あるいは当時は正しかったけど今は正しくない——という状況になるかもしれません。

では、時代を超えるにはどうすればいいのか

正直に言えば、時代を超えて読まれ続ける作品を意図的に作るのは極めて難しいです。

聖書のように——淡々と出来事を描写し、抑揚は最低限、わかりやすく説明的で、後の解釈に任せる——そんな書き方が一つの答えかもしれません。しかしこれは現代の小説市場では売れにくい。

書籍化してヒットすることを目指すのであれば、時代性のある作品を目指すのが近道です。口語表現とバイオレンスに着目して物語を作りましょう。


まとめ

要素内容
時代性の定義その時代の空気を反映していること
口語表現過去のスタンダードから「少し変える」
バイオレンス定義が時代によって変わる。共感されるか?
事例リコリコ・水星の魔女・まどマギ
2026年の軸AI共存、ジェンダー変化、分断と対話
弱点時代性を持つと時代を超えられない可能性

時代性には、狙って作れるものと偶然時代とマッチするものがあります。口語表現は狙えます。バイオレンスは狙いつつも、思いがけず時代が追いついてくることがある。

確実に言えるのは、「今」を意識しない作品に時代性は宿らないということです。あなたの物語に「今」を注ぎ込みましょう。

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