洋菓子の知識|チョコレート・マカロン・ケーキの歴史と創作への活かし方

2022年5月22日

洋菓子は物語の中で「ちょっとしたアクセント」として使われがちですが、その歴史を掘ると信じられないほど深い文化が出てきます。チョコレートはかつて通貨でしたし、砂糖は王侯貴族しか口にできない超高級品でした。パティスリーの技術は修道院で発展し、お茶会の作法は外交の道具でもあったのです。

この記事では、洋菓子の歴史・分類・文化的背景を整理し、創作に使える知識としてまとめます。

砂糖の世界史

洋菓子を語るなら、まず砂糖の歴史を押さえなくてはなりません。砂糖なくして洋菓子は存在しないからです。

時代砂糖の位置づけ
古代インドサトウキビの原産地。紀元前から砂糖の精製が行われる
7世紀イスラム帝国の拡大で地中海世界に伝播
11-13世紀十字軍がヨーロッパに砂糖を持ち帰る。「甘い塩」と呼ばれた
14-15世紀ヴェネツィアが砂糖貿易を独占。同重量の銀と同価値
16世紀カリブ海のプランテーション開始。奴隷貿易と直結
17世紀砂糖の価格が下がり、中流以上の家庭に普及
18世紀一般庶民にも普及。紅茶+砂糖の組み合わせがイギリスで定着
19世紀ナポレオンの大陸封鎖令でテンサイ糖が発展

中世ヨーロッパの砂糖は薬局(アポセカリー)で販売されていました。砂糖は薬であり、高価な贅沢品であり、贈り物として使われる特別な存在でした。ファンタジー世界で「甘いものの希少性」を描くなら、この砂糖の歴史が参考になります。

洋菓子の分類と起源

洋菓子は大きく以下のように分類されます。

分類代表的な菓子起源・特徴
焼き菓子(パティスリー)タルト、パイ、クッキー、マドレーヌ中世の修道院で発展。保存がきく
生菓子ケーキ、ムース、ババロア冷蔵技術以降に発展。17世紀以降
チョコレート菓子トリュフ、ボンボン、ガナッシュ16世紀にスペイン経由でヨーロッパへ
氷菓ジェラート、ソルベ、アイスクリームイタリア発祥。メディチ家の宮廷菓子
コンフィズリー(砂糖菓子)キャラメル、マシュマロ、ヌガー砂糖の加工品全般
ヴィエノワズリークロワッサン、ブリオッシュパンと菓子の中間。発酵生地を使用

各菓子の物語

チョコレートは元々メソアメリカの飲み物「ショコラトル」でした。アステカ帝国ではカカオ豆が通貨として使われ、奴隷1人の値段はカカオ豆100粒ほどだったと言われています。スペインのコンキスタドールがヨーロッパに持ち帰り、最初は苦い飲み物として宮廷で消費されていました。砂糖を加えて甘くしたのは17世紀のスペイン宮廷です。固形チョコレートが登場するのは1847年、イギリスのフライ社によるものです。

マカロンはイタリアの修道院で生まれました。「マカロン」の語源はイタリア語の「マカローネ」(練り物)です。フランスのナンシーにある修道院の修道女たちが、フランス革命で修道院を追われた際にマカロンを売って生計を立てたというエピソードがあります。現代のカラフルなマカロン(マカロン・パリジャン)はパリのラデュレが20世紀初頭に考案したもので、2枚のマカロン生地にガナッシュを挟む形式です。

ウェディングケーキの歴史も興味深いものがあります。古代ローマでは花嫁の頭の上でパンを割る風習がありました。これが中世の「ブライドケーキ」に発展し、17世紀のイギリスで多段式のフルーツケーキが標準になりました。白いアイシングが一般化したのは、精製した白い砂糖が裕福さの象徴だったからです。

ティータイム文化

洋菓子とティータイムは切り離せない関係にあります。

形式時間帯内容階級
モーニングティー10-11時軽い茶菓子とお茶全般
アフタヌーンティー15-17時三段トレイ(サンドイッチ+スコーン+ケーキ)上流・中流
ハイティー17-19時肉料理を含む「食事」としてのお茶労働者階級
クリームティー任意スコーン+クロテッドクリーム+ジャム+紅茶のみ全般

「アフタヌーンティー」は1840年代にベッドフォード公爵夫人アンナが始めたとされています。当時のイギリスでは昼食が軽く、夕食は20時頃だったため、午後の空腹を満たす習慣として広まりました。アフタヌーンティーの三段トレイは下段から食べるのが正式で、サンドイッチ(塩味)→スコーン→ケーキ(甘味)の順に味が濃くなります。

スコーンに先にクリームを塗るか、ジャムを塗るかで「デヴォン式」と「コーンウォール式」の論争があり、これは現在も続くイギリスの地域対立です。物語に使えるレベルの文化論争と言えます。

洋菓子と社会階級

洋菓子は社会階級を可視化するアイテムでもありました。

菓子階級との関係
マジパン(マルチパン)中世の王侯貴族の宴会で彫刻として使用
シュガープラム砂糖の高価さゆえに上流階級の贈答品
プディングイギリスの庶民の定番。クリスマスプディングは家族の象徴
クレープフランスの庶民の屋台菓子
ミルフイユフランス宮廷の高級菓子。ナポレオンの名で呼ばれることも

マジパン(アーモンドと砂糖の練り物)は中世の宴会で「サトルティ」と呼ばれる精巧な彫刻として食卓を飾りました。城、動物、紋章など、権力を誇示するための菓子造形がありました。

修道院と洋菓子

中世の洋菓子の発展に修道院が果たした役割は非常に大きいものがあります。

修道院発祥の菓子背景
マカロンイタリア→フランス修道女たちが肉を食べられない代わりにアーモンド菓子を開発
カヌレフランス(ボルドー)修道女がワインの澱引きで余った卵黄を活用
ベネディクティン(リキュール)フランス(ノルマンディー)ベネディクト会修道士が薬草酒として開発
シュトレンドイツクリスマスの降臨節に食べる修道院由来のパン菓子
パスティス・デ・ナタ(エッグタルト)ポルトガルジェロニモス修道院の修道女が開発

修道院が菓子作りに長けた理由は「修道規則」にあります。ベネディクト会の規則では肉食が制限されており、タンパク質の代替としてアーモンドや卵を使った菓子が発達しました。また、修道院はワイン・ビール醸造の拠点でもあり、醸造の副産物(余った卵黄・蜂蜜など)を菓子に転用する技術が蓄積されたのです。

洋菓子の道具と技法

パティシエの技術は中世から進化を続けてきました。

技法時代内容
パート・シュクレ(砂糖生地)中世タルトの基本。砂糖・バター・小麦粉・卵を合わせる
パート・フイユテ(折りパイ生地)17世紀バターを生地に折り込む。層の数が食感を決定
メレンゲ17世紀卵白と砂糖を泡立てる。スイス式・フランス式・イタリア式がある
テンパリング19世紀チョコレートの温度を管理して光沢と食感を制御
アシェット・デセール20世紀皿盛りデザート。レストランのコース料理の一部として発展

折りパイ生地の層の数は「三つ折り6回」で729層が基本とされ、クロワッサンは「三つ折り3回」の27層が標準です。層が多すぎると生地同士がくっつき、少なすぎるとサクサク感が出ません。菓子職人の技量はこの折り込み作業に表れます。

季節と洋菓子

西洋の暦には菓子と結びついた行事が数多くあります。

行事時期菓子由来
エピファニー(公現祭)1月6日ガレット・デ・ロワフェーヴ(陶器の人形)が入ったパイ。当たった人が王冠を被る
マルディグラ(謝肉祭)2月頃ベニエ、パンケーキ四旬節前の最後のご馳走
復活祭(イースター)3-4月イースターエッグ、シムネルケーキ卵型チョコレート。四旬節中に溜まった卵を消費
クリスマス12月25日ブッシュ・ド・ノエル、シュトレン、パネットーネ国ごとに異なるクリスマス菓子の伝統

ガレット・デ・ロワの中に入っている「フェーヴ」は、もともと乾燥したソラマメでした。現在は陶器製の小さな人形が使われ、コレクターズアイテムになっています。物語の中で「特定の季節にだけ食べる特別な菓子」を出すと、世界の生活感が一気に増します。

ポップカルチャーでの洋菓子

作品洋菓子の扱いポイント
『チャーリーとチョコレート工場』チョコレート工場菓子と階級・道徳の寓話
『マリー・アントワネット』ケーキ、マカロン「パンがなければケーキを」の虚構性
『千と千尋の神隠し』カオナシの大食い甘いものへの欲望=際限なき欲望の象徴
『ハリー・ポッター』百味ビーンズ、カエルチョコ魔法世界の洋菓子。イギリス菓子文化の反映
『パティスリーMON』パティスリー経営菓子職人の技術と情熱
『食戟のソーマ』各種スイーツ対決洋菓子の技術を競技として可視化
『夢色パティシエール』パティシエの成長フランス菓子文化の入門書的作品

「パンがなければケーキを食べればいいじゃない」という有名なセリフはマリー・アントワネットの発言ではありません。ジャン=ジャック・ルソーが『告白』で「ある大公妃」の言葉として紹介したもので、マリー・アントワネットは当時まだ子どもでした。しかしこのセリフが彼女と結びつけられたのは、王妃の贅沢な暮らしやヴェルサイユ宮殿の菓子文化への反感があったためです。

なお、ルソーの原文で使われている「ブリオッシュ」は庶民のパンではなく、バターと卵をふんだんに使った高級なパンです。つまり元の台詞の意味は「安いパンがないなら高いパンを食べればいい」という無知・無関心の表現であり、現代の「ケーキ」のイメージとはやや異なります。この種の「歴史上の誤解」は物語の中のキャラクター造形にも応用でき、意図的に誤解される人物を描くことで奥行きが生まれます。

ファンタジー作品で洋菓子を描く際に気をつけたいのは、冷蔵庫のない時代にはクリームやムースといった生菓子はほぼ存在しなかったということです。中世の宴会で出される菓子は焼き菓子・ドライフルーツ・蜂蜜菓子・マジパンが中心でした。生クリームを使ったケーキが一般化するのは19世紀以降、製氷機が普及してからのことです。

まとめ

なお、「パティシエ(pâtissier)」はフランス語で菓子職人を意味し、女性形は「パティシエール(pâtissière)」です。中世では菓子職人はギルド(同業者組合)に属し、パン職人(ブーランジェ)とは別のギルドでした。この区分は現代でもフランスの菓子店(パティスリー)とパン屋(ブーランジュリー)の分離に反映されています。

洋菓子は単なる「甘いもの」ではなく、砂糖の世界史、修道院文化、社会階級の可視化、外交ツールとしてのティータイムなど、膨大な文化的背景を持っています。ファンタジー世界で「甘いもの」を登場させるとき、その希少性や社会的意味も含めて描くと物語の奥行きが増します。チョコレートが通貨だった時代、マジパンが権力の象徴だった時代を知っていれば、「お菓子を食べる場面」ひとつにも社会構造を織り込めるのです。


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