「常識がないキャラ」を一人置くと物語が動き出す|バカキャラ配置の技術
小説を書いていて、物語が行き詰まった経験はありませんか。
キャラクター全員が賢くて、倫理的で、リスク管理ができて、損得を考えて動く。一見うまく設計できたように見えますが、そんな物語は簡単に停滞します。
なぜなら、全員が「正しい判断」をし続けると、予想外の展開が生まれないからです。
「常識がないやつ、行動力だけバケモノみたいなやつ、頭の悪いやつを一人置いておくと便利」——これはX(Twitter)で大きな反響を集めた創作論ですが、単なる便利テクニックではなく、物語の停滞を構造的に打破する設計思想です。
この記事では、非常識キャラの配置がなぜ有効なのか、そして読者のヘイトを溜めずに運用する方法を、『僕のヒーローアカデミア』を中心に解説します。
なぜ「全員賢い物語」は行き詰まるのか
ロジカルキャラの罠
登場人物が全員、頭が良く、倫理的で、リスクを計算して動く。作者としては「リアルな判断をするキャラ」を書いているつもりでも、物語としては以下の問題が発生します。
問題1:展開が予測可能になる
全員がロジカルに動くと、最適解を選び続けるため、読者も展開を予測できてしまう。「そうなるよね」の連続は退屈です。
問題2:対立が生まれない
賢い人間同士は無用な衝突を避けます。主人公とソリの合わないライバルが、永遠に接触しないのが合理的——でも、それでは物語が動きません。
問題3:場面転換のきっかけがない
プロットに仕込んだ「ここで2人を絡ませたい」「ここでトラブルを起こしたい」が、キャラの合理的な行動と矛盾する。作者都合で無理に動かすと、読者に「そのキャラ、そんなことしないだろ」と突っ込まれます。
解決策は単純です。「合理的な判断」の枠を超えて行動するキャラを、物語に1人配置するのです。
非常識キャラの3つのタイプ
非常識キャラは大きく3タイプに分かれます。
| タイプ | 特徴 | 物語上の機能 |
|---|---|---|
| 常識がない | 一般的な価値観やルールを知らない/気にしない | 他のキャラが「ありえない」と思う行動をとり、展開を動かす |
| 行動力だけバケモノ | 能力は高いが後先を考えない | 力ずくで状況を破壊し、場面転換の起点になる |
| 頭が悪い | 知力は低いが、直感と勢いで正解に辿り着くことがある | 論理では導けない解決策を偶然見つけ、「転」の役割を担う |
重要なのは、これらは「使い捨ての道具」ではなく、物語の呼吸を整える構造的な役割を持つキャラクターだということです。
『僕のヒーローアカデミア』:非常識キャラの宝庫
非常識キャラの最良の教科書は、『僕のヒーローアカデミア』(以下ヒロアカ)です。この作品は、非常識キャラの宝庫でありながら、読者のヘイトを驚くほど上手にコントロールしています。
緑谷出久(デク):常識がないタイプ
内気で怖がりのナード。しかし、困っている人を見ると足が勝手に前に出てしまう。敵がどんなに強くても、合理的な判断を超えて体が動く。内気で怖がりのナードが、困っている人を見ると足が勝手に前に出てしまうという狂った少年です。敵がどんなに強くても、足が前に出るんですね。普通怖がるのに、非常識です。
これは「常識がない」の最も美しい形です。常識で考えれば逃げるべき場面で、常識を超えた行動をとる。その非常識さこそが、デクを「ヒーロー」たらしめています。
爆豪勝己:行動力だけバケモノのタイプ
みんなを助けるヒーローを目指す子どもたちがあつまるヒーローアカデミアで、口癖が「殺すぞ」です。ヒーローとして非常識です。緑谷出久にはひときわ強い殺意を発します。
しかし爆豪の非常識さが物語を何度も動かします。デクとの衝突、敵との対峙、そして最終的にデクを認めるに至る成長。彼がいなければ、物語の多くの場面転換は成立しませんでした。
オールマイト:行動力バケモノの別形態
圧倒的な力を持つ世界一のヒーロー。どんなに追い詰められても、力ずくで勝つ。その上、古傷による時間制限というハンデを抱えている。
オールマイトが「ショック吸収」の能力を持つ敵(脳無)に対して出した答えは、「吸収しきれないほど殴る」という完全なるバカ回答でした。ロジカルに考えたら絶対に出てこない答えを、この「行動力バケモノ」が出す。それが読者を熱狂させたのです。
切島鋭児郎:頭が悪いタイプ
体を固くするという地味な能力を持つ脳筋キャラ。しかし脳筋だからこそ、無理を承知で敵に立ち向かう。爆豪を含め、誰とでも壁を作らず接する。
注目すべきは、切島の過去に「内気で、いじめ現場を止められなかった」という繊細な一面が設定されていること。この過去があるからこそ、「頭の悪い行動」に説得力と感動が生まれます。
非常識キャラのヘイト管理:3つの処方箋
非常識キャラは便利ですが、下手に扱うと読者のヘイトを溜めます。「物語をぐちゃぐちゃにする邪魔者」に見えてしまうリスクがあるのです。
ヒロアカから学んだヘイト管理の3つの処方箋を整理します。
処方箋1:常識がないキャラには「反論するキャラ」をぶつける
デクの非常識な行動に対して、爆豪が「バカか」と突っ込む。爆豪の暴言に対して、デクが「それは違うだろ」と立ち向かう。
非常識な行動を放置しない。必ず誰かが「それはおかしいだろう」と声を上げることで、読者のモヤモヤを代弁します。これにより、「作品世界の中でもこれは異常ということは認識されている」と読者が安心できるのです。
処方箋2:行動力バケモノには「制約」をつける
オールマイトには時間制限。ギガントマキアには主の命令がないと動けないという制約。ダンダダンのオカルンにも、力を使うたびに人間としての何かを失うリスクがあります。
無制限の力は不快になる。「強いけど、限界がある」という制約が、バケモノを応援できる存在に変えます。
処方箋3:頭が悪いキャラには「意外な繊細さ」を加える
切島鋭児郎の過去が示すように、脳筋キャラにも「じつは繊細な内面」を設定しておく。
「バカだけど、それでも前に出る理由」が描かれれば、読者はバカな行動を許容するだけでなく、応援するようになります。
ダンダダンのオカルン:2025年の非常識キャラ設計
ダンダダンのオカルンは、非常識キャラの新しい形を示しています。
オカルンは普段は大人しい少年ですが、大切な人が危機に瀕したとき、常識を完全に無視した行動に出ます。自分の体が壊れることも厭わない。
注目すべきは、オカルンの非常識さが「愛する人を守る」という動機と結びついている点です。ヒロアカのデクと同様、非常識な行動の根底に「誰かのため」があると、読者は非常識を「勇気」として受け取ります。
実践:非常識キャラ配置チェックリスト
あなたの物語に非常識キャラを配置するとき、以下を確認してください。
配置前の設計
• [ ] 物語のどのシーンで非常識な行動が必要か特定したか
• [ ] 非常識な行動の「動機」は読者に共感できるものか
• [ ] 非常識キャラに反論する「常識側のキャラ」がいるか
キャラ設計
• [ ] 非常識さに「制約」か「弱点」があるか
• [ ] 表面的な非常識さの裏に、繊細さや理由があるか
• [ ] 非常識な行動を通じて、物語が前に進むか(ただ混乱させるだけではないか)
ヘイト管理
• [ ] 非常識な行動が作品世界の中で「異常」として認識されているか
• [ ] 読者が「この非常識さは面白い」と感じるラインを超えていないか
• [ ] 最終的に非常識な行動が物語に「良い結果」をもたらしているか
結論:少なくとも主人公は非常識であるべき
非常識キャラの配置論を書いてきましたが、最も効果的なのは主人公自身を非常識なキャラにすることです。
デクの「困っている人を見ると足が勝手に出る」。爆豪の「常識を無視して最強を目指す」。オカルンの「大切な人のために体が壊れても構わない」。
主人公が非常識であれば、物語は自然に動き出します。非常識な主人公が常識的な世界に風穴を開ける——この構造こそが、多くの名作に共通するエンジンです。
「無理を通して道理を蹴っ飛ばす」。この精神を持つキャラクターを1人配置することで、あなたの物語は行き詰まりから解放されるはずです。
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