師匠を2人以上持て|1人だけの先生は「毒」になりうる

2023年2月14日

少年ジャンプ漫画賞の公式Xで、こんな相談がありました。

「藤本タツキ先生の作品が好きで、自分の作品が藤本先生の作風に似てきてしまう」

この悩みに対するジャンプ漫画賞の回答が鮮烈でした。

「『師匠を2人以上持て』という言葉があります。お手本が一人だから真似と感じてしまうのでしょうが、二人以上ならオリジナルになっていきます」──。

ブログにすればたった2行です。でもこの2行は、創作における学びの本質を突いています。


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なぜ師匠が1人だと危険なのか

好きな作家がいる。その人の文章を読むと「こういう小説が書きたい」と思う。自然とその人の文体を真似する。気づけば、書くものすべてがその作家そっくりになっている──。

ここまでは誰にでも起こりうることです。問題は、この状態が長く続いたときに何が起こるかです。

1つ目の危険:判断基準がひとつしかなくなる

師匠が1人だと、「この展開は正しいか」「この表現は適切か」の判断基準が、その師匠の作品だけになります。師匠が地の文を省略する作風なら「地の文は少ないほうがいい」と思い込む。師匠がモノローグを多用するなら「内面描写は多いほうが深い」と信じる。

でもそれは「正解」ではなく「その師匠の選択」にすぎません。判断基準がひとつだと、自分の選択肢を狭めていることに気づけなくなります。

2つ目の危険:師匠を「絶対」にしてしまう

人間は権威に弱い生き物です。1人の師匠だけに学んでいると、無意識に「あの人が言うことは全部正しい」と思い始めます。その師匠が「プロットは必ず三幕構成で」と言えば三幕構成以外を否定し始め、「ラノベは一人称で書くべき」と言えば三人称を選ぶ自分を疑い始める。

別の視点を持つ師匠がもう1人いれば、「あの人はこう言うけど、この人は別のことを言う。じゃあ自分はどうするか」と考えるようになります。この「自分はどうするか」こそが、スタンスラインの始まりです。

3つ目の危険:劣化コピーで終わる

1人の師匠だけを徹底的に真似すると、できるのは師匠の劣化コピーです。師匠本人を超えることは原理的にありえない。読者は「〇〇先生のようなもの」は求めていません。〇〇先生の作品を読めばいいからです。


スタンスラインとは何か

人は誰しもバランスを取って生きています。陰と陽、光と影、静と動──2つの価値観の狭間で、自分自身の立ち位置を探している。

創作においても同じです。

たとえば「テンポ重視 vs 描写重視」という軸があります。西尾維新のように高速で言葉を畳みかけるスタイルもあれば、村上春樹のように一つの風景を丁寧に描くスタイルもある。どちらが正しいかではなく、あなたはどこに立つか。

「エンタメ重視 vs 文学重視」「キャラ重視 vs プロット重視」「読者サービス重視 vs 自己表現重視」──こうした軸の上で、自分の立ち位置を決めること。それがスタンスラインの確立です。

そしてスタンスラインは、複数の師匠の間に立つことでしか確立できません。

師匠Aは「キャラが動けば物語は転がる」と言う。師匠Bは「構成がすべて。キャラは構成に奉仕する」と言う。2人の意見は矛盾しています。でもその矛盾の間のどこかに、あなただけの正解がある。


師匠に直接教わる必要はない

「師匠を持て」と言うと、弟子入りしなければならないように聞こえるかもしれません。でもDKさんはXでこう提案しています。

「3作品から魅力的だと思う要素を抽出してきて言語化し、組み合わせていくこと」

つまり、師匠とは人ではなく作品でもいい。直接コミュニケーションを取る必要はありません。

具体的な方法を言語化すると、こうなります。

ステップ1:好きな作品を3つ選ぶ

できれば方向性が違う3つ。たとえば──

• 師匠A:藤本タツキ(チェンソーマン)── 予測不能な展開、ジャンルの破壊

• 師匠B:尾田栄一郎(ONE PIECE)── 伏線回収の快感、感情の爆発

• 師匠C:冨樫義博(HUNTER×HUNTER)── 設定の緻密さ、頭脳戦

ステップ2:各作品から「魅力的な要素」を言語化する

• 藤本タツキから学ぶもの:「読者の予想を裏切る」技術

• 尾田栄一郎から学ぶもの:「感情のピークを設計する」技術

• 冨樫義博から学ぶもの:「ルールの上で戦わせる」技術

ステップ3:3つを自分の中で配合する

「予想を裏切る展開で、感情のピークに持っていき、そこに至るまでのルールを緻密に設計する」──これが、あなたのスタンスラインの原型になります。

もちろん最初から完成形になるわけではありません。書きながら試行錯誤して、「やっぱり自分は感情のピークよりルール設計のほうが好き」と気づいたり、「予想を裏切ることに固執しすぎて展開が散らかる」と反省したりしながら、比率が変わっていく。

その変化の過程こそが、「オリジナリティの獲得」です。


師匠を選ぶときに気をつけること

師匠を選ぶなら、ひとつだけ注意点があります。

「別の師匠を全否定する師匠」は避けてください。

これは直接教わる場合に限った話です。師匠Aが「師匠Bの方法は全部間違い、自分のやり方だけが正しい」と主張するなら、その人のもとにいると視野が狭まる一方です。

元の記事で書いた通り、「別支店を全否定するような師匠は良くない」。これは企業でも創作でも同じです。自分の方法に自信を持つことと、他のすべてを否定することは違います。

良い師匠は、他の方法の存在を認めた上で「自分はこうする」と言える人です。


「師匠が10年前から創作をやめている」問題

もうひとつ、2026年の今だからこそ言及しておきたいことがあります。

お手本にしている作家が、もう10年以上新作を出していない場合。その作家の作風や感覚は、2016年の時代に最適化されている可能性があります。

表現規制の変化、人権意識の変化、読者のリテラシーの変化。2016年に許容されていた描写が2026年には問題視されることは珍しくありません。

師匠の作品から「普遍的な技術」を学ぶのは正しい。でも「時代感覚」まで真似ると、古い感覚で書くことになります。時代感覚のアップデートは、現役で活動している師匠から学ぶのが最も安全です。

だからこそ、師匠は2人以上──できれば「古典の師匠」と「現在進行形の師匠」の組み合わせ──を持つことを強く勧めます。


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