「トラブルメーカー」は現代の物語に不要か?|ストレス耐性と抑圧設計の両立

2023年1月28日

「ライバルが作戦を邪魔したり、頭の悪い奴が足を引っ張る展開がストレスで苦手」

この声は、特にWeb小説の読者コミュニティで年々大きくなっています。ストレスフリーな展開が好まれ、味方の足を引っ張るキャラは嫌われる。もはや「トラブルメーカー」は現代の物語に不要なのでしょうか。

結論から言えば、不要ではありません。しかし、扱い方を間違えると致命傷になります

この記事では、カタルシスの理論からトラブルメーカーの「功」を、読者のストレス耐性の変化から「罪」を分析します。そして、『ぼっちざろっく』の後藤ひとりが証明した「トラブルメーカーを主人公にする」という新しい解法を解説します。

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庵野秀明が語った「足を引っ張る展開」の功罪

シン・ゴジラの設計思想

庵野秀明監督は、映画『シン・ゴジラ』の製作にあたり、以下のような趣旨のことを語っています。

> 「敵や味方が足を引っ張りストレス源となる展開」はシナリオの定石であり、人間関係に主軸を置く物語ならば必要。しかしシン・ゴジラは、ゴジラに立ち向かう人々——仕事をこなし、立場を超えて淡々と目的を遂行する、ある意味理想の状況を描く作品。だから足を引っ張るキャラを排除してストレスをなくし、全員が一つの目的に向かう気持ちの良い物語にしたかった。

庵野監督は、トラブルメーカーの存在を「定石」と認めた上で、意図的に排除しました。つまり、トラブルメーカーは「使い所」の問題なのです。

「好き嫌い」ではなく「設計」の問題

「トラブルメーカーが好きか嫌いか」は個人の嗜好です。しかし、作者にとって重要なのは、「好き嫌いを超えて、物語にどう機能させるか」という設計の問題です。

トラブルメーカーが嫌われるのは、そのキャラが「機能」していないから。逆に言えば、正しく機能させれば、読者はトラブルメーカーを愛します。

カタルシスの理論:なぜ「抑圧」が必要なのか

カタルシス=抑圧からの解放

物語におけるカタルシスとは、「抑圧からの解放」です。

読者に爽快感や感動を与えるためには、まず「抑圧」を設計する必要があります。抑圧がなければ解放もない。山がなければ谷もない。

抑圧の設計には、大きく2つの方法があります。

方法説明
敵を上げる敵を強く・賢く・恐ろしく描くラスボスの圧倒的な力を見せる
味方を下げる味方をピンチに追い込む味方のミス、裏切り、足の引っ張り合い

トラブルメーカーは、2番目の「味方を下げる」装置として機能します。

「下げ方」の失敗パターン

トラブルメーカーが嫌われる原因は、「下げ方」が読者の許容範囲を超えているケースがほとんどです。

失敗パターン1:味方がドジすぎてストレスが溜まる
ドジの頻度や深刻度が高すぎると、読者は「このキャラいらない」と感じる。「味方を下げる」が「読者を下げる」になってしまうのです。

失敗パターン2:敵の頭が悪く見えて、敵が上がりきらない
頭脳戦で敵を上げようとしているのに、敵の判断が甘くて「この敵、バカでは?」と読者に思われる。抑圧が成立しない。

失敗パターン3:下げたあとの「上げ」が不十分
味方を下げたものの、その後の逆転・解放が弱いと、「下げられた不快感」だけが残る。

現代読者のストレス耐性の変化

浅井ラボ氏(『されど罪人は竜と踊る』著者)が指摘するように、現代の読者は作中キャラの知的能力の水準に対する目が厳しくなっています。うっかりミスやど忘れで危機に陥る展開は、以前なら許容されましたが、今ではヘイトの対象になりやすい。

Web小説では特にこの傾向が顕著です。一瞬で読者が離脱できるメディアだからこそ、「不快→解放」のサイクルが見えないまま不快だけが続くと、即座にブラウザが閉じられるのです。

ぼっちざろっくの革命:トラブルメーカーを主人公にする

後藤ひとり:究極のトラブルメーカー

では、トラブルメーカーは本当に現代に不要なのか?

その問いに対して、2022年最大のヒットアニメ『ぼっちざろっく』が明確な答えを出しました。不要ではない。ただし、主人公にすると最も効果的に機能する。

後藤ひとり(ぼっちちゃん)のキャラクターを整理します。

• 文化祭のステージに立つ決断ができない

• 人の目を見て話そうとすると震える

• 挙動不審になる

• スライムのように動けなくなる

• 気絶する

• 突飛な行動でカタルシスをぶち壊す

客観的に見れば、究極のトラブルメーカーです。チームの足を引っ張り、周囲に迷惑をかけ、視聴者にストレスを与えるキャラクター。

にもかかわらず、『ぼっちざろっく』は大ヒットしました。後藤ひとりは愛されました。なぜでしょうか。

「主人公だから許される」のメカニズム

後藤ひとりが許された理由を5つ整理します。

理由1:作中で誰よりも実力がある
ぼっちちゃんはギターの腕前だけは圧倒的。コミュ障という弱点の裏に、誰にも負けない強みがある。この「一点特化の才能」が、トラブルメーカーとしてのマイナスを帳消しにします。

理由2:周囲が許してくれる世界がある
喜多郁代が心配し、伊地知虹夏が世話を焼き、山田リョウが面白がる。ぼっちちゃんの「手間のかかる性格」を、仲間が受け止める構造になっている。

理由3:家族に大事にされている
ぼっちちゃんには、彼女を心配し応援する家族がいます。「この子は愛されている」という安心感が、読者のストレスを軽減します。

理由4:作中で成長する
友達が1人もいなかった子が、友達を作り、バイトをし、ステージで演奏できるまでになる。成長のアークが明確だからこそ、「今は大変だけど、きっと良くなる」と読者が信じられます。

理由5:「主人公」だから内面が見える
これが最も重要です。トラブルメーカーが脇役にいた場合、読者は外から行動だけを見て苛立つ。しかし主人公ならば、内面の葛藤、不安、自己嫌悪が直接伝わる。「この子も苦しんでいる」とわかれば、同じ行動でも受け取り方が変わるのです。

脇役のトラブルメーカーではダメな理由

後藤ひとりがもし脇役だったらどうなっていたか。

おそらく、「ぼっちちゃんのせいでライブが台無しになった」「あのキャラいらない」という声が殺到したでしょう。内面が見えない脇役のトラブルメーカーは、「迷惑をかける機能」だけが目立ってしまうのです。

つまり、トラブルメーカーを物語で機能させたいなら、主人公か、主人公に近い視点のキャラに据えるのが最も安全な設計です。

2025年の「ストレスフリー vs あえてストレスを入れる」

ストレスフリー系の隆盛

Web小説を中心に、ストレスフリー系の作品は引き続き人気です。主人公が最初から強く、味方は有能で、敵は適度に弱い。不快な展開を徹底的に排除した快適な読書体験。

この方向性は、シン・ゴジラの庵野監督の設計思想と本質的に同じです。「全員が目的に向かって協力する気持ちの良い物語」を求める読者は確実に存在し、その需要は大きい。

「あえてストレスを入れる」系の再評価

一方で、2025年には「あえて不快さを入れる作品」への再評価も進んでいます。

推しの子の重曹ちゃんの裏表、ダンダダンの初期のホラー描写、フリーレンの過去の後悔。これらは読者にストレスを与える要素ですが、物語の深みに直結している

「ストレスフリーは快適だけど、記憶に残らない」——この感覚を持つ読者が増えています。つまり、トラブルメーカーのような「ストレス要素」を適切に管理すれば、作品の記憶定着率を高める武器になるのです。

実践:トラブルメーカーの功罪チェックリスト

あなたの物語にトラブルメーカーを配置するか判断するためのチェックリストです。

「不要」と判断してよいケース

• [ ] 物語のテーマが「チームで目標を達成する爽快感」の場合

• [ ] 読者ターゲットがストレスフリーを明確に求めている場合

• [ ] 作者自身がトラブルメーカーを書くのが苦手な場合

「必要」と判断すべきケース

• [ ] カタルシス(抑圧からの解放)を物語のクライマックスにしたい場合

• [ ] キャラクターの成長を丁寧に描きたい場合

• [ ] 読者の感情を大きく揺さぶりたい場合

配置する場合のルール

ルール理由
主人公か、主人公に近い存在にする内面が見えれば許容される
弱点の裏に「突出した強み」を置くマイナスを帳消しにする
仲間が受け止める構造を用意する孤立させると読者も孤立する
成長のアークを明示する「今は大変だけど良くなる」の希望
「下げ」の後に必ず「上げ」を設計する不快感の放置は厳禁

まとめ:トラブルメーカーは「設計」の問題

「トラブルメーカーは現代の物語に不要か?」への答えは、「不要ではないが、設計を間違えると致命的」です。

トラブルメーカーの「功」

• カタルシス(抑圧からの解放)の起点になる

• キャラの成長を描く装置になる

• 「ストレスフリーでは得られない感動」を生む

トラブルメーカーの「罪」

• 現代読者のストレス耐性は下がっている

• Web小説では一瞬で読者が離脱する

• 脇役のトラブルメーカーはヘイトを溜めやすい

ぼっちざろっくの解法

• トラブルメーカーを「主人公」にすることで、内面の葛藤が伝わり許容される

• 突出した才能+仲間の支え+成長のアークで、ストレスを感動に変換する

誰もが優秀な人材になれるわけではない。現実がストレスフルな時代だからこそ、後藤ひとりのようなキャラクターに自分を重ねる人がいます。トラブルメーカーを排除するか、武器にするか。それは「好み」ではなく「設計」の問題なのです。


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