三幕構成で「感情移入される物語」を書く方法

2020年4月29日

物語の構成パターンとして「三幕構成」を知っている方は多いと思います。でも、三幕構成を感情設計の道具として使いこなしている人は、意外と少ないのではないでしょうか。

この記事では、三幕構成を「読者に感情移入させるための設計図」として読み替えます。第1幕で好感度を稼ぎ、第2幕で絶望させ、第3幕で感動を生む——その手順を具体的に解説します。

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感情移入の公式:好感度 × 共感度

読者が物語に感情移入するためには、主人公に対する好感度共感度の両方が必要です。

好感度とは「この人、いいな」と思える要素。能力の高さ、優しさ、ユーモア——主人公がまず「応援したい人物」であることが前提です。

共感度とは「この人の気持ち、わかる」と思える要素。弱さ、悩み、過ちへの後悔——完璧でない人間臭さが、読者を「自分ごと」に引き込みます。

好感度だけでは「すごいけど遠い人」になり、共感度だけでは「わかるけど応援できない人」になります。両方のバランスが感情移入の鍵です。

好感度チェックリスト

• [ ] 主人公が「いいやつ」とわかるシーンがあるか?(誰かを助ける、弱者に優しい)

• [ ] 能力や魅力が読者に伝わっているか?

• [ ] ユーモアのセンスがあるか? (軽い冗談でもOK)

• [ ] 読者に「この人を応援したい」と思わせているか?

共感度チェックリスト

• [ ] 主人公にも弱さ・欠点があるか?

• [ ] 読者が「わかる」と思える悩みや状況を抱えているか?

• [ ] 過ちを犯す、あるいは後悔するシーンがあるか?

• [ ] 完璧超人ではなく「自分に近い人間」だと感じさせているか?

第1幕(全体の25%):好感度と共感度を稼ぐ

三幕構成の第1幕は、「セットアップ」と呼ばれます。ここでの仕事は明確です。

“読者をこの主人公のファンにする"

具体的には、以下を第1幕のうちに描ききります。

1. 主人公は誰なのか(性格、立場、日常)
2. 何を望んでいるのか(目標や欲求)
3. なぜ応援したくなるのか(好感度+共感度)

たとえば『ひげを剃る。そして女子高生を拾う。』の第1話。後藤さんに振られて自暴自棄になっている吉田の姿は、読者の「共感度」を一瞬で稼ぎます。そして電灯の下にうずくまっていた少女を放っておけない姿には「好感度」がある。第1話だけで、読者は吉田を応援したくなります。

第1幕のNG

• 設定説明だけで終わる(感情が動かない)

• 主人公の魅力が伝わらないまま次に進む

• 「何が問題なのか」が不明確

第2幕(全体の50%):絶望的な問題発生

第2幕は「コンフロンテーション(対立)」。ここでの仕事は——

“読者を不安と希望の間で揺さぶり続ける"

第2幕で起きることは以下の3つです。

① 障害がエスカレートする

主人公の前に立ちはだかる問題は、解決するたびに次の、もっと大きな問題に変わります。RPGの雑魚敵→中ボス→裏切り→新たな敵のように、障害のレベルを段階的に上げていきます。

② もとの状態に戻れなくなる

第2幕の本質は、「もう引き返せない」ポイントを通過することです。主人公が自分の行動の結果として、あるいは周囲の環境の変化によって、第1幕の日常に戻れなくなる。この「不可逆性」が物語に重みを与えます。

③ 感情をむき出しにする

主人公が苦しみ、葛藤する様を感情むき出しで描くことが、第2幕の感情設計の核です。ここで主人公が冷静すぎると読者は感情移入できません。弱さを見せていい。泣いていい。怒っていい。その生の感情が、読者の胸に刺さります。

第2幕の中だるみを防ぐ3つの工夫

第2幕は全体の50%を占めるため、中だるみが最大の敵です。

1. ミッドポイント(折り返し地点)を設ける ――第2幕のちょうど真ん中で「状況が一変するイベント」を起こす。物語の方向が変わることで、後半に新鮮さが生まれます
2. サブプロット(B ストーリー)を走らせる ――メインの問題とは別のドラマ(恋愛、友情、過去の因縁など)を並行して描く
3. 小さな勝利と敗北を交互に ――負けっぱなしだと読者は疲れます。小さな成功を挟むことで「次こそは」の期待を維持する

第3幕(全体の25%):問題を乗り越える

第3幕は「レゾリューション(解決)」。ここでの仕事は——

“読者に感動を届けること"

第2幕で絶望の底まで落ちた主人公が、問題を乗り越える。この「落差」がそのまま感動の大きさになります。落差=カタルシス。だから第2幕で十分に落とすことが重要なのです。

問題を乗り越える3つのパターン

読者が感動する「乗り越え方」には、3つのパターンがあります。

① 情熱・熱意で突破する
→ 諦めず続けたことで、ライバルに打ち勝つ。スポーツものの王道です。
(例:『スラムダンク』山王戦の桜木花道)

② 人間関係で突破する
→ 仲間に助けてもらう、かつての敵が味方になる。人と人のドラマが生む感動。
(例:『鬼滅の刃』無限列車編、煉獄杏寿郎の遺志を継ぐ仲間たち)

③ 知恵で突破する
→ 今まで思いつかなかった発想、能力の組み合わせで解決する。「そうきたか!」の快感。
(例:『DEATH NOTE』の頭脳戦)

重要ルール:主人公のポリシーを曲げない

第3幕で最も大切なルールがあります。

「主人公は自分のポリシーを曲げずに問題を解決する」

ご都合主義の奇跡が起こるのではなく、主人公が物語を通して貫いてきた信念や行動原則の延長線上に解決がある。これが読者に「納得感」を与え、感動を生むのです。

逆に、主人公がいきなり別人のように行動したり、説明のない超能力が目覚めたりすると、読者は「それはズルい」と感じてしまいます。

三幕構成の感情ボルテージ図

三幕構成を感情の「ボルテージ(電圧)」として可視化すると、以下のようなカーブになります。

第1幕で好感度を上げ、第2幕で一気に落とし、第3幕で最高点まで跳ね上げる。このV字カーブが、三幕構成における感情設計の基本形です。

三幕構成と起承転結の関係

ここまで読んで「あれ、起承転結と似ている」と思った方は鋭いです。実は三幕構成は起承転結とリンクしています。

三幕構成起承転結
第1幕
第2幕前半
第2幕後半
第3幕

違いは「解像度」です。三幕構成はターニングポイントやミッドポイントが明確に定義されているため、「次に何を書けばいいか」がわかりやすい。起承転結は自由度が高い反面、手がかりが少ない。

どちらが優れているという話ではなく、三幕構成は起承転結を「感情設計の言語で翻訳し直したもの」と考えるとわかりやすいでしょう。

まとめ:三幕構成は「感情移入の設計図」

三幕構成を感情設計の道具として使うポイントをまとめます。

1. 第1幕 → 好感度 × 共感度で「応援したい主人公」を作る
2. 第2幕 → 障害をエスカレートさせ、感情をむき出しにして「絶望の底」まで落とす
3. 第3幕 → ポリシーを曲げずに問題を解決し、「感動の頂点」に連れていく

構成のテンプレートとして三幕構成を知っている人は多いですが、それを感情移入のための設計図として使いこなせると、物語の説得力が段違いに変わります。

さらに深く学ぶなら

• 三幕構成を15分割したテンプレート → 『SAVE THE CATの法則』完全ガイド

• 感情曲線のパターンを網羅的に知りたい → 感情曲線6パターン×物語の類型12パターン

• 3大構成パターンを比較する → 物語の「型」入門

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