自分の才能との向き合い方|恵まれた境遇も含めて自分の才能だ

2020年11月15日

漫画「アルテ」を読んだことがありますか。

16世紀のフィレンツェで、貴族の女性が画家を目指す物語です。この漫画の第1部完結で描かれた一つの問いが、私の心にずっと刺さっています。

アルテは最初、「女であること。貴族であること」が理由で仕事をさせてもらえなかった。門前払いです。女に画家は無理だ、貴族のお遊びだろう、と。

やがて彼女は実力で結果を残し始めます。すると今度は──「貴族出身で女性だから仕事がもらえているだけだ」と嫌味を言われる。

最初は「そのせいで」と言われ、次は「そのおかげで」と言われる。どちらにせよ、彼女自身の実力は正当に評価されない。

この状況でアルテがたどり着いた結論に、私は何度助けられたか分かりません。


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「レッテル」も含めて自分の才能である

アルテが気づいたのは、「貴族出身かつ女性で、普通とは違うこと自体に自分の価値がある」ということでした。

マイナスと思われていた属性を、捨てるべき荷物ではなく、自分だけの武器として受け入れた。

これは創作にも直結する話です。

「文章は書けるけど絵が描けない」──それは欠点ではなく、テキストに全振りできるという個性です。「遅筆で月に5,000字しか書けない」──それは、1行ずつ推敲する精密さを持っているということです。「社会人経験が長くて、創作を始めたのが遅い」──それは、他の書き手にはない現実世界のリアリティを描ける強みです。

大事なのは、自分自身の恵まれている部分も、恵まれていない部分も、自分の才能だと認めること。そして──ここが一番難しいのですが──自分自身の価値を、他人の評価ではなく自分で決めること。


持っているものを謙遜し、持っていないものに嫉妬する

ここで正直に告白します。私はこの罠に何度もはまってきました。

自分が持っているもの──素敵な職場環境、やりがいのある仕事、自分の意志で執筆の量をコントロールできる時間──を、わざわざ人に自慢することはありません。むしろ「たいしたことない」と謙遜する。

一方で、持っていないものには猛烈に嫉妬します。書籍化が決まった作家に嫉妬する。毎日1万字を書ける速筆の人に嫉妬する。SNSでバズるポストを書ける人に嫉妬する。

謙遜と嫉妬。この2つのセットは、創作者にとって最も有害な組み合わせです。

なぜか。謙遜は「自分の強みを活かすことを放棄する」行為であり、嫉妬は「持っていないものに時間とエネルギーを注ぐ」行為だからです。どちらも、自分の作品を良くすることには一切貢献しません。


嫉妬の正体

嫉妬は人間として自然な感情です。消すことはできません。

でも、嫉妬が何なのかを理解することはできます。

嫉妬の正体は、「自分にもできるはずなのに、できていない」という認知のズレです。自分に全くできないことには嫉妬しません。オリンピックの体操選手に嫉妬する人は少ない。でも同じ投稿サイトで書いている人が書籍化されると、強烈に嫉妬する。「同じ土俵にいるのに、あの人だけ」と。

つまり嫉妬は、裏を返せば「自分にもポテンシャルがある」と無意識に信じている証拠です。

問題は、嫉妬のエネルギーをどこに向けるかです。

悪い方向:嫉妬の対象を攻撃する。「あの人の作品は大したことない」「運が良かっただけだ」とSNSで暗に否定する。これは時間の無駄であると同時に、自分の品位を下げる行為です。

良い方向:嫉妬を「自分のやるべきこと」を特定するシグナルとして使う。「あの人の構成力に嫉妬した → 自分はプロット設計を強化する必要がある」。この変換ができれば、嫉妬は燃料になります。


嫉妬と縁を切ると決めた

正直に言うと、私は嫉妬深い人間です。今でも他人の才能に嫉妬して、心がざわつくことがあります。

でも、杞優橙佳としては、嫉妬の表出をやめると決めました。SNSでもブログでも、誰かに嫉妬して書いたテキストは出さないようにしています。

理由は功利的です。嫉妬に費やす時間は、すべて自分の作品に使ったほうが生産的だから。嫉妬のポストを書く30分があれば、500字書ける。500字は少ないけれど、ゼロよりずっと価値がある。

もうひとつの理由は、アルテが教えてくれたことです。

「自分の持っているものを磨き上げて、花開く時代まで耐え忍ぶ」──これは徳川家康も実践した天下取りの王道です。自分が持っていないものを嘆くより、持っているものを研ぎ澄ます。その時間の使い方が、3年後、5年後の結果を分ける。


アニメが「バカにされるもの」から「票になるもの」に変わった話

アルテのような──「そのくせに」が「そのおかげで」に反転する現象は、現実にも起きています。

10年前、20年前を思い出してください。アニメは「子供が見るもの」「オタクの趣味」として一段下に見られていました。田舎に住んでいた私は余計にその空気を感じていました。

2026年の今、状況は完全に反転しています。映画興行収入ランキングの上位はアニメ映画が占め、「鬼滅の刃」は歴代1位を記録し、ワンピースは実写ドラマ化され、日本のアニメは世界的なソフトパワーになっています。

「アニメなんて」とバカにされた時代から、「アニメだから」売れる時代へ。

この反転を作ったのは、10年前にアニメを好きだという気持ちを謙遜しなかった人たちです。バカにされても真剣に作り続けた人たちです。

創作も同じです。「Web小説なんて」と言われる時代から、「Web小説発だから」と注目される時代へ。今まさにその転換が進んでいます。

あなたが持っているもの──小説を書く力、物語を構想する力──は、今は世間に正当に評価されていないかもしれません。でもそれは「価値がない」のではなく、「花開く時代がまだ来ていない」だけかもしれない。

だから、持っているものを磨き続けてください。


自分の価値を自分で決める

最後に、もうひとつだけ。

他人に評価されることは嬉しい。ランキングに載れば達成感がある。感想をもらえれば報われる。

でも、自分の価値を他人の評価「だけ」に委ねると、評価されないとき一瞬で折れます。

アルテは、自分の価値を自分で決めました。「貴族で女で、それが私だ」と。

あなたの才能も、あなたが定義してください。遅筆なら遅筆を、引き出しが少ないなら少ないことを、現実世界のことしか書けないならそれを──「それが自分だ」と認めるところから、本当の創作が始まります。

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