小説家のためのX(旧Twitter)との付き合い方|SNSに時間を浪費しない技術
経営学を勉強していると、まれに背筋が凍る言葉に出会います。ピーター・ドラッカーの下記の言葉もそうでした。
「人は会議にでているか、仕事をしているかである」
「会議は原則でなく、例外にしなければならない」
これをWeb小説家に置き換えると、こうなります。
「人はX(旧Twitter)につぶやいているか、執筆をしているかである」
「Xは原則でなく、例外にしなければならない」
……なかなか刺さる言葉ではないでしょうか。このエントリーでは、小説家のためのX(旧Twitter)との正しい付き合い方を考えてみます。
SNSは最高の「時間泥棒」である
X(旧Twitter)は本当に便利なツールです。仲良くしてくれるフォロワーさんのタイムラインを眺めているだけでも笑顔になれますし、執筆が滞っているときにふと悩みを打ち明ければ、共感してくれたり、解決策を示してくれたりします。Googleで検索するよりも早く最新情報を収集できる場面もあるでしょう。
ただし、これは 時間泥棒にもなりかねない のです。
「1時間に10分だけ、スキマ時間でXを見よう」と決めたはずが、気がつけば1時間に50分Xを触っていた——こんな経験をした方は少なくないでしょう。SNSには「スクロールするたびに新しい刺激が降ってくる」構造的な中毒性があります。通知のたびにドーパミンが分泌され、終わりのないフィードに引き込まれます。
問題は、この時間がそのまま 執筆時間を食い潰している ことです。1日3時間しか自由時間がない兼業作家にとって、そのうち2時間をXに持っていかれたら、小説が進むわけがありません。
ドラッカーの言葉を借りるなら、Xは「例外」にする必要があります。執筆が原則で、Xが例外。この優先順位を逆転させてしまった瞬間から、小説家としての時間は消えていくのです。
Xに依存しない——いつでもログアウトできる心構えを持つ
以前、Xを引退するWeb小説家の方々を目にしました。「反応がなくてつらい」「まわりが頑張っているのを見るのがつらい」など、理由はさまざまでした。
Xは何でも気軽に話せる場なので、本音を共有できる人とつながりやすいのですよね。リアルの友達よりも深いところでつながっている気がして、その人たちから反応がなかったら「無視されている」と感じてしまう。まわりがどんどん成果を出しているのに自分だけ停滞していると、置いていかれそうで不安になる。
しかし、こうした感情にとらわれてしまうのは、 Xが生活の中心になっている証拠 です。
対策はシンプルで、 「いつでもログアウトできる」心構えを持つ ことです。
たとえば、こんな一言をつぶやいてからログアウトしてみる。
「今日からしばらくXをお休みします。2ヶ月後の公募に集中するため。必ず戻るので、気ままに待っていてください」
仕事とプライベートのメリハリをつけるのと同じで、Xと執筆のメリハリをつける。自己管理のできる人は、こうした切り替えが上手です。Xがリアルよりも大事になっていると感じたら、ふと立ち止まってログアウトボタンを押してみるのも立派な選択肢です。
「休止したら人間関係が消える」という恐怖の正体
「でも、休止したらXの人間関係が全部なくなっちゃう」と心配される方もいるでしょう。その気持ちはよくわかります。
社会人をしていて痛感するのは、 「良い人間関係を築く手段は、同じ時間をともにすること」 だということです。初対面の印象が悪くても、長い時間を一緒に過ごせば関係は変わります。逆に言えば、時間を共有しなくなった瞬間から、関係は薄れていきます。
たとえば1ヶ月Xを休止した場合、仲良かったフォロワーAさんとの「友達ポイント」は1ヶ月間変化しません。一方でAさんと周囲の人たちは日々「友達ポイント」を積み重ねていきます。結果、1ヶ月分のポイント差がついた私は、Aさんの優先度リストで下がっていく。
復帰後に以前と同じ関係に戻ろうとすると、今度は「媚びる」ような行動を取らなければならず、しんどくなる。「誰かの一番でいたい」と思い続けることは、精神的にかなりの負荷がかかるのです。
ここで発想を転換してみましょう。 失われる人間関係は、実はXという限定空間でしか維持できない関係 だったのではないでしょうか。本当に深い人間関係であれば、1ヶ月の不在で崩壊したりしません。休止して離れていった関係は、Xのアルゴリズムが作り出した「つながっている感覚」に過ぎなかった可能性があります。
だからこそ、 「Xの人間関係がすべて」と思い込まないこと が大切です。リアルでの執筆、リアルでの人間関係に軸足を置いた上で、Xはあくまで補助ツールとして使う。この順番を守れている限り、休止しても大きなダメージにはなりません。
業界最強との比較地獄から身を守る
Xの見えにくい弊害がもう一つあります。 トップクリエイターとの比較が無限に発生する ことです。
いまのXには、書籍化作家、シリーズ累計100万部の化け物級クリエイターが普通にタイムラインに流れてきます。地方の天才として実力を発揮していた人が、Web空間に出た途端に「上には上がいる」と打ちのめされる。高校生バンドがいきなりYOASOBIやヒゲダンと比較されてしまうようなものです。
「あの書籍化作家と比べたら下手じゃん」——そんな声が耳に入る環境で、果たして心を折らずに創作を続けられるでしょうか。
上を見て向上心を維持し続けられるタイプの人なら問題ありません。しかし多くの場合、比較は 自己否定のループ を引き起こします。「あの人に比べたら自分なんて」「こんなレベルで書いていて意味があるのか」——こうした思考が頭を支配し始めると、執筆へのモチベーションは急速に消耗します。
だからこそ、 自分が自尊心を保てる場所を確保しておく ことが重要です。Xのタイムラインは自尊心を削る場所になりがちですが、小説の執筆そのものは自分一人で進められます。リアルで着実に原稿を積み重ねながら、Xはあくまで「息抜き」や「近況報告」の場として使う。これが、比較地獄に巻き込まれないための最も現実的な戦略です。
なお、X(旧Twitter)で自作小説を届ける技術|2026年版SNSプロモーション戦略という記事でも書きましたが、SNSを「宣伝ツール」として割り切って使うのも一つの方法です。目的を明確にすれば、ダラダラと時間を消費するリスクは減ります。
SNSとの距離を保つための具体的な5つのルール
では、実際にXとどのように距離を保てばいいのか。私が実践している(あるいは実践しようと努力している)ルールを5つ紹介します。
ルール1:時間帯を決める
Xを見る時間を「朝の通勤中」「昼休み」「就寝前15分」のように固定します。「スキマ時間に見る」が最も危険で、25時間スキマ時間になりかねません。
ルール2:通知をオフにする
通知はドーパミンの引き金です。すべてオフにして、自分のタイミングでチェックする習慣をつけましょう。
ルール3:執筆中はアプリを物理的に遠ざける
スマホを別の部屋に置く、PCのブラウザからXをブックマーク削除する。意志の力で抗おうとするより、環境を変えるほうが確実です。
ルール4:「見る専」の日を作る
つぶやかない日を意図的に設けます。つぶやくと反応が気になりますが、見るだけなら承認欲求のサイクルに巻き込まれません。
ルール5:月に一度「SNS断食」をする
丸1日Xを開かない日を月に一度作る。やってみると、驚くほど執筆が進むことに気づくはずです。
ポモドーロ・テクニックは小説執筆に使えるのか|作家が考案した集中術の真価でも紹介しましたが、集中と休憩のサイクルを意識することが、SNS依存を断ち切る近道になります。
建設的な情報を取り込む——XをインプGットの場にする
とはいえ、Xは悪いことばかりではありません。創作に役立つ情報を発信しているクリエイターも多く、彼らのタイムラインをチェックするだけで大きな学びになります。
Xを「時間泥棒」にしないためのコツは、 「消費する場」ではなく「学びの場」として使う ことです。具体的には以下のような使い方が有効です。
• 創作論を発信しているアカウントをリスト化 して、そのリストだけ巡回する
• 気になったツイートはスクショではなくメモにまとめ て、自分の創作ノートに取り込む
• 他人の議論には深入りしない ——観察はするが、参加しない
SNSの炎上やネガティブな議論に巻き込まれると、精神的なエネルギーを大量に消耗します。SNS時代の「傷」との向き合い方|創作者が自分の痛みを作品に変える技術でも書きましたが、SNSで受けた傷を創作に昇華できるのは、距離を保っている人だけです。
まとめ:執筆が原則、SNSが例外
ドラッカーの「会議は例外にしなければならない」という言葉をもう一度思い出してみてください。
小説家にとっての「会議」がSNSです。原則は執筆。例外がX。この優先順位さえ守れていれば、SNSとの付き合いは怖くありません。
• いつでもログアウトできる心構え を持つ
• 比較地獄に巻き込まれない環境 を自分で作る
• 「学びの場」として割り切る 使い方を徹底する
Xをはじめとしたコミュニケーションツールは確かに楽しいのですが、楽しさに溺れて原稿が1行も進まなかった日は、「今日は何をしていたんだろう」と後悔がやってきます。
逆に、Xを閉じて原稿を3000文字進めた夜は、布団に入る瞬間に確かな充実感があるはずです。
結局のところ、私たち小説家を救ってくれるのは、フォロワー数でもいいねの数でもなく、 自分が書いた原稿の枚数 なのだと思います。
兼業作家12年目の結論でも書きましたが、コツコツ積み重ねることが最強の戦略です。SNSは息抜きに使いつつ、リアルで原稿を積み上げていきましょう。
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