短編小説の書き方|「エンジン」と「シャフト」でテーマを伝える
長編と短編は別の技術です。
長編は伏線を張り巡らせ、世界観を膨らませ、キャラクターを成長させる。一方、短編は一点突破。限られた文字数で、ひとつのテーマを読者に刻みつけなければなりません。
この記事では、短編でテーマを効果的に伝える2つの概念——エンジンとシャフトを解説します。
大原則:「描きたいものは失わせる」
短編のテーマを印象づける基本テクニックは、直感に反しています。
描きたいものを主人公から奪う。
人は「あるもの」より「ないもの」に意識が向きます。円の一部が欠けた図形(C)は、完全な円(○)よりも目を引く。心理学で言う「欠損効果」です。
• 友情を描きたい → 友を失わせる
• 恋人の大切さを描きたい → 恋人を奪う
• 故郷への想いを描きたい → 故郷から引き離す
「失ったもの」を通してテーマが浮かび上がる。短編では特にこの手法が有効です。文字数が少ない分、「存在するもの」を丁寧に描く余裕がない。しかし「失ったもの」の不在感は、少ない描写で強烈に伝わります。
失ったものの使い方は2通り
何かを失った主人公が物語をどう進めるか。ここにエンジンとシャフトの選択があります。
簡単に言えば、エンジン型は「失ったものを取り戻そうとする」アクティブな構造、シャフト型は「失ったものによって世界の見え方が変わる」パッシブな構造です。この違いを意識するだけで、「失ったもの」から物語を構築する技術が格段に上がります。以下、それぞれを詳しく見ていきましょう。
エンジン(動機)型
失ったものを取り戻すことが、物語を前に進める動機になるパターン。
RPGで言えば「さらわれた姫を救出する」がエンジンです。主人公を動かす燃料。
エンジン型の特徴
• 主人公は失ったものを積極的に追い求める
• 物語にはっきりした目的と方向性がある
• 回復できるかどうかが物語の結末を決める
• 動きのある、テンポの速い短編に向く
エンジン型の例
追放系Web小説 = 典型的なエンジン型。
仲間を失う → 仲間を取り戻す(or 新しい仲間を得る)ことが動機。失ったものがエンジンとなり、物語が加速します。
エンジン型の設計手順:
1. 主人公から何を奪うか決める
2. 奪われたものを取り戻す過程を設計する
3. 取り戻せる / 取り戻せないの結末を選ぶ
エンジン型の注意点
エンジンは物語の最初から最後まで一貫して稼働していなければなりません。途中で別の目的にすり替わると、読者は「あれ、最初の話はどうなったの?」と混乱します。
短編ではエンジンは原則ひとつ。2つ以上のエンジンを同時に回すのは、長編の仕事です。
シャフト(中心軸)型
失ったものが、物語の中心に据えられるが、主人公はそれを積極的に追い求めないパターン。
シャフト=回転軸。軸自体は動かないが、物語はその周りを回ります。
シャフト型の特徴
• 主人公は失ったものと静かに向き合う
• 物語に明確な目的はない。関係性の変化が物語を動かす
• 失ったものの意味が再発見されるのが結末
• 静かで余韻の強い短編に向く
シャフト型の例
故郷を離れた主人公が、異国の地で故郷を想う。
故郷に帰ろうとしているわけではない。しかし、異国での出来事すべてが、故郷の記憶を呼び起こす。季節の風、食べ物の匂い、知らない言語——すべてが「故郷にあったもの」と比較される。
故郷(失ったもの)がシャフトとなり、物語の中心に据わっています。
シャフト型の設計手順:
1. 主人公から何を奪うか決める
2. 失ったものを追わない状況を設定する
3. 日常のイベントを通じて、失ったものの意味が変化する過程を描く
エンジンとシャフトの比較
| 項目 | エンジン型 | シャフト型 |
|---|---|---|
| 主人公の態度 | 積極的に追う | 静かに向き合う |
| 物語の推進力 | 目的達成への行動 | 内面の変化 |
| テンポ | 速い | 遅い |
| ジャンル | アクション、冒険、サスペンス | 文学、日常、青春 |
| 結末 | 達成 / 未達成 | 再発見 / 受容 |
どちらが優れているということではありません。書きたいテーマと、想定するジャンル・読者に合わせて選びます。
短編公募でのエンジン / シャフトの使い分け
2025年〜2026年の短編公募の傾向を見ると:
• カクヨムコンテスト短編部門(2万字以内)→ エンジン型が多い。Web読者はテンポの速さを求める
• 文學界新人賞(100枚)→ シャフト型が好まれる傾向。文学的な余韻と内面描写
• 小説すばる新人賞(200〜500枚)→ どちらでもOKだが、エンジン+シャフトの複合型が評価されやすい
短編と長編の関係
短編は長編の縮小版ではありません。しかし、技術の基礎は同じです。
10万字の長編は、「1万字の短編 × 10章」で構成されると見れば、各章にもエンジンとシャフトが存在します。
短編で「失ったもの」によるテーマ設計を練習すれば、長編の各章にもその技術を応用できます。
まとめ
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 大原則 | 描きたいものを主人公から「失わせる」 |
| エンジン型 | 失ったものを取り戻す動機で物語を走らせる |
| シャフト型 | 失ったものを中心に据え、関係性の変化を描く |
| 選択基準 | テンポ重視 → エンジン / 余韻重視 → シャフト |
次に読むべき記事
• テーマの設計全般 → テーマ・キャラクター・プロットの三位一体
• 感情で物語を動かす → 切ない物語の書き方
• 結末の4パターン → セントラルクエスチョンとは





