挫折と失敗の違い〜好感度を高める挫折の書き方〜

2021年7月11日

物語の冒頭――プロローグと呼ばれるパートは、読者が「この主人公を応援したい」と思うかどうかを決定づける最重要地点です。

そしてプロローグで最も効果的な要素は、主人公の「挫折」です。異世界転生ものなら「現実世界でパッとしないオタク」、追放ものなら「勇者パーティから理不尽に追い出される」――ジャンルを問わず、人気作品の冒頭には正しく設計された挫折があります。

ところがこの「挫折」、意外と正しく書けていないケースが多いのです。

「主人公が失敗する場面を書いたのに、読者から同情してもらえない」「挫折を入れたつもりなのに展開が平坦に感じる」

こうした問題の原因は、挫折と失敗を混同していることにあります。

この記事では、挫折と失敗の決定的な違いを明らかにし、冒頭で好感度を高める「挫折」の書き方を6つのポイントに分解します。さらに2025年の人気作品『怪獣8号』のカフカや、追放系テンプレートの進化まで分析します。

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「挫折」と「失敗」は何が違うのか

辞書的な定義を比較する

まず、辞書でそれぞれの意味を確認しましょう。

• 失敗:方法がまずかったり情勢が悪かったりで、目的が達せられないこと

• 挫折:目的をもって続けてきた仕事などが中途でだめになること。くじけ折れること

一見似ています。しかしポイントは、挫折に「くじけ折れる」という意味が含まれている点です。

失敗は「目的不達」という事実のみを表します。対して挫折は、目的不達という事実に加え、心理的なダメージまで含んでいるのです。

森田雄三氏による定義

イッセー尾形の演出家として知られた故・森田雄三氏は、挫折を次のように定義しました。

> 「挫折」とは、「自分の思い込み」が「現実(外部)の評価」に敗れること。

この定義が、創作において非常に有用です。

たとえば「どうせ受賞できない」と思いながら出した公募で落選したとします。結果は失敗ですが、事前に想定していたので心理的ダメージは小さい。これは挫折とは言いにくい。

ところが「一次選考は突破するに違いない」と確信していたのに通過できなかったら、話は変わります。自分の実力を見誤ったのか、公募先の求める小説が書けていなかったのか、そもそも小説家という目標そのものが間違っていたのか――根本的な疑問が湧いてくる。これが「挫折」です。

「目標」と「やり方」への疑問が湧くかどうか

失敗と挫折を分ける最大のポイントは、失敗後に「目標」や「やり方」に関する疑問が湧くかどうかです。

失敗挫折
目的不達
心理的ダメージ小(想定内)大(思い込みが砕かれる)
目標への疑問湧かない湧く(この道で正しいのか?)
やり方への疑問湧かない湧く(方法を変えるべきか?)
読者の共感度低い高い

なろうランキングで上位を目指して届かなかったあと、そのまま同じやり方で更新頻度を上げるだけなら、それは単なる「失敗」の繰り返しです。もし書くのをやめたり(目標の変更)、文体やジャンルを変えたり(やり方の変更)するならば、そこに「挫折」が生まれます。

冒頭のエピソードで書くべき「挫折」6つのポイント

挫折を正しく設計するには、以下の6つの要素を冒頭のエピソードに含めましょう。この6ポイントを満たすことで、読者の好感度を確実に上昇させることができます。

① 主人公は失敗する前、どう考えていたか

「自分の思い込み」が挫折の起点です。主人公が事前にどんな期待や確信を持っていたかを描くことで、その思い込みが砕かれたときのインパクトが決まります。

期待が大きいほど、挫折も深くなる。だから冒頭では、主人公の期待や自信をしっかりと描いておくことが重要です。

② 主人公は失敗をどう知らされたか

「現実(外部)の評価」に敗れる瞬間の描写です。

追放系であれば、パーティリーダーから「お前はもう必要ない」と面と向かって宣告される。能力系であれば、適性の儀で衆人環視のもと低ランクの判定が出る。この「知らされ方」が残酷であるほど、読者は主人公に同情します。

③ 主人公は失敗をどう理解したか

事実を突きつけられた主人公が、その意味をどう処理するかの描写です。「信じられない」「何かの間違いだ」という否認から、徐々に現実を認識していくプロセスが、読者の感情移入を深めます。

④ 主人公はその時、どんな気持ちだったか

心理的ダメージの描写です。ここを「悔しい」の一言で済ませず、体の感覚や行動に落とし込むことが重要です。

「膝から力が抜けた」「視界が歪んだ」「何も考えられなくなった」――身体的な反応で感情を示すと、読者は追体験できます。

⑤ 主人公は「挫折」後、どんな行動をしたか

6ポイントの中で最も重要な要素です。挫折後の行動こそが、キャラクターの本質を示すからです。

ここではモチベーションの種類が決定的な意味を持ちます(後述の「マイナスのモチベーション」と「プラスのモチベーション」を参照)。

⑥ その行動の結果、成功する

挫折から立ち上がった主人公が成果を出すことで、読者のカタルシスが生まれます。挫折が深ければ深いほど、成功の喜びも大きくなる。これが「好感度」の正体です。

「マイナスのモチベーション」と「プラスのモチベーション」

挫折後の主人公を動かすモチベーションは、大きく2種類に分けられます。

マイナスのモチベーション(Not Be型)

自己否定をベースにした動機です。劣等感や敗北感を受け止め、「こうはなりたくない」「もう二度とあの惨めさを味わいたくない」という恐怖が原動力になります。

冒険者としての挫折をきっかけに商売で大富豪を目指す主人公は、マイナスのモチベーションの典型です。ハングリー精神で努力し続けるエネルギーがありますが、結果が出ないときに「自分はダメな人間だ」と崩れるリスクもあります。

プラスのモチベーション(Want To Be型)

自己肯定をベースにした動機です。「こうなりたい」「この生活を手に入れたい」というポジティブな未来像が原動力になります。

追放された後スローライフを目指す主人公は、プラスのモチベーションの典型です。読みやすく爽やかな展開になりますが、「もう十分頑張ったからいいや」と中途半端に満足しやすいという弱点があります。

ベストな設計:2つの使い分け

基本路線は、2つのモチベーションを物語の段階に応じて使い分けることです。

挫折直後はマイナスのモチベーションで自分を追い込み、目標の再設定をする。そして新しい道を歩き始めたらプラスのモチベーションに切り替え、前向きに成功へ突き進む。

> 外部評価による挫折 → マイナスのモチベーションで自分を責める → プラスのモチベーションで成功に突き進む

この流れが、読者の好感度を最大化するゴールデンパターンです。

怪獣8号・日比野カフカに学ぶ「挫折設計」

2025年にアニメ化で大ブレイクした『怪獣8号』の主人公・日比野カフカは、挫折設計の教科書ともいえる存在です。6ポイントに当てはめて分析してみましょう。

6ポイント分析

ポイントカフカの場合
①事前の思い込み幼馴染のミナと「一緒に怪獣を倒す」と約束。防衛隊員になる夢を持ち続ける
②失敗の知らされ方防衛隊の入隊試験に何度も落ち続ける。32歳で怪獣の死体処理業者として働く日常
③失敗の理解自分には才能がない。年齢的にも限界が近い。夢を諦めるべきかもしれない
④気持ちミナが隊長として活躍するニュースを見るたびに、取り残された焦りと悔しさ
⑤挫折後の行動「怪獣8号」の力を得た後、再び防衛隊を目指す決断をする
⑥成功入隊試験に合格し、ミナと同じ戦場に立つ

カフカの挫折が強烈なのは、32歳という年齢設定にあります。「若ければまだやり直せる」が通用しない年齢で夢を追い続けている。読者は「もう手遅れかもしれない」という恐怖を共有するからこそ、カフカが立ち上がるたびに心を打たれるのです。

モチベーション設計

カフカのモチベーションは絶妙に設計されています。

• マイナス:「怪獣の死体処理業者のまま終わりたくない」「ミナに置いていかれるのが悔しい」

• プラス:「ミナと一緒に怪獣を倒す」「あの日の約束を果たしたい」

マイナスの焦りがエンジンとなり、プラスの約束が方向を定める。2種のモチベーションが噛み合ったとき、キャラクターは最も魅力的になります。

追放系テンプレートの進化(2025年版)

追放系は「挫折の書き方」のテンプレートとして機能してきました。その進化を追うと、挫折設計のトレンドが見えてきます。

第1世代:理不尽追放+即時無双

初期の追放系は、シンプルな構造でした。

1. パーティから理不尽に追放される(挫折)
2. 追放先で実は自分が最強だと判明する(即時成功)
3. 元パーティが崩壊、「あいつがいないとダメだ」と後悔する(ざまぁ=カタルシス)

挫折はクリアに描かれていますが、⑤の「挫折後の行動」が薄い。成功が環境変化で自動的に訪れるため、主人公の能動性が弱いのが課題でした。

第2世代:追放+自力再起

成熟期の追放系は、主人公の能動性が加わりました。

1. 追放される(挫折)
2. 新天地で自分のスキルの別の使い方を発見する(やり方の変更)
3. 試行錯誤しながら成果を積み上げる(能動的な成功)

⑤のモチベーション設計が丁寧になり、プラスのモチベーション(新しい生活を楽しみたい)が前面に出るようになりました。

第3世代:挫折の重層化

2025年の新世代追放系では、挫折が一度きりではなく重層的に設計されています。

1. 追放される(第1の挫折)
2. 新天地で成功しかける
3. 過去の因縁が追いかけてくる(第2の挫折)
4. 新しい仲間との関係性を通じて、根本的な価値観が変わる(目標の再定義)
5. 真の成功に至る

挫折のたびに「目標」や「やり方」が更新され、主人公が深みを増していく構造です。単純なリベンジ譚から成長物語へと進化しています。

好感度を上げる挫折エピソードの設計パターン

「現実(外部)の評価に敗れる」エピソードには、いくつかの定番パターンがあります。

パターン1:制度による評価(外部性が明確)

• 組織の決めた能力ランクが低い

• 神様から良い能力がもらえなかった

• 国家試験に何度挑戦しても合格できない

制度という変えられないシステムに負ける構造は、主人公の人間性に非がないため好感度を下げません。

パターン2:他者からの評価(関係性が生まれる)

• パーティの仲間からの評価が低い

• 師匠から「才能がない」と言われる

• 転生先で周囲からの評判が悪い(悪役令嬢、魔王など)

他者の評価は関係性を生むため、その後のリベンジや和解のドラマにつながりやすいパターンです。

パターン3:自分自身との乖離(内面の深さが出る)

• 理想の自分と現実の自分のギャップに苦しむ

• 以前はできていたことができなくなる

• 仲間の成長に自分だけ取り残される

内面的な挫折は描写が難しいですが、成功すれば読者の深い共感を得られます。怪獣8号のカフカはパターン2と3を組み合わせた好例です。

避けるべき挫折:キャラの人間性に非がある場合

キャラクター自身が無実の人を殺してしまった結果追放された、となると読者の好感度は下がります。キャラクターに「非」があると、応援する気持ちが削がれるのです。

もちろん、罪を贖うために努力し続ける物語は、キリスト教圏の「原罪と贖罪」の文化に根ざした普遍的なテーマです。しかし日本のWeb小説読者層には、キャラの人間性に非がない挫折のほうが受け入れられやすい傾向があります。

この記事のまとめ

ポイント内容
挫折と失敗の違い失敗は目的不達のみ。挫折は目的不達+心理的ダメージ+目標/やり方への疑問
挫折の定義「自分の思い込み」が「現実の評価」に敗れること(森田雄三)
6ポイント①事前の考え ②知らされ方 ③理解 ④気持ち ⑤挫折後の行動 ⑥成功
モチベーションマイナス(Not Be)→プラス(Want To Be)の順が王道
追放系の進化理不尽追放→自力再起→挫折の重層化

冒頭で主人公に正しく「挫折」を与えることは、物語全体の好感度を左右する最重要投資です。失敗ではなく挫折を。そして挫折から立ち上がるモチベーションの設計までをセットで考えてみてください。


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