『連ちゃんパパ』を嫌いになりきれない理由|クズ主人公のキャラクター造形から学ぶこと

2020年5月17日

こんにちは。腰ボロSEです。

話題の鬱漫画、皆さん読みましたか。そうです。『連ちゃんパパ』です。

もともとパチンコ漫画誌で連載されていた、ありま猛先生によるパチンコ漫画。書籍化はされていないマイナーな作品でしたが、無料で漫画が読めるサイト「マンガ図書館Z」で公開されたことで一躍話題になりました。Yahooニュースにも取り上げられ、Twitterトレンドにもランクイン。その結果、マンガ図書館Zがサーバーダウンするという事態にまで発展しました。なお、マンガ図書館Zは2024年11月から2025年4月までサービスを一時停止していましたが、その後再開しています。

その物語は、パチンコにのめり込んだ元教師・日之本進が、パチンコで300万円の借金を作って失踪した妻・千鶴や息子の太陽とともに、パチンコ漬けの日々を過ごしていく……というもの。なぜか超有名漫画誌の名作のように流行したのは怖い話ですが、 クリエイターとして学べることは確実にあります

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なぜ「クズ」なのに嫌いになりきれないのか

まず結論から言います。連ちゃんパパの主人公・日之本進は 誰もが「最低だ」と思うのに、完全には嫌いになりきれない キャラクターです。

その理由を分析すると、以下の要素が浮かび上がります。

要素内容効果
弱さの可視化パチンコに負けて泣く。逃げる。嘘をつく「こいつはクズだ」と思いつつ人間の弱さを見てしまう
加害の自覚がない自分が悪いと思っていない。天然で人を傷つける「悪意がない」ことが逆に恐ろしい
小さな善意の断片息子のことを時々思い出す。一瞬だけ真面目になる「もしかしたら変わるかも」という希望を持たせる
周囲のキャラとの対比妻の千鶴も十分クズ。周囲も同レベル相対的に「まだマシ」に見える瞬間がある
コミカルなタッチ深刻な内容をギャグ調で描く読者は笑いながら読めるため心理的距離が保てる

ここで最も重要なのは 「小さな善意の断片」 です。日之本進は99%クズですが、残りの1%で息子を思い出したり、ほんの一瞬だけ真面目なことを言ったりします。この1%が読者に 「もしかしたらこの人にも救いがあるのでは」 という希望を抱かせます。そして読者は、その希望が裏切られることを知りながらも、ページをめくり続けてしまうのです。

これはキャラクター設計の黄金法則です。 完全な悪人は退屈だが、一握りの善性が混じった悪人は目が離せない

これは创作論で「救いの可能性 (Redemption Potential)」と呼ばれる概念に通じます。読者は 「このキャラクターには救いがあるのか?」 という問いを持ち続けることでページをめくります。連ちゃんパパが巧みなのは、その問いに対して「そろそろ変わるかも」と思わせては裏切り続けることです。この「希望と裏切りの反復」が中毒性を生みます。ちなみに『闇金ウシジマくん』や『カイジ』シリーズと比較されることが多いですが、連ちゃんパパが異なるのは 主人公が加害を自覚していない 点です。ウシジマくんの丸亦やカイジの利根川は「自分が何をしているか」を理解しています。ですが日之本進はそれすらわかっていない。この 「無自覚の加害」 が「嫌いになりきれない」という複雑な感情を生むのです。

クズ主人公が読者を引きつける3つの心理メカニズム

なぜ人は「最低だ」と思いながらも読み続けてしまうのか。心理学的に3つのメカニズムが働いています。

メカニズム1:下方比較による安心感

人間には 「自分より下の存在を見て安心する」 という心理があります。これを心理学では「下方比較」と呼びます。連ちゃんパパを読むと「自分はまだマシだ」という気持ちになれます。嫌な自分を肯定してくれる装置として、クズキャラは機能するのです。

メカニズム2:列車事故効果(トレインレック効果)

目を背けたいのに見てしまう——これは 「列車事故効果」 と呼ばれる心理現象です。悲惨な光景ほど、人は目を離せなくなります。連ちゃんパパのストーリーは「この先どれだけ悪化するのか」という 負の方向のサスペンス が強烈に働いています。

メカニズム3:カタルシスの不在

通常の物語は、トラブルの後に解決や成長が訪れます。しかし連ちゃんパパには カタルシス(浄化)がほぼありません 。問題は解決せず、主人公は成長せず、事態は悪化し続けます。この「カタルシスの不在」が逆に読者を中毒にさせます。 「いつか報いがくるはず」 という期待感が、最終話まで読み続ける原動力になるのです。

メカニズム通常の物語連ちゃんパパ
比較の方向主人公に憧れる(上方比較)主人公を見下す(下方比較)
サスペンスの方向「この先良くなるはず」「この先どれだけ悪化するのか」
カタルシス問題解決で読者がスッキリカタルシス不在で読者が中毒する

「流行りすぎるのは怖い」という本音

正直に書きます。連ちゃんパパが流行りすぎることには 怖さを感じています

この作品が面白いことは認めます。キャラクター造形の勉強になることも事実です。ですが、この作品が「バズった」理由の一つは、 人間の最も醜い部分を見て楽しむという消費行動 にあります。

「ポケモン」映画のプレビュー上映を見た開発者が「おやびっくりするかもしれない」と言ったのとは対照的に、連ちゃんパパは 「おやさんがびっくりする」どころではない内容 です。ギャンブル依存、家庭崩壊、借金、逃亡——これらをコミカルに描いて大量消費する文化は、健全とは言い切れません。

視点光の面影の面
創作者としてキャラクター設計の教材になるクズキャラの安易な量産を招きかねない
読者として自分の人生を客観視するきっかけになる他人の不幸を娯楽として消費する習慣がつく
社会としてギャンブル依存の実態を可視化したギャンブル依存を「面白いもの」として矮小化する

大切なのは、 「なぜこの作品が面白いと感じるのか」を自分自身に問うこと です。単純に「クズで面白い」で終わらせるのではなく、その裏にある心理メカニズムを理解することが、創作者としての成長につながります。

クズ主人公を書くための設計原則

連ちゃんパパから学べるクズ主人公の設計原則は、以下の通りです。

原則内容やりがちな失敗
1%の善性を残す完全なクズにしない。読者が「もしかしたら」と思える要素を入れる100%クズにして読者が離れる
加害の自覚を操作する「自覚がないクズ」は「自覚があるクズ」より怖い自覚させすぎて説教臭くなる
コミカルな語り口深刻な内容をギャグ調で包むことで読者の心理的ハードルを下げるシリアスに描きすぎて読者が離れる
周囲の環境を設計するクズが「普通」に見える環境を作ると相対化が起きる主人公だけがクズで周囲は善人、というアンバランス
因果応報を遅延させるすぐに罰を与えず「いつか報いがくる」という期待感を維持する早々に報いを受けさせてカタルシスを消費してしまう

特に 「因果応報の遅延」 は重要です。クズキャラが即座に罰を受けると、読者は「ざまあ見ろ」と思って満足し、それ以上読み進める動機がなくなります。ですが罰を遅らせると、読者は 「いつ報いがくるのか」を確認するために読み続ける のです。連ちゃんパパが全43話を読ませきる力を持っているのは、この因果応報の遅延設計が見事だからです。

自分の作品にどう活かすか

では、連ちゃんパパから学んだことを自分の作品にどう活かすべきでしょうか。

クズ主人公を書くことが正解だと言いたいわけではありません。むしろ 「クズキャラの引力のメカニズム」を理解した上で、別のキャラクターに応用する ことが重要です。

たとえば、ヒーローキャラでも「1%の弱さ」を入れることで親しみが生まれます。聖人君子に見えるキャラにほんの少しだけ黒い部分を入れると、読者は「この人にも裏があるのでは」と興味を持ちます。連ちゃんパパの「1%の善性」をひっくり返した 「1%の闇」 の技法です。

マンガ図書館Zで読める(いつまで公開されるかわかりませんが)ので、創作者としてぜひ一度読んでみてください。読後の「なぜ最後まで読んでしまったのか」という自問が、きっとあなたのキャラクター造形を次のレベルに引き上げてくれます。

付け加えると、『連ちゃんパパ』が教えてくれるもう一つのことがあります。それは 「埋もれた作品が日の目を見る可能性」 です。この作品は1990年代にパチンコ漫画誌で連載された、本来なら埋もれて忘れられていくはずの作品でした。それがマンガ図書館Zというプラットフォームによって発掘され、SNSの口コミで爆発的に広がりました。 「いい作品はいつか見つかる」 という希望を、ありま猛先生の30年前の作品が証明してくれたのです。あなたが今書いている作品も、30年後に恺然と発見されるかもしれません。

どうですか、書ける気がしてきましたか? さあ、今日も物語を書きましょう。あなたの傑作を待っています。


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