小説家になりたいならとにかく本を読む|スティーヴン・キングが教える「読む」の本当の意味

2020年8月9日

小説家を目指している方なら、一度は聞いたことがあるでしょうか。スティーヴン・キングの「書くことについて」という名著を。

スティーヴン・キングは1947年生まれのアメリカのホラー小説家です。若い世代には「IT/イット」の原作者と言えば通じるでしょうか。ペニーワイズのネタ画像のほうが有名かもしれませんが。

もう忘れられていく世代に片足を突っ込んでいるかもしれないキングですが、「書くことについて」に記された知恵は今も色褪せません。その中に、小説家志望者が最初にぶつかる問いへの明快な答えがあります。

「小説家になりたいなら、とにかく本を読め」

今回はこの一言の「本当の意味」を掘り下げます。


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キングが言う「とにかく読め」の過激さ

キングの言葉には遠慮がありません。

「待合室は本を読むためにある。劇場のロビーも、レジの順番待ちの列も、トイレも同様」──彼はそう書いています。さらにこう続けます。

「食事中に本を読むのはハイソサエティの礼儀作法に反するとされている。だが、作家として成功したいのなら、そんなことは気にしなくていい。礼儀作法は気にしなければならない事柄の下から二番目にある。ちなみに、いちばん下にあるのはハイソサエティそのものだ」

要するに、「本を読む時間がない」は言い訳だと言い切っているわけです。

私もつい「忙しくて読めない」と言ってしまいます。でもキングに問われたら答えに窮します。食事のとき、入浴のとき、トイレのとき、通勤時間。本当に読む時間はゼロですか? 周囲の目線を気にして読まないだけじゃないですか? と。


読書は「インプット」ではなく「模倣」である

「本を読め」と言われると、多くの人は「知識を増やすため」「ネタを仕入れるため」と解釈します。もちろんそれも正しい。でもキングが本当に言いたいのは、もっと根本的なことです。

彼はこう書いています。

「気に入った文体があれば、それを真似すればいい。何も悪いことではない。他人の文体のブレンドは、自分の文体を作り上げるために欠かせないものである」

読書の本質は、小説家という存在を模倣することなんです。

「学ぶ」という言葉の語源は「まねぶ(学ぶ)」と同源で、「まねる(真似る)」とも同じ語源だと言われています。人類が進化してきたのは模倣のおかげだという研究もあります。サルの中で真似ができるのは人間だけで、しかも人間は何かを模倣するとなったら一切を忠実に、儀礼的に模倣する「過剰模倣」を行うのが特徴です。

つまり本を読むとは、自分は小説家なんだと思い込み、小説家になりきるための行為です。知識の仕入れではなく、存在の模倣。だから「とにかく読め」なのです。


出来の悪い小説にも価値がある

キングは良い作品だけを読めとは言っていません。

「これまで何がなされたか、何がなされていないか。何が陳腐で、何が新鮮か。ページの上で、何が生きていて、何が死んでいるか。本を読めば読むほど、ペンやワードプロセッサーで物笑いの種になるリスクは減る」

「出来の悪い小説は、してはいけないことを教えてくれる」

ここが大事なポイントです。小説の出来の良し悪しは、一冊だけ読んでも分かりません。2冊以上の似たジャンルの作品を読んで初めて、「Aの本はBの本より面白い」「Aの文体はBの文体より読みやすい」という比較分析が可能になります。

異世界転生の小説を一冊も読まずに異世界転生を語るなということですね。

そして出来の悪い作品を読んだとき、「なぜつまらないのか」を言語化できるかどうか。それができれば、同じ失敗を自分の作品で避けられます。良い作品からは「何をすべきか」を学び、悪い作品からは「何をしてはいけないか」を学ぶ。両方を読んで初めて、技術の輪郭が見えてきます。


「読む力」は「分析する力」に直結する

ただ読むだけでは足りません。

先ほど引用した「何が生きていて、何が死んでいるか」を見極めるには、意識的に読む必要があります。具体的には、こういう問いを立てながら読みます。

• この冒頭で読者を引き込めているのはなぜか?

• この台詞はキャラクターの個性を出しているか、説明の代用になっていないか?

• このシーンの視点は誰のものか? なぜこの視点を選んだのか?

• クライマックスの感情が最大化されているのはどの伏線のおかげか?

こういった問いを持って読む人と、「面白かった」で閉じる人では、同じ一冊から得られるものが天と地ほど違います。

優れた作品から学べるのは、文体、品格のある叙述、プロットの展開、立体的な人物造形、誠実な語り口──キングの言葉を借りればこれだけあります。でもそれは、分析の目を持って読んだ人だけが受け取れる贈り物です。


楽しくなければ、やらないほうがいい

キングは残酷なことも書いています。

「楽しくなければ、やらないほうがいい。もっと才能があり、もっと楽しめる道に進んだほうがいい。しかるべき才能があり、それを楽しむことができるのなら、まったく苦にはならないはずだ」

本を読み続けること、そして本を書き続けることを楽しめなければ、小説家としては芽が出ない──そう言われているように感じます。

私自身、この文章を読んだとき、自分はどれだけ小説の読み書きを楽しめているかと自問自答しました。毎日がつらいわけではない。でも「苦にならない」と胸を張って言えるかと問われると、正直なところ揺らぐ瞬間もあります。

でも、だからこそキングのこの言葉は厳しくも優しいと思うのです。「楽しめているなら、あなたは道の上にいる」という裏返しのメッセージでもあるのですから。


読む時間がない人へ

キングの時代にはなかったツールが、2026年の私たちには2つあります。

ひとつはオーディオブック。AmazonのAudibleが代表的です。両手がふさがった移動中や家事中が読書時間に変わります。私は「本好きの下剋上」をAudibleで聴きましたが、声優の井口裕香さんが9時間50分かけてナレーションしてくれる没入感は、文字とはまた違った体験でした。

もうひとつは電子書籍の読み放題。Kindle Unlimitedなら月額980円で12万冊以上が読み放題です。ファンタジーの背景資料から創作指南書まで、巨大図書館が自宅にあるようなものです。

ツールは進化しました。でもキングの教えの本質は変わりません。

「とにかく読め。楽しめるなら、あなたにはその資格がある」


一流との差は埋まらないか

キングからは「子供の頃から読んでいなければ、一流の作家との間には追いつけない差がある」と言われるかもしれません。それでも、一生をかけて完璧な作品を一冊だけ出すと決めれば、凡人だって10年後、20年後に到達できる可能性はあります。

私の戦い方は、そういう戦い方です。

今日も本を読みましょう。そして明日は、その本から盗んだ文体のかけらで、自分の物語を書きましょう。


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