小説の「人称」と「視点」の決め方|一人称・三人称の選び方完全ガイド

2021年9月27日

「一人称で書くか、三人称で書くか」。

この問いに答える前に、まず「人称」と「視点」は別の概念であることを理解してください。この2つを混同すると、視点のブレた読みにくい文章になります。

この記事では、人称と視点の定義を明確にし、4つのパターンの比較と、あなたの作品に合った選び方を解説します。

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「人称」と「視点」の違い

人称=語り部は誰か

人称とは、物語を語る主体が自分をどう呼ぶかです。

一人称: 「私」「僕」「俺」で語る。語り手=物語の中のキャラクター

三人称: 「彼」「彼女」「太郎」で語る。語り手=物語の外側にいる存在

二人称(「あなたは〜した」)もありますが、ゲームブックなどの特殊な形式を除き、小説ではほとんど使われません。

視点=カメラがどこにあるか

視点とは、物語をどの位置から見ているか、どの範囲の情報にアクセスできるかです。

単一視点: 1人のキャラクターからのみ見る

多視点: 複数キャラクターの視点を使う

全知視点: すべてのキャラクターの内面にアクセスできる

組み合わせで4パターンが生まれる

パターン人称視点説明
一人称単一視点一人称単一1人の「俺」「私」で最後まで語る
一人称多視点一人称章ごとに語り手が変わる
三人称単一視点三人称単一1人に寄り添って「太郎は〜」と書く
三人称全知視点三人称全知神様の目ですべてを俯瞰する

多くの創作者が「一人称か三人称か」の二択で悩みますが、実際には4パターンの中から選ぶことになります。

4パターンの詳細比較

パターン1:一人称単一視点

例: 『涼宮ハルヒの憂鬱』(キョン視点)、『氷菓』(折木奉太郎視点)

メリット:

• 読者との一体感が最も強い

• キャラの内面を深く掘り下げられる

• 語り手の「声」がそのまま作品の文体になる

デメリット:

• 語り手不在の場面が書けない(一人称の6つの制約を参照)

• 情報の伝達に制限がある

• 語り手の言語能力に地の文が制約される

向いている作品: ミステリー、恋愛、青春、日記形式

パターン2:一人称多視点

例: 『デュラララ!!』、『Fate/strange Fake』

メリット:

• 一人称の没入感を保ちつつ、複数キャラの内面を描ける

• 同じ出来事を複数の視点から描くことで、真実の多面性を表現できる

デメリット:

• 視点キャラが多すぎると読者が混乱する

• 各キャラの「声」(文体)を差別化する技術が必要

• 章の切り替えで流れが途切れるリスクがある

向いている作品: 群像劇、サスペンス、複数の陣営が対立する物語

パターン3:三人称単一視点(限定三人称)

例: Web小説の大多数、ハリー・ポッターシリーズ

メリット:

• 一人称の没入感と三人称の客観性の両方を得られる

• 章単位で視点キャラを変えられる柔軟性がある

• Web小説の読者が最も慣れているフォーマット

デメリット:

• 視点のルールを厳格に守る必要がある(ブレると混乱)

• 一人称ほどの「文体の味」は出しにくい

向いている作品: ラノベ全般、異世界もの、アクション、Web小説

パターン4:三人称全知視点

例: 司馬遼太郎作品、『指輪物語』、古典文学全般

メリット:

• 情報の自由度が最高

• 壮大なスケールの物語に対応

• 時系列の前後移動が自由

デメリット:

• キャラクターへの感情移入が薄くなりやすい

• 誰の視点で読めばいいか迷う読者が出るリスク

• 「なんでも見える」ゆえにサスペンスが生みにくい

向いている作品: 歴史小説、大河ドラマ、叙事詩的ファンタジー

(三人称の3種類の詳細は三人称の書き方ガイドで解説しています)

ジャンル別の傾向データ

2025年のWeb小説・ラノベ市場における傾向をまとめます。

ジャンル主流の人称・視点理由
異世界転生・転移三人称単一 or 一人称ステータス画面表示との相性
悪役令嬢一人称単一令嬢の内面独白がジャンルの核
ラブコメ一人称単一「相手の気持ちが分からない」ドキドキ
ミステリー一人称単一情報制限がフェアプレイ
群像劇三人称多視点 or 一人称多視点複数キャラの物語を並行
戦記もの三人称全知戦場の俯瞰が必要
ホラー一人称単一恐怖の没入感
日常系一人称単一語り手のフィルターが味になる

新人賞の傾向

ライトノベルの新人賞では、一人称と三人称単一視点がほぼ半々。ただし、審査員は「視点のブレがないか」を厳しくチェックします。どのパターンを選んでも、一貫性が最重要です。

人称・視点のタブー

タブー1:同一シーン内での視点移動

1つのシーン(場面転換なし)の中で、AからBに視点を移す。これは「ヘッドホッピング」と呼ばれ、最も指摘されやすいNG行為です。

NG例:
太郎は花子の手を握った。緊張で手が震えている。
花子は心臓が止まるかと思った。こんなに嬉しいことがあるだろうか。

太郎の視点→花子の視点に、区切りなく飛んでいます。

修正例(太郎視点に統一):
太郎は花子の手を握った。緊張で手が震えている。花子が目を見開き、頬が赤くなるのが分かった。

タブー2:異なる人称の混在

一人称で語っていたのに、突然三人称になる。

NG例:
俺は走った。曲がり角を曲がると、太郎は敵の姿を見つけた。

「俺」と「太郎」が同一人物を指しているため、読者は混乱します。

例外: 挿入される手紙・日記・別キャラの独白など、明確に区切られた部分での人称変更はOK。

タブー3:視点キャラが知り得ない情報を書く

NG例(太郎視点):
太郎は教室にいた。その頃、花子は図書室で泣いていた。

太郎が知りようのない花子の状況を、太郎の視点のまま書いています。

途中で人称を変更してもいいのか

連載中の作品で「人称を変えたい」と思うことがあります。結論から言えば、章単位での変更であれば可能です。

成功例

• 本編は三人称、特別編・番外編は当該キャラの一人称

• 序章だけ全知三人称で世界観を提示し、1章からは一人称

• 各キャラの視点章は一人称、全体の進行は三人称

失敗しやすいケース

• 同一章内で一人称と三人称が混在

• 明確な区切りなく人称が変わる

• 読者に「なぜ人称が変わったのか」の理由が伝わらない

迷ったときの選び方フローチャート

Q1:主人公は1人ですか?
→ はい → Q2へ
→ いいえ(2人以上) → 三人称多視点 or 一人称多視点

Q2:主人公の内面を深く掘り下げたいですか?
→ はい → Q3へ
→ いいえ(行動中心の物語) → 三人称単一視点

Q3:主人公の「語り口」に個性がありますか?
→ はい(キョンのような語り手) → 一人称単一視点
→ いいえ(標準的な語り方) → 三人称単一視点

迷ったら三人称単一視点を選んでください。Web小説の読者が最も慣れており、技術的にもバランスが良いフォーマットです。

人称変更リライトの実践

既存の作品を別の人称で書き直す「人称変更リライト」は、文章力向上の優れた練習法です。

一人称→三人称への変換

1. 「俺」「僕」を「太郎」「彼」に置換
2. 内面描写を外面描写に変換(「嬉しかった」→「口元が緩んだ」)
3. 語り手の主観的な比喩を、客観的な描写に変更
4. 語り手が知り得ない情報を、必要に応じて追加

三人称→一人称への変換

1. 「太郎」「彼」を「俺」「僕」に置換
2. 他キャラの内面描写を削除し、外からの推測に変更
3. 語り手の視点が届かない場面を削除またはリライト
4. 地の文に語り手の「声」(主観や感想)を加える

この練習を3作品ほどやると、人称ごとの特性が体感で理解できます。

この記事のまとめ

概念定義
人称語り手が自分をどう呼ぶか(一人称/三人称)
視点カメラの位置(単一/多/全知)
パターン特徴おすすめ
一人称単一最高の没入感ミステリー・恋愛・青春
一人称多視点複数キャラの内面群像劇・サスペンス
三人称単一バランス型Web小説全般(迷ったらこれ)
三人称全知最高の自由度歴史・大河

人称と視点の選択は、物語の設計図の第一ページです。どのパターンを選んでも、そのルールを一貫して守ること。それが読みやすさの土台になります。


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