【映画×創作】2022年『THE FIRST SLAM DUNK』に学ぶ「視点の転換」と体感型描写

2023年1月3日

2022年、伝説の漫画がまさかの映画化。しかも、主人公は桜木花道ではなく宮城リョータでした。この事実だけで、本作が単なる「原作の映像化」ではないことが分かります。

構造的な問いを考えてみましょう。「原作ファンが30年間読み返し続けた山王戦の結末を知っているのに、なぜ泣いたのか」。結末を知っている物語で観客を泣かせる。これって創作者としてもすごく気になる問いですよね。リメイクやスピンオフを書くすべての人に関わるテーマです。この問いに対して、3つの仮説から考えてみます。

なお、これらの仮説は独立したものではなく、互いに補強し合う関係にあります。視点転換が有効なのは、説明しない演出と喪失の物語が組み合わさっているからこそです。一つずつ見ていきましょう。

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仮説1:視点転換による「再文脈化」

原作では詳細が語られなかった宮城リョータの過去。沖縄での幼少期、兄・ソータとの死別、母との確執。これらが加わることで、山王戦の意味そのものが一変しました。

原作では「湘北高校」対「山王工業」というチーム戦の側面が強いですが、映画では「宮城リョータ個人の再生」という縦軸が貫かれています。これにより、花道が背中を痛めるシーンも、流川がパスを出すシーンも、すべて「リョータの視界」を通じて再解釈されます。

この技術の核心は、「新しいエピソードを足した」ことではなく、「既存のエピソードの意味を変えた」ことにあるんじゃないかなと感じます。山王戦の試合内容は原作と同じです。しかし、リョータの過去が加わることで、同じプレイが「兄の夢の継承」として読み替えられる。つまり、視点を変えるだけで、まったく別の物語が生まれるのです。

これは「羅生門効果」とも呼べる手法です。同じ出来事でも、語り手が変われば物語が変わる。黒澤明の『羅生門』以来、何度も使われてきた古典的な技法ですが、30年の時間差で適用した本作のスケールは破格と言うほかありません。

さらに興味深いのは、視点転換が「原作を否定しない」形で実現されている点です。花道が主人公の原作を「間違いだった」とするのではなく、「花道の物語の裏でリョータの物語も同時に進行していた」という設計になっています。原作を壊さず視点を加える。このバランス感覚は、スピンオフを書く際の重要な指針です。

もしあなたの作品で試すなら、脇役にスポットライトを当てて、本編の裏側で何を感じていたかを想像してみるのも面白いですよ。「あの時、あいつは笑っていたけど、本当は泣いていたんじゃないか」。その妄想が、スピンオフや群像劇の深みを生むんですよね。
ここで一つ、分からないことを正直に記しておきます。視点転換が「元の作品の価値を下げるリスク」と「元の作品の価値を上げる相乗効果」のどちらに転ぶかの境界線は、まだ明確に言語化されていません。本作は成功例ですが、同じ手法で失敗したリメイクも無数にあります。その境界線がどこにあるのかは、引き続き考えていきたいテーマです。

仮説2:「説明しない」演出が読者の知性を信頼する

本作の最大の特徴は、モノローグ(心の声)が極端に削られていることです。原作にあった解説役のセリフもほとんどありません。代わりに、息づかい、目線、汗の粒、そして音で状況を伝えます。

バスケットボールがネットを揺らす音。バッシュが床を擦る音。それらが雄弁に語るのです。「今、流れが変わった」「焦っている」「ゾーンに入った」と。観客は、音だけで試合の流れを「体感」として理解します。頭ではなく、体で分かる。これが本作の演出の真髄です。

この手法がなぜ効果的なのか。私は、観客の想像力を信頼しているからだと感じます。『ダークソウル』や『ELDEN RING』の「語らずして語る」手法に近いですね。プレイヤー(読者)を信頼して、状況証拠だけで物語を理解させる高度な演出です。

小説では音そのものを流せませんが、身体感覚の描写で再現できます。「心臓がうるさい」「視界が狭まる」「汗が目に入る」。解説的な文章(「彼は緊張していた」)ではなく、身体の反応を積み重ねるのです。そうすることで、読者はキャラクターと一体化し、試合会場にいるかのような没入感を味わえます。

ただし、この「説明しない」技法にはリスクもあります。読者が不親切だと感じる可能性があるからです。本作が成功しているのは、「何を説明しないか」の選定が的確だったからだと考えます。試合のルールや状況は映像で明示しつつ、キャラクターの感情だけを「説明しない」。情報と感情を分離し、感情だけを読者の想像に委ねるという設計がなされているのです。

これは実は、【映像で見せるには最適解】でありながら、【小説でも再現可能】な技術です。小説の場合、「状況」は地の文で明示し、「感情」は身体反応だけで描く。この分離を意識するだけで、描写の質が変わります。

まず「彼は怒った」を「拳を握りしめた筋が浮いた」に書き換えてみるところから始めてみませんか。この練習を続けていくと、身体描写の引き出しがどんどん増えていきますよ。

付け加えると、この「身体描写で感情を描く」技術は、スポーツもの以外にも応用が効きます。恋愛小説で「彼女は緊張していた」と書く代わりに、「グラスを持つ手がかすかに震えていた」と書く。ファンタジーで「彼は恐怖を感じた」と書く代わりに、「剣を握る手が汗で滑った」と書く。全ジャンル共通の基礎技術です。

仮説3:「喪失と受容」がスポーツを人生賛歌に変える

試合終了後のシーンも印象的でした。ただ勝って終わりではない。勝った後の静けさ、海辺での母との会話。そこには「勝利」以上の「解放」がありました。

「生きていてよかった」。そんなセリフは一言もありませんが、画面全体がそう叫んでいます。言葉にせずに感情を届ける。ここでも「説明しない」技法が活きています。スポーツ漫画の枠を超え、ヒューマンドラマとして成立させた要因です。

兄・ソータの死という過去の痛みは消えません。しかし、それを受け入れて生きていくことはできる。この「喪失と受容」が描かれているからこそ、ただの試合が人生賛歌になるのです。

私が思うに、スポーツものが「ただの試合」を超えるための条件は、「コートの外から持ち込まれた荷物」を描くことなのかもしれません。リョータは「バスケだけ」をしているのではなく、兄との記憶、母との確埧、沖縄の海。そのすべてを背負ってコートに立っている。この「コート外の重力」が、一度のドリブルを人生の転換点に変えるのだと感じます。

ここで注目すべきは、井上雄彦先生が23年の沈黙を経て到達した「引き算」の技法です。原作連載時のスラムダンクは「足し算」の作品でした。ギャグ、解説、モノローグ。そのすべてを削り落とし、コート上の息づかいだけを残した。これは作家としての成熟であり、「書かない勇気」の証明ではないでしょうか。

すべてを説明したくなるのが書き手の本能です。しかし、時に「説明しないこと」が最大の説得力を持つ。この逆説は、私たちの創作にも深く関わってきます。行間を読ませる技術は、決まれば最強の武器になるかもしれません。

ここで一つ、仮説の検証をしておきましょう。井上先生は、原作連載終了後も『バガボンド』で同様の「引き算」を実践しています。セリフを削り、表情と動きだけで語る。つまり、本作の演出は「映画用の特殊な判断」ではなく、作家としての一貫した哲学の延長線上にあると言えます。

以上の3仮説は、いずれも「引き算」という共通の思想で貫かれています。視点を絞り、セリフを削り、そしてコート外の人生を凝縮する。足すのではなく引くことで、残ったものの輝きが増す。この逆説を、最後にまとめておきましょう。

まとめ

『THE FIRST SLAM DUNK』から学べる創作のポイントは以下の3点です。

1. 主人公を変えて「同じ出来事」を「別の文脈」で語り直す
2. 説明セリフを捨て、身体感覚(音、痛み、視界)で描写する
3. 勝利の先に「人生の受容」や「解放」を用意する

勉強になりました。名作のリメイクとは、形をなぞることではなく、魂を継承することなのかもしれません。そしてその継承は「足し算」ではなく「引き算」で行われることがあると、井上先生は見せてくれました。

そしてこの「引き算」は、才能だけでできるものではありません。加えることは若い書き手にもできますが、削るには経験と覚悟が要ります。「これを書かなくても伝わる」という判断は、そのジャンルを深く理解している人間にしかできないのですから。私たちも、自分の過去作をリライトする時は、この精神を思い出したいですね。

これを参考にどんな設定が作れるでしょうか。例えば、勇者パーティの荷物持ち視点で魔王討伐を描いたり、事件を解決する探偵ではなく助手視点で「探偵の孤独」を描くミステリーなんてのも面白そうです。視点を一つずらすだけで、同じ物語がまったく違う作品に生まれ変わるんですよね。

ゲームでいえば、『ファイナルファンタジーVII リバース』がザックス視点で物語を描いたように、既存の物語の「もう一つの視点」は、創作者にとって尽きない鉱脈だと感じます。

どうですか、書いてみたくなりましたか。あなたが一つの視点を見つけられたなら、私はとても嬉しいです。もし描写に詰まったら、このブログに戻ってきてください。「説明しない勇気」のヒントが、ここにあります。

次の物語を書くとき、主人公を変えてみませんか。見慣れた物語が、まったく新しい景色を見せてくれるはずです。引き算の勇気を持って、先を楽しみにして書いてみましょう。

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ここまで読んで頂きありがとうございました。
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