副業作家の「見えないコスト」——確定申告、就業規則、「報告」の壁
こんにちは。腰ボロSEです。
転職の話や、IT企業での経験が小説に還元される話を書いてきました。今回はもう少し泥臭い話をします。副業作家を続ける上で、誰も教えてくれない「見えないコスト」の話です。
受賞の翌日に調べたのは「確定申告」だった
Web小説投稿サイトで書籍化が決まったり、公募で賞を獲ったりした瞬間は、もちろん嬉しいものです。でも翌日には現実が押し寄せてきます。
「これ、確定申告しないといけないんだよな」
会社員は年末調整で税務処理が完結する世界に住んでいます。源泉徴収票をもらって、保険料の控除証明書を添付して、あとは会社がやってくれる。ところが副業で収入が発生した瞬間、その「お任せ」は使えなくなります。
副業収入が年間20万円を超えたら、確定申告が必要です。印税は源泉徴収されて振り込まれますが、それは「納税完了」ではなく「仮払い」です。翌年の2月から3月に、自分で計算して申告しなければなりません。
これが地味に大変です。領収書の整理、経費の仕分け、青色申告にするか白色にするか。同人誌の印刷費は経費になるのか。取材のための映画鑑賞は経費にできるのか。校正のために買った赤ペンは——さすがにこれは金額が小さすぎますが、「どこまでが経費か」の線引きは毎回悩みます。
私は最初の確定申告で丸2日かかりました。会計ソフトの使い方を覚えるところからです。その2日で短編が1本書けたと思うと、なかなかの「見えないコスト」です。
ちなみに、2年目以降は半日で終わるようになりました。慣れます。ただし「慣れる」までの初年度が最もハードルが高い。ここで腰が引ける人は少なくないのではないでしょうか。
就業規則という名のラスボス
確定申告よりも精神的にきついのが、就業規則の確認です。
多くの企業では、就業規則に副業に関する条項があります。「許可制」「届出制」「原則禁止」「禁止規定なし」の4パターンに分かれますが、問題は「許可制」と「原則禁止」です。
「許可制」の場合、会社に申請して許可を得る必要があります。申請書類には副業の内容、予想される収入、本業への影響がないことの説明などを書くのが一般的です。ここで心理的な壁が立ちはだかります。
「上司にラノベを書いていることを言わなければならない」
これがきついんです。「ライトノベルを書いています」と上司の前で言えるかどうかは、職場の文化に大きく依存します。「小説を書いています」なら知的な趣味として通りやすい。でも「ライトノベルを書いています」と言った瞬間、相手の頭に浮かぶイメージは人によってかなり違います。
実際には、近年の副業解禁の流れもあり、申請すれば通るケースがほとんどです。2018年に厚生労働省が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を策定して以降、副業を認める企業は増えてきました。でも「制度上は認められている」ことと「気軽に申請できる」ことの間には、かなりの距離があります。
「原則禁止」の会社にいる場合は、さらに判断が複雑になります。法律上、会社が副業を完全に禁止することは難しいとされていますが、就業規則違反で懲戒処分を受けるリスクはゼロとは言い切れません。書籍化の話が来ているのに就業規則が壁になる——その状況は想像以上にストレスフルです。
「バレる」メカニズムと住民税の話
副業が会社にバレる経路として最も多いのが、住民税の金額変動です。
会社員の住民税は、給与から天引きされる「特別徴収」が一般的です。翌年度の住民税額は前年の総所得に基づいて計算され、その通知が会社に届く仕組みになっています。副業で収入が増えると、住民税の額が給与だけの場合より高くなり、「あれ、この人の住民税、妙に高いな」と経理担当が気づくかもしれません。
対策としては、確定申告の際に住民税の徴収方法を「自分で納付(普通徴収)」に切り替える方法があります。そうすれば副業分の住民税は会社を経由せず、自宅に納付書が届く形になります。ただし自治体によっては対応していない場合もあるので、事前に確認が必要です。
こういう「税務の細かい話」は、出版社も編集者も教えてくれません。受賞パーティーで「住民税の普通徴収って知ってます?」なんて会話は聞いたことがない。でも兼業作家にとっては死活問題です。
「相談できる相手がいない」という孤独
副業作家の見えないコストで最も辛いのは、実はお金でも手続きでもなく、「相談できる相手がいない」ことかもしれません。
確定申告のやり方は税務署に聞けます。就業規則は人事部に確認できます。でも「兼業でラノベを書いている会社員が確定申告で気をつけるべきこと」をピンポイントで教えてくれる人は、なかなか見つかりません。
同業の作家仲間に聞いても、専業と兼業では状況が違います。専業作家は確定申告が当然の前提で動いているし、就業規則の問題もない。「そのへんは税理士に聞けば?」と言われても、印税が年に数十万円の段階で税理士に依頼するのは費用対効果が合わない。
結果、深夜にひとりで国税庁のサイトを読み込むことになります。e-Taxの画面と格闘しながら、「この時間で何文字書けたか」と考える。創作者としての本能が「書かせろ」と叫んでいるのに、手は電卓を叩いている。あの虚しさは、経験した人にしかわかりません。
見えないコストを「見える化」する
ここまで書いてきた確定申告、就業規則、住民税、相談相手の不在。これらは全部、「書きたい」という意志だけでは解決できない問題です。
でも、逆に言えば「知っていれば対処できる」問題でもあります。確定申告は2回目から楽になる。就業規則は一度確認すれば済む。住民税は手続きひとつで解決する。
厄介なのは、これらの情報がまとまっている場所がないことです。作家向けの指南書は「文章の書き方」や「投稿のコツ」ばかりで、「兼業作家の税務入門」みたいな実用書は見かけません。
だからこそ、この記事を書いています。「受賞しました、おめでとう」のあとに来る「で、確定申告って何をすればいいの?」に答えるものが、どこかに必要だと思ったからです。格好いい話ではないけれど、連載を続けるために必要な「もうひとつの技術」です。
装備を整えるには金貨がいる。でも金貨の管理そのものに体力を取られていたら、冒険に出る前に疲弊してしまいます。地味な準備を先に済ませておくこと。それも兼業作家のスキルのひとつです。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
さて、今日も物語を書きましょう。腰は壊しても、筆は折らない。
腰ボロSE
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