【映像×創作】映画『かがみの孤城』から学ぶ——7人の並行ストーリーと「叫ばない感動」の設計術

2022年12月28日

2022年公開のアニメ映画『かがみの孤城』は、辻村深月の同名小説をA-1 Picturesがアニメ化した作品です。不登校の中学生7人が、鏡の向こうにある謎のお城に招かれ、そこで出会い、互いに影響を与え合いながら成長していく——そんな群像劇です。

 中学生の悩みを題材にした作品で、絶海の弧城に集められた7人の子供たちや、主人公の周りの大人が優しく、最後はあたたかい気持ちになれる素敵な映画でした。

 それでいて、新しい視聴感を得られる映画でした。A-1 picturesはいい仕事しますね。

この映画は、物語を書く人間にとって非常に学びの多い作品です。特に「複数キャラクターを同時に動かす技術」と「叫ばない感動演出」の観点から、創作に応用できる要素が詰まっています。

感動シーンに「叫び」はいらない

まず最初に、この映画で最も印象的だった演出上の選択について話したいです。

アニメ映画のクライマックスには、しばしばキャラクターが叫ぶ演出が使われます。感情を高ぶらせ、涙を引き出す定番の手法です。同じA-1 Picturesが2011年に制作した『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』——通称「あの花」——では、クライマックスの叫びシーンが語り草になっています。

しかし『かがみの孤城』は、この手法をほとんど使いません。物語は淡々と、静かに進みます。それでも、主人公こころが学校に戻ることを決意する場面や、アキを救おうとする場面では、十分な感動が生まれます。

これはなぜでしょうか。

答えは「情報量」にあります。叫びは感情の爆発であり、「今ここで大きな感情が動いている」ということを観客に強制的に知らせる手法です。しかし物語の前半から丁寧に積み上げられたキャラクターへの共感があれば、叫びがなくても観客は感動できます。むしろ静かな演出のほうが、それまでの蓄積を生かせることがあります。

声で感情を表さなくても、与えられた情報だけで人は泣けます。創作における重要な発見です。

7人の悩みを並行させる構造

この映画の最大の特徴は、7人のキャラクターそれぞれが固有の悩みを抱え、並行して物語が進む点です。7つの物語を一本の映画に詰め込みながら、散漫にならずにまとまっているのは、構造的な設計が機能しているからです。

7人のキャラクターと悩みを整理すると、次のようになります。

こころは、同級生からのいじめによる不登校です。ウレシノは、無自覚に周囲にズレた行動をとってしまう孤立です。マサムネは、誇張した自慢が原因でハブられた孤独です。スバルは、親を失った環境による孤立です。フウカは、親の過度な期待と、それに応えられなかった自己否定です。アキは、家庭内暴力という親そのものが敵である状況です。リオンは、早くに亡くなった姉への思慕と、海外に留学させられた孤独です。

このリストを見ると分かるように、悩みの「根源」が意図的にバリエーション豊かに設定されています。いじめ、家庭、自己認知の歪み、喪失——それぞれの悩みが読者の異なる層に刺さるよう設計されているのです。

群像劇を書くとき、この設計の考え方は非常に参考になります。「悩みを複数作る」のではなく、「悩みの根源が重ならないように複数作る」ことが大切です。同じ種類の悩みを持つキャラクターが複数いると、物語が冗長になります。

「親が味方か、敵か」という軸

かがみの孤城のキャラクター設計で特に興味深いのは、「親との関係性」で7人をパターン分けしている点です。

こころ・ウレシノ・マサムネは親が味方です。スバル・フウカ・アキは親が敵、あるいは親に傷つけられています。リオンは親の善意による孤独という特殊なパターンです。

この設計が機能する理由は、「親が味方である孤独」と「親が敵である孤独」では、解決の道筋がまったく違うからです。親に守られながら学校に居場所がないこころと、家庭そのものに居場所がないアキとでは、状況の深刻度が根本的に異なります。同じ「不登校」という状態でも、背景の多様性がキャラクターを立体的にします。

あなたの書く物語に複数の登場人物がいるなら、「誰が味方で誰が敵か」という軸を複数のキャラクターでバリエーションをつけてみてください。それだけでキャラクターの個性が立ちやすくなります。

時間軸のずれがもたらすカタルシス

この映画最大の仕掛けは、7人が実は同じ街に住む「別の時代」の人間たちだった、という構造です。

城でともに過ごしたはずの仲間たちは、異なる年代を生きています。だから現実では「同時に」出会うことができなかった。その切なさと、エンドロールでの「時代を超えた再会」がセットになることで、映画全体が一つの感動として完成します。

このような「後から明かされる構造的な仕掛け」は、観客に「もう一度見たい」という気持ちを生みます。二度目に見ると、最初には気づかなかった伏線に気づき、作品への愛着が深まります。

物語を書くとき、すべてを最初から明かす必要はありません。むしろ後半にならないと意味が分からない情報を前半に埋め込んでおくことで、物語は「読み返す価値のある作品」になります。作者が仕掛けを信じて書き続ける忍耐が必要ですが、その忍耐に読者は応えてくれます。

狼と七匹の子山羊——古典の構造を現代に

タイトルの副題として「現代版狼と七匹の子山羊」という見方ができます。

七匹の子山羊の原話では、子山羊たちは孤立した城に閉じ込められ(招集)、ルールを定められ(戸締まり)、ルールを破ったものが危険にさらされます。かがみの孤城も、「城に招集→ルール策定(9時〜17時、鍵を使ったら記憶消去)→ルール破り→救い」という構造で進みます。

古典の物語構造を現代に移植する際に重要なのは、「構造は借りるが、登場人物の感情は現代のものにする」ことです。子山羊たちの恐怖を、現代の中学生たちの孤独に置き換えたこの作品は、その移植を見事に成功させています。

古典に親しんでいると、現代の物語を設計するときに非常に有利です。人類が何千年もかけて磨き上げてきた物語の「型」を使うことは、車輪の再発明を避けることでもあります。型を知った上で、そこに現代的な感情と文脈を吹き込む——それが古典を学ぶ最大の意義ではないでしょうか。

中学生のリアルな悩みを描くために

この映画は、中学生にとって「学校が社会のすべて」であるという事実を正直に描いています。家族が味方だとしても、最終的には戦いの場として学校に戻っていく。その現実を綺麗事なしに見せているのが、共感の源泉です。

物語の中で「リアルな悩み」を描くには、主人公の悩みを「社会構造の中に置く」必要があります。個人の性格の問題だけに矮小化せず、その悩みがなぜ生まれるかを社会的な文脈から丁寧に設計する。中学生の悩みを書くなら、学校という閉じた社会における権力関係や、親との関係性を無視することはできません。

あなたが中学生・高校生のキャラクターを書くなら、かがみの孤城の7人の悩みリストはそのままネタ帳として使えるほど、リアルに設計されています。ぜひ参考にしてみてください。

鏡という装置の意味

この映画で「鏡」が異世界への扉として使われていることには、象徴的な意味があります。

鏡は、自分の姿を映し出す道具です。鏡の向こう側の世界は、現実の裏返しであり、自分が「ありたかった姿」を映す場所とも解釈できます。不登校で現実世界に居場所を失ったこころが、鏡を通じて別の世界に招かれる——これは「自分の中に閉じこもった心が、内側から外側に向かって扉を開く」プロセスの象徴でもあります。

物語の設定に「道具や場所の象徴的意味」を意識的に込めることで、物語に深みが生まれます。城そのものも、孤立した子どもたちが集まり、ルールのもとで過ごすという意味で「学校」の比喩として機能しています。現実の学校では傷つけられた子どもたちが、城という別の「学校的空間」で、今度は傷つかずに済む——このシンメトリーが、物語全体に叙情的な余韻を作っています。

あなたの物語の設定やアイテムに、象徴的な意味は込められていますか。設定の意味を思いながら書くと、その積み重ねが読者に「この作品には何か深いものがある」という感覚を与えます。

アキの「時を超えた救い」が与える感動

この映画で最も心が動かされる展開のひとつが、こころがアキを救う場面です。アキは家庭内暴力に苦しんでいますが、こころの行動によって窮地を脱します。そしてエンドロールで明かされるように、アキは後にキタジマアキコという人物として、こころの人生にかかわる存在になります。

過去に与えた優しさが、時を超えて自分に返ってくる——この構造は、読者に「良いことをした記憶が世界をつなぐ」という確信を感じさせます。感動の核はここにあります。

物語の中でキャラクター同士の「縁」を設計するとき、因果応報を単純な報酬として描くのではなく、「覚えていない優しさが時を超えてつながる」という構造にすると、感動に厚みが出ます。読者は「善意は消えない」ということを、物語を通じて体験します。

「普通の教室」への帰還という結末の意味

この物語の結末で、こころは再び普通の教室へと足を踏み入れることができます。城の中
での経験が、現実社会に戻る力を与えたのです。

創作において「主人公が元いた場所に帰る」という構造は、「旅と帰還」の物語の基本型です。しかし重要なのは、帰還したときに主人公が変化しているかどうかです。物語の冒頭と結末で同じ場所にいても、主人公の内側が変わっていれば、それは成長の物語として成立します。

あなたが書く物語で、主人公が「最初と同じ場所に戻る」という結末を選ぶとき、何がどう変わったかを読者に伝える最小限の描写を用意してください。帰還の意味が伝わることで、物語がひとつの円環として閉じていく気がします。

同じ街に住む、別の時間帯を生きる、共通の悩みや過去を持った仲間が、EDでまた出会える展開っていいですね。スタッフロールが流れたときが一番感動しました。

かがみの孤城

 

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