小説を「部分と全体」で考える|エピソードの積み上げ方
「全体の構成を考えてからじゃないと書けない」——そう思っていませんか?
実は、小説の作り方はIT業界の提案書作成とよく似ています。最初から完成形が見えている人はいません。部分を作って、全体でまとめる。この2フェーズで小説は出来上がります。IT業界出身の兼業作家が多いのは、この経験値を積むことができるかもしれませんね。
(IT業界への転職を考えている・興味がある方は、リアルな体験談も読んでみてください)
仕事と小説の共通点
以前、IT業界で提案書を作っていたときの話です。
「オフィスに新しいプリンタを導入する」という提案書を作る場合、最初にやるのは個々の要件の洗い出しです。
• 白黒印刷ができること
• 本社ビルの3階に設置すること
• 無線LAN接続に対応すること
• 月間印刷枚数5,000枚に耐えること
ひとつひとつの要件を個別に検討するのが第一フェーズ。
次に、これらをまとめて「提案書」として全体の整合性を取るのが第二フェーズ。全体でまとめると「あ、3階に設置するなら無線LAN対応よりLANケーブルの方が安定するな」のように、部分同士の関係が見えて修正が入る。
小説もまったく同じ構造です。
フェーズ1:部分を作る
まず、個々のエピソード(シーン)を独立した断片として作ります。
「ネタだし40」がまさにこのフェーズです。「こんなシーンを書きたい」「こんなエピソードが必要だ」を1つずつ書き出す。
このフェーズで嘯癒になりがちなのが、「順番が決まらないと不安」という感覚です。でもこれは提案書でも同じ。個別の要件を洗い出している段階では、最終的な構成を気にする必要はありません。むしろ順番を気にせずに思いついたものを自由に書き出す方が、結果的に良い部品が揃います。
このフェーズでは順番を気にしません。思いついた順に、断片をどんどん作る。
• 主人公がヒロインと出会うシーン
• ラスボスとの最終決戦
• 主人公が修行する回のエピソード
• 仲間が裏切る場面
• 主人公の過去が明かされる回想
バラバラでいい。矛盾があってもいい。まず部品を揃えることが目的です。
フェーズ2:全体でまとめる
部品が揃ったら、時系列に並べ替えます。
「年表」がこのフェーズに対応します。並べ替えると、部分同士の関係が見えてきます。
• 「仲間が裏切る場面」と「主人公の過去が明かされる回想」は、隣に置いた方が効果的じゃないか?
• 「修行シーン」はラスボス戦の直前に置くと時間的に不自然。もっと前に移動しよう
• 「ヒロインとの出会い」と「ラスボス戦」の間に、何かエピソードが不足している → 新しいネタを追加
全体でまとめると、部分も精査される。まとまったものが出来上がる——これは提案書でも小説でも同じメカニズムです。
「完璧な全体像」は最初から見えない
多くの初心者が陥る罠があります。「全体の構成が完璧に見えてから書き始めよう」という待ちの姿勢です。
しかし、全体像は部分を作り始めてから見えてくるものです。
プリンタの提案書も、「月間5,000枚の要件」を検討してはじめて「カラーレーザーだとコストが高すぎる → モノクロレーザー + カラーインクジェットの2台体制がいいのでは?」という全体構成のアイデアが浮かぶ。
小説も同じ。「仲間の裏切りシーン」を書いてみて初めて「あ、この仲間、最初から怪しい伏線を序盤に入れておくべきだ」と全体構成の修正点が見えてくる。
部分を作ることが、全体を見つけるための最速ルートなのです。
モジュール型執筆のすすめ
この「部分→全体」の考え方を現代のツールで実践するなら、モジュール型執筆がおすすめです。
シーン単位で独立したファイル(またはカード)として書き、あとで並べ替える。この方法の最大の利点は、「部分を書く作業」と「全体を組み立てる作業」を完全に分離できることです。「書きながら構成も考える」というマルチタスクは脳に負担がかかるため、分離することでそれぞれの作業の質が上がります。
| ツール | やり方 |
|---|---|
| Notion | カンバンボードで1カード=1シーン。ドラッグ&ドロップで並び替え |
| Scrivener | コルクボードビューで章・シーン単位の管理ができる |
| Nola | シーン管理+キャラ関連付けが可能 |
| Excel | 1行=1シーン。行の並べ替えが自由 |
| 付箋 | 物理的に壁に貼って並べ替え。直感派向き |
どのツールでも原理は同じ。「部品を作る」と「全体で並べる」を分離することがポイントです。個人的には、最初はExcelや付箋などのシンプルなツールで始めて、慣れてきたら専用ツールに移行するのをおすすめします。ツールの習得に時間を取られて執筆が止まるのは本末転倒ですから。
8割完成で世に出す
もうひとつ重要なのは、完璧を求めないこと。
提案書も「8割できたら上司に見せてフィードバックを貰う」のが効率的です。100%仕上げてから見せると、根本的な方向修正が入ったときのダメージが大きい。
小説も同じです。Web小説の投稿サイトなら、8割の完成度で公開して読者の反応を見るのは有効な戦略です。反応を見てから修正する方が、独りで100%を目指すより結果的に良い作品になることが多い。これはソフトウェア開発の「アジャイル」や「リーンスタートアップ」の発想とも共通しています。完璧に作り込んでから世に出すのではなく、早くフィードバックを得て改善する方が、結果的に質が上がる。
ただし8割で出すためにも、「部分」が十分に揃っていて「全体」の並び順がおおむね決まっている必要はあります。2割の状態で出すのは流石に早すぎる。
まとめ
• フェーズ1(部分) → エピソードを個別に作る。順番は気にしない
• フェーズ2(全体) → 時系列に並べ替えて整合性を取る
• 全体像は部分を作り始めてから見える。待っていても降りてこない
• モジュール型執筆ツールで「部品 → 組み立て」を分離する
• 8割で世に出し、フィードバックで仕上げるのも有効
次に読むべき記事
• 部品の作り方(ネタだし40+年表) → プロットが書けない?「ネタだし40」と「年表」
• 部品同士を繋ぐ技術 → プロットの「つなぎ」を意識する
• プロットの定義を理解する → プロットとは何か