ファンタジー小説のファッション知識|中世衣装・現代スタイル・素材まで網羅

2022年5月6日

「衣・食・住」の筆頭に来る「衣」は、キャラクターの外見描写に直結する要素です。しかし現代小説でもファンタジー小説でも、服装の描写は意外と難しい。「おしゃれな服を着ていた」では読者の脳内に何も映りません。具体的な素材、シルエット、色の名前を知っておくだけで、描写の解像度は格段に上がります。

この記事では、中世ヨーロッパの身分別衣装から現代ファッションの分類、素材の特徴、色彩心理まで、小説に使えるファッション知識を体系的に整理します。

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中世ヨーロッパの身分別衣装

ファンタジー小説の舞台となることが多い中世ヨーロッパでは、衣装は身分を示す最大のシグナルでした。「奢侈禁止令(しゃしきんしれい)」によって、着ていい服が法律で決まっていた時代です。

身分代表的な衣装素材特徴
国王・王族マント(ローブ・ロワイヤル)、王冠アーミン(白テン)の毛皮、金糸の刺繍紫・赤・金が王権の色。紫はティリアンパープル(巻貝1万匹で1.5g)
大貴族シュルコ、ブリオー絹、ビロード紋章を刺繍。毛皮の裏地
騎士チェインメイル → プレートアーマー鉄・鋼上にサーコート(紋章入り上着)を着用
聖職者カソック(足首丈の長衣)毛織物色で階級が分かる(枢機卿=赤、司教=紫、司祭=黒)
商人・ギルド員チュニック、ホーズ毛織物、上質な麻富裕でも奢侈禁止令で貴族の服は着られない
農民短いチュニック、ブレー(下穿き)麻、粗い毛織物染色されていない生成り色。靴のない者も多い

中世の「色」は富の象徴でした。鮮やかな染料は高価で、農民が着るのは未染色の灰色や茶色。赤い染料(コチニール、茜)は比較的安価でしたが、紫(ティリアンパープル)は金よりも高く、純粋な青(ウルトラマリン=ラピスラズリ由来)は聖母マリアの衣だけに許されたとも伝えられます。

奢侈禁止令(Sumptuary Laws)

中世ヨーロッパでは身分に応じた衣装が法律で規定されていました。これは単なるドレスコードではなく、社会秩序を維持するための法律です。

主な規制内容
イングランド(1363年)エドワード3世の奢侈禁止令。騎士以下は毛皮の着用禁止
フランス(1294年)フィリップ4世の法令。公爵と伯爵のみ金糸使用可
ヴェネツィア(14世紀)赤い衣装は元老院議員の特権
日本(江戸時代)町人には絹の着用規制。庶民は木綿・麻のみ

奢侈禁止令はファンタジー小説の世界観設計に直結する要素です。「庶民の少女が宮廷に入ったとき、何を着るかで身分詐称がバレるかもしれない」——この緊張感は好侈禁止令が生み出すドラマです。

中世の衣装用語集

小説で中世衣装を描写する際に使える基本用語です。

用語意味備考
チュニック筒型の基本衣服。膝丈〜足首丈古代ローマのトゥニカが原型
シュルコ(Surcoat)チュニックの上に着る袖なし上着騎士が鎧の上に着て紋章を見せた
コタルディ(Cotehardie)体にぴったりしたボタン留めの上着14世紀に流行
ホーズ(Hose)脚にぴったりした靴下兼ズボンタイツに近い。15世紀にはカラフルに
ブリオー(Bliaut)上半身にフィットし裾が広がるドレス12世紀の貴婦人の代表的衣装
エナン(Hennin)円錐型の高い帽子ブルゴーニュ宮廷で流行。「中世のお姫様」の象徴
シャプロン(Chaperon)フード付き頭巾農民から貴族まで広く使用

時代別・衣装の変遷

中世の衣装は数百年の間に大きく変化しています。ファンタジー小説の時代設定を決める際に、どの時代の衣装をベースにするかで世界観のビジュアルが変わります。

時代特徴的な衣装ビジュアルの印象
初期中世(5〜10世紀)ゆったりしたチュニック、マント粗野で質素。ヴァイキング的
盛期中世(11〜13世紀)シュルコ、チェインメイル、十字軍の紋章騎士道時代。『指輪物語』的世界
後期中世(14〜15世紀)コタルディ、エナン、ボタンの普及華やかで装飾的。宮廷文化の成熟
ルネサンス(15〜16世紀)スラッシュ(切込み)装飾、ラフ(襟)ヘンリー8世的な豪華絢爛

「中世風ファンタジー」と一口に言っても、5世紀と15世紀では1000年の開きがあります。衣装のベース時代を決めるだけで、描写に使える具体的なアイテムが絞り込めます。

現代ファッション8スタイル分類

現代を舞台にした小説やキャラクター設定に使える分類です。

スタイルキーワード代表アイテムキャラの印象
カジュアル気楽、日常的Tシャツ、デニム、スニーカー親しみやすい、飾らない
きれいめ清潔感、上品ジャケット、テーパードパンツ、パンプス知性的、大人っぽい
ストリート都会的、大胆オーバーサイズTシャツ、MA-1、ハイカットスニーカー反骨精神、自由
モード前衛的、芸術的アシンメトリーデザイン、モノトーン、構築的シルエット独創的、近寄りがたい
ミリタリー軍服ベースカーゴパンツ、迷彩柄、ドッグタグタフ、実用的
パンク反体制、攻撃的革ジャン、スタッズ、チェーン、破れ反社会的、強い自我
ゴシック暗黒、耽美黒レース、コルセット、十字架モチーフミステリアス、退廃的
アウトドア機能的、自然マウンテンパーカー、トレッキングシューズ活動的、健康的

スタイルの組み合わせ(ミックス)

現実のファッションでもフィクションでも、単一のスタイルだけで構成されるキャラは稀です。2つのスタイルを掛け合わせることで、より個性的な衣装が作れます。

組み合わせ特徴キャラ例
きれいめ×ストリートジャケットにスニーカー裏表のある二面性キャラ
カジュアル×ミリタリーカーゴパンツにTシャツ冒険好きで行動的なキャラ
ゴシック×モード黒のアシンメトリーにレース芸術家肌の退廃キャラ
パンク×カジュアル革ジャンにデニム「見た目は怖いが普通の人」ギャップ型

キャラクターのスタイルを決めておくと、登場するたびに一貫した服装描写ができます。また、スタイルの変化でキャラクターの内面の変化を示す技法もあります(例:地味なカジュアルから徐々にモードに変わっていく=自己主張の目覚め)。

ファッション4象限で考えるキャラ作り

ファッションを「保守的←→先鋭的」「シンプル←→カオス」の2軸で4象限に整理すると、衣装だけでキャラクターの性格が浮かび上がります。

象限位置づけキャラ例
シンプル×保守的 = きれいめ常識的で知性派生徒会長タイプ、秘書キャラ
シンプル×先鋭的 = モード独創的で近寄りがたい天才タイプ、異端者
カオス×保守的 = カジュアル親しみやすく飾らない主人公の友人ポジション
カオス×先鋭的 = ストリート反骨精神旺盛不良キャラ、革命家タイプ

この4象限を使えば、パーティメンバー4人にそれぞれ異なるスタイルを割り当てるだけで、視覚的にキャラが立ちます。小説において「帽子をかぶったあいつ」「黒尽くめのあいつ」といった一言で識別できる要素は読者の助けになります。

和服の基礎知識

日本の創作では和装キャラも頻出しますが、和服の基本構造を知っておくと描写の精度が上がります。

用語意味備考
着物和服の総称。広義では浴衣も含む右前(右が下)で着る。逆は死装束
着物を固定する布。結び方で格が変わる袋帯(フォーマル)、半幅帯(カジュアル)
袴(はかま)腰から下に着るプリーツ状の衣男性用は馬乗袴、女性用は行灯袴
羽織(はおり)着物の上に着る丈の短い上着男性のフォーマル。紋付羽織袴が正装
振袖袖丈の長い着物。未婚女性の第一礼装大振袖→中振袖→小振袖で格が変わる
十二単(じゅうにひとえ)平安貴族の正装。複数の衣を重ねる「十二」は数ではなく「たくさん」の意。実際は5〜6枚が標準

和服の色と身分

和服でも色は身分を示す重要な要素でした。

意味時代背景
最高位(冠位十二階の最上位)聖徳太子の制定。「禁色(きんじき)」として天皇・上皇のみ
黄丹(おうに)皇太子の色一般人の着用禁止
紅梅高貴な女性平安時代の重ね色目として人気
鼠色(ねずみいろ)庶民江戸時代、奢侈禁止令で庶民が工夫した「粋の色」

江戸時代の町人が奢侈禁止令の制約下で「四十八茶百鼠」(48種の茶色と100種の灰色)という微妙な色の違いを楽しんだ話は、制限があるからこそ文化が洗練されるという好例です。

靴と装身具——小物が語るキャラの物語

衣服だけでなく、靴や装身具もキャラクター描写に使える重要な要素です。

靴の種類と印象

靴の種類性格の暗示使用例
革靴(オックスフォード)規律正しい、保守的執事、軍人、ビジネスマン
ブーツ(ロングブーツ)行動的、戦闘向き騎士、冒険者、傭兵
サンダル開放的、自由修道士(フランシスコ会は裸足にサンダル)、旅人
スニーカーカジュアル、若い現代もの主人公、学生
ハイヒールフォーマル、威厳元々は男性貴族の靴。ルイ14世が愛用

ルイ14世がハイヒールの赤い靴底を宮廷の特権にしたのは有名な話です。現代でもクリスチャン・ルブタンの「レッドソール」がこの伝統を継承しています。

装身具と象徴

装身具象徴的意味小説での活用
指輪権力、契約、絆『指輪物語』の一つの指輪は権力の象徴そのもの
首飾り地位の表示、お守り十字架のネックレスは信仰の表明
腕輪従属(奴隷の腕輪)、戦士の証ヴァイキングは腕輪を忠誠の証として主君からもらった
冠・ティアラ王権、神聖さ月桂冠はローマの勝利者、花冠は乙女の象徴
手袋格式、決闘の挑戦手袋を投げる=決闘の意思表示。外すと親密さの意味に

こうした小物ひとつで「この人物はどういう存在か」を語れるのがファッション描写の強みです。トールキンの『指輪物語』は指輪ひとつで全物語が動いており、装身具が持つ物語の駆動力は計り知れません。フリーレンがいつも同じローブを着ているのも、エルフの時間感覚と衣服への無頓着さを衣装ひとつで語っている好例です。

素材の特徴

服の素材を知っておくと、「手触り」「音」「動き」の描写が可能になります。

素材特徴描写で使えるポイント
絹(シルク)軽く、なめらか。光沢がある触れるとひんやりする。動くと衣擦れの音がする
毛織物(ウール)保温性が高い。重厚感雨に濡れると重くなる。獣のにおい
麻(リネン)通気性が良い。シワになりやすい洗うほど柔らかくなる。清潔感がある
綿(コットン)吸水性。肌触りが良い中世ヨーロッパには少ない(インド・エジプト産)
ビロード(ベルベット)表面に短い毛がある。光を吸収する深い色合い。触ると向きで色が変わる
革(レザー)丈夫。使い込むと味が出る新品は硬い。経年で体に馴染む
毛皮(ファー)最高級の防寒着アーミン=王権、セーブル=最高級、ウサギ=庶民

素材で描く五感

素材名を知っているだけで、五感に訴える描写が可能になります。

• 視覚:ビロードの深い青が光を吸い込んでいた

• 触覚:生成りのリネンのシャツは何度も洗われて柔らかくなっていた

• 聴覚:シルクのドレスが衣擦れの音を立てて廊下に響く

• 嗅覚:雨に濡れたウールの外套から獣のような匂いがした

• 温度:革の手袋は最初は冷たく、手の体温で徐々に馴染んでいった

「Tシャツを着ていた」と書くのと「洗いざらしのコットンのTシャツが体に馴染んでいた」と書くのでは、読者の脳内に浮かぶ映像の解像度がまるで違います。

素材と身分の関係

中世ファンタジーでは素材そのものが身分証明になります。

素材着用できる身分理由
上級貴族以上東方から輸入(シルクロード経由)。極めて高価
ビロード大貴族〜王族製造に高い技術が必要。イタリアが主要産地
上質な毛織物(フランドル産)富裕な商人〜貴族フランドル(現ベルギー)の毛織物は国際的な高級品
粗い毛織物農民〜一般市民地元産の羊毛を地元で織ったもの
全階層(下着として)最も安価な織物。下着やシーツに使用

キャラクターの衣装に使う素材を一つ変えるだけで、読者はその人物の経済力と社会的地位を直感的に理解できます。貧しい少女が「シルクのリボン」を一本だけ持っている——それだけで、なぜそのリボンを大切にしているのかという物語が生まれます。

色彩と心理効果

小説でキャラクターの衣装の色を選ぶとき、色彩心理の知識があると象徴的な効果を狙えます。

心理的印象中世での意味使用例
情熱、攻撃性、生命力血、戦争、枢機卿の衣『進撃の巨人』ミカサの赤いマフラー
冷静、知性、高貴聖母マリアの衣、ウルトラマリン『鋼の錬金術師』軍服の青
純粋、無垢、死降伏の旗、花嫁衣裳(19世紀〜)『エヴァ』綾波レイの白
権威、喪、反逆聖職者の衣、喪服『スターウォーズ』ダースベイダー
高貴、神秘、権力ティリアンパープル。皇帝の色『ジョジョ』ジョルノ・ジョバァーナ
自然、嫉妬、若さ狩猟者の色。ロビンフッドの衣『ゼルダの伝説』リンクの緑の衣
富、神性、栄光王冠、聖人の後光FE風花雪月、エーデルガルトの赤金

同じ色でも文化で意味が変わる

色の象徴性は文化によって正反対になることがあります。ファンタジーの世界観設計では、この違いを利用できます。

西洋での意味東洋での意味
純潔・結婚葬儀・死(中国・韓国)
危険・血祝福・結婚・幸運(中国)
臆病(英語のyellow-bellied)皇帝の色(中国。黄色の衣は皇帝のみ)
喪・悪水の属性・北の方角(五行思想)

和風ファンタジーで赤を「おめでたい色」として使うか、西洋ファンタジーで赤を「血と戦争の色」として使うか——世界観の東西で色の意味が変わる点を意識すれば、読者に違和感なく色の象徴を伝えられます。

ポップカルチャーでのファッション描写

作品ファッションの使い方ポイント
『ジョジョの奇妙な冒険』各キャラに独自のファッションセンス荒木飛呂彦がファッション誌から着想。キャラの個性を服で体現
『SPY×FAMILY』ロイドの常にスーツ姿「スパイ=スーツ」の記号。仕事モードの象徴
『魔女の宅急便』キキの黒い服「魔女のしきたりとして黒」という設定が世界観を語る
『ハリー・ポッター』ローブと寮別のカラーマフラー衣装が所属を示す装置。赤金=グリフィンドール
『鬼滅の刃』隊服+個性的な羽織統一された制服に個性を上乗せするレイヤリング
『薬屋のひとりごと』中華風宮廷衣装の色で身分を表現妃の衣装の色と装飾品で後宮の力関係を視覚化
『葬送のフリーレン』フリーレンの簡素なローブ1000年以上生きたエルフが「服に興味がない」という性格描写

ファッション描写の文学的技法

優れた小説はファッションを「情報」ではなく「物語の装置」として使っています。

技法内容
変身(トランスフォーメーション)衣装の変化=キャラの内面の変化シンデレラのドレス変身。灰をかぶった少女から王子の相手へ
違和感の演出場にそぐわない服で異質さを示すパーティに普段着で来るキャラ=社交性の欠如を暗示
制服と逸脱制服からの微妙なずれで個性を出すネクタイを緩める=反抗心、きっちり着る=規律正しさ
形見の衣装故人の服を着ることで感情を示す亡き母のコートを着て旅に出る——言葉より雄弁に喪失を語る
擬態と欺瞞服装で身分を偽る平民が貴族のふりをする。中世では奢侈禁止令違反のリスク

あなたの物語への活かし方

キャラクターのファッションを設計するなら、以下を意識してみてください。

• 世界観に合った素材を選んでいるか?(中世異世界にポリエステルは出てこない)

• 色で無意識にキャラの性格を伝えられるか?

• 身分や職業を衣装で示しているか?(中世なら法律で決まっている)

• 衣装が変わるタイミング=キャラが変わるタイミングか?

• 同じ制服を着たキャラ同士で「個性の差」を衣装の着崩しで出せるか?

もう一つ重要な視点は「キャラクターが自分の服をどう思っているか」です。おしゃれが好きなキャラは服の描写が増え、無頓着なキャラは服に触れる文が減る。一人称視点の場合、衣装への言及頻度そのものがキャラクターの性格描写になります。

まとめ

ファッションは「キャラクターの情報を、一目で読者に伝える装置」です。中世なら素材と色で身分が分かり、現代ならスタイルの選択で性格が伝わります。和服なら色と格で身分が一目瞭然です。

具体的な素材名、色の名前、時代ごとの衣装用語を知っておくだけで、「かっこいい服を着ていた」から一歩先の描写が書けるようになるはずです。衣装は物語の無言のナレーター——上手に使えば、地の文で説明しなくても読者がキャラクターを理解してくれます。まずは自分の好きなキャラクターがどんな服を着ているかを分析するところから始めてみてください。


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