勲章の知識|各国の勲章制度・騎士団勲章・軍事勲章を徹底解説
勲章は、国家が個人の功績を公式に認め、記章を授与する制度です。十字軍時代の騎士団勲章に端を発し、近代国家の成立とともに体系的な制度へと発展しました。ファンタジー小説で勲章を設定に組み込めば、登場人物の地位・功績・所属を視覚的に表現できます。勲章はただの装飾品ではなく、国家と個人の契約を物質化した象徴物であり、その授与・剥奪・返還のすべてが政治的な意味を帯びます。
この記事では、勲章の歴史、各国の制度、軍事勲章、素材と製法、構造と着用ルール、そして創作での活用ポイントまでを整理します。
勲章の定義と歴史
勲章(decoration / order)とは、国家元首が個人の勲功・功労に対して授与する記章です。単なる「メダル」とは異なり、授与者には称号や特権が付随する場合があります。メダル(medal)は特定の事件や従軍への参加を記念するもので、序列は低いですが授与数は多くなります。記章(badge)は所属や資格を示す目印で、勲章のような名誉的性格を持たないこともあります。
| 時代 | 出来事 |
|---|---|
| 12世紀 | 十字軍時代に聖ヨハネ騎士団・テンプル騎士団が成立。騎士団への所属が「勲章」の原型 |
| 14世紀 | イングランドのガーター勲章(1348年)創設。現存する最古の騎士団勲章 |
| 15世紀 | ブルゴーニュ公国が金羊毛騎士団(1430年)を創設 |
| 17世紀 | フランスが聖ルイ勲章(1693年)を創設。軍事功績に対する勲章の先駆け |
| 1802年 | ナポレオンがレジオン・ドヌール勲章を創設。身分を問わず功績で授与する近代勲章の嚆矢 |
| 19世紀以降 | 各国が独自の勲章制度を整備。等級制が一般化 |
騎士団勲章(Order)
勲章の中でも最も格式が高いのが「騎士団勲章」です。もともと十字軍時代の宗教騎士団への入団が起源であり、入団そのものが「叙勲」でした。現在でもガーター勲章の叙勲式では、受章者は片膝をついて国王から剣で肩を打たれる伝統的な儀式が行われます。
| 勲章名 | 国 | 創設年 | 等級 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| ガーター勲章 | イギリス | 1348年 | 単一級 | 現存最古。定員24名。国王が直接選定 |
| 金羊毛勲章 | スペイン/オーストリア | 1430年 | 単一級 | ハプスブルク家の最高勲章 |
| バス勲章 | イギリス | 1725年 | 3等級 | 軍事・民事の両部門がある |
| レジオン・ドヌール勲章 | フランス | 1802年 | 5等級 | ナポレオンが創設。世界で最も有名な勲章の一つ |
| 聖アンドレイ勲章 | ロシア | 1698年 | 単一級 | ピョートル大帝が創設。ロシア最高勲章 |
| 黒鷲勲章 | プロイセン | 1701年 | 単一級 | プロイセン王国最高位の勲章 |
騎士団勲章の等級構造
多くの騎士団勲章は5等級制を採用しています。レジオン・ドヌール勲章を例に見てみましょう。
| 等級 | フランス語名 | 英語名 | 対応する称号 |
|---|---|---|---|
| 第1等 | Grand-Croix | Grand Cross | 大十字章。大統領が自動的に就任 |
| 第2等 | Grand Officier | Grand Officer | 大将官クラス |
| 第3等 | Commandeur | Commander | コマンドール。首から下げるネックレス型 |
| 第4等 | Officier | Officer | オフィシエ。ロゼット(花形飾り)付き |
| 第5等 | Chevalier | Knight | シュヴァリエ。最も授与数が多い |
軍事勲章
戦場での功績に対して授与される軍事勲章は、騎士団勲章とは別系統で発展しました。騎士団勲章が平時の功績も対象とするのに対し、軍事勲章は戦闘における勇敢さと功績「だけ」を評価対象とする点が特徴です。
| 勲章名 | 国 | 創設年 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 鉄十字章 | プロイセン/ドイツ | 1813年 | 身分不問。一級・二級・騎士十字章の3段階。ナポレオン戦争時に創設 |
| 名誉勲章(Medal of Honor) | アメリカ | 1862年 | 米軍最高位。「死に値する危険の中での勇敢さ」が授与条件。大統領が直接授与 |
| ヴィクトリア十字章 | イギリス | 1856年 | 英軍最高位。敵前での顕著な勇敢さに対して授与。セヴァストポリ包囲戦の大砲から鋳造 |
| 聖ゲオルギー勲章 | ロシア | 1769年 | エカチェリーナ2世が創設。4等級の軍事専用勲章。ロシア最高の軍事栄誉 |
| プール・ル・メリット勲章 | プロイセン | 1740年 | フリードリヒ大王が創設。通称「ブルーマックス」。第一次大戦の撃墜王に多く授与 |
| 武功十字章 | スペイン | 1942年 | スペイン軍の最高軍事勲章 |
| 軍事マリア・テレジア勲章 | オーストリア | 1757年 | 独自の判断で戦況を好転させた指揮官に授与。命令に従っただけでは受章できない |
鉄十字章の等級体系
第二次世界大戦時のドイツ軍における鉄十字章の体系は、フィクションでもよく参照されます。
| 等級 | 名称 | 授与条件 |
|---|---|---|
| 二級鉄十字章 | Eisernes Kreuz II. Klasse | 戦闘での功績。リボンを第2ボタンに通す |
| 一級鉄十字章 | Eisernes Kreuz I. Klasse | 二級保持者がさらに功績を挙げた場合。左胸にピン留め |
| 騎士鉄十字章 | Ritterkreuz | 一級保持者の中で特に顕著な功績。首から懸垂 |
| 柏葉付騎士鉄十字章 | Ritterkreuz mit Eichenlaub | 騎士十字章保持者の中で更なる功績 |
| 柏葉剣付騎士鉄十字章 | mit Eichenlaub und Schwertern | 上位の追加装飾 |
| 柏葉剣ダイヤモンド付 | mit Brillanten | 最上位。第二次大戦中27名のみ |
日本の勲章制度
| 勲章名 | 等級 | 対象 |
|---|---|---|
| 大勲位菊花章 | 頸飾・大綬章 | 最高位。外国元首や天皇に授与 |
| 桐花大綬章 | 単一級 | 旭日大綬章・瑞宝大綬章受章者の中から特に功績顕著な者 |
| 旭日章 | 6等級 | 功績の内容に着目。社会への貢献 |
| 瑞宝章 | 6等級 | 公務への長年の従事に着目 |
| 文化勲章 | 単一級 | 文化の発達に関し特に顕著な功績 |
勲章のリボン(綬)の色と象徴
勲章のリボンの色には国家や勲章ごとに意味があり、遠目からでも所属や功績を判別できるように設計されています。
| リボンの色 | 意味・使用例 |
|---|---|
| 赤 | 勇気・犠牲。レジオン・ドヌール勲章の赤リボンが代表 |
| 青 | 高貴・忠誠。ガーター勲章の深青(ガーターブルー)、プール・ル・メリット勲章 |
| 黒白 | プロイセン国旗の色。鉄十字章のリボン |
| 黄黒 | ハプスブルク家の色。オーストリアの勲章に多い |
| 緑 | イスラーム圏の勲章に多い。自然・繁栄の象徴 |
| 橙(オレンジ) | オラニエ家の色。オランダの勲章に使用 |
| 旭日模様(紅白) | 日本の旭日章。赤白の放射状デザイン |
軍人が正装ではない通常の軍服を着用する際は、勲章の代わりにリボンだけを小さなバーにして左胸に並べます。これを「略綬(りゃくじゅ)」と呼びます。ベテランの軍人ほど略綬の列が長くなり、4列5列と胸を覆う兵士は「歩くリボン棚」と揶揄されることもありました。略綬の配置にも厳格なルールがあり、最も格の高い勲章の略綬を左胸の最上段・内側に配置し、以降格順に並べるのが原則です。この細かなルールを知っていると、創作で「勲章を見るだけでその人物の経歴がわかる」という描写が可能になります。
中世の名誉制度と騎士叙任
近代的な勲章制度が成立する以前、中世の名誉体系は騎士叙任式(ナイティング)が中心でした。
| 名誉制度 | 時代 | 内容 |
|---|---|---|
| アコレード(Accolade) | 中世全般 | 国王が剣で肩を打つ騎士叙任の儀式。現在もイギリスで継続 |
| 拍車の授与 | 11-15世紀 | 金の拍車は騎士の象徴。「拍車を得る」=騎士になるという慣用表現の語源 |
| 紋章の授与 | 12世紀以降 | 功績ある者に新しい紋章を下賜する。紋章に加増紋(augmentation)を追加することも |
| トーナメントの優勝者 | 12-16世紀 | 馬上槍試合の優勝者に貴婦人から花冠や布切れが授与される |
| 凱旋式(トリウンプス) | 古代ローマ | 将軍が戦車でローマ市内を行進する最高栄誉。元老院の承認が必要 |
| 草冠(Corona Graminea) | 古代ローマ | ローマ軍最高の軍事栄誉。包囲された軍団を救出した指揮官に授与。草で編まれた冠 |
| 城壁冠(Corona Muralis) | 古代ローマ | 敵の城壁を最初に越えた兵士に授与される金の冠 |
| 海軍冠(Corona Navalis) | 古代ローマ | 海戦で敵艦に最初に乗り込んだ兵士に授与 |
古代ローマの冠(コロナ)制度は、後世の勲章制度の直接的な祖先ではありませんが、「功績に対して国家が記章を授与する」という概念の原型です。特に草冠はローマ史上で授与されたのは数人しかいない至高の栄誉であり、一般の金冠よりもはるかに価値が高いとされました。
国際的な勲章と従軍記章
20世紀以降、国連やNATOなど国際機関も独自の記章を授与するようになりました。
| 記章 | 授与機関 | 内容 |
|---|---|---|
| 国連メダル | 国際連合 | PKO参加者に授与。ミッションごとにリボンの色が異なる |
| NATOメダル | NATO | NATO作戦参加者に授与。ユーゴスラビア、ISAF、リビアなど |
| 戦傷章(パープルハート) | アメリカ | 戦闘で負傷または戦死した軍人に授与。ジョージ・ワシントンが創設 |
| 従軍記念章 | 各国 | 特定の戦役への従軍経験を証する記章。勲章より格は低いが数が多い |
パープルハートは当初ジョージ・ワシントンが「武勲バッジ」として創設したもので、一度廃止された後、1932年にワシントンの生誕200年を記念して復活しました。第二次世界大戦中に大量生産された未授与のパープルハートは、日本本土上陸作戦での膨大な予想死傷者数に備えて製造されたもので、ベトナム戦争やイラク戦争でも使用され続けたという逸話があります。
勲章にまつわる歴史的エピソード
| エピソード | 内容 |
|---|---|
| ナポレオンと兵士のレジオン | ナポレオンは兵士の胸にレジオン・ドヌール勲章を直接ピンで留めた。兵士の士気向上効果は絶大だった |
| 拒否されたノーベル賞 | ノーベル賞は勲章ではないが、サルトルやレ・ドゥクトは受賞を辞退。勲章の辞退は政治的声明になりうる |
| ヴィクトリア十字章の素材 | セヴァストポリ包囲戦で鹵獲したロシアの大砲から鋳造されたと伝わるが、実際には中国の大砲も使用された |
| 大量授与による価値低下 | ソ連では「ソ連邦英雄」の称号が政治的理由で乱発され、権威が低下した |
勲章の構造と着用ルール
| 部位 | 名称 | 説明 |
|---|---|---|
| 章本体 | バッジ(Badge) | 十字型・星型などの金属製記章 |
| 星章 | スター(Star) | 大十字章などの高等級のみに付される胸星 |
| 綬(じゅ) | リボン/サッシュ | 勲章を身体に固定する帯。色と幅で勲章を識別 |
| 略綬 | リボンバー | 日常着用する小型のリボン。正装以外ではこれを着用 |
| ロゼット | Rosette | 花結びの装飾。オフィシエ級以上に付される |
着用の原則
• 勲章は左胸に着用するのが国際的な慣例
• 複数の勲章を保持する場合、上位のものを内側(心臓に近い側)に配置
• 他国の勲章は自国の勲章の後に着用
• 正装(フルドレス)では勲章本体を着用し、略装では略綬のみを着用
• 故人の勲章を遺族が着用する場合は、右胸に着ける
創作での勲章活用ポイント
| 活用方法 | 効果 |
|---|---|
| キャラクターの胸に勲章描写を入れる | 言葉で説明せずに「この人物は戦功者だ」と読者に伝わる |
| 勲章の等級で人間関係を表現 | 「彼は一級鉄十字章だが、上官は騎士十字章」→力関係が一目瞭然 |
| 勲章を巡る争い | 「あの勲章がほしい」→キャラクターの動機として機能 |
| 勲章の剥奪 | 不名誉・転落の象徴として強烈なドラマになる |
| 独自の勲章を設計する | 世界観の奥行きが増す。素材・形状・授与条件を決めるとよい |
勲章の素材と製法
勲章の素材は等級や時代によって異なりますが、その素材選択自体が象徴的な意味を持っています。
| 素材 | 使用される勲章 | 象徴的意味 |
|---|---|---|
| 金 | 最高等級の勲章全般 | 至高の価値。太陽の象徴 |
| 銀 | 中等級の勲章。ヴィクトリア十字章の十字部分 | 月の象徴。純潔 |
| 鉄 | 鉄十字章 | 質素・実直。プロイセンの精神を体現 |
| エナメル(七宝) | レジオン・ドヌール勲章の赤い部分 | 色彩の永続性。退色しにくい |
| ダイヤモンド | 柏葉剣ダイヤモンド付騎士鉄十字章 | 最上位の装飾。極少数のエリートのみ |
| 磁器 | ザクセンのメリット勲章(一部) | 地域の特産品との結びつき |
鉄十字章の素材として「鉄」が選ばれた理由は、ナポレオン戦争時のプロイセンの国家的窮乏にあります。金や銀は軍費に充てるために供出され、代わりに質素な鉄を勲章の素材とすることで「贅沢ではなく功績を讃える」という精神を表しました。女性たちは金の指輪を国に寄付し、代わりに「Gold gab ich für Eisen(金を鉄のために捧げた)」と刻まれた鉄の指輪を受け取りました。
ポップカルチャーでの勲章
| 作品 | 勲章の扱い | ポイント |
|---|---|---|
| 『幼女戦記』 | 銀翼突撃章・鉄十字章 | ドイツ軍の勲章体系を異世界に移植。ターニャの功績が勲章で可視化される |
| 『銀河英雄伝説』 | 帝国・同盟双方に勲章制度 | 軍事的功績と政治的立場を勲章で表現 |
| 『機動戦士ガンダム』 | ジオン十字勲章 | 鉄十字章をモデルにした宇宙世紀の勲章 |
| 『スター・ウォーズ』 | ヤヴィンの勲章 | EP4ラストでルークとハンが授与される象徴的シーン |
まとめ
勲章制度は、十字軍時代の騎士団から近代国家の体系的な制度へと発展し、功績の可視化・社会的地位の表示・国家と個人の関係性の象徴として機能してきました。騎士団勲章の等級構造、軍事勲章の授与条件、着用ルールの細部を知ることで、創作における勲章描写のリアリティは格段に向上します。
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