ファンタジー小説に役立つ、騎士の歴史と騎士階級について

2021年9月13日

ファンタジー小説を書くとなれば、騎士は絶対に登場させたいですよね。剣と鎧をまとい、主君に忠誠を誓う姿はロマンそのものです。

ところで、騎士は貴族なのでしょうか? 結論から言えば、騎士は厳密には貴族ではありません。公爵や伯爵といった上流貴族と異なり、騎士の称号は基本的に一代限りの名誉職で、領地や爵位を子孫に世襲できない「準貴族」のような存在でした。

この記事では、騎士階級の起源から騎士団の役職・称号の仕組み・創作への活かし方まで、ファンタジー創作に必要な騎士の知識を一気に解説します。エクィテス、ミーレス、ナイト、パラディン……中世を舞台にしたファンタジー小説で登場する職業の成り立ちにワクワクしますよ。

騎士の起源 — 古代ガリアからローマへ

騎士階級の起こりは、古代社会(ガリア人社会)の成人儀式だと言われています。奴隷以外の自由ある若者が成人し、槍と盾、ベルトと剣を授与されて戦闘団に入る——この儀式が、のちの騎士叙任式につながっていきます。

「自由ある若者」とある通り、これは恵まれた人々だけに許された儀式でした。古代ですので、自由を得られるのは成年男子市民のみです。

エクィテス — 古代ローマの騎兵階級

「騎士」の最初期の形態は古代ローマのエクィテスです。ローマの兵役制度(ケントゥリア)では、騎兵として軍に加わる人間を「エクィテス」という社会階級で呼びました。

当時、馬を育てるノウハウはまだ乏しく、別荘を借りて馬を育て、乗馬の訓練を行う必要がありました。武具とあわせると家が買えるような多額の資金が必要で、それを用意できる富裕層だけが騎兵になれたのです。

電卓しか使えない集団の中で「自分、エクセル使えます」という人がいたら100人力ですよね。そういう意味で馬を扱える人々は軍事的エリートとして扱われ、有事には公馬が与えられました。エクィテスという概念は紀元前1世紀〜5世紀頃まで、江戸時代より長い期間使われ続けています。

フランク王国と封建制 — 土地と引き換えの忠誠

8世紀頃のフランク王国では、広大な領地を守るために馬と武具を揃えられる戦士階級が必要とされました。土地を与える代わりに軍役を義務づける「封建制」の仕組みの中で、騎士という存在が制度化されていきます。

初期の騎士は純粋な戦闘要員でしたが、11世紀の十字軍の時代に教会が「神のために戦う騎士」という理念を打ち出し、宗教的な使命感と道徳規範を求めるようになりました。これが「騎士道精神(シヴァルリー)」の土台です。

ミーレス — 日本でいう武士

中世ヨーロッパにおいて「荘園の支配を保障される代わりに騎兵として戦うことを義務付けられた身分」をミーレスと言います。定義が長いですが、ようは御恩と奉公。日本でいう武士みたいなものです。

ただしミーレスの場合、王に仕える騎士だけでなく大貴族に仕える騎士もミーレスと呼ばれました。また、馬に乗っていない戦士でも王や大貴族に仕えていればミーレスを名乗ることができました。「騎士=馬に乗る」という概念はこの時代にすでに崩れ始めています。

一般的な騎士の人生 — 小姓から叙任式まで

騎士は叙任されるもので、生まれながらの身分ではありません。それだけに自由で夢のある職業でした。通常、騎士になるまでの道のりは3つの段階を踏みます。

7歳頃 — 小姓(ペイジ)となり、主君の下で下働きをしながら初歩的技術を学ぶ

14歳頃 — 従騎士(エスクワイア)となり、先輩騎士に付いて甲冑や武器の修理を担当し、実際の戦闘にも参加する

20歳前後 — 一人前と認められると叙任式を受ける。主君の前に跪き頭を垂れると、主君が長剣の平で肩を叩く。金もしくは金メッキの拍車が授けられる

この「ペイジ→エスクワイア→ナイト」の成長過程は、ファンタジー作品の主人公にそのまま適用できる成長テンプレートです。『ファイアーエムブレム 蒼炎の軌跡』でアイクが傭兵団の新入りから団長を経てエリンシア姫の騎士となる過程は、まさにこの成長構造を踏襲していますよね。

宗教騎士団の時代 — 十字軍と三大騎士団

12世紀初頭、ローマ教皇ウルバヌス2世がキリスト教の聖地エルサレム奪還を呼びかけ、第1回十字軍が編成されました。エルサレム奪還後、ほとんどの騎士が西ヨーロッパの実家に帰る中、現地に住み着いた信仰厚い集団が騎士修道会を創設します。

騎士修道会はキリスト教的な忠誠・公正・勇気・武勇・慈愛・寛容・礼節・奉仕を徳とする宗教的騎士道を確立しました。教会は上流階級の巣窟でしたから、騎士は社会的に認められた上流階級となり、同時に教会特有の排他的・閉鎖的身分集団と化していきます。

これを見たかつての騎士たちは、騎士修道会の構成員を「ウォリアーモンク(戦う修道士)」と呼んで距離を置きました。この「世俗の騎士 vs 宗教騎士」の対立は、そのまま物語の派閥構造として使えるモチーフです。

三大宗教騎士団

十字軍時代に誕生した騎士団のうち、特に有名な三大宗教騎士団を比較します。起源と結末がそれぞれ異なるのが面白いところです。

騎士団起源特徴と結末
テンプル騎士団エルサレム巡礼者の護衛独自の金融システムを構築しヨーロッパ全土に影響力を持つ巨大組織に成長。フランス王フィリップ4世の陰謀で1312年に壊滅
聖ヨハネ騎士団病院経営と巡礼者の救護テンプル騎士団壊滅後もしぶとく生き残り、現代まで「マルタ騎士団」として存続。国土を持たない「国家」として国連にオブザーバー参加
ドイツ騎士団バルト海沿岸の異教徒征服実質的に騎士団国家を建設。領地を持ち、法律を制定し、都市を建設した

テンプル騎士団が開発した「為替手形」の仕組みは、巡礼者がパリで預けたお金をエルサレムで引き出せるという画期的なシステムでした。軍事組織でありながら国際的な銀行業を営んでいた事実は、物語に騎士団を登場させるとき「この騎士団は何のために存在するのか?」という設定を考えるヒントになります。

一口に「騎士団」と言っても、軍事・宗教・金融・統治とその役割は多岐にわたるのです。

騎士団の構成と役職

騎士団全盛の時代、多数の人が騎士団に所属し、現代の企業のような受け皿になっていました。構成員は大きく4つのグループに分かれます。

グループ装備・出身
騎士重装備、貴族出身
従士軽装備、平民出身
修道士資産管理を担当
司祭霊的指導を担当

さらに、騎士団の運営には以下のような専門役職が置かれていました。教会とのつながりの維持、団員管理、紋章関連の業務が重要視されていたことがわかります。

役職英語的呼称役割
僧長プレラトゥ最高位聖職者が担う
長官チャンセラー僧長に次ぐ次席聖職者
記録官レジストラ公式の記録員
衛門アッシャー黒杖官。事務長的な存在
秘書セクレタリー騎士団員が担当
血統官ジェネオロジー系統図の管理
最高紋章官キング・オブ・アームズ紋章の事案発議・管理・記録

「キング・オブ・アームズ」という役職名が示すように、紋章管理は騎士団において非常に重要な業務でした。『ファイアーエムブレム 風花雪月』でも紋章(クレスト)が血統と権力の象徴として物語の核になっていますよね。紋章が単なる装飾ではなく、権利と身分を証明する法的文書のような存在だったことを知ると、ファンタジー世界の設定にも厚みが出るのではないでしょうか。

強盗騎士 — 騎士の闇の側面

中世ヨーロッパには、強盗騎士(Robber Knight) という存在もいました。戦時には傭兵として戦い、平時にはフェーデ(果たし状を送って決闘する制度)を利用して行商人に決闘を申し込み、金品を奪う人々です。正直、現代でいう「当たり屋」と変わりません。

強盗騎士から金品を守るために「自由騎士(特定の国に属さない騎士)」が雇われることもあったでしょう。光と闇の両面を持つのが騎士という存在の面白さです。

パラディン — 最高位の騎士

現代ファンタジー作品でお馴染みのパラディンにも、歴史的な元ネタがあります。

12世紀初めに成立した「ローランの歌」は、8世紀のローマ皇帝シャルルマーニュの騎士12人を「シャルルマーニュ十二勇士」として描きました。この十二勇士を聖騎士(パラディン) と呼んだのです。つまりパラディンとは、騎士の中でも最高位の騎士に与えられる称号でした。

主人公ローランは聖剣デュランダルを携えた聖騎士です。聖剣を持つ騎士、12人の精鋭部隊、異教徒との壮絶な最後の戦い——こうした要素は、アーサー王伝説の円卓の騎士にも通じる王道の構図です。『ロードス島戦記』のパーンが「自由の騎士」と呼ばれるのも、こうした聖騎士の系譜の上にあると言えるでしょう。

騎士と貴族の境界 — 称号の仕組み

ファンタジー小説では騎士が貴族と同列に扱われることが多いですが、史実では明確に区別されていました。この境界線を理解すると、物語の身分制度がぐっとリアルになります。

称号英語世襲特徴
ナイト(騎士)Knight× 一代限り功績による叙任。最も基本的な騎士号
ナイト・バナレットKnight Banneret× 一代限り戦場で旗を掲げる権利を持つ上級騎士
バロネット(準男爵)Baronet○ 世襲可騎士と貴族の中間。「Sir」を名乗れるが貴族院には入れない

騎士号を授与された男性は「Sir(サー)」、女性には「Dame(デイム)」の敬称が許されます。

この境界線を知っておくと「騎士は貴族になりたかった」「叙勲されても貴族になれない苦悩」といったドラマが描けます。功績ある騎士が領地を与えられて世襲の貴族(準男爵など)に叙任されるケースもあり、騎士と貴族の境界は徐々に曖昧になっていきました。

爵位の中で騎士がどの位置にいるかも確認しておきましょう。全7段階のうち、騎士は最下位の第7位です。

序列爵位英語
第1位公爵Duke
第2位侯爵Marquess
第3位伯爵Count / Earl
第4位子爵Viscount
第5位男爵Baron
第6位準男爵Baronet
第7位騎士Knight

貧富や血筋に関わらず爵位を得られるのは騎士だけです。この「実力で手に入る唯一の称号」という点が、騎士を主人公にする物語の魅力を支えています。

騎士の終わり — 銃の時代と名誉職への変容

近世以降、銃の台頭で剣と槍と馬の時代が終わると、騎兵そのものが消滅し、ナイトは称号や名誉職に変わりました。

イギリスでは現在も大英帝国勲章の上位2階級を授与された人物をナイトとして扱っています。各階級の構成は以下の通りです。

階級世襲
ナイト・グランド・クロス / デイム・グランド・クロス(大十字騎士)×
ナイト・コマンダー / デイム・コマンダー(司令官騎士)×
コマンダー(司令官 CBE)×
オフィサー(将校 OBE)×
メンバー(団員 MBE)×

上位2階級を授与された男性は「サー」、女性は「デイム」の敬称が許されます。第93回アカデミー賞で2度目の主演男優賞を受賞したアンソニー・ホプキンスも、1993年にナイトに叙任されています。

現代のナイトは、英語ではKnight(臣従を意味する語)、フランス語ではChevalier(シュヴァリエ)、ドイツ語ではRitter(リッター)と呼ばれます。フランス語とドイツ語は「騎兵」を意味しており、14世紀当時まだ騎兵が主力だったことの名残です。イギリスでは騎士の概念がすでに成熟し、王や大貴族に仕える存在だったため「臣従」の語が使われています。

創作への活用チェックリスト — 騎士をあなたの物語に

騎士の知識を自作のファンタジー世界に活かすためのポイントをまとめました。こんな設定を考えてみてはいかがでしょうか。

身分の壁に挑む物語 — 主人公を「騎士の家に生まれたが貴族にはなれない」と設定すれば、身分の壁に挑むドラマが自然に生まれる

組織対立の構図 — 騎士団が独自の権力を持ち、貴族と対立する設定にすれば政治劇的な展開が可能

多機能な騎士団 — 歴史上の騎士団が軍事だけでなく金融・医療・統治にも関わっていた事実を活かすと世界観に奥行きが出る

騎士団の存在理由 — 「この騎士団は何のために存在するのか?」を設定すると、単なる戦闘集団以上の厚みになる

光と闇の騎士像 — 正統派の聖騎士だけでなく、強盗騎士や自由騎士のような「はぐれ者」を登場させると物語に幅が出る

たとえば、こんな物語の骨格が見えてきます。

• テンプル騎士団をモデルに、金融ネットワークを持つ騎士団が王族と対立する政治サスペンス

• 騎士叙任を夢見る従騎士(エスクワイア)が、強盗騎士の横行する街道で正義を貫く成長譚

• 聖ヨハネ騎士団のように「医療」を本分とする騎士団が、戦場ではなく疫病と戦う物語

騎士の知識は、爵位や身分制度を扱った記事とあわせて読むとさらに理解が深まります。爵位とは何か|日本とイギリスの爵位制度を比較もぜひ参考にしてみてください。

まとめ

騎士階級は古代ガリアの成人儀式に始まり、ローマのエクィテス、中世のミーレス、十字軍時代の宗教騎士団へと変化を遂げました。当初は「騎馬で戦う者」を指す実務的な称号が、次第に「名誉と忠誠を体現する存在」へと独り立ちしていく歴史は、そのままファンタジー世界の設定に転用できます。

騎士は厳密には貴族ではなく、一代限りの名誉職としての「準貴族」でした。しかしその開かれた称号だからこそ、血筋に関わらず功績で叙任される夢のある存在でもあったのです。

 

ファンタジー小説に役立つ騎士階級、騎士団の序列や役職について、ご紹介しました。当初は騎兵を指していた言葉が、次第に名誉の証として独り立ちしていく歴史が興味深いです。こうして歴史を学ぶと、やはりファンタジー小説の舞台として、中世ヨーロッパは魅力的ですね。


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