ファンタジー世界のオリジナリティ論|想像の余地を残す技術
「自分だけのファンタジー世界を作りたい。他のどの作品とも被らない、唯一無二のオリジナル世界を──」
その情熱は素晴らしい。しかし、その方向で走り出す前に一つだけ聞いてください。
世界観で「オリジナリティ」を出そうとしてはいけません。
……いきなり水を差すようですが、理由を聞いてもらえれば納得していただけるはずです。
オリジナリティの罠
ファンタジー世界を作るとき、多くの初心者が陥る罠があります。
「エルフやドワーフはテンプレだから使わない」「魔法という言葉も使いたくない」「通貨も独自のものにしよう」「季節の概念も地球とは違うものにしよう」──。
こだわればこだわるほど、設定は膨れ上がります。気づけば本編を書く前に設定資料だけで数万字。読者は本文を読む前に辞書を読まされることになる。
これが「オリジナリティの罠」です。
「想像の余地」という概念
ここで紹介したいのが、想像の余地という考え方です。
読者は物語を読むとき、文章に書かれていない部分を自分の想像で補っています。「中世風の城」と書けば、読者は自分の頭の中にそれぞれの城を思い浮かべる。
この「読者が勝手に補完してくれる」領域が「想像の余地」です。
なぜ想像の余地が重要か
想像の余地が広い作品は、読者一人ひとりが自分だけの「読み体験」を持てます。同じ文章を読んでも、頭に浮かぶ映像は人によって違う。その多様性が作品への愛着を深めます。
一方、全てを独自設定で埋め尽くした世界は「作者の頭の中にしか存在しない」ものです。読者は想像する余地がなく、ただ設定を暗記させられる。それは読書ではなく「予習」です。
具体例
「エルフが森に住んでいる」と書けば、大半の読者は一瞬で場面を想像できます。
しかし「ラルフェンティア族がクリスタホラの森に住んでいる」と書いた場合、読者は「ラルフェンティア族って何?」「クリスタホラの森ってどんな場所?」と引っかかり、物語に没入する前に設定の理解が必要になります。
オリジナリティはどこで出すのか
では、ファンタジーでオリジナリティを出してはいけないのか?
そうではありません。出す場所を間違えてはいけないということです。
出すべき場所:物語とキャラクター
オリジナリティを発揮すべきは「世界観の表面」ではなく「物語の核」です。
同じ中世ファンタジーでも、『進撃の巨人』と『鬼滅の刃』と『葬送のフリーレン』では物語の味わいがまったく違います。世界観は「和風」「中世欧風」「壁に囲まれた世界」とシンプルですが、テーマとキャラクターでオリジナリティを出しています。
世界観のオリジナリティは「1つ」に絞る
世界観でオリジナリティを出したいなら、1つだけ強烈な独自要素を置き、残りはテンプレに乗せるのが最適解です。
• 『進撃の巨人』→ 中世欧風の世界 + 壁と巨人(独自要素はこれだけ)
• 『メイドインアビス』→ ファンタジー世界 + 大穴「アビス」(独自要素はこれだけ)
• 『約束のネバーランド』→ 孤児院という日常 + 食用児という設定(独自要素はこれだけ)
「テンプレ9割 + 独自1割」──この比率が、読者に理解されやすく、かつ印象に残る世界観を作ります。
引き算のテクニック
世界観を作るとき、「足す」のではなく「引く」思考が有効です。
ステップ1:まず全部作る
自由に設定を作ってください。種族も、歴史も、通貨も、地理も。この段階では制限しなくて構いません。
ステップ2:物語に必要な設定だけを残す
作った設定の中から「この物語を語るのに不可欠な設定」だけを選び、残りは捨てます。
判断基準は「この設定がなくても物語は成立するか?」。Yesなら不要です。
ステップ3:テンプレで代替できるものはテンプレにする
残った設定の中で「エルフと書けば伝わるものを、わざわざ独自種族にする必要があるか?」を確認します。テンプレで代替できるなら、テンプレを使う。
ステップ4:独自要素を1つだけ磨く
引き算の結果「これだけは独自でなければならない」という要素が残るはずです。その1つを徹底的に磨き込みましょう。
既存のテンプレを使うことは恥ずかしくない
文化的な文脈を一つ挙げましょう。
イスラム圏の国が近代化する際、「ムスリム化」──つまり西洋の概念をイスラム文化の枠組みで再解釈して取り入れました。「銀行の利子」はイスラム法で禁じられているが、「利益分配型の金融」として再定義する──。
ファンタジー創作でも同じことができます。「エルフ」というテンプレを使いつつ、自作独自の解釈を1つだけ加える。「このエルフは1000年生きるが、記憶は100年分しか保持できない」──テンプレの上に独自要素を乗せるこの方法は、読者に負担をかけずにオリジナリティを出せる最善策です。
チェックリスト
自作の世界観を以下でチェックしてみてください。
1. 読者が「一言で想像できる」世界のイメージがあるか?(和風、中世欧風、近未来SFなど)
2. 独自設定は3つ以内に収まっているか?
3. そのうち核心的な独自要素は1つに絞れているか?
4. テンプレで代替できる設定を、わざわざ独自にしていないか?
5. 設定の説明に、本文全体の10%以上を使っていないか?
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