ファンタジー税制の知識|十分の一税から関税まで中世の税と現代の税を徹底解説
税は国家運営の基盤であり、中世ヨーロッパでは十分の一税・封建的賦課・通行税・市場税など多様な税が存在しました。ファンタジー世界に税制を組み込むことで、領主と農民の関係、都市の富の源泉、国家間の経済対立が自然に描けるようになります。歴史上、多くの革命や反乱は「理不尽な課税」がきっかけでした。
この記事では、古代から近代までの税制の変遷、徴収方法のバリエーション、そして創作での税制設計のポイントを整理します。
古代の税制
税制の歴史は古代文明まで遡ります。ローマでは市民に課す財産税「トリブトゥム」や属州民への間接税「ヴェクティガル」が存在し、日本の律令制では租(稲)・庸(布か労役)・調(特産物)の三本立てで徴収が行われました。イスラーム世界では信仰の義務としてのザカートと、非ムスリムへの人頭税ジズヤが並立していました。
| 税名 | 国 | 内容 |
|---|---|---|
| トリブトゥム(tributum) | ローマ共和政 | 市民に課される財産税。戦時に徴収 |
| ヴェクティガル(vectigal) | ローマ帝政 | 属州民に課される間接税(通行税・関税・売上税) |
| アンノナ(annona) | ローマ帝政 | 穀物の現物納税。軍隊と都市住民の食糧供給 |
| 租庸調 | 日本(律令制) | 租(稲)・庸(布か労役)・調(地方の特産物) |
| ザカート | イスラーム | 財産の2.5%を貧者に施す義務。五行の一つ |
| ジズヤ | イスラーム | 非ムスリムに課される人頭税。軍役免除の代償 |
中世ヨーロッパの税制
教会への税
中世の農民は教会にも税を納めていました。最も代表的なのが収穫の10%を納める十分の一税(Tithe)で、穀物に課される大十分の一税、野菜・果物に課される小十分の一税、家畜に課される血の十分の一税の3種に分かれていました。
| 税名 | 内容 |
|---|---|
| 十分の一税(Tithe) | 収穫の10%を教会に納める。大十分の一税(穀物)・小十分の一税(野菜・果物)・血の十分の一税(家畜)の3種 |
| ペトロの銀貨(Peter’s Pence) | イングランドからローマ教皇庁に納められる年貢。1世帯あたり1ペニー |
| 初穂料(First Fruits) | 新任の聖職者が最初の1年間の収入を教皇庁に納める |
領主への税
封建制度の下で農民は領主にも多様な税を納めました。土地の使用に対する地代、領主の直営地で無償で働く賦役に加え、農奴が死亡すれば最良の家畜を差し出す死亡税、領地外への婚姻には結婚税が課されるなど、農民生活のあらゆる場面に課税が及びました。
| 税名 | 内容 |
|---|---|
| 地代(Rent) | 領主の土地を使用する対価。現金または現物 |
| 賦役(Corvée) | 領主の直営地で無償で働く義務。年間数十日 |
| 死亡税(Heriot) | 農奴の死亡時に最良の家畜を領主に差し出す |
| 結婚税(Merchet) | 農奴の娘が領地外の者と結婚する際に支払う許可料 |
| 粉引き独占(Banalités) | 領主の水車でのみ穀物を挽くことを義務付け、使用料を徴収 |
| 森林使用料(Pannage) | 領主の森で豚にドングリを食べさせる権利の対価 |
国王への税
国王もまた独自の課税権を持っていました。軍役の代わりに支払うシールド・マネー、直轄領への臨時税であるタリエージュ、封建的義務に基づく補助金のほか、輸出入品への関税は王室の重要な財源でした。特にイングランドでは羊毛の関税が王室収入の柱でした。
| 税名 | 内容 |
|---|---|
| シールド・マネー(Scutage) | 軍役の代わりに支払う免役金 |
| タリエージュ(Tallage) | 国王が直轄領の住民に課す臨時税 |
| 補助金(Aid) | 封建的義務に基づく特別徴収。国王の身代金、嫡子の叙任、長女の結婚時 |
| 関税(Custom) | 輸出入品に課される税。羊毛の関税がイングランド王室の主要収入源 |
都市の税
都市にも独自の税制がありました。橋や城門を通過するたびに徴収される通行税、市場での売買に課される市場税、都市に商品を持ち込む際の入市税、そして市民権を維持するための市民税など、都市住民や通過する商人は複数の税を負担していました。
| 税名 | 内容 |
|---|---|
| 通行税(Toll) | 橋・道路・城門の通過時に徴収 |
| 市場税(Market Toll) | 市場での商品売買に課される取引税 |
| 入市税(Octroi) | 都市に持ち込む商品に課される消費税 |
| 市民税(Bürgerrecht) | 都市の市民権を維持するための年間納付金 |
税の徴収方法
税の徴収方法自体にも歴史的なバリエーションがあります。
| 方法 | 内容 |
|---|---|
| 現物納税 | 穀物・家畜・布などで納税。貨幣経済が未発達な地域の主流 |
| 貨幣納税 | 金貨・銀貨・銅貨で納税。都市化の進展とともに主流に |
| 労役納税(賦役) | 領主の畑で働く、道路を修繕するなどの労働で代替 |
| 徴税請負(Tax Farming) | 政府が民間人に徴税権を売却。徴税人は集めた額と請負額の差額が利益 |
| 自己申告 | 納税者が自分の財産を申告し、それに基づいて課税。虚偽申告が横行 |
徴税請負制度は古代ローマのプブリカヌス(徴税人)から近世フランスのフェルミエ・ジェネロー(徴税総請負人)まで広く用いられ、しばしば苛酷な取り立てと汚職の温床となりました。新約聖書でイエスが「取税人」と食事をしたことが批判されるエピソードも、この制度への嫌悪が背景にあります。
税負担率の歴史的な目安
ファンタジー世界の税率を設定する際の参考として、実際の歴史的な税負担率を整理します。
| 時代・地域 | 税負担率 | 備考 |
|---|---|---|
| 中世イングランド農民 | 収穫の30-50% | 十分の一税(10%)+領主税(20-30%)+国王税の合計 |
| 古代ローマ市民 | 財産の1-3% | 属州民はこれに加えて穀物税を負担 |
| 日本・江戸時代 | 四公六民〜五公五民 | 収穫の40-50%を年貢として納める |
| フランス革命前の第三身分 | 収入の50%以上 | タイユ税・塩税・人頭税・十分の一税の合計 |
| 中世イスラーム | 収穫の10-20% | ザカート(2.5%)+ウシュル(土地税10%)。キリスト教圏より低めだった |
中世の農民が実際にどれだけの税を支払っていたかは研究者の間でも議論がありますが、概ね収穫の3-5割が税として徴収されていたと見積もられています。これに加えて賦役(年間数十日の無償労働)があるため、実質的な負担はさらに重くなります。
凶作の年にも同率の税が課されると農民は種籾まで供出せざるをえず、翌年の収穫がさらに減るという悪循環に陥ります。この「税と飢餓のスパイラル」は、ファンタジー作品で農村の窮状を描く際にリアリティを与える要素になります。
近代の税制改革
中世から近代にかけて、税制は大きな変革を遂げました。この変遷を知っておくと、「中世から近代への転換期」を描くファンタジーに深みが出ます。
| 改革 | 年代 | 内容 |
|---|---|---|
| イギリス所得税の導入 | 1799年 | ナポレオン戦争の戦費調達のためピット首相が導入。世界初の所得税 |
| フランスの税制統一 | 1789年以降 | 革命により身分別課税を廃止。全国民に均等な課税を原則に |
| プロイセンの関税同盟 | 1834年 | ドイツ諸邦の関税を統一。経済統合から政治統合へ |
| 日本の地租改正 | 1873年 | 年貢(現物納税)を廃止し、地価の3%を金銭で納税する制度に転換 |
| アメリカ合衆国憲法修正第16条 | 1913年 | 連邦所得税を合憲とする修正。現代アメリカ税制の基礎 |
近代税制の最大の特徴は「貨幣による納税」と「公平な課税の原則」です。中世の現物納税(穀物や家畜で払う)から貨幣納税への移行は、商業経済の発展と密接に結びついています。現物納税の時代、弴税吏は穀物を運搜・計量・保管する必要があり、そのロジスティクス自体が巨大なコストでした。貨幣経済が未発達なファンタジー世界では、この「現物で納税することの煩雑さ」を描写するだけでも世界観にリアリティが生まれます。
ファンタジー世界での税制設計
ファンタジー世界に税制を組み込む際は、税の種類・税率・徴収者・免税階層・特別税・脱税のルートといった要素を検討すると、説得力のある世界観が構築できます。冒険者への入市税や魔法使いへの特別課税など、ファンタジーならではの税を設計するのも効果的です。
| 設計項目 | 検討ポイント |
|---|---|
| 税の種類 | 地代・人頭税・通行税・市場税のどれを採用するか |
| 税率 | 低すぎると領主が軍を維持できず、高すぎると反乱が起きる |
| 徴収者 | 領主直属の代官か、教会か、ギルドか、徴税請負人か |
| 免税階層 | 貴族・聖職者・特定のギルドは免税か |
| 特別税 | 戦時の臨時増税、冒険者への入市税、魔法使いへの特別課税も面白い |
| 脱税と密輸 | 通行税を避ける密輸ルート、領地間の税率差を利用した密貿易 |
税制に関する歴史的事件
歴史上、理不尽な課税は幾度となく反乱や革命の引き金になってきました。マグナ・カルタの「議会の同意なき課税の禁止」からアメリカ独立革命の「代表なくして課税なし」まで、税を巡る闘争は政治体制そのものを変革する力を持っていました。
| 事件 | 年 | 内容 |
|---|---|---|
| マグナ・カルタ | 1215年 | 国王ジョンの過大な課税に対して貴族が反乱。「議会の同意なき課税の禁止」が明文化 |
| ワット・タイラーの乱 | 1381年 | 人頭税への農民反乱。ロンドンが一時占拠される |
| ジャックリーの乱 | 1358年 | フランスの農民反乱。百年戦争中の増税が原因 |
| アメリカ独立革命 | 1775年 | 「代表なくして課税なし」(No Taxation Without Representation) |
| フランス革命 | 1789年 | 第三身分(平民)のみが税負担する不公平への怒り |
日本の税制史
西洋の税制と比較するため、日本の税制の変遷も整理しておきます。
| 時代 | 税制 | 内容 |
|---|---|---|
| 大化改新(645年) | 租庸調制 | 中国の律令制に倣い、租(稲)・庸(布または労役)・調(特産物)を徴収 |
| 奈良〜平安時代 | 荘園制の発展 | 貴族・寺社の私有地(荘園)は国税が免除。「不輸不入の権」 |
| 鎌倉時代 | 段銭・棟別銭 | 田畑の面積や家屋の数に応じた臨時税。戦費調達が目的 |
| 室町時代 | 関銭・津料 | 関所の通行税。各地の守護大名が勝手に設置し、交易の妨げに |
| 戦国時代 | 軍役と貫高制 | 所領の生産力に応じた軍役を課す。「何貫文の武士」で動員数が決まる |
| 江戸時代 | 年貢(石高制) | 米の生産高に基づく課税。「五公五民」が標準 |
| 明治以降 | 地租改正 | 現物から金納に移行。近代税制へ |
織田信長が行った「楽市楽座」は、座(ギルド的独占組合)の特権を廃止し、市場の自由化と関所の撤廃を推進した革新的な税制・経済改革として知られています。関所の廃止により通行税がなくなり、商人の移動が自由になったことで、織田領の経済は飛躍的に成長しました。この「税を下げることで経済が活性化し、結果的に税収が増える」というメカニズムは、ファンタジー世界の賢君が実行する経済政策としてそのまま使えます。
ポップカルチャーでの税制
フィクションでも税制は重要なモチーフとして扱われています。『狼と香辛料』では十分の一税や通行税が物語のプロットに直接関与し、『ロビン・フッド』ではジョン王の重税に対する義賊の抵抗が物語の核となっています。
| 作品 | 税の扱い | ポイント |
|---|---|---|
| 『狼と香辛料』 | 教会の十分の一税・通行税 | 税が物語のプロットに直接関与 |
| 『ロビン・フッド』 | ジョン王の重税 | 「義賊」のモチーフ=理不尽な課税への抵抗 |
| 『進撃の巨人』 | 壁内の税制 | 資源配分の不公平が社会対立の原因に |
| 『本好きの下剋上』 | 領主への年貢 | 中世風の税制が日常描写に組み込まれている |
| 『マオウ〜魔王/勇者〜』 | 租税改革 | 税制を通じた社会変革が物語のテーマ |
税をめぐるドラマは古今東西の物語の核心にあります。理不尽な増税は反乱を生み、減税は民衆の支持を集め、脱税は冒険のきっかけになり、徴税人は物語のヒールにもヒーローにもなれる多面的なキャラクターです。
まとめ
税制は「誰が」「誰に」「何を」「なぜ」納めるのかという構造であり、その不公平さが革命や反乱の種になってきました。ファンタジー世界に税制を設定する際は、教会税・領主税・国王税・都市税の4層を意識し、誰がどの税から利益を得て、誰がその負担に苦しんでいるのかを設計するとよいでしょう。税制一つで王国の繁栄も滅亡も描くことができます。そして、税を巡る人々の感情——納税者の怨み、弴税人の罪悪感、脱税者のスリル——を描くことで、税制は単なる背景設定から物語の心臓へと昇華します。
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