帝国・王国・公国・共和国の違い|ファンタジー国家の政治体制を徹底解説

2021年9月12日

ヨーロッパには「帝国」「皇国」「王国」「公国」といった「政治体制」があります。

ファンタジー小説を書いていると、「この国は帝国なのか王国なのか」で迷うことはありませんか。「帝国」と「王国」は何が違うのか、「公国」はどのくらいの規模なのか、「共和国」にすると物語の雰囲気はどう変わるのか——意外と曖昧なまま使っている方も多いのではないでしょうか。

この記事では、帝国・皇国・王国・公国・共和国の5つの政治体制について、定義・君主の称号・語源・歴史上の実例・ファンタジー作品での描かれ方を体系的に整理します。

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5つの政治体制を一覧比較

まずは全体像を把握しましょう。以下のテーブルで5つの政治体制を比較します。

政治体制君主の称号定義規模感物語での典型的イメージ
帝国皇帝(Emperor)皇帝が支配・統治する国家。複数の民族・地域の集合体最大強大な軍事力を持つ敵対国
皇国天皇(Emperor / Tenno)天皇が支配・統治する国家。神話に由来する権威大〜中長い伝統と平和を持つ国
王国国王(King)国王が支配・統治する国家。王族による世襲中〜大主人公の祖国、冒険の舞台
公国大公・公爵(Grand Duke / Duke)貴族が支配・統治する国家小〜中陰謀劇の舞台、小国の独立
共和国大統領・議長など君主を持たず、人民の代表が統治する国家不定民主主義の希望、あるいは衆愚政治の危険

これだけ見ても、各体制の性格の違いが浮かんできますよね。では、一つずつ詳しく見ていきましょう。

帝国(Empire)— 複数の民族を束ねる超大国

帝国は、皇帝(Emperor)が統治する国家です。通常は単一の王国より広大な範囲の地域や民族の集合体を指します。

皇帝の語源

「Emperor」の語源はローマ帝国のインペリウム(imperium) ——「命令権の及ぶ領域」です。インペリウムを託された軍司令官をインペラトル(imperator) と呼び、それが英語のEmperorに変化しました。つまり皇帝の原義は「最高軍司令官」です。

一方、漢字の「皇帝」は古代中国の神話に登場する8人の帝王――三皇五帝――に由来します。秦の始皇帝が「皇」と「帝」を組み合わせて初めて「皇帝」を名乗りました。西洋では軍事力、東洋では神話的権威が皇帝の正当性の根拠だったわけです。

皇帝は「諸王の王(King of Kings)」とも呼ばれます。つまり複数の王を従える存在です。この定義は重要で、「皇帝>国王」という序列は帝国の傘下にある王国との関係でのみ成立します。独立した王国の王と帝国の皇帝に自動的な上下関係はありません。

歴史上の帝国

帝国期間特徴
ローマ帝国BC27〜AD476(西)地中海世界を統一。「帝国」の原型
神聖ローマ帝国962年〜1806年実態は諸侯の連合体。「神聖でもローマでも帝国でもない」とヴォルテールに評された
モンゴル帝国1206年〜1368年史上最大の陸上帝国。最盛期の面積は約3,300万km²
大英帝国16世紀〜20世紀「日の沈まない帝国」。植民地を通じた間接支配
オスマン帝国1299年〜1922年イスラム世界の盟主。多民族・多宗教の共存体制

神聖ローマ帝国は「帝国」と名乗りながら、実態は300以上の領邦国家の寄せ集めでした。選帝侯が皇帝を選ぶ「選挙制」をとっていたので、皇帝の権力は限定的です。このような「名ばかりの帝国」は、ファンタジー世界の設定としても面白い素材になります。

物語の中の帝国

ファンタジー作品において帝国はしばしば「敵対する巨大国家」として描かれます。『スター・ウォーズ』の銀河帝国、『進撃の巨人』のマーレ帝国、『銀河英雄伝説』のゴールデンバウム朝銀河帝国——いずれも圧倒的な軍事力と支配欲を持つ脅威として登場しますよね。

帝国が悪役として描かれやすい理由は、「力による支配」というイメージが帝国主義・植民地主義と結びつくからでしょう。しかし、必ずしも帝国=悪とは限りません。『銀河英雄伝説』のラインハルトが腐敗した帝政を改革する展開は、帝国を「内側から変える」物語として秀逸です。

皇国 — 神話から続く権威

皇国は、天皇が統治する国家です。帝国と皇国はどちらも英語ではEmpireですが、その君主の成り立ちが決定的に異なります。

帝国の皇帝は「軍事的実力で帝位を獲得した者」。皇国の天皇は「神話から脈々と続く血統による権威者」です。一代で成り上がる皇帝と、神話の時代から続く天皇——この対比が物語において重要になります。

天皇の語源もまた「三皇五帝」です。三皇は神、五帝は聖人としての性格を持ちます。この概念が日本に取り入れられ、神に等しい君主を「天皇」と名付けたと考えられています。

比較項目帝国(皇帝)皇国(天皇)
権威の源泉軍事力・征服神話・血統
退位後の称号太上皇帝上皇(Emperor Emeritus)
跡継ぎの称号皇太子(Crown Prince)
物語でのイメージ強権的・膨張的伝統的・守護的

ファンタジー世界で「長い歴史と平和を享受してきた国が、外部の脅威によって危機に陥る」という物語を描くなら、皇国型の国家が向いています。神話的な権威を持つ君主が治める国には、「守るべきもの」の重みが自然と備わるからです。

王国(Kingdom)— 最も汎用的な政治体制

王国は、国王(King)が統治する国家です。王族が世襲で王位を受け継ぐのが基本形ですが、帝国の皇帝から「諸侯王」として任命されるケースもあります。

称号英語説明
国王King王国の最高権力者
女王Queen女性の国王
諸侯王Lord皇帝によって王に任ぜられた者
王太子Crown Prince王位の第一継承者

王国はファンタジー作品で最も使われる政治体制です。理由は単純で、「王がいて、騎士がいて、姫がいる」という構図が読者にとって最もわかりやすいからです。

歴史上の王国

王国期間特徴
イングランド王国927年〜1707年ノルマン征服以降、貴族制度が発達。大憲章(マグナ・カルタ)で王権を制限
フランス王国987年〜1792年カペー朝から始まる長い王朝史。フランス革命で王政が崩壊
カスティーリャ王国1065年〜1516年レコンキスタの主役。アラゴン王国と合併してスペイン王国に
プロイセン王国1701年〜1918年辺境伯から王国に昇格。後にドイツ帝国の盟主へ

注意すべきは、「皇帝>国王」が自動的に成り立つわけではないという点です。この序列が正しいのは、帝国の支配下にある王国(=諸侯王)の場合のみです。独立した王国の王と、別の帝国の皇帝との間に上下関係はありません。退位した国王は貴族の称号で呼ばれるのも特徴です。イギリスのエドワード8世は退位後「ウィンザー公」となりました。

物語の中の王国

王国はファンタジー作品で最も柔軟に使える政治体制です。帝国に支配される立場にも、帝国に抵抗する立場にもなれます。主人公が冒険に旅立つ出発点としても、帰還すべき故郷としても機能します。

『ロードス島戦記』のヴァリス王国やフレイム王国、『ファイアーエムブレム 蒼炎の軌跡』のクリミア王国など、王国は「守るべき祖国」として主人公の動機を支える役割を果たすことが多いですよね。

公国(Duchy)— 貴族が治める小国

公国は、大公(Grand Duke)や公爵(Duke)といった貴族が統治する国家です。王国より小規模なことが多く、独立国の場合もあれば、帝国内の構成国の場合もあります。

歴史上の公国

公国特徴
ブルゴーニュ公国フランス王国内の公国だが、軍事力と財力で王国を上回った時期もある
ルクセンブルク大公国現在も大公が国家元首。面積2,586km²の小国
モナコ公国世界で2番目に小さい国(面積2.02km²)。グリマルディ家が700年以上統治
トスカーナ大公国メディチ家がフィレンツェ共和国から大公国に変えた

公国のファンタジー設定における最大の魅力は権力の流動性です。王国では王族が世襲で王位を占めますが、公国では複数の貴族家系が代わるがわる統治権を争うことができます。どの貴族にも国を治めるチャンスがあるという設定は、謀略劇との相性が抜群です。

また、公爵だけでなく侯爵(Marquis)が統治する国もあります。侯爵と公爵の違いについて詳しくは別記事で解説していますので、あわせてご覧ください。

共和国(Republic)— 君主なき国家

共和国は、君主を持たない政治体制です。国家の最高決定権は人民が持ち、大統領・議長・首相といった選挙で選ばれた代表者が統治します。

歴史上の共和国

共和国期間特徴
ローマ共和国BC509〜BC27元老院と執政官による統治。共和政の原型
ヴェネツィア共和国697年〜1797年1,100年続いた海洋共和国。総督(ドージェ)を選挙で選出
フィレンツェ共和国1115年〜1532年メディチ家の支配を経て大公国に移行
オランダ共和国1581年〜1795年スペインから独立。総督制と共和制のハイブリッド

物語の中の共和国

『スター・ウォーズ』の銀河共和国は、共和国の功罪を見事に描いた例です。民主主義であるがゆえにパルパティーンを最高議長として正当に選出してしまい、内部から銀河帝国に変質していきました。「民主主義が独裁を生む」というパラドックスは、古代ローマ共和国がカエサルの独裁を経て帝政に移行した歴史とも重なります。

共和国の弱点は意思決定の遅さです。多くの人々の意見を取り入れるため、有事の際に決断が遅れる。この弱点を突いて独裁者が台頭する——というシナリオは、歴史上何度も繰り返されてきたパターンです。

一方、ヴェネツィア共和国のように1,100年も安定した共和政を維持した例もあります。総督の権限を徹底的に制限する仕組み(在職中は外国人と会食禁止、私的な贈答禁止など)によって、独裁を防いでいたのです。ファンタジー世界で長命の共和国を設定するなら、「権力を縛る仕組み」を具体的に設計すると説得力が増しますよ。

政治体制の比較と序列の誤解

ここで一つ、よくある誤解を整理しておきます。

インターネット上で「帝国≒皇国>王国>公国」という序列が書かれることがありますが、これは正確ではありません。帝国・王国・公国はそれぞれ独立した政治体制であり、本来は横並びの関係です。

「帝国>王国」が成立するのは、帝国の支配下に王国がある場合のみです。たとえば神聖ローマ帝国内のボヘミア王国は皇帝の臣下ですが、独立したイングランド王国の王は神聖ローマ皇帝と同格でした。

関係序列
帝国内の王国皇帝>諸侯王神聖ローマ帝国内のボヘミア王
独立した帝国と王国序列なし(対等)イングランド王とローマ皇帝
帝国と皇国≒同義統治者が皇帝か天皇かの違い
公国と共和国統治原理が異なる貴族統治 vs 人民統治

帝国と皇国の違いは「皇帝」と「天皇」の成り立ちです。一代で武力によって帝位を得る皇帝と、神話から連綿と続く天皇。物語の中では、帝国=侵略的な敵国、皇国=伝統を守る国——というイメージで描かれることが多いのは、この起源の違いに由来するのかもしれません。

政治体制と物語ジャンルの相性

最後に、どの政治体制がどんなジャンルの物語と相性がよいかを整理します。

政治体制相性のよいジャンル物語のモチーフ
帝国戦記・反乱もの圧倒的な敵に立ち向かう/内部から改革する
皇国和風ファンタジー・守護もの長い平和が脅かされる/神話的使命
王国冒険・成長もの祖国を守る/王位継承争い
公国謀略・政治劇貴族間の権力闘争/領地争い
共和国SF・政治スリラー民主主義の崩壊/衆愚政治

たとえば、こんな国家設定の組み合わせが考えられます。

帝国 vs 王国連合 — 膨張する帝国に対して、複数の王国が同盟を組んで抵抗する古典的な構図

公国の貴族会議 — 大公が病に倒れ、5つの有力貴族家が後継者を巡って暗闘を繰り広げる

共和国から帝国への変質 — 英雄が民衆の支持を得て独裁者になる。共和国がいつしか帝国に変わっていく

皇国と帝国の対比 — 神話の権威で統治する皇国と、軍事力で統治する帝国が衝突する。正義はどちらにあるのか

爵位とは何か|日本とイギリスの爵位制度を比較も読むと、各政治体制の中での貴族の立ち位置がさらに理解しやすくなります。

まとめ

帝国・皇国・王国・公国・共和国——この5つの政治体制は、ファンタジー世界の骨格そのものです。帝国は皇帝が複数の民族を束ねる超大国、王国は王族が世襲で統治する最も汎用的な国家、公国は貴族が治める権力流動性の高い小国、共和国は君主なき人民統治の国家。それぞれに得意とする物語のジャンルがあり、組み合わせることで複雑な国際関係を描くことができます。

特に重要なのは、「帝国>王国」という序列は自動的には成り立たないという点です。独立した国同士に上下関係はありません。この事実を知っているだけで、国家間の外交・戦争・同盟の描写にリアリティが生まれます。

この記事があなたの物語創作の参考になれば幸いです。


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