東洋魔術の知識|陰陽道・仙道・密教・風水・蟲毒を体系的に解説

2022年6月11日

西洋の魔術が「自然を支配する力」だとすれば、東洋の魔術は「自然の流れに乗る力」と言えるかもしれません。東洋魔術は陰陽道、仙道、密教呪術、風水など多岐にわたりますが、その根底にはほぼ共通して「気」と「陰陽五行」の思想があります。

この記事では、東洋魔術の主要な系統を体系的に整理し、創作に使える知識としてまとめます。

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陰陽五行思想の基盤

東洋魔術のほぼすべてが依拠する基盤が「陰陽五行思想」です。

陰陽

月、夜、冬、水、女、静、受動太陽、昼、夏、火、男、動、能動

陰と陽は「対立」ではなく「相互補完」です。陰の中に陽があり、陽の中に陰がある。太極図(陰陽マーク)の白い部分に黒い点、黒い部分に白い点があるのはこの思想を表しています。

五行

五行象徴方角季節臓器
成長・発展青/緑
上昇・熱
安定・養育中央土用
収斂・変革西
下降・潤

相生(そうしょう) は「生み出す関係」です。木→火→土→金→水→木の順に循環します。木が燃えて火を生み、火が灰となって土を生み、土から金属が産出され、金属の表面に水滴が生じ、水が木を育てる。

相剋(そうこく) は「抑制する関係」です。木→土→水→火→金→木の循環で、木は土の養分を吸い、土は水を堰き止め、水は火を消し、火は金属を溶かし、金属(斧)は木を切る。

この相生相剋のシステムがバトルもので属性相性として使われる場合、西洋の四元素より複雑で戦略的なものになります。

陰陽道

日本独自の魔術体系として最も有名なのが陰陽道です。

要素内容
起源中国の陰陽五行思想+道教+日本の神道が融合
主な実践者陰陽師(おんみょうじ)。律令制の官職
管轄機関陰陽寮(おんみょうりょう)。天文・暦・占い・方位を管轄
最盛期平安時代。安倍晴明が活躍した10-11世紀
衰退明治政府により1870年に陰陽道が廃止

陰陽師の主な術

内容
式神(しきがみ)陰陽師に使役される霊的存在。紙の人形(ひとがた)に命を吹き込む
呪禁(じゅごん)病気や災厄を祓う呪術
泰山府君祭寿命を延ばす大規模な祭祀
方違え(かたたがえ)凶方位を避けて別の方角から目的地へ向かう風習
反閇(へんばい)特殊な歩行法で大地の気を踏みしめる術
人形代(ひとがたしろ)身代わりの人形に災厄を移す

安倍晴明の式神として有名な「十二天将」は、十二支に対応する12の精霊です。騰蛇(とうだ)、朱雀(すざく)、六合(りくごう)、勾陳(こうちん)、青龍(せいりゅう)、天后(てんこう)、太陰(たいいん)、玄武(げんぶ)、太裳(たいじょう)、白虎(びゃっこ)、天空(てんくう)、大将軍(たいしょうぐん)と多様な役割を持ちます。

仙道(道教系魔術)

中国の仙道は「不老不死を目指す修行体系」です。

修行法概要
内丹術体内の気を練り、丹田で「内丹」を作る。気功の源流
外丹術鉱物(水銀・硫黄など)を調合して不老不死の丹薬を作る
導引術呼吸法と体操で気の流れを整える
辟穀(へきこく)穀物を断ち、気のみで生きる修行
存思術体内の神々を瞑想で可視化する
符術護符(お札)に気を込めて効果を発揮させる

仙人には階梯があり、最下位の「地仙」から「人仙」「天仙」「金仙」とランクが上がります。最高位の仙人は「大羅金仙(たいらきんせん)」と呼ばれ、天地と同化した存在です。

「丹(たん)」は仙道の中核概念です。「外丹」は物理的な薬。「内丹」は体内で練る精神的エネルギーの結晶。バトルものの「丹を練る」という表現はここから来ています。秦の始皇帝が不老不死の薬を求めたのは外丹術であり、水銀を含む丹薬を服用して健康を害した皇帝は歴史上複数います。

密教呪術

仏教系の魔術として、真言密教の呪術体系があります。

要素内容
三密加持身(印を結ぶ)・口(真言を唱える)・意(仏を観想する)の三つを同時に行う
真言(マントラ)サンスクリット語の聖句。「オン」「ソワカ」などの呪文
印(ムドラー)手の形で仏の力を表現する。両手の指の組み方に意味がある
護摩(ゴマ)炎の中に供物を投じる火の儀式
曼荼羅宇宙の構造を図式化したもの。「金剛界」と「胎蔵界」の2種

空海(弘法大師)は中国で密教を学び、日本に真言宗として持ち帰りました。密教の最終目標は「即身成仏」(生きたまま仏になる)であり、修行によって肉体を持ったまま宇宙と一体化するという発想です。

風水

風水は「気の流れを読み、環境を整える術」です。

概念内容
龍脈大地を流れる気のルート。山の稜線に沿って流れるとされる
龍穴龍脈の気が集まる場所。都市や墓を建てるのに最適
四神相応東に青龍(川)、西に白虎(道)、南に朱雀(池)、北に玄武(山)
形勢派地形を目視で判断する流派
理気派方位と数理で気の流れを計算する流派

京都が四神相応の地であることは有名です。東に鴨川(青龍)、西に山陰道(白虎)、南に巨椋池(朱雀、現在は干拓済み)、北に船岡山(玄武)があります。平安京がこの地に建設されたのは風水思想に基づく判断でした。

蟲毒(こどく)

東洋魔術の中でも「暗黒」に位置する術が蟲毒です。

複数の毒虫(蛇、蠍、蜘蛛、蛙、百足など)を一つの壺に入れて封じ、共食いさせます。最後に生き残った一匹が強力な呪力を持つ「蟲」となり、術者の意のままに呪いや毒をもたらすとされています。中国では漢代から厳しく禁止される法令が出されており、蟲毒の使用は死刑に相当する重罪でした。日本でも『今昔物語集』や『日本霊異記』に蟲毒に関する記述があり、奈良時代には蟲毒を用いた犯罪に対する厳しい罰則が定められていました。

東洋魔術の中でも蟲毒は「呪い」の領域に深く踏み込むものです。呪術廻戦の「呪詛師」が行う呪いの概念とも通底しており、創作において「暗黒の術」を設計する際のモデルケースになります。

ポップカルチャーでの東洋魔術

作品東洋魔術の扱いポイント
『呪術廻戦』呪術全般呪力=負の感情、呪術=陰陽道+密教の融合
『陰陽師(夢枕獏)』陰陽道安倍晴明の式神使役を正面から描写
『蟲師』蟲(東洋的生命観)蟲=生命の根源に近い存在として再構築
『封神演義(藤崎竜)』仙道・道教仙人・道士の階梯を漫画的にアレンジ
『NARUTO』忍術(陰陽+五行+印)印を結ぶ→真言密教、五行属性→チャクラ性質変化
『十二国記』中華風仙道世界仙籍に入る=仙人になる制度を詳細に描写
『霊幻道士(キョンシー)』道教呪術符術・風水・キョンシー退治を映像化
『仙剣奇侠伝』仙道RPG内丹・外丹術をゲームシステムに落とし込み

まとめ

東洋魔術の体系は「陰陽五行」を共通基盤としながら、陰陽道(日本独自の官制魔術)、仙道(不老不死の修行体系)、密教呪術(三密加持の宗教魔術)、風水(気の環境設計)、蟲毒(暗黒の呪術)と多様に分岐しています。西洋魔術が「自然法則の支配」を目指すのに対し、東洋魔術は「気の流れに乗り、調和によって力を得る」という世界観が根底にあります。

ここでひとつ重要なのは、東洋魔術の多くが「修行」を前提にしているという点です。仙道では何十年もの修行で内丹を練り、密教では三密加持の訓練を積み、陰陽師は天文・暦・占術を学問として修めました。つまり「才能」一つで使える西洋的な魔法(マジック)とは異なり、東洋魔術には「地道な鍛錬の積み重ねが力になる」という価値観が組み込まれているのです。

この違いを理解しておくと、東洋風ファンタジーの設定に独自の説得力を与えることができるでしょう。西洋魔術と東洋魔術を併存させる場合は、両者の根本的な思想の違い(支配vs調和)を意識して描き分けると、世界観に厚みが増します。


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