ダブル主人公の書き方|「NGという常識」を超える2つの注意点

2020年10月25日

「ダブル主人公はNG」——Web小説の界隈では、これが常識のように語られます。

確かに、ダブル主人公は難しい技法です。しかし、それは「やってはいけない」のではなく、「失敗パターンを知らずにやると高確率で失敗する」だけの話です。逆に言えば、失敗パターンを理解して設計すれば、1人の主人公では到達できない感動を生み出せます。

この記事では、映画『鍵泥棒のメソッド』の分析を軸に、ダブル主人公が失敗する2つのNGパターンと、成功のための設計法を解説します。

kosiboro.work ― 腰ボロSEの創作ノウハウ550記事超|小説の書き方ガイド

ダブル主人公はなぜ「NG」と言われるのか

「NGの常識」の出どころ

Web小説界隈でダブル主人公が敬遠される理由は、おおむね以下の3つです。

1. 読者の感情移入先が分散する:誰に共感すればいいのかわからなくなる
2. 片方が「いらない子」になりがち:活躍の量が偏ると、片方が添え物に見える
3. 視点の切り替えでテンポが崩れる:「こっちの話はいいから早くあっちを見せて」問題

これらはすべて、設計の失敗です。ダブル主人公という手法そのものの欠陥ではありません。実際、『DEATH NOTE』の月とL、『リコリス・リコイル』の千束とたきな、『ダンダダン』のオカルンとモモなど、ダブル主人公で大成功した作品はいくつも存在します。

問題は「やるかやらないか」ではなく、「どうやるか」です。

NGパターン分析:『鍵泥棒のメソッド』に学ぶ

ここで、ダブル主人公の失敗パターンを具体的に理解するために、映画『鍵泥棒のメソッド』(2012年公開)を分析します。

あらすじの概要

法外な報酬で仕事を請け負う凄腕の殺し屋「コンドウ」こと山崎信一郎と、計画性ゼロの三文役者・桜井武史。加えて、すべてを計画しないと気が済まない女性・水嶋香苗。

銭湯で山崎が足を滑らせ記憶を失い、桜井がロッカーの鍵をすり替えたことで、2人の人生が入れ替わる。記憶をなくした山崎は「自分は桜井武史だ」と思い込み、貧しいながらも真剣に役者の勉強を始める。一方、桜井は山崎の高級マンションに住み着き、殺し屋を演じる——。

NGパターン1:片方が舞台装置になっている

この映画で圧倒的に面白いキャラクターは山崎信一郎です。記憶を失いながらも、本来持っている向上心と緻密さを失わず、不遇な環境で真剣に学び続ける姿に引き込まれます。ヒロインの香苗が惹かれていくのも山崎です。

すると、もう一方の主人公・桜井武史はどうなるか。

山崎に「人生に行き詰まった三文役者」という状況を提供するための装置——つまり、物語の設定を成立させるための「機能」に見えてしまうのです。

これがダブル主人公の最大のNG。片方が、もう片方の引き立て役・舞台装置になっている状態です。

ダブル主人公を名乗るなら、どちらにも独自の「見せ場」が必要です。片方が輝けば輝くほど、もう片方の存在意義が薄まる——この構造的な罠を認識しておかなければなりません。

NGパターン2:視点が戻ってほしくないキャラがいる

映画『鍵泥棒のメソッド』で、山崎のパートが面白いと感じた視聴者は、桜井のパートに切り替わったとき、こう思うはずです。

「桜井はいいから、早く山崎を出してくれ」

これは視点移動における致命的な失敗です。ダブル主人公で視点を切り替えるなら、どちらのパートに移動しても「待ってました」と思われるレベルのキャラ立ちが必要になります。

では、なぜこの映画を最後まで見てしまうのか。それは桜井武史を演じるのが堺雅人だからです。山崎信一郎は香川照之、香苗は広末涼子。俳優という「一次創作」に圧倒的な魅力があるため、キャラクターの弱さを俳優力で補えているのです。

しかし、小説に俳優はいません。キャラクター自身の力だけで、読者の「早くこっちに戻して」を実現しなければならないのです。

ダブル主人公を成功させるための設計法

NGパターンを理解した上で、成功のための設計法を5つのステップで解説します。

ステップ1:両方に「独自の成長アーク」を設計する

最も重要なのは、2人の主人公にそれぞれ独立した成長の物語を持たせることです。

要素主人公A主人公B
冒頭の状態自信過剰だが孤独臆病だが仲間思い
克服すべき課題人を信じること自分を信じること
成長のゴール「助けを求められる人」になる「一人でも立てる人」になる

2人の成長アークが対称的であること。Aが手放すものをBが獲得し、Bが手放すものをAが獲得する。この鏡像構造が、「2人でなければ描けなかった物語」という説得力を生みます。

ステップ2:視点を切り替える前に「引力」を仕込む

視点を切り替えた瞬間に「早く戻して」と思われないためには、切り替える直前に「引力」を仕込む必要があります。

具体的なテクニックは3つ。

引力1:クリフハンガー
Aのパートを「ピンチの直前」で切り、Bのパートに移る。読者は「Aのその後が気になる」が、Bのパートにもすでに別のフックを仕込んでおく。

引力2:情報の非対称性
AがBについて知らない情報を読者に見せる。Bのパートで「Aはまだこれを知らない」という状態を作る。読者は両方の視点を持てるため、どちらのパートも楽しめる。

引力3:合流への期待
2人がいつ出会い、いつ協力するのかへの期待を煽る。視点が切り替わるたびに「2人の距離が縮まっている」ことを感じさせる。

ステップ3:「片方が犠牲にならない」チェック

原稿を書き上げたら、以下のチェックリストで確認します。

• [ ] 2人の主人公のそれぞれに、独自のクライマックスがあるか

• [ ] 片方を削除しても物語が成立する場合、その人物は本当に「主人公」か

• [ ] 読者が「このキャラのパートが好き」と言えるだけの見せ場が両方にあるか

• [ ] 片方の活躍が、もう片方の犠牲の上に成り立っていないか

1つでもNoがあれば、設計を見直す必要があります。

ステップ4:合流シーンを物語のピークにする

ダブル主人公の最大の武器は、2人が力を合わせる瞬間です。別々に活動していた2人が合流し、共に最大の敵に立ち向かう。

この合流シーンを物語の最高潮に設定することで、ダブル主人公構造の意味が完成します。「1人では絶対に勝てない壁を、2人だから超えられる」——この構造が、1人の主人公では到達できない感動を生むのです。

ステップ5:Web小説特有の視点交代テクニック

Web小説では、章の切れ目で視点を切り替えるのが一般的です。しかし、いくつかの工夫で視点交代をスムーズにできます。

テクニック1:章タイトルで視点を明示する
「第○章 ——Side A」「第○章 ——Side B」と明記する。読者が心の準備をできるため、ストレスが減ります。

テクニック2:切り替え頻度を序盤は少なく、終盤に向けて増やす
序盤で頻繁に切り替えると読者が混乱します。まずはAの視点で十分にキャラを立て、中盤以降にBの視点を増やし、終盤で交互に描く。この段階的な設計が安定します。

テクニック3:一方の「空白の時間」をもう一方で埋める
Aのパートで「3日後」と時間が飛ぶとき、その3日間をBのパートで描く。テンポの緩急を2人の視点で自然に管理できます。

「分けて描いて、最後に統合する」勇気

ダブル主人公に挑戦したが片方が弱くなってしまった場合、分離して別作品にするという選択も有効です。

実際に私は境界を超えろシリーズで、当初アイン・スタンスラインとケルト・シェイネンのダブル主人公として構想していた物語を、アイン単独の本編+ケルト主人公の外伝という形に再構成しました。

結果として、アインというキャラクターがしっかり立ち、外伝でチラリと登場するだけでも存在感を発揮するようになりました。ケルトもケルトで、外伝の中で主人公として丁寧に描けました。

ダブル主人公にこだわるあまり両方が中途半端になるくらいなら、「分けて、それぞれを主人公として輝かせる」方が作品全体の完成度は上がります。

まとめ:ダブル主人公の2つの注意点

NGパターン1:片方を舞台装置にしない
ダブル主人公を謳うなら、2人ともに独自の成長アークと見せ場が必要。片方がもう片方の引き立て役になったら、それはダブル主人公ではなくバディもの(しかも失敗版)。

NGパターン2:視点が戻ってほしくないキャラを作らない
視点を切り替えるなら、どちらのパートに移動しても「待ってました」と思われるキャラ立ちが必須。切り替え前の引力設計が鍵。

ダブル主人公はNGという常識を鵜呑みにする必要はありません。しかし、1人の主人公を描くよりも設計の難易度は格段に高い。群像劇は見かけよりもずっと難しい技法です。

だからこそ、成功したときの感動は格別なのです。


関連記事

バディもの&ダブル主人公とは|「2人の物語」が生む強い感動の構造

ナンバー2キャラの設計術|主人公の「肯定者」が物語を動かす

「常識がないキャラ」を一人置くと物語が動き出す|バカキャラ配置の技術

キャラクター設定についてまとめてみた|これだけ押さえれば大丈夫

この記事が参考になったら、ブックマーク or シェアしていただけると励みになります。

腰ボロ作家について
創作の「設定資料」と「物語の書き方」を中心に、550記事以上を公開中。
サイトトップX(Twitter)

よく読まれている記事

小説の書き方本をもっと読むなら → Kindle Unlimited