良いセリフは「事前準備」が9割|良いセリフ2つとNGセリフ3つの違い
「良いセリフが書けない」と悩んでいる人の多くは、セリフの書き方ではなく、セリフの前の準備が足りていません。
セリフは物語の「出力」です。キャラクターの性格、人間関係、場面の状況という「入力」が揃って初めて、良いセリフが自然に出てきます。この記事では、セリフが果たす3つの役割を確認し、「良いセリフ」の2パターンと「NGセリフ」の3パターンを具体的に解説します。
セリフが果たす3つの役割
まず、小説におけるセリフの役割を整理しましょう。セリフにはこの3つの機能があり、良いセリフは必ずいずれか(もしくは複数)を果たしています。
役割1:事実を知らせる
情報伝達としてのセリフです。「敵が来る」「明日は雨だ」「この街では魔法が禁じられている」。
このタイプのセリフは最もシンプルですが、そのまま情報だけを伝えると「説明台詞」になるリスクがあります(説明台詞を避ける3つの方法参照)。情報を伝える際にも、キャラクターの性格や感情を反映させることが重要です。
情報だけ: 「北の塔に敵が10人いる」
キャラが出ている: 「北の塔、10人。多いな……いや、ちょうどいい」
後者は同じ情報を伝えつつ、キャラクターの好戦的な性格も表現しています。
役割2:物語を進展させる
セリフ自体が物語の転換点になるケースです。「付き合ってください」「お前はクビだ」「実は、私がお前の母親だ」。
この役割のセリフは、発する前と後で状況が変わります。物語進展型のセリフは、準備なしに書いても機能します。なぜなら、プロットの中で「ここで告白する」「ここで裏切る」と決まっているから。ただし、そのセリフの「言い方」にキャラクターが出ているかは、事前準備の問題です。
役割3:キャラクターの心理・個性を表す
最も重要な役割です。セリフを通じて、キャラクターがどんな人物かを読者に伝えます。
「了解」「承知しました」「おっけー」「把握した」「りょ」。すべて同じ意味ですが、どれを選ぶかでキャラクターの年齢・性格・社会的立場が変わります。この「選択」こそが事前準備の核です。
良いセリフのパターン1:関係性ベース
良いセリフの第一パターンは「キャラクター同士の関係性から生まれるセリフ」です。
関係性がセリフを決定する
同じキャラクターでも、話し相手が変われば口調が変わる。これは現実の人間も同じです。上司には敬語を使い、友人にはタメ口、家族にはさらに砕けた言葉を使う。
この「相手によって変わる口調」をキャラクターにも設計してください。
AキャラのBに対する口調(幼なじみ):
「おい、テスト勉強したか? してないだろ」
Aキャラの先生への口調:
「はい、ちゃんとやりました」
Aキャラの好きな人への口調:
「あの……もし良かったら、一緒に勉強しない……かな」
同一人物が3つの口調を使い分ける。この設計があれば、セリフを書くときに「この場面で話しているのは誰か」を確認するだけで、自然にセリフが出てきます。
関係性セリフの事前準備チェックリスト
1. 主要キャラ同士の「距離感」を定義する(親密/普通/敬遠/敵対)
2. 各距離感に応じた口調のパターンを決める
3. 物語の進行で距離感が変化する場合、口調の変化もメモする
たとえば、最初は敬語だったキャラが、信頼関係の構築とともにタメ口に変わる。この口調変化は、読者に「2人の関係が変わった」と伝える非言語的シグナルになります。
良いセリフのパターン2:キャラ設定ベース
第二パターンは「キャラクター個人の設定から生まれるセリフ」です。
設定がセリフの語彙を決める
キャラクターの職業、出身地、趣味、教育水準が、そのキャラが使う語彙の範囲を決定します。
• 医者 → 医学用語が自然に出る(「バイタル安定」「オペ」)
• 軍人 → 略語・命令形(「オスカー、前方クリア」「了解」)
• 料理人 → 料理の比喩(「焦げる前に引くのが肝心だ」)
• プログラマー → IT用語の日常転用(「それバグってる」「仕様です」)
キャラクターの「語彙データベース」を事前に設計しておくと、セリフを書くたびに迷わなくなります(キャラクター設定の作り方テンプレートで、口調や語彙の項目を埋めてください)。
キャラ設定セリフの事前準備チェックリスト
1. キャラの一人称を決める(俺/僕/わたし/あたし/我/拙者)
2. 語尾パターンを決める
3. よく使う口癖・決まり文句を2〜3個設定する
4. 絶対に使わない言葉を1つ決める(禁句)
5. 感情的になったときの口調変化を決める
特に5番目は重要です。普段は丁寧語のキャラが、怒ったときだけ地が出る。この「切り替わり」が読者に与えるインパクトは絶大です。
NGセリフの3パターン
NG1:説明台詞
「お前は俺の弟で、5年前に家を出て行ったんだよな」。当人同士が知っている情報を改めて確認する不自然なセリフ。回避方法は説明台詞の記事で詳しく解説しています。
NG2:独白の長台詞
「俺はこう思った。なぜなら昔こんなことがあって、あのとき俺は〜」と、キャラクターが延々と過去を語り続けるパターン。
独白そのものはNGではありませんが、長すぎると以下の問題が起きます。
• 物語のテンポが停滞する
• 「聞き手」がいないため、セリフとしての緊張感がない
• 地の文(回想シーン)で処理したほうが自然なケースが多い
独白を使うなら、「誰かに向かって吐露する」形にするか、短く切って地の文と交互に配置してください。
NG3:英会話テキスト型
「I’m going to the store.」の日本語版です。
「今日はいい天気ですね」「はい、そうですね」「散歩に行きませんか」「ええ、行きましょう」
文法的には完璧ですが、キャラクターの個性がゼロ。教科書の例文のようなセリフです。この問題が起きる原因は、キャラクター設定ができていないから。「このキャラなら、天気の話をするときにどう言うか」を考える設定がないと、デフォルト的な標準語で書いてしまいます。
セリフの「プロット化」手法
ここで実践的な手法を紹介します。物語全体のプロットを作るように、重要な会話シーンのセリフもプロット化しておくと、執筆がスムーズになります。
ステップ1:会話シーンの目的を定義する
「このシーンの会話で何を達成するか」を一文で書きます。
例:「AがBに裏切りの事実を告げ、Bの信念が揺らぐ」
ステップ2:感情の開始点と到着点を決める
各キャラクターの感情が、会話の冒頭と末尾でどう変化するかをメモします。
例:
• A:冷静→罪悪感
• B:信頼→動揺→怒り
ステップ3:キーセリフを先に決める
シーンで最も重要なセリフ(ターニングポイントになる一言)を先に決めます。
例:「お前が信じていたものは、全部嘘だ」
ステップ4:キーセリフに至る流れを設計する
キーセリフがいきなり出てくると唐突に感じます。そこに至るまでの会話の流れを設計してください。最初は関係ない話題から始まり、徐々に核心に迫る。この「寄せていく」構成が自然さを生みます。
AIで会話ラフ案を生成する方法
生成AIを使ってセリフのラフ案を出す方法を紹介します。AIは大量の台詞パターンを短時間で生成できるため、「叩き台」として有効です。
プロンプト設計のコツ
AIに指示する際、以下の情報を必ず含めてください。
1. キャラAの性格・口調・一人称
2. キャラBの性格・口調・一人称
3. 2人の関係性
4. 場面の状況
5. この会話で達成したいこと
「AとBの会話を書いて」だけでは、英会話テキスト型のセリフが出てきます。キャラクター情報を詳しく指定するほど、AIの出力は改善します。
AIの弱点を補完する
AIが生成したセリフには以下の傾向があります。
• 全員が同じ語彙レベルで喋りがち
• 感情表現が直接的すぎる(「嬉しい」「悲しい」と言わせがち)
• テンポが均一になりやすい
これらをリライトで修正してください。AIは大量の選択肢を出す機械、最終判断は人間。この分業が最も効率的です。
この記事のまとめ
| 分類 | パターン | ポイント |
|---|---|---|
| 良いセリフ | 関係性ベース | 相手との距離感がセリフに反映 |
| 良いセリフ | キャラ設定ベース | 職業・語彙・口癖が個性を出す |
| NGセリフ | 説明台詞 | 作者の都合で情報を喋らせている |
| NGセリフ | 長独白 | テンポ停滞、地の文で代替可能 |
| NGセリフ | 英会話テキスト型 | キャラの個性がゼロ |
良いセリフを書くコツは、書く前の準備に9割があります。キャラクターの設定を深め、関係性を設計し、会話の目的とキーセリフを先に決める。あとは、キャラクターが勝手に喋り始めるのを待つだけです。
関連記事
• 小説のセリフの書き方 完全ガイド|キャラが活きる台詞術7つのポイント




