創造的人生の持ち時間は10年だ|「風立ちぬ」の名言から考える、書き続ける意味

2021年9月4日

「創造的人生の持ち時間は10年だ。設計家も芸術家も同じだ。君の10年を力を尽くして生きなさい」

この台詞を初めて聞いたのは、2013年の夏でした。映画館で「風立ちぬ」を観たときです。

それから13年が経った今、この言葉は最初に聞いたときとはまったく違う重さで響いています。2013年の私は「10年か、まだたくさんあるな」と思いました。2026年の私は「それがいつで、もう何年残っているのだろう」と思います。

この記事では、宮崎駿監督が遺したこの一節の真意を掘り下げ、小説を書く私たちにとって「10年」がどんな意味を持つのかを考えます。


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宮崎駿が語った「10年」の中身

宮崎駿監督はジブリのフリーペーパー『熱風』2014年7月号で、この台詞についてこう語っています。

> 「僕は『君の持ち時間は10年だ』みたいな話を、つい『風立ちぬ』の中で言っちゃったんだけど、自分自身の持ち時間というのは、実は40代なんですね。30代の終わりごろから40代の終わりごろまでの10年です」

30代終わりから40代終わり。宮崎駿監督の場合、これは「ルパン三世 カリオストロの城」(1979年)から「魔女の宅急便」(1989年)までの時期に当たります。

ここで注目すべきは、宮崎駿監督が最も売れた時期──「もののけ姫」や「千と千尋の神隠し」の時期ではない、ということです。

最も売れた時期ではなく、最も「つくっていた」時期。それが創造的人生だった。


「となりのトトロ」が転換点だった理由

宮崎駿監督は同じインタビューで、自身の美術的なピークは「となりのトトロ」だったと明言しています。

> 「ぼくは結果的に、『トトロ』っていう作品が、峰になっちゃってるんですよ。あれがピークだったんです」

興行収入だけを見ると、トトロは決して大ヒットとは言えません。

作品興行収入
風の谷のナウシカ(1984年)14.8億円
天空の城ラピュタ(1986年)11.6億円
となりのトトロ(1988年)11.7億円
魔女の宅急便(1989年)36.5億円

トトロの興行収入はナウシカより低い。ラピュタとほぼ同じ。商業的な意味では、トトロは「普通」の結果です。

でも宮崎駿監督はトトロを「峰」と呼んだ。なぜか。

「日本の風土を、愛情を持って描こうとした。どういう木が生えてるか、どういう風景があるかを理想化して描こうということを初めてやって、それが初めてうまくいった」──。

つまりトトロは、宮崎駿監督の「やりたかったこと」が初めて「世の中に伝わった」作品だったんです。


天才とは「状態」である

ここで、漫画家のかっぴーさんの定義を借ります。「天才とは、自分の個性や才能が100%受け入れられている状態」。

これは生まれ持った資質の話ではありません。状態の話です。

つまり天才は「なる」ものではなく「なっている」ときがある。個性と時代がぴったり重なった瞬間に、人は天才の状態になる。そしてその状態は、いつか終わる。

宮崎駿監督にとって、トトロはその瞬間だった。「自分が描きたかった日本の風景」が、それを求めていた観客と出会った。以降の作品の成功──「魔女の宅急便」の36.5億円、「もののけ姫」の193億円──は、トトロで確立された信頼の上に成り立っています。

宮崎駿監督自身の言葉を借りるなら、「もののけ姫」以降は「トトロの貯金で食っていた」。


小説書きにとっての10年

ここからは私たちの話です。

「創造的人生が10年」と聞いて、「自分にはもう残されていないのでは」と思った方がいるかもしれません。あるいは「10年のうち何年を無駄にしたのだろう」と。

でも、宮崎駿監督の例をよく見てください。

「ルパン三世 カリオストロの城」は1979年。宮崎駿監督は38歳でした。それ以前の約15年間、テレビアニメの現場で地道に仕事をしていた。「未来少年コナン」の演出で評価されたのが1978年、37歳。

つまり、創造的人生の「10年間」は、突然始まるものではありません。その前に積み重ねてきた時間がある。創造的人生は「準備してきたものが花開く10年間」です。

Web小説に置き換えるなら──。

投稿サイトに毎日書いて、評価が伸びなくて、それでも書き方を研究して、プロットの組み方を試行錯誤して。その時間は無駄ではありません。創造的人生に入るための「助走」です。

問題は、助走のまま終わるか、離陸するか。それを分けるのは才能ではなく、「自分の個性を正確に理解しているか」です。


「自分の個性」に気づくのが一番難しい

宮崎駿監督がトトロで「峰」に達したのは、「日本の風土を理想化して描く」という自分の個性にようやく正面から向き合ったからです。

それ以前のナウシカやラピュタも傑作です。でもそれは「ヨーロッパ風のファンタジー」であり、「宮崎駿にしか描けないもの」とは少し違った。トトロで初めて、他の誰でもない「宮崎駿の固有値」が作品に結実した。

私たち小説書きも同じ壁にぶつかります。

自分の個性が何なのか分からない。自分より上手い人がたくさんいる。人気のあるジャンルに合わせて書いてみても、なんだかしっくりこない。

でもそのモヤモヤの中に、きっと「自分にしか書けないもの」がある。それに気づくためには、書き続けるしかない。10本書いて、20本書いて、「これは他の人には書けないな」と思える1本に出会うまで。


10年の使い方

では、この10年をどう使うか。

宮崎駿監督の言葉のもうひとつの核心は、「力を尽くして生きなさい」の部分にあります。10年間をだらだら過ごすな、ということです。

私がエンジニアとしても日々ITを勉強していて痛感するのは、10年前に学んだ知識がレガシーになるスピードの速さです。10年前の最先端は今日の遺物。小説の世界も同じです。10年前に流行していたテンプレは、今日の読者には古く見える。

世の中に必要とされる表現は、その時に応じて流動的に変化します。創造的人生の10年間に求められるのは、その変化をキャッチし続けることです。

具体的には3つのことだと考えています。

1. 世の中のニーズを観察し続ける

投稿サイトのランキング傾向、書店の棚の変化、SNSで話題になる作品。これらを「ふーん」で流さず、「なぜ今これが受けているのか」を言語化する習慣を持つ。

2. 自分の個性を実験し続ける

書きたいものを書く。でも同時に、書いたことのないジャンルやテーマにも手を出す。自分の個性は、試行錯誤の中で見つかるものです。

3. 1人でも理解者を見つける

宮崎駿監督にとってのトトロのように、「自分の個性が伝わった」と実感できる瞬間が必要です。それは投稿サイトで1人の読者が「この話、すごくよかった」とコメントしてくれた瞬間かもしれない。

1人に伝わったなら、10人に伝わる可能性がある。10人に伝わったなら、100人にも。


あなたの10年は、いつ始まるか分からない

最後に、ひとつだけ。

宮崎駿監督の創造的人生は38歳から始まりました。それまで15年間の準備期間があった。

あなたの10年が、来年始まるのか、5年後に始まるのか、あるいはもう始まっているのか──それは今の段階では分かりません。

分かっているのは、準備を続けている人にしか「その10年」は訪れないということです。

書き続けてください。「自分にしか書けないもの」に出会うその日まで。

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