コンセプトセンテンスから始めるプロット設計|プロ志向の企画工程
「面白い設定を思いついた!」そう意気込んで書き始めたのに、途中で「あれ、何を書きたかったんだっけ?」と迷走する——。
この問題は、コンセプトセンテンスを先に作っていれば防げます。
コンセプトセンテンスとは、物語の全体像を100文字以下で表現した一文。プロットよりもさらに上流にある、企画の核です。
この記事では、プロ志向の物語作りの工程——コンセプトセンテンス → ストーリーアブストラクト → プロット → 初稿——を解説します。
執筆工程の全体像
プロの脚本家やゲームシナリオライターは、いきなりプロットを書きません。
上流から下流へ、段階を踏んで設計します。
コンセプトセンテンス(100文字以下)
↓
ストーリーアブストラクト(800〜1,600字)
↓
プロット(10,000〜30,000字)
↓
プロット + 設定資料
↓
初稿
上流が曖昧なまま下流に進むと、途中で迷走します。逆に、コンセプトが明確なら、どの段階でも「この判断はコンセプトに沿っているか?」と確認できます。
コンセプトセンテンスとは
「この物語はどういう話か?」を100文字以下の一文で表現したもの。
例
• 「世界最弱のスライムが、仲間を取り込む力で最強の国を建てる異世界ファンタジー」
• 「死に戻りする少年が、絶望を繰り返しながら大切な人を守り抜くダークファンタジー」
• 「魔法の代わりに科学で戦う少年が、学園都市の闇に挑む学園バトルSF」
コンセプトセンテンスはログラインと似ていますが、ログラインが「読者に向けた売り文句」なのに対し、コンセプトセンテンスは「書き手が自分のために持つ設計の核」です。
新規コンセプトと既定コンセプト
コンセプトには2つの出発点があります。
新規コンセプト(ゼロから作る)
完全にオリジナルのアイデアから出発する場合。
「魔法が数学の方程式で表現される世界」——こうした独自のアイデアが核になります。
新規コンセプトを開発するときのコツは、「既存ジャンルの常識を一つだけひっくり返す」ことです。「魔法=神秘的」という常識を「魔法=数学」に変えるだけで、独自の世界観が生まれます。ゼロから『完全に新しいもの』を作ろうとするより、既知の要素を「一箇所だけずらす」ほうが、読者に伝わりやすく独自性も出ます。
既定コンセプト(既存作品から抽出する)
既存の作品やジャンルのコンセプトを分析し、応用・変形して使う場合。
「転スラのコンセプト=最弱→最強 × 国造り × スライム」を抽出し、「最弱→最強 × 会社経営 × ゴブリン」に変形する——これが既定コンセプトの活用です。
どちらが優れているということではありません。プロの現場では、新規コンセプト70% + 既定コンセプト30%のバランスが多いと言われています。
積極的コンセプトと消極的コンセプト
コンセプトには「入れるべきもの」と「入れてはいけないもの」があります。
積極的コンセプト(Must Have)
物語に必ず含めるべき要素。
• 純愛ラブコメなら → ヒロインの可愛さ、甘い展開、ハッピーエンド
• ダークファンタジーなら → 残酷な世界、重い選択、犠牲
消極的コンセプト(Must NOT Have)
物語に絶対に入れてはいけない要素。
• 純愛ラブコメなら → NTR(寝取られ)、ヒロインの死、鬱展開
• 少年漫画の王道なら → 主人公の永続的な敗北、仲間の不可逆的な裏切り
消極的コンセプトは、ジャンルの暗黙の契約と深く関わります。読者が「このジャンルでそれはやらないでしょ」と思う要素が消極的コンセプトです。
→ ジャンルと読者の期待値については → 読者の期待値を操る
4種類のコンセプト
コンセプトを深掘りする際は、4つの観点から整理すると網羅的になります。
① 世界観コンセプト
物語の雰囲気・空気感を定義する。
• 「中世ファンタジーだがテクノロジーが魔法と共存する、スチームパンク的世界」
• 「現代日本だが妖怪が日常的に存在する世界」
② 特筆コンセプト
物語のサプライズ・どんでん返し・謎・秘密に関する要素。
• 「主人公は実は敵側の人間だった」
• 「ヒロインは記憶を毎日リセットされている」
• 「黒幕は読者が最も信頼しているキャラクター」
特筆コンセプトは物語の武器です。ここが弱いと「設定は面白いけど、展開が平凡」と言われがち。
③ ストーリーコンセプト
テーマ・主張・メッセージ・ジャンル・語り口に関する要素。
• テーマ:「才能がなくても努力で届く場所がある」
• ジャンル:少年漫画的バトルもの
• 語り口:一人称、軽快な文体、RPG的な比喩を多用
④ 企画条件コンセプト
メディア・ボリューム・対象読者などの外部条件。
• カクヨムコンテスト応募:10万字以内
• なろう連載:1話3,000字、週3更新
• ライトノベル:新人賞応募、1巻完結
企画条件は創作の「制約」ですが、制約は創造力を引き出します。「10万字以内」と決まっていれば、壮大すぎる設定を自然に排除できる。
コンセプト整理シート
4種類のコンセプトを書き出すためのテンプレートです。
【コンセプト整理シート】
■ コンセプトセンテンス(100文字以内):
■ 世界観コンセプト:
• 雰囲気:
• 魔法/技術体系:
• 社会構造:
■ 特筆コンセプト:
• サプライズ/どんでん返し:
• 隠された秘密:
• 読者を驚かせるポイント:
■ ストーリーコンセプト:
• テーマ:
• ジャンル:
• 語り口:
• メッセージ:
■ 企画条件コンセプト:
• 投稿先/応募先:
• ボリューム:
• ターゲット読者:
■ 積極的コンセプト(Must Have):
1.
2.
3.
■ 消極的コンセプト(Must NOT Have):
1.
2.
3.
コンセプトからストーリーアブストラクトへ
コンセプトが固まったら、ストーリーアブストラクトを書きます。
ストーリーアブストラクトとは、物語の概要を800〜1,600字でまとめたもの。起承転結の骨格を散文で書きます。
プロットとの違いは粒度です。プロットは各シーンの詳細を書きますが、ストーリーアブストラクトは「大まかな流れ」だけ。
コンセプトセンテンス(100字)→ ストーリーアブストラクト(800〜1,600字)→ プロット(10,000字〜)と、段階的に粒度を上げていく。各段階で「コンセプトに沿っているか?」を確認します。
たとえばコンセプトセンテンスが「死に戻りする少年が、絶望を繰り返しながら大切な人を守り抜くダークファンタジー」なら、ストーリーアブストラクトは「少年が異世界に召喚され→絶望的な死を経験→死に戻りでやり直す→反復の中で仲間を得る→最大の危機で仲間を守り抜く」という流れを800字程度で書く。この時点で「ダークファンタジー」の要素が入っていなければ、コンセプトからずれているとわかります。
AIでコンセプトを網羅的に出力する
4種類のコンセプトをAIに出力させる方法が効率的です。
プロンプト例:
> 以下のコンセプトセンテンスから、4種類のコンセプト(世界観/特筆/ストーリー/企画条件)をそれぞれ3案ずつ提案してください。また、積極的コンセプトと消極的コンセプトも各3つ提案してください。
>
> コンセプトセンテンス:「〇〇〇〇」
AIの提案をすべて採用する必要はありません。「あ、この視点は重要だけど忘れていた」という気づきを得るのが目的です。
AIは特に「消極的コンセプト」の洗い出しに威力を発揮します。「このジャンルで読者が『これだけはやめて』と思う要素をリストアップして」と指示すると、自分では気づかなかった地雷が見つかることがあります。純愛ラブコメで寝取られ展開を書いてしまう——といった「ジャンルの暗黙の契約違反」は、意外と自覚なくやってしまうものです。
まとめ
• コンセプトセンテンス → 100文字以下で物語の全体像を定義する
• 新規/既定 → ゼロから作るか、既存作品から変形するか
• 積極的/消極的 → 入れるべき要素と入れてはいけない要素を明確にする
• 4種類 → 世界観/特筆/ストーリー/企画条件の4観点で整理する
• この工程を経てからプロットに進むのがプロの手順
次に読むべき記事
• コンセプトの手前にある3つの道具 → イメージラフ・ログライン・ナラティブ
• プロットの基本 → プロットとは何か
• テーマの設計 → テーマ・キャラクター・プロットの三位一体





