白黒思考が創作を殺す|「才能がないなら辞めろ」の嘘

2025年1月25日

「自分には才能がない。辞めたほうがいい」

この結論に至る思考回路に、ひとつ問いかけたいことがあります。あなたはいつ、「才能」を0点と100点の二択で判定するようになりましたか。

10万字の小説を書き上げたことがある人は、それだけで日本の人口の上位数パーセントに入る少数派です。なのに「賞を取っていないから0点」「書籍化されていないから無意味」──そう感じていませんか。

この記事は、創作者を蝕む「白黒思考(All-or-Nothing Thinking)」の構造を解剖し、その呪いから抜け出す方法を書きます。


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2020年代は白黒思考の黄金時代

元の記事で「2020年代のトレンドはタイムパフォーマンス」と書きました。この分析は今も正しいと考えています。むしろ2026年になって、さらに加速しています。

動画は倍速で見る。合わない会社は3ヶ月で辞める。マッチングアプリで少しでも条件が合わなければスワイプで弾く。「試してみて、合わなければ即離脱」──これ自体は合理的な判断ですが、この思考パターンが創作に持ち込まれると致命的な問題が起きます。

「10話書いてPVが伸びない。才能がないのでは?」「新人賞に落ちた。もう無理だ」「半年書いて上達を感じない。向いていない」

いずれも、短期間の結果だけを見て、0か100かで自分を判定しています。


世の中はグラデーションでできている

元の記事で「物事は滑らかに変化するグラデーションでできている」と書きました。これを創作に当てはめて、もう少し具体的に説明します。

小説を書く能力を、仮に100段階で評価するとします。

• 1〜10:日本語の文章を書ける

• 11〜30:短編を1本完成させられる

• 31〜50:10万字の長編を書き上げられる

• 51〜70:他人が読んで面白いと感じる作品が書ける

• 71〜85:新人賞の一次選考を通過できる

• 86〜95:出版社からデビューのオファーが来る

• 96〜100:商業作品として継続的にヒットを出せる

あなたが今いるのは、この100段階のどこかです。0ではありません。文章が書ける時点で、最低でも10以上はある。

でも白黒思考に陥ると、「95以上でなければ0と同じ」という判定が下される。31〜50の実力がある人──10万字を書き切れる人──が、「プロになれないから才能がない」と自分を0点にしてしまう。

これは事実誤認です。そしてこの事実誤認が、書く力を奪います。


白黒思考が創作者を殺す3つのメカニズム

メカニズム1:挑戦が怖くなる

「100点でなければ0点」というルールの下では、失敗のコストが極端に高くなります。コンテストに出して落選する=0点の烙印を押される。だから出さない。書かない。挑戦しない。

結果として、上達するための経験値を得る機会そのものが失われます。

メカニズム2:他人を攻撃し始める

元の記事で「白黒思考が強い人は、自分たちが正義、反対する人は悪と決めつけて仲間を作りたがる」と書きました。

創作の世界でも同じことが起きます。「新人賞を取っていない作家はダメ」「なろう系は文学ではない」「AIで書いた作品は創作ではない」──こうした排他的なルールを作り、それに合わない人を攻撃する。

こうしたコミュニティに巻き込まれると、「正しい創作とは何か」という不毛な議論にエネルギーを消費し、自分の作品を書く時間が消えていきます。

メカニズム3:自分を「完全にダメな存在」に固定する

白黒思考の最も恐ろしい帰結は、自分自身を「才能がない側」に分類してしまうことです。一度その判定を下すと、以降のすべての体験がその判定を補強する方向に解釈されます。

良い感想をもらっても「お世辞だ」。上達しても「まだプロレベルじゃない」。すべてが0点の証拠として処理される。これは認知の歪みであり、自分で自分を箱に閉じ込めているのと同じです。


グラデーションで考える技術

白黒思考から抜け出すための具体的な技術を3つ提案します。

技術1:「じゃあ何点?」と数字で自問する

「才能がない」と感じた時、「じゃあ具体的に何点? 100点満点で」と自分に聞いてください。

すると「0点」とは言えないはずです。「30点くらい?」「45点?」──数字を出した瞬間、白黒思考は崩れます。なぜなら0でも100でもない数字が出てきたから。その30点や45点をどうすれば50点にできるかを考える。これがグラデーション思考です。

技術2:「1年前の自分」と比較する

他人と比較すると白黒思考に陥りやすい。代わりに、1年前の自分と比較してください。

1年前に書いた文章を読み返してみてください。「今の自分なら、ここはこう書く」と思える箇所が必ずあるはずです。それは成長の証拠です。プロとの差ではなく、過去の自分との差を見る。これだけで「前進している」という事実が可視化されます。

技術3:評価軸を複数持つ

「書籍化できたか否か」だけを評価軸にすると、白黒思考になります。評価軸を増やしてください。

• 今月、何文字書いたか

• 読者から感想を何件もらったか

• 新しい技法に挑戦したか

• 書くことを楽しめた日が何日あったか

複数の軸で自分を見ると、「ある軸では進歩しているが、ある軸では課題がある」というグラデーションが見えます。全部0点、全部100点という極端な結論にはなりません。


白黒思考を「逆転」させる

元の記事で「もし白黒思考を使うなら、0じゃなければ全て100点という逆転の発想にし、他人を褒める方向に活用するのが良い」と書きました。

これは半分冗談で、半分本気です。

1文字でも書いたら100点。1話投稿したら100点。感想を1件もらったら100点。このルールで自分を評価すると、毎日が100点になります。極端ですが、「毎日0点」よりは確実に精神衛生が良い。

白黒思考を完全に捨てるのが理想ですが、人間の思考パターンはそう簡単には変わりません。ならば、白黒思考の矛先をポジティブな方向に向ける。これは現実的な折衷案です。


「自分の思い通りにならないもんだよね」をベースに

元の記事の結論をもう一度書きます。

「基本的に世の中って自分の思い通りにならないもんだよね」──この考えをベースにしておくと、無理がありません。

創作もそうです。書きたい通りに書けないこともある。評価されたい通りに評価されないこともある。でもそれは0点ではなく、「まだ途中」というだけの話です。

10万字書けるだけで、あなたは50点以上の才能を持っています。その事実を、白黒思考に奪われないでください。


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