世界観(トンマナ)設定で最初にやるべき3つのこと
「世界観(トンマナ)を作りたいけど、何から手をつければいいかわからない」
この悩み、創作を始めたばかりの方なら一度は通る道ではないでしょうか。歴史、地理、政治、経済、魔法体系、種族、宗教——設定すべきことが多すぎて、気がつくと設定ノートだけが何十ページにもなり、肝心の物語が1行も書けていない。
いわゆる 設定沼 です。
今回は「世界観(トンマナ)設定で最初にやるべき3つのこと」を整理します。逆に言えば、最初の段階ではこの3つ 以外はやらなくていい という話でもあります。
その前に——世界観(トンマナ)とは何か
世界観とは物語を縛るルールのこと|ファンタジー設定の核心で詳しく書きましたが、世界観の本質は ルール です。
「この世界では魔法が使える」「等価交換の原則がある」「死者は蘇らない」——こうしたルールが物語のテンションを決め、キャラクターの選択を制約し、読者の期待を方向づけます。制作現場の言葉でいえば、世界観は作品全体の トンマナ(トーン&マナー) を決める土台でもあります。
つまり世界観を作るとは、「設定を大量に書くこと」ではなく 物語を動かすルールを設計すること です。この前提を踏まえた上で、最初にやるべき3つのことに入りましょう。
やるべきこと1:「この世界の制約」を1つ決める
世界観設計で最初にやるべきなのは、地図を描くことでも歴史年表を作ることでもありません。 この世界にある制約を1つ決める ことです。
制約とは「できないこと」です。
| 作品 | 制約(できないこと) | 物語への効果 |
|---|---|---|
| 『鋼の錬金術師』 | 等価交換——何かを得るには同等の代価が必要 | 主人公が体を取り戻すための代償が物語の推進力になる |
| 『呪術廻戦』 | 術式の開示——手の内を明かすと威力が上がるが弱点もバレる | 駆け引きが生まれ、戦闘に戦略性が加わる |
| 『進撃の巨人』 | 壁の外に出られない | 壁の外への渇望が物語全体のテーマになる |
| 『約束のネバーランド』 | 孤児院の敷地から出られない | 脱出計画そのものが物語の骨格になる |
注目してほしいのは、どの作品も 制約が物語の原動力になっている ということです。
「何でもできる世界」は一見自由に思えますが、物語としては動きにくい。全知全能の魔法が使えるなら、どんな問題も一瞬で解決してしまうからです。制約があるからこそ、キャラクターは工夫し、選択し、時に犠牲を払う。その過程が物語になります。
最初にやるべきは「この世界では何ができないか」を1つ決めること。それだけでキャラクターの課題、物語の方向性、読者の期待値が一気に定まります。
実践:制約を1つ書いてみる
ノートやメモアプリを開いて、以下のフォーマットで1行書いてみてください。
この世界では、[________]ができない。そのせいで、[________]が起こる。
例:
• この世界では、夜に魔法が使えない。そのせいで、夜は人間が圧倒的に不利になる。
• この世界では、死者への記憶を持つ者が魔力を失う。そのせいで、人々は喪失を忘れるために記憶を消す。
たった1行ですが、この1行から物語が動き始めるのを感じませんか。
やるべきこと2:地図より先に「生活」を描く
世界観を作ろうとすると、多くの人がまず地図を描きたくなります。大陸の形、国境線、山脈と河川——RPGのワールドマップのようなものを想像してしまいがちです。
しかし最初に必要なのは地図ではありません。 そこに住む人の1日を想像すること です。
| 質問 | 得られるもの |
|---|---|
| 朝起きて最初に何をする? | 宗教・文化・生活様式 |
| 昼食に何を食べる? | 農業・交易・食文化 |
| 夜、何を恐れる? | 脅威の種類・防衛・世界のルール |
| 体調が悪いとき、誰に頼る? | 医療・魔法・社会構造 |
| 喧嘩したら、誰が仲裁する? | 法律・階級・権力構造 |
この5つの質問に答えるだけで、世界の骨格がかなり見えてきます。
異世界サンドイッチ問題|食文化と地球語の矛盾を解決する5つの方法で詳しく書きましたが、読者が「この世界、リアルだな」と感じるのは地図の精密さではなく 生活の手触り です。パンを焼く匂い、市場の喧騒、夜道の恐怖——五感に訴える描写が世界を立体的にします。
J・R・R・トールキンの『指輪物語』(1954-1955年刊行)が圧倒的なリアリティを持つのは、中つ国の地図が精密だからだけではありません。ホビット庄のビールと食事、エルフの歌、ゴンドールの城壁から見える平原——生活と文化が丹念に描かれているからこそ、読者はその世界に「住みたい」と感じるのです。
逆に、地図は後から描けます。物語を書き進めるうちに「ここから港町までの距離はどれくらいだろう」と必要が生じたときに初めて描けばいい。最初から世界全体の地図を作ろうとすると、設定沼の入り口に立つことになりかねません。
実践:「1日の生活」を書いてみる
主人公が暮らす場所を思い浮かべて、以下を3行だけ書いてみてください。
朝:[主人公は朝起きて何をする?]
昼:[何を食べて、誰と過ごす?]
夜:[何を恐れて、何を楽しみにしている?]
この3行に、あなたの世界の文化・経済・脅威がすべて詰まっています。
やるべきこと3:「この世界の秘密」を1つ埋める
3つ目は 世界に秘密を1つ仕込む ことです。
秘密とは「物語が進むにつれて読者が気づく、世界の隠された真実」のことです。
| 作品 | 世界の秘密 | 判明するタイミング |
|---|---|---|
| 『進撃の巨人』 | 壁の中の世界は島であり、外には文明社会が存在する | 中盤(86話「あの日」) |
| 『約束のネバーランド』 | 孤児院は鬼に食料を供給する農園だった | 序盤(1話〜2話) |
| 『ソードアート・オンライン』 | ゲームからログアウトできない。死んだら現実でも死ぬ | 冒頭(1話) |
| 『鋼の錬金術師』 | 賢者の石の原料は人間の命 | 中盤 |
秘密には2つの効果があります。
1つ目は推進力 。秘密があると、読者は「この世界の真実は何か」を知りたくて読み進めます。ミステリでいう「謎」と同じ機能です。
2つ目は世界の奥行き 。秘密があるということは、「表の世界」と「裏の世界」が存在するということです。表層だけの世界は薄っぺらく感じますが、「まだ何か隠されている」と読者が感じた瞬間、世界に厚みが生まれます。
秘密は壮大である必要はありません。「この村で毎年行われる祭りには、実は別の目的がある」程度でも十分です。大事なのは 書き手が秘密を知っている こと。書き手が秘密を把握していれば、何気ない描写の中に自然とヒントが紛れ込み、後から読み返したとき「ああ、あれはそういうことだったのか」という快感が生まれます。
伏線の回収テクニック2選|「見せる伏線」と「隠す伏線」で回収方法が変わるでも触れましたが、伏線の仕込みは「書き手が答えを知っていること」が前提です。世界の秘密は、伏線の最大の供給源になるのです。
実践:秘密を1つ書いてみる
この世界の住人はまだ知らないが、実は[________]である。
例:
• この世界の住人はまだ知らないが、実は「神」は1000年前に死んでいる。
• この世界の住人はまだ知らないが、実はこの国の建国神話は隣国が捏造したものである。
書いてみると、その秘密が明かされる瞬間の物語が見えてきませんか。
やってはいけないこと——「全部決めてから書く」
3つのやるべきことを伝えましたが、同じくらい大事なのが やってはいけないこと です。
それは「世界観をすべて完成させてから物語を書く」こと。
設定は物語を書きながら育てるものです。必要になったら決める。矛盾が出たら調整する。最初から完璧な設定を作ろうとすると、設定ノートが何十ページにもなって物語が1行も進まない——それが設定沼の正体です。
ファンタジー世界のオリジナリティ論|想像の余地を残す技術で書きましたが、読者にとっても すべてが説明された世界より、余白のある世界のほうが魅力的 です。説明されていない部分こそ、読者が想像で埋める余地になります。
今回の3つは、物語を書き始めるための 最小限の足場 です。制約1つ、生活3行、秘密1つ——合計5行のメモがあれば、世界観は十分に動き始めます。残りの設定は、物語が求めてきたときに作ればいいのです。
まとめ——5行で世界は動き出す
| やるべきこと | メモの量 | 効果 |
|---|---|---|
| 制約を1つ決める | 1行 | 物語の推進力とキャラの課題が定まる |
| 生活を描く | 3行(朝・昼・夜) | 世界の文化・経済・脅威が立ち上がる |
| 秘密を1つ埋める | 1行 | 読者の好奇心と伏線の供給源になる |
合計5行。設定ノート何十ページ分の作業が、5行のメモで始められます。
もちろん、物語を書き進めるうちに設定は増えていきます。国家の仕組みが必要になれば7つの国家プリセット|即戦力のファンタジー国家テンプレート集が役立つでしょうし、地形が必要になれば地形とマップ設計の基本|6つの地形が国家の運命を決めるも参考になるはずです。
しかし最初の一歩は5行で十分。それ以上は、物語が必要としたときに作ればいいのです。
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