完成度は85%が一番効率がいい|完璧主義を捨てて作品を世に出す技術

2023年7月31日

「作品の完成度は85%が一番効率がいい」——小説クラスタでこの言葉が話題になったことがあります。完璧を目指すべきか、ほどほどで世に出すべきか。この問いに正解はあるのでしょうか。

結論から言えば、 完成度100%を目指すことと、作品を完成させることは全くの別問題 です。今回は完成度とスピードの関係を、IT業界で働いてきたSEの視点から論理的に解き明かしていきます。

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「85%理論」の背景——Web小説のスピード勝負

この意見の背景には、Web小説界の特殊な競争環境があります。

Web小説の成功条件要求されるものなぜスピードが必要か
流行の早期取り込みランキング動向の常時チェックトレンドは3ヶ月で入れ替わる
毎日投稿完成してからの連続投稿体制更新が止まるとランキングから落ちる
初速の確保最初の1週間のPVが命アルゴリズムが初動を重視する
読者の囲い込みブクマ・評価の早期獲得後から追いかけても先行者には勝てない

流行察知→執筆開始→完成→毎日投稿。このサイクルをどれだけ高速で回せるかが、Web小説のゲームのルールです。その中で「完成度100%を目指す」のは、トレンドを逃すリスクと隣り合わせ。だから85%くらいでリリースするのが最適だ——というのが元の主張です。

ただし、これは「手を抜いていい」という意味では決してありません。 85%の完成度を確保した上でスピードを最大化する のが本来の趣旨です。50%の出来で投稿しても、読者は離れていくだけです。

SEが知っている「信頼度成長曲線」——なぜ終盤は効率が悪いのか

この話を聞いたとき、IT業界で働いてきた経験から真っ先に「信頼度成長曲線」を思い出しました。

ソフトウェアのテスト工程では、不具合発見のペースに明確なパターンがあります。序盤はまだ見つからず、中盤で大量に発見され、終盤になると時間をかけてもほとんど見つからなくなります。これをグラフにするとS字カーブを描きます。

テストの段階不具合の発見率1時間あたりの改善効果コスト効率
序盤(~50%)まだ少ない表面的な問題の修正低い
中盤(50~85%)大量に発見される構造的な問題を次々修正最も効率が良い
終盤(85~100%)ほとんど見つからない微細な調整のみ極めて悪い

つまり、 85%のラインを超えると、品質向上に対するコストが急激に跳ね上がる のです。残り15%を潰すために、それまでの何倍もの時間がかかる。これはIT業界では常識であり、「パレートの法則」として知られる80:20の経験則とも整合します。

小説に当てはめると、第一稿を書き上げてから1回目の推敲で直せる問題は多い。2回目の推敲でもまだ見つかる。しかし5回目、6回目の推敲になると、 もはや「直した方がいいのか、戻した方がいいのか」すら判断できなくなる レベルです。改善と改悪の区別がつかない領域に入ったら、それはもう出すべきタイミングを過ぎています。

SEとして数十のプロジェクトに関わった経験から言えば、「完璧なシステム」を目指したプロジェクトほど炎上する確率が高かったです。逆に「まず動くものを出して、ユーザーのフィードバックを受けて改善する」方針のプロジェクトは、最終的に高い品質に到達していました。小説も同じです。 まず読者の前に出すことで初めて見える問題がある のです。

さらに言えば、推敲にかける時間は「収穫逓減の法則」に支配されています。最初の10時間の推敲で作品の質が50%向上するとしたら、次の10時間では10%、その次の10時間では2%しか向上しません。その2%のために10時間を使うなら、新しい作品を書き始めた方が、トータルのスキル向上にははるかに効果的です。

完璧主義が殺す3つのもの

完成度100%を目指すこと自体は悪いことではありません。問題は、完璧主義が 作品を世に出すこと自体を妨げる ケースです。

私自身、子どものころから15年以上構想していた作品がありました。それを2017年にようやく形にできたのは、「とりあえず最後まで書こう」と決めたからです。完成度100%を目指していたら、今でも完成していなかったでしょう。

完璧主義が殺すものを整理してみます。

完璧主義が殺すもの具体的な被害放置するとどうなるか
時間推敲を繰り返して数ヶ月が溶ける一生で書ける作品数が大幅に減る
モチベーション完成しないので達成感が得られない創作自体が苦痛になり筆を折る
成長機会読者フィードバックを得られない自分の長所と短所がわからないまま停滞する

逆に、85%で世に出した場合はどうでしょうか。読者からのフィードバックで改善点が見え、達成感が次の作品への推進力になり、トレンドに乗ることもできる。完成させること自体が、最大の学びの機会なのです。

ここで一つ、実体験をお話しします。私が最初にWeb小説を完結させたとき、文章力は今から見れば拙いものでした。ですが、 「最後まで書き切った」という経験 が、次の作品の質を劇的に引き上げてくれました。1作目の完成度は60%だったかもしれません。でもその60%の経験があったから、2作目では70%に到達できた。3作目で80%に近づけた。完璧を目指して1作も完成させないまま3年を過ごすよりも、60%の作品を3本完成させた方が確実に成長できます。

さらに言えば、小説というジャンルは正解のない世界です。完成度を数値化すること自体が不可能であり、「完成度」は作者の主観でしかありません。あなたが「85%」と思っているものが、読者にとっては「100%」かもしれない。逆に、あなたが「100%」まで磨き上げたものが、読者にとっては合わないかもしれない。 完成度の判定者は作者ではなく読者 です。だからこそ、まず世に出す必要があるのです。

残りの15%は「余白」になる——未完成が生む読者の熱狂

ここからが重要な視点です。85%で止めた残りの15%は、本当に「未完成」なのでしょうか。

考えてみてください。 読者が自分の想像力で補完する余地 が15%あるということは、読者それぞれが自分だけの解釈を持てるということです。

名作と呼ばれる作品の多くは、すべてを語り尽くしていません。

作品名意図的に残された「余白」読者の反応
新世紀エヴァンゲリオン人類補完計画の全容、補完後の世界何十年も考察が続いている
進撃の巨人エレンの真意の一部、その後の世界終了後もファンの議論が止まない
魔法少女まどか☆マギカ円環の理の詳細な仕組み考察サイトが大量に生まれた

意図的に残された余白 は、読者を能動的な参加者に変えます。すべてを説明し尽くした作品は「消費」されますが、余白のある作品は「考察」されます。考察する読者は、その作品の最も熱心なファンになります。

完成度85%は「手抜き」ではなく、 読者に想像の余地を委ねるという設計思想 にもなり得るのです。もちろん、狙ってやるのと力不足でそうなるのとでは天と地の差がありますが、少なくとも「100%埋め尽くすことが正義」ではないということは覚えておいて損はありません。

Web小説の世界では、感想欄で読者が考察を繰り広げている作品ほど人気が高い傾向があります。これは 作者が意図的に余白を残している からです。100%説明された物語には語ることがありません。85%の情報量で止めるからこそ、読者同士が「あのシーンの意味はこうじゃないか」「あのキャラの動機は実は——」と議論する。その議論そのものが作品のプロモーションになっているのです。

作家の3つの戦い方——あなたはどのタイプか

完成度とスピードの問題を突き詰めると、現代の小説家には3つの道があります。

戦略方針完成度の目安向いている人
アート特化型自分が納得するまで磨き抜く95~100%独自性と芸術性で勝負したい人
市場追従型読者の需要に素早く応える80~85%ランキング攻略・収益化を目指す人
趣味全振り型楽しさ優先で自由に書く指標なし商業的成功より書く喜びを大切にする人

どの道を選んでも正解です。大切なのは、 自分がどの戦略を取っているかを自覚すること です。市場追従型なのに完璧主義を発揮するとスピードが死にます。アート特化型なのに85%で妥協すると中途半端になります。戦略と行動が一致していないとき、創作者は苦しみます。

完璧主義は美徳に見えますが、 作品を世に出す最大の敵 でもあります。15年かけた構想を「とりあえず書き切る」と決めた日、私の小説家としての人生は動き出しました。あなたも、完璧を手放す勇気を持ってみませんか。

どうですか、書ける気がしてきましたか? さあ、今日も物語を書きましょう。あなたの傑作を待っています。


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